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V2西武チームの食事法

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月刊ボディビルディング1984年1月号
掲載日:2021.01.19
健康体力研究所 野沢秀雄

1.奇跡の2年連続日本一

 ジャイアンツと手に汗を握るほど、逆転、また逆転のシーソーゲームを繰返し、最終7戦目に、「もうダメだ」 と誰もが思ったにもかかわらず、ドラマティックに優勝をとげた西武ライオンズ。
 実力としては選手層に恵まれたジャイアンツが上で、日本シリーズの流れから見ても「西武二連勝はムリ」と言われていた。西武の選手たちはコチコチに緊張してエラーが目立っていたが、広岡監督の暗示が効いて、みごとにV2を達成した。
「パ・リーグのお荷物」と西鉄時代は最下位に甘んじていたのが、西武になり広岡監督の指揮下に入ったとたん、ライオンたちは野生を呼びさまされたようにバイタリティを発揮し、1年目にしてはや優勝、そして今年は巨人を破っての2連勝である。その理由は種種マスコミで議論されているが、「自然食による体質改善をはかった」という点も世間に注目されている。

2.自然食の採用とその効果

「ステーキなどの肉は運動選手のスタミナをつける」という常識に広岡監督はかねてから疑問をもっていた。西武ライオンズチームを引受けるにあたり、選手と奥さんを合宿所に集めて、自然食の権威といわれる森下敬一氏の話を聞かせたのである。
 講演の骨子は、「自然な食べ物を、自然な状態のまま(無肥料、無農薬無添加物)で食べる。肉食や牛乳でスタミナがつくというのは大まちがい。かえって体に悪いし、日本人に合わない。玄米・雑穀・野菜をもっと多く食べる」ということに尽きる。
 最初のうちは選手たちは半信半疑でとまどいがちだったが、田淵が実行し中年パワーを見せつけ、大田卓司、山崎裕之、松沼(兄)、石毛が続き、というように、チーム全員に広がっていったという。もちろん選手たちの合宿所でも玄米や大豆、野菜を中心にしたメニュー(後出)である。
 自然食を続けるうちに、体重が3~6キロ減って、しかも体調はひじょうによく、故障する選手が少なくなったという。ケガをしても回復が早く、すぐに戦列に復帰でき、夏バテも知らずに、ご存知のようにシーズンはじめから西武の独走状態になっていた。(あまり強すぎてパの野球はちっとも面白くない、といわれたくらいだ)
 この間のくわしい事情は、森下敬一氏が「爆発力がつく食べ物」(リヨン社発行)という本にして発表している。森下氏の説には以前から疑問があるが、(たとえばこの本にも「ボディビルダーの体というものは見た目にはすばらしいが、スポーツとしては役立たない。筋肉の発達だけにとどまってしまい、実戦向きでないし、いつパチンとはじけてしまうかわからない、もろい筋肉のわけである」といった無茶苦茶なことが書かれている)
 彼の主張で正しい部分もあるのは確かである。「勝てば官軍」という言葉のように、実際に西武が快勝をとげると、逆に無条件で自然食を信じる人がふえてくる。
 自然食の方法はどこまで妥当で、なぜ効果をあげるか、もう一度「交通整理」をしておきたいと思う。

3.動物は味つけをしない

 健康食品の百年茶をつくり、ヒットさせている清水勲社長(65才)と先日久しぶりにレストランで食事をした。
 席につくや「野沢さん、動物は塩やしょうゆなどで味つけしないで、自然のまま食べています。味つけをするのは人間だけですが、これについてどう思いますか?」と尋ねられた。
「当り前ですよ。彼らは文化を知らないので、使いたいと思ってもできないのですよ」と答えたら、「そこがイカン。文明は逆進歩で、自然のままの方がよいのに、加工したり、添加物をまぜたりロクでもないことをしてきた。それを進歩といって自慢している」と自然食主義の人によくある意見がかえってきた。
「そう言えばフランス料理でソースがこっていたり、香辛料が多種多量に使われるのは、腐りやすい肉をおいしく食べる工夫だと習いました」と、敬服の意を表し、結論は「無理して高価なステーキを食べ、栄養がいっぱいあると信じるのは誤解である」ということに落ち着いた。その夜のメニューは肉でなく、魚と野菜サラダになったことはいうまでもない。
 ビルダーでも一般の人でも、やたら食塩を使い、ソースをかけて食べる人が多い。われわれが食品店で買って、そのまま口に入れるだけで、添加物は意外に多く使われているのに、さらにテーブルで添加物をふやすことは百害あって一利なしだ。
 まず食品添加物について、種類と使われる目的を別表にまとめてみた。
 別表のように、24分類、337種の食品添加物が使用を認められている。どんな人でも知らず知らずに、1日に何種類もの食品添加物を体内にとりいれていることになる。「安全性が認めらてる」とはいえ、いったん害のあるデータが発表されたら、いつ急に発売禁止になるか今までの例では不安が大きい。発がん性があるとされたチクロや、金魚が死んだAF2は耳新しい。
□食品添加物の種類と使用目的

□食品添加物の種類と使用目的

4.動物性食品は最小限にとどめる

 食品添加物以外に、作物に使われる合成肥料や農薬、ワックス、動物に与えられる配合飼料にも問題が多い。
 これらの危険性に関しては、また別途に書く機会を与えていただくこととして、自然食の人たちはなるべく自然のままの状態で食べ物をとることに最上の価値を見つけている。
 また、牛や馬は肉食でなく、草食であれだけの筋肉をつくることから、われわれ人間も動物性食品は最小限にして、植物性食品を多くとるよう主張している。
 肉食の害として挙げられる点は、 
①肉は酸性食品である。血液を汚し、疲れやすく、バテやすい体にする。ケガをしやすく、なおりにくい。
②肉に含まれる動物性脂肪はコレステロールを増やし、血管の病気になりやすい。心臓にもよくない。
③動物性脂肪は脂肪ぶとりになりやすく、瞬発力やスピードが鈍る。
④肉そのままでは食べにくいので、塩やこしょう、ソース、しょうゆ、たれ等を多食しがちになる。これらは血圧をあげたり、イライラした気分をつくる。
⑤肉食をすると、ごはんや野菜、果物が嫌いになり偏った食生活になる。
などである。
 こう列挙すると、動物性食品がいかにも悪く思えるが、われわれの身体をつくるたんぱく質の中で、8種のアミノ酸は体内では合成できないことがわかっている。したがって、必要最小限は動物性食品をとるほうが、体にプラスであることは事実である。
 実際に、西武ライオンズの選手たちのメニューを見てみよう。
 肉や卵、牛乳はメニューに入っていないが、貝やいわし、わかさぎなど、骨ごと食べる動物性食品は採用されている。
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 これを「ヤギさんチームで勝てっこないよ」と評した日本ハムのメニューと比べてみよう。親会社が親会社だけあって、肉食が重視されている。
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5.自然食をおこなう際の注意

 以前に本誌に「自然食はどこまでが有効で、どこからは無効か?」というタイトルで意見を述べさせていただいた(82年11月号)。その中で、自然食を信じすぎて死亡した女子大生の例や、片寄った食生活のために、15~16才という若さで死んだ坊さんのことを書いた。
 過去に肉食をしすぎて、成人病になったり、肥満になった人が、「これではいけない」と、肉食を制限し、玄米や野菜の自然食に変えるとする。この場合は徐々に体重が減り、体質が改善され、快調な毎日になることは充分に考えられる。
 胃腸が小さくなり、食べ物の好みも変ってくる。怒りっぽい人がおだやかな性格に変ることもある。
 だが調子がいいからと、どんどん体重がへるのに、さらに菜食を続け、動物性食品をカットし続けたらどうなるだろうか?
 この点、森下敬一氏も著書の後半で「白米を主食にし、生野菜ばかり食べて、ガンになってしまった人が私のところに4人もたて続けに来られてびっりくした」「これらの人たちの血液を検査したところ、脱塩状態だった。精白された食塩の害が強調されすぎて、逆効果になってしまった」と述べられている。
 58年11月17日の新聞に「自然医学を信奉しすぎて心不全に。遺族が森下氏を相手どり賠償請求」という記事がのせられている。日の丸タクシーの運転手Aさん42才は、森下氏のいうとおり実行し、体力がなくなり、勤務中に心不全をおこして不帰の人になってしまったという。
これらの例のように、極端に偏り、狂信してしまうのは危険である。物事は「ほどほどに」というバランス感覚が大切である。自然食は特定の一つの商品ではなくて、システムであるが、非常識なところがあると思ったら、よく考えてから判断をしないと、とんでもない目にあう。
 よいところは採用し、おかしいところは採用せず、自分にあったベストの食事法を各自でつくってゆこう。
月刊ボディビルディング1984年1月号

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