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ボディビルディングの理論と実際<45>
第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1984年11月号
掲載日:2021.04.08
名城大学助教授 鈴木正之

Ⅲ プーリー・マシンによる下肢の運動

下肢のトレーニングには下肢専用のマシンがあるが、その他のマシンを使っての下肢の運動方法は一般にあまり知られていない。中でもチェスト・ウェイト・マシンは多目的に利用できる器具として紹介してきたが、ここでもレッグ・ベルト(アンクル・バンド)を用いた下肢筋群のトレーニングができることを紹介する。

チェスト・ウェイトを用いた脚のトレーニングの特色はバーベルや下肢専用マシンなどのように、重い重量でもって行うバルク・アップ的なトレーニングではなく、軽い重量によるハイ・レピティション・トレーニングとなる。

そしてこのことは、女性のシェイプ・アップ的なトレーニングに向いており、殿部や大腿の細部にわたってトレーニングができるので、下半身が大きい(太い)日本の女性に適していることになる。

運動に際しては、チェスト・ウェイト・マシンが必要なことは言うまでもないが、ワイヤを引っぱるレッグ・ベルトが必要となる。

≪1≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・スタンディング・サイド・スイング(通称:サイド・スイング、初心者)〔図1〕

<かまえ>プーリーに対して支持足を内側にして、横向きになり、片手で身体を支持し、スイングする足を浮かしてかまえる。なお、足の挙上目安と、スイングしたときのバランスをとるために、手は横水平位にあげておく。
<動作>ワイヤーを引きながら、素早く足を側方に引き上げ、ゆっくりと戻す。
<注意点>殿部から大腿部の外側にかけての運動種目は少ないので、この部分への意識集中を高めて行う。この運動の主たる目的は、筋肥大よりシェイプ・アップにあるので、高反復制を採用して行うのがよい。また、内・外腹斜筋へも負荷がかかるので、この部分のトレーニングにもなる。
<作用筋>主働筋……中殿筋、小殿筋、補助筋……内・外腹斜筋。
〔図1〕サイド・スイング

〔図1〕サイド・スイング

≪2≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・スタンディング・クロス・スイング(通称:クロス・スイング、初心者)〔図2〕

<かまえ>プーリーに対して支持足を外側にして、横向きになり、片手で身体を支持し、スイングする足をプーリー側に向けてかまえる。
<動作>ワイヤーを引きながら、プーリー側に開いた足が支持足とクロスするまでスイングし、ゆっくりと足を開いて元に戻す。
<注意点>大腿部の内側は、太すぎれば、いわゆる「股ずれ現象」が起こり、細すぎると「橋げた」となる。大腿は外側より内側の運動の方がやっかいである。この内側の主働筋となる内転筋は、スクワットでも技術的にはトレーニングできるが、スクワットの場合は可動範囲が小さく、運動の目的から考えれば、負荷重量の問題もあるが、クロス・スイングの方が効果的であろう。
<作用筋>主働筋……内転筋群、補助筋……腹筋群。
〔図2〕クロス・スイング

〔図2〕クロス・スイング

≪3≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・スタンディング・バック・スイング(通称:バック・スイング、初心者)〔図3〕

<かまえ>プーリーに対して正体し、両手で身体を支持する。スイングする足は軽く浮かせてかまえる。
<動作>ワイヤーを引きながら後方にスイングし、ゆっくりとおろす。
<注意>この運動は、殿部が落ちてヒップの丸味を失った女性が特に求めるヒップ・アップ運動である。スクワットで殿筋群に負荷をかけ難い女性は、この運動を採用して、殿部のシェイプ・アップとヒップ・アップをはかるようにするとよい。また、肘を曲げて、上体を反らすようにして行えば、殿部から背中にかけてトレーニングすることができる。
<作用筋>主働筋……大殿筋、補助筋……固有背筋。
〔図3〕バック・スイング

〔図3〕バック・スイング

≪4≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・スタンディング・フロント・スイング(通称:フロント・スイング、初心者)〔図4〕

<かまえ>プーリーを背にして、うしろ手に両手で身体を支持し、スイングする足は軽く浮かせてかまえる。
<動作>ワイヤーをけり出す感じで、前方に足を振り上げる。
<注意点>この運動は、どちらかといえば、脚よりも腹部の運動である。膝が伸展するので、大腿四頭筋の運動としてもよいが、主に腹筋の運動として採用する。
<作用筋>主働筋……腹直筋、補助筋、大腿四頭筋。
〔図4〕フロント・スイングスタート

〔図4〕フロント・スイングスタート

≪5≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・ライイング・クロス・レッグ・レイズ(通称:ライイング・クロス・レイズ、初心者)〔図5〕

<かまえ>プーリーに対して横を向いて仰向けになり、ベルト側の足を開いてかまえる。手は開いてフロアーに置き、身体を安定させる。
<動作>ワイヤーが腰とクロスするまで引き上げたら、外側に開くようにゆっくりと下ろす。
<注意点>スタンディングの場合と同じように、クロス動作は内股の運動である。内転筋を使用しつつ、内・外腹斜筋の力を借りて振り上げるように上げる。
<作用筋>主働筋……内転筋、補助筋……内・外腹斜筋。
〔図5〕ライイング・クロス・レイズ

〔図5〕ライイング・クロス・レイズ

≪6≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・ライイング・クロス・サイド・ダウン(通称:ライイング・サイド・ダウン、初心者)〔図6〕

<かまえ>プーリーに対して横向きに仰向けになり、ベルト側の足を真上に上げてかまえる。手は開いてフロアーに置き、身体を安定させる。
<動作>立てたベルト側の足を外側に倒して、ゆっくりと元に戻す。
<注意点>サイド・スイングと同様であるが、この運動の方が内・外腹斜筋の力を借りることなく動作ができるので、殿部の外側に対する負荷は大きくなる。ワイヤーを完全に引くと抵抗力がゼロとなり、しかもワイヤーが腰にふれるので、動作は、ワイヤーが腰にふれる直前までとする。
<作用筋>主働筋……中殿筋、小殿筋。
〔図6〕ライイング・サイド・ダウン

〔図6〕ライイング・サイド・ダウン

≪7≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・ライイング・フロント・レッグ・レイズ(通称:ライイング・レッグ・レイズ、初心者)〔図7〕

<かまえ>足先をプーリー側に向けて仰臥し、手を開いてかまえる。
<動作>足を上方にけり出すようにワイヤーを引き上げてゆっくり元に戻す。
<注意>前方へのレイズ系運動は脚よりも腹筋の運動となるので、採用の仕方に注意する。脚を上げたまま膝の曲げ伸ばしを行えば大腿四頭筋の運動となるが、脚の固定状態が悪いので次項のエクステンションの方がよい。この動作の場合、オールタネットで行える利点がある。
<作用筋>主働筋……腹直筋、補助筋……大腿四頭筋。
〔図7〕ライイング・レッグ・レイズ

〔図7〕ライイング・レッグ・レイズ

≪8≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・ワン・レッグ・エクステンション(通称:プーリー・レッグ・エクステンション、初心者)〔図8〕

<かまえ>ベンチに腰かけ、ベンチの下を通したワイヤーをレッグ・ベルトにかけてかまえる。
<動作>下腿をけり上げるように伸ばしたら、ゆっくりと元の位置に戻す。
<注意点>レッグ・エクステンション・マシンと同様、大腿四頭筋に意識集中して膝を伸展させる。ワン・レッグの場合は、片脚に集中して行うが、ツー・レッグの場合は、1本のワイヤーにS字管を利用し、両足にワイヤーをかけて行う。2本のワイヤーを利用した場合は、ツー・レッグ・エクステンションを行なってもよいし、片足ずつ交互に行うオールタネット・レッグ・エクステンションを行なってもよい。
このように、プーリーを利用したエクステンション系の運動は多目的にできるのが特色である。
<作用筋>主働筋……大腿四頭筋。
〔図8〕プーリー・レッグ・エクステンション

〔図8〕プーリー・レッグ・エクステンション

≪9≫ ロー・プーリー・レッグ・ベルト・ワン・レッグ・カール(通称:プーリー・レッグ・カール、初心者)〔図9〕

<かまえ>ベンチに伏臥し、膝を伸ばしてかまえる。手はベンチを持って上体を支持する。
<動作>下腿を曲げて伸ばす。

<注意点>レッグ・エクステンションの場合と同様、ツー・レッグ・カールやオールタネット・カールなどを取り入れてバリエーションをつける。
<作用筋>主働筋……大腿二頭筋。
〔図9〕プーリー・レッグ・カール

〔図9〕プーリー・レッグ・カール

Ⅳ 徒手で行うスクワット運動

下肢は腹部と同じようにトレーニングするのは最も簡単な部分である。それは、自分の体重を負荷として手軽にできる点にある。しかし、目的によっては体重だけでは負荷が軽すぎる場合があるので、その場合はパートナーの力を借りて、肩を押えてもらったり、パートナーを背負ったりして強度を増すようにする。

筋力の弱い女性や高令者の場合は、徒手スクワットでも充分に目的を達成することができるので、バリエーションのつけ方を工夫して、トレーニングのマンネリ化を防ぎ、効果的なセットを組む必要がある。

徒手で開始した運動でも、馴れてきたら、軽いタンベルを手に持つとか、プレートを頭の後ろに持ったりして、少しずつ内容に変化をもたせることが大切である。このように、常に努力目標を設定して実施することが、トレーニング効果を上げるためにも、トレーニングの継続性の上からも重要な課題といえよう。

≪10≫ フラット・フット・ミディアム・スタンス・フリー・ハンド・スクワット(通称:ヒンズー・スクワット、初心者)〔図10〕

<かまえ>バーベル・スクワットの基本動作と同じように足幅を腰幅よりやや広くとり、足先を約30度に開いて、手を頭の後ろに組んでかまえる。
<動作>膝、腰を曲げて、大腿部が床面に対して水平以下になるまで下ろしたら、立ち上がる。
<注意点>初心者のスクワット練習は、まずこのヒンズー・スクワットから開始されるが、これにより、殿筋群、大腿四頭筋を鍛えると共に、スクワットの基本をマスターさせる。特に、腰の下ろし方と背筋の伸ばし方については充分学ばせる必要がある。次いで内転筋を使用する膝の開閉について学ばせると、スクワットの基本フォームができあがる。
なお、手は必ずしも頭の後ろで組まなくても、腰の後ろで組んでも、胸の前で組んでもよい。
<作用筋>主働筋……殿筋群、大腿四頭筋。
〔図10〕ヒンズー・スクワット

〔図10〕ヒンズー・スクワット

≪11≫ フラット・フット・ワン・レッグ・フリー・ハンド・スクワット(通称:ワン・レッグ・スクワット、中級者)〔図11〕

<かまえ>手を頭の後ろで組み(バランスのとり難い人は手を前に出す)片足で立ってかまえる。
<動作>支持した片足でしゃがんで、立ち上がる。
<注意点>自分の体重と同じ重量のバーベル・スクワットができるようになれば、この徒手による片足スクワットができるようになる。中級者以上の人が徒手で脚のトレーニングをする時は、ワン・レッグでスクワットを行うようにする。
この場合、筋力強化と共にバランスのトレーニングともなり、平衡感覚が高められる。バランスの悪い人は、ふらついてトレーニングにならないので、手を前に出したり、何かにつかまったりして行うようにする。
<作用筋>主働筋……殿筋群、大腿四頭筋。
〔図11〕ワン・レッグ・スクワット

〔図11〕ワン・レッグ・スクワット

≪12≫ ナロー・スタンス・シッシー・スクワット(通称:シッシー・スクワット、初心者)〔図12〕

<かまえ>手を頭の後ろで組み、足先を平行にそろえて少し開き、立ってかまえる。バランスのとり難い人は手を前に出すか、腰に当ててバランスをとる。
<動作>腰を曲げないで膝を前に突き出すように曲げる。
<注意点>大腿四頭筋のみのトレーニングであるから、腰(股関筋)を曲げないで、膝だけを曲げるようにする。必然的に爪先立つかっこうとなるので、バランスがとり難い。この点はバランス・トレーニングにもなるが、主目的は大腿四頭筋だから、何かにつかまってバランスを助けながら行なってもよい。
<作用筋>主働筋……大腿四頭筋。
〔図12〕シッシー・スクワット

〔図12〕シッシー・スクワット

≪13≫ オールタネット・フロント・ステップ(通称:フロント・ステップ、初心者)〔図13〕

<かまえ>手を頭の後ろか、腰に当て、足先を平行に向けて立ってかまえる。
<動作>片足を大きく踏み出し、その脚の大腿部が水平位になるまで膝を曲げ、爪先をけり返すようにして元に戻す。次いで反対側の脚を同じように行う。
<注意点>主に大腿四頭筋の運動である。足を大きく踏み出すことと、膝を充分曲げることに留意する。上体を前に倒すと股関節の屈曲が大きくなるので、上体を真っすぐに立てて胸を張り出す感じで行う。
<作用筋>主働筋……大腿四頭筋、補助筋……殿筋群。
〔図13〕フロント・ステップ

〔図13〕フロント・ステップ

≪14≫ フラット・フット・ワイド・スタンス・サイド・ツー・サイド・スクワット(通称:サイド・スクワット、中級者)〔図14〕

<かまえ>手を頭の後ろで組み、片脚を曲げて腰を下ろしたら、その脚に体重をのせ、もう一方の脚を伸ばしてかまえる。バランスがとりにくい人は手を膝にのせてもかまわない。
<動作>曲げた脚を伸ばしながら、伸びている脚の方に体重を移しながら曲げる。
<注意点>伸脚運動によるスクワット・トレーニングであるが、腰の強化と共にバランスと柔軟性が要求される運動である。これら三者の要素を高めるには、充分に深くしゃがむことと、踵を床面より上げないことである。下股関節が硬い人はバランスをとるのが難しいので、何かにつかまって正確な動作を行うようにする。
<作用筋>主働筋……大腿四頭筋、大殿筋、補助筋……内転筋群。
〔図14〕サイド・スクワット

〔図14〕サイド・スクワット

月刊ボディビルディング1984年11月号

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