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[グラビア15ページよりつづく]
☆日本トップ・ビルダーのトレーニング法☆
腕部のトレーニング法
<その注意点とアドバイス>

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月刊ボディビルディング1983年8月号
掲載日:2020.11.04
1982年度ミスター日本 小山裕史

上腕三頭筋のトレーニング法

 上腕三頭筋の獲得は、私の過去のトレーニングの中で最も労力を要した部分であるのは事実である。ただ、二頭筋の項でも述べたように、他の大筋群に情熱を集中していた頃としては避けることのできぬ問題でもあった。
 現在のように、この部位に集中できるようになった時、過去に習得した理論や実践法を集中的に集約トレーニングすることによって、かなりの速度で発達を示している部分でもある。
 私の意見がよい参考にならぬまでも私の弱点が如何に改良されたかをご覧いただくことは、あながち無駄なことではあるまいと思う。

◎全般的考察

 上腕三頭筋は腕の伸展を司る筋肉で、3つからなるヘッドは、肩甲骨から前腕骨(正確には尺骨)に付着する長頭筋と、上腕骨から同じく前腕骨に伸びる2つの短頭筋(内側頭筋と外側頭筋)からなっている。
 他の部位でもそうであるが、腱の付着位置、筋肉の長さには個人差があるものだが、この上腕三頭筋とて例外ではなく、骨に付着している腱部の長さと筋肉の占める割合で、その発達の度合には個人差が生じるしまた、トレーニング法にも考慮が必要となる。
 外側頭筋は他の運動でも影響を受けやすく、比較的発達の容易な部分であるが、長頭、および内側頭を発達させるためには、二頭筋の項で述べたような注意点を応用させる必要がある。
 要点は、三頭筋そのものの性質が腕の伸展(前腕部の伸展)であること、そのために、尺骨に付着するその構造を正確に理解することが先ず必要である。(長頭筋と内側頭筋のバルク・アップを要点とした場合)
記事画像1

◎要点<1>――サークル・ワーク

 上腕三頭筋の運動中、グリップが円的軌跡を描くことを主体とする。筋肉に大きな出力を求めることがバルク・アップ、パワー・アップの鍵となるなら、いかにすれば筋出力を高めるフォームとなるかを探らねばならない。
 野球の投手の場合、三角筋、背筋上部を除けば、威力のあるボールを投げるためのキーは、この上腕三頭筋である。好投手といわれる選手の投球フォームに注目していただきたい。好投手のフォーム、腕の使い方を表現するのに『しなるような』腕の振りという言い回しをする。この表現こそが、三角筋の発達を左右すると言っても過言ではない。決して砲丸投げのような直線的な投球動作では、威力のあるボールは投げられない。
 三頭筋そのものを、大きく強く伸展させられることが、筋出力を高め的確に三頭筋を刺激できる。通常行なわれるラット・マシーン・プレスダウンやライイング・フレンチ・プレスが直線的になっているだけでなく、この直線的運動に加わるのが、体重の前方移動、不必要な反動である。

◎要点<2>――スターティング・ポジション、フィニッシング・ホジションの心構え

 二頭筋の項で述べたことと類似するが、三頭筋の場合もやはり運動の始めと終りが特に重要である。
 スターティング・ポジションではエキセントリックな緊張を三頭筋に与えておく必要がある。そして、せっかく与えた三頭筋の緊張を、運動開始時に緩めることは非常に不利である。このスターティング時の緊張緩和を促進させるのが『あおり』である。これが、肘を越えた尺骨に付着したこの上腕三頭筋の筋構造からみて最も重要なポイントであるともいえる。
 実際には、スターティング・ポジションからの30度くらい(ただし、腕を完全に屈した位置からの角度)までを、全力でスロー・ダウンさせるか、パートナーの抵抗を得て、スロー・ダウンさせる方法と、スピーディ・ダウンさせる方法の3つが有効となる。
 この3つの方法に共通した点は、スターティング・ポジションを抵抗がないが如くに、無造作に運動しきらないということである。
 逆説的にであるが、このスターティング・ポジションを比較的楽に通過させて、急激な緊張を与える方法としては、長頭の肩甲骨付着部寄りの部分を刺激出来るという点で無意味ではないが、全体的な発達を目指すなら、また、付着腱部が比較的短い場合(筋部が長い場合)には、前者の方法を採った方がより有効だといえる。
 フィニッシング・ポジション付近では、スロー・テンポのまま動作を終了するか、クイックリーに終了させるかという2つの要点がある。
 これは適宜、目的に応じて使い分ける必要がある。パートナーの抵抗が離れた時のスピードがスローであるか、あるいはスピーディーのまま進行して、フィニッシュでこれをどう受けるかは、三頭筋の発達に多くのバリエーションを与えてくれる。単にパワー・アップとバルク・アップの有効性の違い等の問題ではない。
 この時、出来るならば、ボディ・ウェイトの押し始めには、グリップから遠い位置にあり、ウェイトが戻ってくる時には近くに位置させた方が、三頭筋の緊張が逃げないことを付加しておく。

◎要点<3>――直線的運動

 円運動と矛盾するようだが、直線的運動中、上腕三頭筋を単独で働かせうる状況でなら卓効がある。採用種目としてはプッシュ・アウエイ、イクステンションの系統が挙げられる。上腕三頭筋の腱部の長い者には有効な方法である。

◎要点<4>――パーシャル・ムーブメント

 肘部付近の強化がパワー・アップひいてはバルク・アップにつながると述べてきたが、伸展角最後の30度から45度付近を集中的に攻めることでこれを全うできる。
 例えばプレス・ダウンの場合、この部位運動の連続伸展4~6回可能なウェイトを選んで実施した直後にパートナーの助力を得て、同回数をフル・レインジで運動する方法である。これは、バーンズ効果も得られやすいというだけでなく、肘部の筋・腱の緊張度が高い時には、三頭筋が広範囲にわたって緊張するという原理をうまく利用した方法ともいえる。
記事画像2

◎要点<5>――肘の位置

 これは、体に対して前後の肘の意味ではなく、横方向のポジションのことである。『肘が体側に開くから悪いフォーム』等という考えは捨て去った方がよい。知らねばならぬことは、肘の固定場所で、上腕三頭筋の緊張部位に変化が生じることである。体側に締めつけられた位置では長頭が、開かれた位置では外側頭がというふうに運動効果に差が生じることを考慮してトレーニングすれば要所を外すことはなくなる。
 ただ漠然と押し上げ(フレンチ・プレス系統)、押し下げ(プレス・ダウン系統)を実施するよりも、強い緊張を求めるなら、前節の回外、または逆モーションで三頭筋の反応に変化が生じることを知るべきである。
 この時、内向きの締めつけ動作では、大胸筋のみが強く働く傾向があるので、私は回外作用に重点を置くことを勧める。これは内側頭筋に卓効がある。

◎現在実施している上腕三頭筋のトレーニング

 私が現在実施している三頭筋のトレーニング・ルーティンは次の4つで構成されている。
◆ルーティン<A>
①ライイング・フレンチ・プレス(サークル・ワーク)
②ラット・マシーン・プレス・ダウン(イージー・バーおよびフラット・バー)
③ナロー・ベンチ・プレス(イージー・バー)
④ライイング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

◆ルーティン<B>
①ラット・マシーン・プレス・ダウン
②インクライン・フレンチ・プレス
③ナロー・ベンチ・プレス
④ディップス

◆ルーティン<C>
①ナロー・ベンチ・プレス
②ロー・インクライン・フレンチ・プレス
③ケーブル・トライセップス・イクステンション
④リバース・プレス・ダウン
⑤ディップス

◆ルーティン<D>
①ライイング・フレンチ・プレス
②ラット・マシーン・プレス・ダウン
③ワン・ハンド・フレンチ・プレス
④リバース・ディップス

 というのが主な構成ルーティンで、継続期間は2~3週間をベースとして週の前半と後半とで変化をつける方法をとっている。
 円的運動をふんだんに使用するようになってから、発達が著しく進んだがこの動作は、別の視野から展望すれば『意識的にスティッキング・ポイントを求める』ということが特徴となる。この点の通過に最大の努力をはらい、苦しさに耐える時、三頭筋が異常なまでに緊張する。
 腕の発達、特に上腕三頭筋の発達には定評がありながら、発達の面で長年スランプに陥っていた朋友、吉見一弘選手(1982年度ミスター四国チャンピオン)が5月に来島した時に、この方法を指導したが、見事にスランプを抜け出し、2年くらい発達の止っていた彼の腕が、約1ヵ月で1cmもバルク・アップしたとの連絡があった。
 この時のアドバイスについてもう少し詳細に補足すると、このサークル・ワークに加え、前述したように、スターティング・ポジションの30度と、フィニッシングの30度をスロー・テンポで実施するというものであった。結果はいま述べたとおりである。

◎私の上腕三頭筋トレーニングの変遷

 私の三頭筋トレーニングの歴史をひもとけば、1972年のボディビル開始当初は、この部位の専門トレーニングはやっていない。僅か27cmの上腕囲では無理であったようだ。
 半年後に、ようやくフレンチ・プレスを採用している。その後、ダンベルでのフレンチ・プレス等を導入しているが、カールの場合と同様、うまく筋肉を意識するということができず、バーベル主体(フレンチ・プレスのみ)のトレーニングと、自重(ディプス系統)でルーティンを形成している。
 そして4年後には、ライイング・フレンチ・プレスとラット・マシーン・プレス・ダウンをリバース・ディップスに付加している。
 在阪時代の中心トレーニングは、
①ラット・マシーン・プレス・ダウン
②ライイング・フレンチ・プレス
③リバース・ディップス

 という順に配列したコースになっている。スプリット・ルーティンでの他の部位との組み合せは、グラビアの二頭筋トレーニングの項を参照されたい。

 1981年のミスター日本に向けてのトレーニングでは、
①ナロー・ベンチ・プレス
②ワン・ハンド・フレンチ・プレス
③プレス・ダウン

を充てている。そして、ようやく腕に変化の現われはじめた1982年のミスター日本に備えてのトレーニングは、

①ライイング・フレンチ・プレス
②ナロー・ベンチ・プレス
③ラット・マシーン・プレス・ダウン
④ナロー・ディップス
というコースで、適時、ケーブル、ダンベルでのプッシュ・アウエイを取り入れた。
 生まれつきの腱の長短、腕部そのものの長短、肘角度の大小等の要素が、トレーニングのやり方に大きな影響を与える。だから、体の特性を知って、それを活かしたトレーニング法を見い出すようにしてほしい。
記事画像3
月刊ボディビルディング1983年8月号

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