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★ミスター・パシフィック・インターナショナル・ボディビルディング・チャンピオンシップス報告★
両組織のトップ・ビルダーがハワイに集結
≪杉田、須藤らが出演してのディナー・ショー≫

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月刊ボディビルディング1981年10月号
掲載日:2020.06.08
赤羽トレーニング・ルーム会長 重村 尚

はじめて経験した本格的なディナー・ショー

4日目、いよいよ最終日である。我々の宿泊しているパシフィック・ホテルの5階のホールで、JBBAのトップ・ビルダーたちの出演するディナー・ショーが行われる。
ツアーのメンバーはもちろん、選手たちも皆、意外と落ち着いている。ただ1人、私自身が落ち着かない。朝早くから目がさめてしまった。
すぐ、キャティに電話を入れる。電話の向うは、いかにも眠むそうな、大儀そうな声である。無理もない。昨日の深夜まで延々と続いた大会でクタクタに違いない。だが、そんなノンキなことはいっていられない。私はJBBAの看板選手を何人も連れてきているのだから……。
キャティから今日の予定を聞こうとしたのだが、熟睡中を電話のベルで叩き起こされて、まだ頭の中がモーローとしている様子なので、昼、12時にジムで落ち合うことにして電話を切る。
今夜のディナー・ショーは、果してうまく終ってくれるだろうか。昨日の大会は素晴らしかったが、今夜もそうあってほしい。そうでなければ、これまでの苦労がすべて水のアワになってしまう。祈るような気持ちである。
今日も快晴である。朝の8時だというのに、カーッとした日射しが照りつける。それでいてカラッとした空気が何とも心地よい。
IFBBの選手たちは、ホッとして今頃はまだ白川夜船に違いない。本当にご苦労さまでした。
軽い朝食をすまして、タクシーでジムに向う。すでにドナルド・チャン、キャティ夫妻、それにビルさんたちが来ていた。
[ドナルド・チャンの経営するワールド・ジムで。前列から松川選手、チャン、後列左から長宗、朝生、須藤、杉田の各チャンピオン、野沢秀雄氏、キャティさん、私]

[ドナルド・チャンの経営するワールド・ジムで。前列から松川選手、チャン、後列左から長宗、朝生、須藤、杉田の各チャンピオン、野沢秀雄氏、キャティさん、私]

早速、気にしている点を聞いてみる。
”今日は何名ぐらいの選手が参加するのか?”
”会場の準備は?”
日本側からJBBAの杉田、須藤、長宗、朝生、松川の各選手の他に、ハワイ・サイドからは、クリス・ディカーソンをはじめトールマン等で活躍したオーハイと、ミディアム・クラスで活躍した選手2~3名、それにミスの部の1位と2位が参加する。
司会はキャティ自身である。キャティならきっとうまくやってくれるだろう。会場の方は、ホテルのショーの専門家によっていま準備をしている際中だという連絡が入った。
昼食をすませて、3時頃、ホテルの会場に行ってみる。深々としたジョータンの会場は、さすがに豪華である。正面に舞台が設置され、ライティングや音響の係員が汗だくで忙しげに準備している。10名ぐらいずつ坐れるテーブルが15ほどあり、白いクロスがかけられ、きれいな花が飾られている。
どうもライティングが気になる。会場の関係で、やや正面からライトを当てる形になるから、あまり立体感がでないという心配がある。
時間は刻刻とすぎていく。会場入り口には、三々五々ツアーのメンバーや選手たちの顔が見える。急がねばならない。時間はもう6時である。ちなみに、このディナー・ショーの料金は20ドルである。
開場!!ドリスさんのドレス・アップした姿がひときわ目をひく。皆、正装して男女のペアで来る人が多い。映画などでは、こんな雰囲気を何度か見たことはあるが、私自身、こういったショーは初めてなので驚いてしまう。何しろ、私ときたら、昨日につづいてアロハシャツである。ハワイでは、アロハシャツは正装とみなされると聞いていたが、主催者側の1人として、ちょっと恥ずかしい気がする。やはり、外国に来るときは、こういう時のためにスーツを1着ぐらいは持ってくるべきだった。
主賓がメイーンのテーブルにつくとあとは好きなようにテーブルにつく。そして、いよいよ開演である。昨日の大会と同じように、このショーのために働いた人々の紹介で始まる。もちろん、ゲスト出演者の杉田、須藤、長宗、朝生、松川の各選手、それに昨日のゲストをつとめた末光選手、松山さん、大塚さん、私、橋本国俊君、アメリカ側からはクリス・ディカーソン、ローラー・コンバス、ドリスさん、このホテルのマネージャー、アラン金城、交通公社のネルソン吉村さん、そして今夜ともに出演するトールマン優勝のオーハイたちが次々と紹介され、全員、花のレイを受ける。
一同が各自の席につくと、ディスコティックの音楽にのって、早速ショーの開演である。昨日の女子の優勝者であるシンビーがポージングを始める。ライティングの関係で、昨日より少し暗い感じがするが、よくトレーニングされた肉体美を存分に見せてくれた。とくに、背筋が素晴らしかった。
つづいて2位のエレナが登場。ちょっとギコチない。後で知ったことだが、担当者が音楽を間違えたのだそうだ。
次は男性で、オーハイをはじめ、ハワイの上位入賞者たちが次々と出る。彼らの体を見て、全体的に腕と背筋がよく発達しているのに気づいた。とくに背筋については、あまり上位でない選手でも良く発達している。プーリーやベント・ローをよく練習すると聞いたが、そのためであろう。そしてまた女性のゲスト、ドリスさん、ローラ・コンバスさんらが登場。

日本トップ・ビルダーの登場

いよいよ日本選手の登場である。
まず松川選手。毎年、ミスター東京の上位に入賞している彼のポージングは、落ちついていてソツがない。
つづいて長宗選手。前号で書いたように、新婚まもなくで、体調としてはいま一歩だが、さすがに見せ場をつくるのがうまい。とくに、広背筋を強調するポージングなどではヤンヤの喝采を受ける。
観客の目も、JBBAの選手がどの程度のレベルか、とくに杉田、須藤といった海外でも有名な選手、そして日本のチャンピオンである長宗、朝生といった選手たちが、果してどの程度の実力をもっているのか、自分の目で確かめたいという意図がありありとその表情から読みとれる。
正直いって、松川選手では驚かないにしても、ポージングのテクニックという面では、〝さすが〟と思わせるものをみんな持っており、長宗選手に至っては、体の未調整を補う心にくいほどうまい動きを見せる。
次は朝生選手の登場である。バルキーな体、とくに、大きくクッキリと浮き出たカーフには、ハワイの選手たちも羨望の目でみつめていた。ポージングもダイナミックである。NABBAユニバースでも拍手が多かったというが、初めてみる人には強烈な印象を与えたと思う。
そして、いよいよ期待のビッグ2、須藤、杉田の両選手の登場である。
会場のライトが消され、舞台の中央に、スポットで照らされた須藤選手が浮かぶ。ユニバースで優勝したときに近い体である。深い腹筋のカット、太くて形よい脚、そして完成されたプロポーションで、独得の自然体の構え。ホーッというため息ににた感嘆の声が静かにわき起こる。
私自身、自分のことのように誇らしく感じた。やっぱり日本を代表する選手なんだ!と、アメリカやヨーロッパの選手にない雰囲気をもっている。まるで精悍な黒豹のようだ。そこには、バルクがあるとか、ないとかいった感覚ではなく、鍛えあげられた人間の体の本当の美しさを見る思いである。
音楽は持参のテープで、日本のTVコマーシャルでも良く聞く〝アメリカン・シンフォニー〟という明るくて軽快なメロディである。いい選曲だと思う。彼のポージングによくマッチしている。
彼の得意の、両手を左右に広げ、そして一呼吸おいて腹筋を出すポージングには、思わず感嘆の声があがり、大きな拍手がわき起こった。
須藤選手のポージングは終った。スポットがひく。あとには何ともいえない余韻がいつまでも残る。
つづいて杉田選手。音楽がクラシックに変る。もちろん、彼が持参したものである。スポットに照らされて静かに動き出すその体は、決してディカーソンに見劣りしない。彼の場合、とまっている時より、動いている時の方が絵になるように私は思う。
ポージング1つ1つが力感にあふれており、実によく計算されつくされたきめ細やかで非の打ちどころがない。それに筋肉の張り、鋭いカットは、トレーニングが十分である証しのようである。クライマックスは、背筋のポージングのあと、正面に向ってマッスル・ポージングのときである。曲に合わせてコミカルな動きと共に、マッスル・ポーズを決めたときは、口笛や拍手で、まさに耳をつんざくばかりであった。
〝アンコール〟そう思っていると、今度は須藤、杉田の両選手が一緒に舞台に姿をあらわした。そして、音楽に合わせてデュアル・ポージングを始めた。これは打合せにもなかったことである。
[初めて見る杉田選手(右)と須藤選手のデュアル・ポージング]

[初めて見る杉田選手(右)と須藤選手のデュアル・ポージング]

おそらく2人でこっそりと相談して、みんなを喜ばせようとしたのだろう。〝ビッグ・プレゼント〟とキャティも興奮している。日本でも、これまでに一度も見せたことのないビッグ2の共演である。
こうして見ると、全く個性の違うタイプの2人だが、それが1つにとけ合って、最高の盛りあがりをかもしだしている。素晴らしい演出である。2人は、一言二言、にこやかに語りながら興奮の場内をあとを舞台から消えた。
……終った。……成功だった。私は心の底から嬉しさがこみあげてきた。一人でにほほえみがでる。よ~し飲めない酒でも飲んじゃおう!思っきり今夜は……。

まだショーはつづく。ディカーソンの登場である。昨日と同じように坐ったポージングから始まる。正直いって昨日と同じ感動は得られない。昨日があまりにも素晴らしかったから……。それに今夜のライティングでは、昨日と同じ感銘を与えるのはちょっと無理だと思う。でも何度見ても飽きる事のない、華麗でダイナミックなポージングである。
クリス・ディカーソンが終ると、フィナーレである。全員が再び舞台に立つ。万雷の拍手にみんなが手を振ってこたえる。張りつめていた気持がなごんだのか、杉田、須藤、朝生、長宗、松川の各選手の順に、ホーッとした安堵の色が見える。私とて一緒、成功してよかった。嬉しかった。
[朝生照雄選手]

[朝生照雄選手]

[長宗五十夫選手]

[長宗五十夫選手]

[須藤孝三選手]

[須藤孝三選手]

食事が始まる。お酒もある。肩の荷を下ろし、楽しい雰囲気の中での食欲は、いやがうえにも高まる。ハワイに来てから、IFBBの選手もJBBAの選手も、ともにダイエッティングしていて食事も抑えていたことだろう。しかし今夜は心おきなく食べられる。誰も彼もほんとうに楽しそうだ。
私は顔なじみになった、去年のミスター・ハワイのマイクルに日本の選手の感想を聞いてみた。
「私は、最初、シャツの上からミスター須藤を見たときは、ビルダーとしてはひどいヤセッポチだと思ったが、いまはもう〝ファンタスティック〟〝ワンダフール〟としかいいようがない。ミスター杉田も、ミスター朝生も、ミスター長宗も、みんなそれぞれ個性があって素晴らしい」
お腹が満され、お酒がほど良くまわって……ディスコ・サウンドが流れてくると、早速、ミス・ビューティフル・コンテスト優勝のシンビ―夫妻が前に出て踊り出す。アメリカ生活の長い杉田選手がドリスさんと強烈にセクシーなディスコを始める。
主催者のチャンとキャティ夫妻が、ハワイの女性たちを次々と、日本のメンバーに紹介し、コンビを組ませてくれる。須藤選手も、松川選手も……ただ、朝生選手はフィアンセと一緒だし、長宗選手は新妻同伴で、そういうわけにはいかない。
IFBBの石村選手は素晴らしい踊り手である。ひときは目立つ。石村選手の若々しさの秘密がわかったような気がする。
松山さんも加わった。「私は踊りは苦手です」といいながらも、その場の雰囲気を盛り上げ、いつしかとけこんでいってしまうのは、さすがに国際人だと思った。私もそうだが、とかく日本人は、恥ずかしがったり、引込みじあんのために、その場をシラけさせたりすることがよくあるが、もっと積極的に、楽しい雰囲気をつくる側になるぐらいでなくてはいけないと思う。
ハワイの夜は、いつまでもいつまでも明るい歓声で満たされていた。まるで時がとまったように……。
こうして、大成功のうちに、ハワイにおけるすべての行事は終った。この大会に際してご協力、ご尽力くださった関係者の皆さん。スポンサーの皆さん、本当にありがとうございました。そして、ツアーに参加した皆さん、ハワイの素晴らしい仲間たち、私達はみな同じボディビルという素晴らしいスポーツを愛する同志です。大きな心で大きな人間の輪――そう、大きな和をもって日本のボディビル界の発展のために、みんなで手をとり合って頑張りましょう。
来年もまた、このハワイの大会は行なわれます。今年以上に盛り上がるよう私も努力します。皆さんもぜひご協力ください。
今度、IFBB、JBBAが初めて一緒に行動したハワイ・ツアーは、日本のボディビル界の今後に大きな足跡を残すような気がしてならない。おそらく、この文章が雑誌に載る頃は、日本のボディビル界が一本化に向って、大きく第一歩を踏み出しているかも知れない。私はそれを念じつつ、筆を置きます。
月刊ボディビルディング1981年10月号

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