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JPA技術入門講座<3>
パワーリフティング・セミナー
≪スクワット≫①

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月刊ボディビルディング1983年8月号
掲載日:2020.11.06
筆者=JPA技術委員会委員長・中尾達文
監修=JPA国際部長・吉田進
左[写真1―成功] 右[写真2―失敗]

左[写真1―成功] 右[写真2―失敗]

[写真3]

[写真3]

[写真4]

[写真4]

[写真5]

[写真5]

 公式試合時におけるスクワットの大腿部のしゃがみ具合は、写真1にあるように大腿部(太もも)のひざの皿の上端面とヒップジョイント部上面(大腿部のつけ根の部分、すなわちしゃがんだ際の大腿部の折れ曲がりによって生じる屈曲面)が瞬間的にでよいから完全に逆転していなければならない。したがって写真2では、まだひざの上端面とヒップジョイント部上面が完全に逆転しているとは言いがたいので失敗である。
 つまりスクワットの試技においては合否があいまいなしゃがみ具合の試技に対しては原則的にすべて失敗の判定が下されるので、ヒップジョイントがひざの上端面より下がった完全な試技ができるように、平素から充分な注意をしてトレーニングに臨んでほしい。とにかく正確なスクワットのフォームを身につけるためには、初期の頃に体でしっかりと覚えることである。
 まずパワーリフティング競技の3種目のトレーニングをする場合においてぜひ実行していただきたいことは、ビギナーおよび中上級者を問わず、必ず練習前に器具等の安全確認を実施してほしいということである。特に女性の指導の際には安全確保に万全を期すること。
 次に、パワーリフティング競技が今後リアルスポーツとして幅広く一般大衆から支持され、かつチャンピオンスポーツの名にふさわしい評価と認識を受けるためには、パワーリフティング競技が持つ純粋な意味での競技性の理論的な確立はもとより、それを実践する全国のパワーリフター自身がしっかりとアマチュア精神を自覚して、一種の品格といおうか、礼儀やマナーを含めた総合的な意味でのパワーリフター独得の風格というものを身につけるように、日夜、心身共に精進しなければならないと思う。
 さて、実際の練習に際してだが、私が主宰している高松トレーニングクラブにおける練習方法の在り方とあいさつ等を少し紹介してみよう。
 我がクラブでは、パワーリフティング競技の3種目のトレーニングをするときは、いずれの種目とも、ビギナーを含め各レベルの選手がすべて必ず自分とほぼ同程度の実力の人2~3人とグループを作ってトレーニングするように指導してる。
 そして、練習を始める前に各グループごとに必ずお互いに立礼をして「お願いします」と大きな声を掛け合い、練習を終了したときには器具やプレートを整理し、シャフトにワイヤーブラシをかけたあと、やはりお互いに立礼を交わして「ありがとうございました」とあいさつをする。バーベルを熱愛しパワーリフティング競技に誇りと限りない夢とロマンを求める私のジムの会員達の間で、このあいさつはもう習慣となった。
 私がこのようなレベルごとのグループ練習方法を取り入れてもう5~6年以上になるが、この練習方法の利点はいろいろある。
 本質的に純然たる個人競技であるパワーリフティング競技においては、実際の試合の場で他人や仲間の助けや協力を一切受けることができないという性質上、長くこの競技に打ち込んでいると、ややもすると私自身を含めてパワーリフターは、独善的かつ偏見的、しかも排他的な個人主義的性格についついゆがめられがちになる。しかしビギナーのときからこのグループ練習を習慣化しておくと、このパワーリフターが陥りやすい性格的な閉鎖性などの欠陥を多少なりとも是正できる。
 第二に、重い重量を使用したときなどの万一の事故を未然に防止できる。また、練習中に立てなくなってつぶれたときも、左右の補助者にヘルプしてもらえる。さらには、お互いのフォームの是非や試技における長所・短所を充分に比較検討しあえる(しゃがみ具合なども含めて)。そして、実力の接近している2~3人で練習していると、お互いに良い意味でのライバル意識が芽生えて、その練習がより充実したものとなる。
 さて、スクワットにおけるシャフトのかつぐ位置であるが、写真3のように僧帽筋(すなわち両肩)にシャフトを置く最もオーソドックスな方法と、写真4のように、三角筋の上端面より3cmぐらい下げてシャフトをかつぐ方法の2通りがある。私の体験上からの私見で言わせてもらうなら、実際の試合のときに有利なかつぎ方としては、特別な体型の選手を除いて、おおむね写真4のような両肩よりややシャフトを下げてかつぐかつぎ方の方がよいように思われる。
 次にスクワットの練習方法だが、筆者の個人的な見解では、ビギナーは男女を問わず、バーベルを握って最初の6ヵ月~1年間は、写真5のような通常ボディビルの脚のトレーニングで行なう、両肩にシャフトを置き、足幅もあまり広くないオーソドックスなスクワットを重点的に行なって、大腿部諸筋の筋肥大とひざの関節および靭帯等の強化を図るべきだと考えている。
 まずビギナーの当初の目標は、最初の3~6ヵ月間ぐらいのうちに、上記のオーソドックスなフォームで、自分の体重と同重量のスクワットを1セット8~10回として、5セット連続して行なえる程度の脚力をつけることである(3~6ヵ月間としたのは、男女差および体重差を考慮したものである)。なお、この時期ではベルト以外は一切使用してはならない。
 次の目標は、バーベルを手にして6ヵ月~1年間後のことである。男子のビギナーにおいては、同じくボディビルのスクワットのフォームで、少なくとも自分の体重の1.5~2倍の重量で1セット5~8回を正確に5セット連続して行なえる地力を身につけることである。女子のビギナーの場合は、各人の体重によって多少の差はあるものの、やはりオーソドックスなフォームで、おおむね自分の体重の1.3~1.5倍の重量で1セット3~5回を5セット連続してこなせるぐらいの力を目標に練習に励んでいただきたい。
 ここであえて独断と偏見を言わせていただくなら、一応筆者の理想としては、男女とも最低限度1年間ぐらいはこのオーソドックスなフォームのみの練習で、スクワットのための本当の地力となる筋肉と筋力をしっかり身につけてほしい。そうして、その力が備わったのち初めて、シャフトを少し下げてかつぎ、足幅をかなり広げる、いわゆるパワーリフティング競技用のスクワットのフォームに移行した方が、長く選手生活を送り、将来大きく飛躍するためにも絶対によいと私は考えているのだが……。
 ただ実際問題として、大学生や高校生諸君においては、たとえビギナーといえども短いキャリアにもかかわらず試合に出場しなければならない場合もあると思われる。また、出る以上は少しでも良い記録を出したいと思うのが人情である。そこで以下では、ビギナーとしての基本的な筋肥大と筋力を養成するためのオーソドックスなスクワットの練習方法をベースにして、なおかつパワーリフティングの試合用のスクワットのフォームの習得とその練習方法をわかりやすく解説していきたいと思う。
 まず練習方法としては、体力の充分にあるその日の練習の最初に、競技用のフォームでしっかりと呼吸方法や体の前傾具合、ひざの使い方を考慮に入れて練習し、そのあと、前述したオーソドックスなフォームでスタミナ強化を含めた脚の地力を養成するためのスクワットを充分に行なう。
 キャリア3~6ヵ月前後、体重60㎏前後の男女ビギナーを例にとれば、次のようになる(ただし体重差や男女差あるいは個人のレベルによって、使用重量・反復回数・セット数を調整すること)。
記事画像5
以上2種類のフォームで、男女差や各人のレベル、体調に合わせて、1日合計10~15セットぐらいを行なうべきであろう。
また、練習の習慣頻度とローテーションは次のようになる。
記事画像6
 一応、原則的にはⒶとⒷの2つのローテーションを交互に隔週で実施し、体調のよくない時や疲れのひどい夏場のシーズンには、週の中間にもう1日休みを入れてもよい。また当然のことであるが、女子のビギナーなどは1日の合計セット数をかなり減らしてもよい。
 次に、ビギナーのためのスクワットの補強補助種目としては、①レッグカール、②レッグプレス、③カーフレイズ、④レッグエクステンション、などがある。これらをスクワットの本練習の後に各々3~5セットくらい実施するとよい。
 使用重量は、1セット8~10回反復できる重量を用いる。また、試合のない時期やシーズンオフなどには、これらの種目のほかに、週1~2日程度は3~5㎞くらいのランニング(ダッシュを含む)か、15~30分くらいの自転車こぎを行なうこともよい。これは成長期のビギナーたちの心肺機能の強化を図るためにもぜひ採用していただきたいと思う。
 次は準備運動と整理運動についてである。スクワットに即した運動としては、大腿部の諸筋の屈伸や開脚および内外転などを含めたストレッチングを充分に行なう。それに相撲や柔道等でやっている四肢や股割りなども、あまり無理をしないように少しずつ行なってゆけば必ず自分のものとしてマスターできると思う。
 それと、ビギナー選手の諸君に留意していただきたいことがある。各人の体質や体型によって一概には言えないが、シャフトを少し下げてかつぐ競技用のスクワットのフォームで練習していると、やや体が前傾するために少し姿勢が悪くなるようなことが起こりがちである。その対策として、準備運動と整理運動のときに、前記の柔軟体操に加えてチンニング、逆立ち、ハイパーバックエクステンション、レスラーブリッジ等の脊柱をまっすぐに伸ばし背中の筋肉を充分にほぐすための矯正体操もしっかり実施してほしい。
(写真モデル=高松トレーニングクラブ所属・柏原 道選手)

 次回は、写真を使ってのスクワット②を掲載する予定です。
月刊ボディビルディング1983年8月号

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