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食事と栄養の最新トピックス(45)
食生活赤信号〈10〉
パンはだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1984年11月号
掲載日:2021.04.15
ヘルスインストラクター 野沢 秀雄

1.パン食は強い

 戦前までの日本の家庭は、朝・昼・夜ともコメを主食に生活していた。その米さえ終戦の直前や直後は極端に不足して、イモのツルやカボチャの種、粟、ヒエを食べていたことは年寄りから聞いている人が多いだろう。

 アメリカに支配され、学校給食が普及して、アッという間にパン食が常識になってきた。

 最近の新聞によると、朝食をパンにしている家庭が65~70%にも達している。和食党はお父さんだけで、子供たちはパン党という家庭も多いから、実質的には国民の朝食の80%以上がパン食になっている。

 実際に我が家の1週間を振り返ると5日間くらいが洋風の食事で、トーストにジャム、ママレード、紅茶、卵かシーチキン、それにプロティンミルクといったメニューになっている。

 「主婦の立場になると、パン食のほうが手間がかからない。湯をわかし、卵を料理するだけ。あとはトマト、キュウリ、レタスを添えればバランスがとれる」と女房は言うのだが。

 独身サラリーマンや学生が喫茶店のモーニングサービスで、トーストに卵とコーヒーを常食にしている風景も当り前になっている。それより年代の低い若者は、マクドナルドやロッテリアで朝食をとるようだ。

 これに反して、立喰いソバやウドンは、一定のファンこそあれ、急増という印象はない。ホテルなどで、洋定食と和定食を用意しているが、最近は圧倒的に、パンをメインにした洋定食のオーダーが多いという。

 朝食だけではない。昼食にもパン食を注文する人が増えており、人によっては夜も洋食という場合さえある。

 いつの間にか、米食からパン食へと民族の嗜好が変ったようだ。

2.パンに危険はないか?

 「一流選手の食事法」を拝見しても年々パン食の比重が高まっている。大きな流れとして定着しているが、果してパンに問題はないだろうか?

 私事で恐縮だが、学生時代から今日に至るまで、大量生産されたパンを食べたあと、必ずといっていいほど腹具合が悪くなる。ひどい下痢をするのだ。しかも食べて2時間~3時間後の短時間に……。

 「どうも自分はパンに対してアレルギー症のようだ」と、尊敬している先輩に話したところ、「パンにアレルギーが起こるなんてあり得ない。気のせいに決っている」と一笑に付されてしまった。

 ところが下痢する時は必ずパン食の後で、しかも観察を重ねるうちに、「○○パン」「××パン」といった大手パンメーカーの製品を食べた直後に症状が出てくる。逆に小さな手づくりのパンや外国人が買っているスーパー(紀の国屋など)で求めたパンは平気である。

 「これは変だ。パンに含まれる何かが影響している」と確信するようになった。実際に海外旅行ではパンをいくら食べても胃腸は大丈夫。とくに本場のフランスパンは、じかにトラックの荷台に包装もせず、袋にも入れず、素手で皆が扱っているにもかかわらず、いくら食べても下痢はしない。

 当時、わが家で飼っていた猫にパンを与えて実験をしたことがあるが、大量生産されたパンは、いくら味噌汁で味をつけても食べようとしなかった。

 こんな経験をしているので、パンには個人的な抵抗感が強い。幸いにも最近のパンは年々品質が向上しており、おいしいパンの種類や店が判ってきている。したがって1週間のうち半分くらいは朝食がパンになりつつある。(それでも私以外の家族がパンで、自分だけ和食という日が2日くらいはある)

 私のパンアレルギーが本物だったのか、あるいは精神的な、先入観にすきないのか、現在も重要なテーマと考えている。

3.パン製造に使われる添加物

 ごはんの場合、米をといで炊くだけなので人工的な添加物は入る余地がない。残留農薬や殺虫剤・殺菌剤などは考えられるが、パンや麺類などの場合に比べると、安全性の点ではずっと安心できる。

 ではパンはどのように作られるか? 原料と工程をチェックしてみよう。
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――これが標準工程であるが、会社によって独自の配合、独自の工程を採用し、オリジナルの風味を出していることは言うまでもない。また、酵母の種類が各社の秘密でもある。

 さて、下痢をおこす添加物は、どの段階で、どのように加えられるのだろうか?

①原料の小麦粉に使われる添加物

a.漂白殺菌剤………過酸化アンモニウム・希釈過酸化ベンゾイル・過硫酸アンモニウム・二酸化塩素
b.生地改良剤……硫酸アンモニウム
c.ドウ調整剤……硫酸カルシウム
d.老化防止剤……でんぷんリン酸エステルナトリウム
e.栄養強化剤……ビタミンA・B1・B2・クエン酸鉄

②イーストフードの組成※

a.硫酸石灰 CaSO4
b.塩化アンモニウム NH4Cl
c.食塩 NaCl
d.臭素酸カリ KBrO3
e.希釈剤……でんぷん・小麦粉
f.酵素剤

③その他、配合時に加えられる物

a.防腐剤……プロピオン酸
b.粘着剤……CMC
c.旨味増強……L-グルタミン酸ナトリウム・核酸系調味料・サッカリンナトリウム・乳酸・乳酸鉄・乳酸カルシウム
d.膨張剤……みょうばん類
e.酸酵助剤……L-システィン
f.老化防止剤……庶糖脂肪酸エステル
g.歩留向上剤………ポリアクリル酸ナトリウム
h.栄養強化剤……合成ビタミン
i.着色剤………タール色素

④離型時に使われるもの※

a.離型剤………流動パラフィン

⑤その他、植物油に混入が考えられるもの

a.抽出剤………ノーマルヘキサン
b.脱ガム・脱酸・中和剤………硫酸・塩酸・シュウ酸・カセイソーダ等
c.脱色・脱臭剤………活性炭・PCB
d.冷却・消泡……シリコーン
e.その他……リン酸・クエン酸・酸化防止剤など。

4.良いパン・悪いパン

 上記のように見ただけでも頭痛がするほど、合成化学物質が使われる。このうち全部の添加物が使用されるわけでないが、大手量産メーカーほど添加物に依存する割合が高い。また、※印をつけた物質は種類や配合は少し異っても必ず使用されている。

 これら添加物の一つ一つについて、発表されている毒性を述べるにはページが無いので、下痢をおこす可能性のある物だけを2~3示すにとどめたい。

〈危険な添加物〉

■臭素酸カリ

 パン酵母が炭酸ガスをよく出して、フックラ感が出るように、イーストフード(酵母助剤)として使用される。

 人体への毒性として、吐き気・下痢・腎臓障害が警告されている。オランダとイギリスを除くヨーロッパ諸国ではパンにこのような化学薬品を用いることは禁止されている。特にフランスは徹底している。

 また、臭素酸カリは発ガン性が強いと疑われている。自殺に使う人もいる毒物である。(「暮しの赤信号」第10号による)

■流動パラフィン

 パンが金型容器から出しやすくするために塗る油の一種。良心的なメーカーなら植物油を使うが、大量生産工場では石油から得られるパラフィンを塗っている。焼き上げたパンの底に、黒くなったクズや油が浸みている。発ガン性が国会でも問題になった。

■プロピオン酸

 防腐の目的で、プロピオン酸やプロピオン酸ナトリウム、カリウムが使用されるが、「プロパンガス」のプロパンと同じ物質。毒性は研究中である。

――以上、パンが両手の指で数え切れないほど添加物にまみれた食品であることに、あらためて驚く人も多いだろう。今から7年前に、「小麦粉の漂白剤として過酸化ベンゾイルは使用しない」と業界で決めたが、危ない添加物はまだまだ残っている。

 聞くところによると、学校給食のパンには、増量剤として脱脂粉乳や大豆カスが使われているという。善意に解釈すれば、たんぱく質含有量を高めて栄養補給を果すことになるが、同時に余計な添加物が入ったり、パンの味が悪くなっては何にもならない。

 自然食業界で有名な神田精養軒の望月社長は「今のパンはパンではない。あれはウンチパンだ」と公言しているように、子供ばかりか猫さえ食べないパンが街にあふれているのは事実である。では逆に、良いパンとはどんな条件を満たしているだろうか?

①まず原料をえらぶ。漂白したパンはヨーロッパには無いといっていいほど。黒パンや胚芽入りパンが多い。またサワーブレッドといって酸味のある茶色のパンも好まれている。日本でも「無漂白小麦粉使用」のパンやビスケットが次第に増えている。

②流動パラフィンを使用せず、手づくりで、面倒だがいちいち植物油を用いて焼いたパン。

③臭素酸カリを使用しないパン。昭和57年度よりパン以外への使用が禁止され、パンにも30ppmまでの制限が設けられている。だが、使用しないで、製パンする方法をとる会社が増えている。

④大手のパンより、自家焼きのパン。

 最近はちょっとした街でも、またビルの中にさえ、オーブンを置いて、焼き上げた直後のパンを客に販売する店が急増している。ところが良く観察すると、郊外の大工場から、ねりあげたパン生地を成型して運び、冷凍庫に保存しているにすぎない。客に見せているのは焼く部分だけで、工場で果してどんな添加物をまぜているか不明である。(企業秘密で見せられない理由もあろうが……)

 できることなら、最初の仕込みである配合や混合の段階から自家で行なっている店で、しかも信頼できる責任者が居る店でないと、なかなか安心できない。

5.上手なパンの食べ方

 最後にパンに関する2~3のヒントを述べて締めくくろう。

①菓子パンは食べるな

 アンパン、ジャムパン、クリームパンなどは、いかにも美味で、昼食がわりに牛乳などでパクついている人が多い。中学時代、高校時代と、筆者もファンだったが、その後、食品化学の道に入り、添加物を勉強するにつれて、菓子パンは食べない主義に転向した。

 なぜなら、アンパンのアン、クリームパンのクリーム、ジャムパンのジャムこそ、添加物の巣である。防腐剤や粘調剤、人工香料、人工着色料、リン酸塩など、実に多量に使用されているからだ。こんなパンを食べた後には、ジーンと胸やけや胃痛がおこり、下痢さえ始まる。

 「神経のせいだ」といくら自分をごまかしても事実は事実である。読者の中にも思い当る人が多いのでは?

②自然食にも注意がいる

 最近はナチュラルハウスのような自然食品店がふえ、添加物を使わないパンを敗売している。味も良く下痢をしないのは結構だが、小さなロールパン70円、80円もする。市販の2倍も高いのは馬鹿げている。「売れ残ったら翌日まで持たないので処分するため」と語られているが、需要がもうこれだけ増したのだから、一般食品店に価格を近ずける努力をしてほしい。そうしないと大手のメーカーや一般店も次第に良質のパンを作り、品質に差がなくなる。

 また、注意したいのは、金儲け主義で自然食や健康食を営業したり、生産する人が存在することだ。本当は添加物を使ったり、合成品を使っているのに、「天然」「自然」とPRする。実際に、自然食品店で売られている製品に内容が虚偽のものがある。「自然食品店で高く買ったから」と安心してはいられない。

③パンとごはんの比較

 よく「パン1枚とごはん1杯で栄養価はどちらが上か?」と尋ねられる。別表に一例を示すので参考にしていただきたい。
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④食塩はパン食の方が多い 高血圧などの原因になるため、食塩を制限する運動が東北地方を中心に全国に広がっている。学校給食で、ごはん給食とパン給食を比較したところ、意外にもパン食の方が食塩が2割くらい多くなることが判明した。 原因はパン自体に含まれる食塩が多いからだと判明し、対策が練られているという。副食にもよるが、一般に血圧の高い人はパン食にしない方が良いといえる。
月刊ボディビルディング1984年11月号

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