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トム・プラッツのセミナー

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月刊ボディビルディング1983年12月号
掲載日:2021.01.13
健康体力研究所 野沢秀雄

1.期待と現実

「これまでに現われた全ビルダーの中で、脚の筋肉については、誰にもぜったいにヒケをとらない」といわれるほど有名なトム・プラップ。そして1982年度ミス・オリンピアで、日本のTV番組でも実況報道されたレイチェル・マクリッシュ。
 この世界的に有名な2人の大選手がMR日本コンテストにゲストとして出場し、大会前日には2人のセミナーが開かれることに決定した。確定したのがコンテストに先立つ1ヵ月くらい前だったので、知らなかった読者も多いだろう。だが日本ボディビル連盟の迅速な通達で、前夜のセミナーには100近く、また、コンテスト当日は読売ホールに1500名を超えるファンが集って、大成功のうちに終ったことは喜ばしいかぎりである。
 ヤンキー気質あふれた2人、またプロを名乗るだけあって、笑顔いっぱいのサービスに感銘を受けた人は多い。
 2人の体調は過去に来日した有名選手の中でもっとも充実していたし、ゲストポーズではアンコールに応えて、気持よくポージングをくりかえしてくれた。ロビーでも快よく握手したり、肩を組んで写真をとらせてくれたり少しもいばった感じがしない。実に好青年のトムと、女性らしいムードのレイチェルであった。
 たったひとつ不満足な点を挙げるとすれば、セミナーの開き方、内容についてである。5000円という高い講習費を払ったのに、得られることがあまりにも少なく、受講者から疑問が何度も出てきたり、終了後「どう思われますか?」と私自身何人もの人から苦情をきいている。
 マイク・メンツァー来日のときも同様であったが、根本的にセミナーの開き方について対策が必要と思われる。内容に入る前に、こういった点について私の考えを述べてみたい。

2.ファンの気持ちは?

①会費はなるべく安く!

 1時間半ばかりの講習(というより実際は雑談にすぎない)に5000円は高すぎる。ハワイなどではクリス・ディカースンが10ドル(2400円)で、ずいぶんみっちりと「トレーニング法」「食事法」「ポージング」について話をしてくれた。トニー・ピアスンの時は最後にシャツをとり、身近かにポージングを見せてくれたという。
 ファンとしては、舞台では遠い存在の選手から、身近かに生の声を聞き、生の姿を見たいと期待している。これだけの会費をとるからには、担当者が充分に打合せをして、ポージングまでの段どりを約束すべきだろう。実際にカメラやビデオを用意している人が多かったのはこの期待を物語っている。

②定刻にはスタートする

 夜6時から開始のはずが、なんと1時間待たされて、やっと7時にスタートした。待ちくたびれて、帰ってしまった人が5~6人以上はいた。高い会費を払っているのに、そのままになった人もいるようだ。「私たちは日本におけるボディビルディングの普及のために来たので、つい遅くなったことを了承してほしい」と最初におわびがあったが、ゲストの2人にとって、MR日本の当日のポージングと、日本ボディビル連盟主催のセミナーの2つがメインであったはずである。それを期待しているファンの熱意がこの2つの会場に溢れていたはずである。

③セミナーは先ず講師が話をする

 会場に着くやゲストの2人は講演台に腰かけて、両足をブラブラさせるスタイルで話を始めた。「リラックスし、楽しんでやろう」というムード作りと思われるが、1時間以上待ちくたびれた者には、なんとも軽く見られたようで、その態度の大きさに反感をおぼえた人もいる。
「これがアメリカ式のやり方だろう」と良い方に解釈したいが、日本人が講演を聴く気持と、へだたりが大きい。日本の場合、まず講師が1時間なら1時間話をし、そのあとで質疑応答をする習慣になっている。
 プラッツは「私の話をしてもあなたがた一人一人の問題の解決にならないので、今回はすべて質問形式でゆく」と開口一番宣言したが、これには一同たいへんとまどった。一人一人がバラバラに質問すると、とても100名近くの人が満足できる答えが得られるはずがない。「一人一人がちがう問題点を持っていて、すべての人を満足させることは無理だ」と認識すべきである。
 せっかくセミナーの前に、「講演の順序(本でいえば目次に相当する)」が手渡されたのだから、この通り聴きたかったと思う。
 1時間遅刻し、疲れてもいたので、最も重要な講演をカットし、質疑応答でお茶を濁そうとしたのかと、怒る人がいたことを明記しておきたい。

④ファンは体験談が聞きたい

「自分のことを話しても役立たないだろう」と思うのはトムの考えにすぎない。本当は多くの人たちは、「あの偉大な筋肉はどうして作られたのだろう?」と大きな興味を持っている。また具体的にどんな食事をとり、どんなトレーニングをしているか、たいへん知りたがっている。これを謙虚に話してくれたらどんなに良かったろう?
 ミスター日本の会場でも、何か質問は? という問に対して、「スクワットは週に何回やっているか?」と具体的なことを観客は知りたがっている。役に立つかどうかより、見たい、知りたいという好奇心が強いのだ。これを満足させてくれるだけで、どんなにムードが良くなっただろうか?

⑤最後にポージングを公開しよう

「いったいトムは会費が5000円もしていることを知っていたのだろうか?」と今も私は疑問に思う。よほど会場で詰問しようと考えたほどだが、ただでさえ剣悪な雰囲気が、さらに無茶苦茶になる。「楽しくやろうよ」がアメリカ人のモットーというが、楽しくやろうにも言葉は通じず、楽しんでいるのは居合わせた外人と2人のゲストだけで、われわれは楽しくやろうにもその方法がない。
 こんなに待たされ、あっちへフラフラ、こっちへフラフラの内容では、渋面にならざるを得ない。
 あまりにもひどい状況で、人びとが突き上げはじめたので、ボディビル連盟の重村専務理事が「ゲストの二人は疲れてる。善意でやっているので許してほしい。代りに2人のカラー写真を住所・氏名を別紙に書けば全員に送る」とアナウンスし、やっと納まった次第である。写真は未だ送ってきていないが皆さんのところへはいかがだろうか?
 本当は最後にゲストポージングを見せるべきだったことを強調して反復しておこう。なぜなら、日本に来て、他の場所では何回かポーズを見せているのだから、ファンが待ちに待ってるセミナーで惜しむことはない。「翌日のミスター日本の会場で見てくれ」とトムは言ったが、本当の支持者は何回、またなるべく近くで、声援を送りたいと思っている。

⑥日本語の通訳は分割を細かく

 大部分の日本人は英語が分らないことを百も千も頭に入れて会場に来ないと、今回のような全然ダメなセミナーになってしまう。不運なことに外人が数人いて、またトップバッターで尋ねた日本人の英語がうますぎ、トムたちはカリフォルニアに居る気分になってピストルのように流暢にしゃべり続けてしまった。この間、われわれはツンボのようになり、面白いはずがない。
 なるべく細かく区切って、その都度通訳すべきであろう。長い話をまとめると、大切なポイントが抜けたり、記憶ちがいが出てくる。

⑦専門家に適した内容を期待

 ボディビル関係者が集っているのだから、あまりにも常識的な説明は不要である。一般の人が対象なら、わかりきったことをいちいち説明されても仕方がないが、すでに何年もボディビルをやってきた人達である。その前提に立ってより高度なトレーニングの話や栄養に関する新しい情報といったようなことを耳にできれば、われわれは満足できる。
[セミナーで質問に答えるレイチェル・マクリッシュとトム・プラッツ]

[セミナーで質問に答えるレイチェル・マクリッシュとトム・プラッツ]

[スポーツ会館でトレーニングするトム・プラッツ]

[スポーツ会館でトレーニングするトム・プラッツ]

3.炭水化物をどう食べるか?

 以上のように、不満の多いセミナーだったが、もちろん話の中には役立つことも2~3ヵ所は見られたと思う。
 その一つは炭水化物に対する考え方である。(前述のように関心の持ち方は一人一人ちがうので、筆者の場合に強く感じたことを述べることをお許しいただきたい。だが、多分ビルダーの多くの人も同じように興味を持たれたと思っているが……)
 トム・プラッツによると、大会前の特別な配慮として、「でん粉と炭水化物を増やし、脂肪を減じる」という。具体的に、何日くらい前から、どの程度にするかの質問をしたところ、
 
①大会の8週間くらい前から本格的なカットアップの態制に入る。

②平常は3000カロリー,脂肪100g,炭水化物300~400g摂っている。

③これを誡量期には2400カロリー,脂肪10g以下炭水化物300g、たんぱく質170g(ほぼ体重1㎏当り1.8g)にする。

④1日に4回食べるが,毎回,炭水化物はとる。

⑤2日前には,もうあまり激しいトレーニングをしない。しすぎると当日バテたように見える。炭水化物はやや増やすようにする。

――従来、「炭水化物は脂肪になる」とビルダーは徹底して除く努力をしているが、むしろエネルギー源として、またパンプアップ源として大切であることが、トムの意見からも確認できたことになる。
 では具体的にどんな炭水化物が良いか考えてみると、砂糖や飲料、ソフトクリーム、ジャムなど、加工された食品はそれほど評価されない。むしろ米や麦、これを加工したパンやそば、野菜や果物、ナッツ、日本人なら納豆やとうふなどが好ましい。自然の食品に含まれる炭水化物は、ゆっくり消化吸収され、エネルギーの持続にふさわしいからである。
「プロティンパウダーで高たんぱくすぎる製品よりも、たんぱく質は50~60%と少なく、かわりに炭水化物(糖質)が30~40%含まれる製品を使えばいい」と、短絡的に考える人がいるかもしれない。だが加工して加えられているのは砂糖やぶどう糖、果糖などで、これらは、わざわざプロティンに配合しなくても、その他の食品から安価にたやすく摂取できる原料である。スーパーの店頭で砂糖は1kg袋入りが300円くらいで売られている。(食品工業で使われるぶどう糖はもっと安い)
 1kgが何千円もするプロティンは原料が「たんぱく質」だから高くなっている。わざわざ増量剤に安い炭水化物を混入させ、これを高く売る方法は邪道ではなかろうか?
 くりかえすが、炭水化物は努力しないでも、安く、いくらでも食べられる栄養素である。ごはんや麺類、パンやビスケット、ジュース、野菜、果物などをふつうに食べるだけでよいのである。
 むしろポイントは1日に脂肪を10g以下にすることであろう。具体的にどう配慮すれば良いか考えてみよう。

①牛乳や豆乳をやめて水やジュース、スポーツドリンクにする。

②野菜にはマヨネーズやドレッシングを使わない。

③油を使ったフライや天ぷら,野菜いためを食べない。

④肉は赤味だけにして, 白い油はいっさい食べない。なるべくとり肉に変える。

⑤とり肉のササミは熱湯でボイルして油を除いてから口にする。

⑥缶詰は中味を網の上にあけて,油や水を切ってから魚肉のみを食べる。

⑦トーストにバターやマーガリンを使わない。パンもクロワッサンのようなバターを練りこんだパンや, ドーナツのように油で揚げたパンを食べない。

⑧プロテインなども脂肪の少ないタイプを使用する。

⑨ナッツ類でも油の多いものは食べない。果物もアボガドのような脂肪の多いフルーツはやめる。

⑩チーズもふつうのナチュラルチーズやプロセスチーズはやめて,カテージチーズにする。
 実際のところ、こんな努力をしても1日10g以下にするのは困難である。味気ない、まずい食事になってしまうが、コンテスト前の8週間だけはガマンを強いられる。

4.ジョークが好きな2人

 ミス日本に優勝した京都の中尾和子さんがコンテスト前のパンプアップについて質問したところ、「全身をパンプアップさせることはない。バテてしまう。脚のパンプはやらない。疲労が大きいから。1~2ヵ所のみ重点的にやるとよい。肩・腕・腹・カーフくらい」という答えだった。
 また冒頭の質問者は、うまい英語で「トム、腕を痛めて大変だったが今はもう大丈夫か?」と尋ねたら、「ご心配ありがとう。右腕の上腕二頭筋の障害で、8週間入院してトレーニングを休んでしまった。だが経過は良好でがんがんトレーニングしている。明日のポージングでは右腕が悪かったとは誰も気付かないだろう」とユーモアたっぷりに答えてくれた。来年はニューヨークでミスター・オリンピアが開催されるので、ぜひタイトルをとりたいと頼もしく語っていた。
 いっぽうレイチェルもなかなか弁舌でさわやかで、全体の2/3くらいは彼女がしゃべっていた印象がある。その大部分が精神的なことで、ボディビルに賭ける情熱はよく理解できた。
 またコンテスト時のベスト・コンディションの体重と、ふつう時の体重は、わずか6ポンド(2.7kg)しか差がないという。それだけ毎日摂生していることがわかる。だが良く食べるほうで、1日1500カロリーくらいという。
 トムは「僕より彼女のほうがたくさん食べてるよ」とジョークを言っていたが、実際にはカロリー数でいうと、トムのほうが多く食べていることは言うまでもない。また、レイチェルは自分の体重の9~12%だけが脂肪だと語っている。
 このように、アメリカ人は「ええっ?」と聞き返すようなジョークを飛ばす。コンテストの会場で「スクワットは月2回しかやらない」とトム答えたことになっているが、これは通訳上のまちがいか、そうでなければトムのジョークとしか思えない。
 最後にセミナーで2人が真面目に私たちにアドバイスしたことは「毎日のレーニングと食事を日誌につけておきなさい。そうすれば、どんな方法をとればどんな状態になるか、自分を深く知ることができる。個人差が大きいので一般論より、自分たち一人一人がベストのコンディションをつくってゆくのが正しい」という点だ。ともすれば毎日何をし、何を食べたか、また体の状態がどうだったか、記録に残さないままの人が多いが、アメリカのビルダーたちはダイアリーをしっかりつけていると強調していた。

× × ×

 セミナーはうまく運営されたなら、これほど有益で楽しいものはないと思う。今後も一流選手たちが来日し、セミナーが計画されるだろうが、準備を入念にして、参加した人が満足できる内容を考えていただきたい。定刻に始まり予定された内容さえ実施されれば何も問題はないのだから……。
月刊ボディビルディング1983年12月号

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