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ボディビルディングの理論と実際(46)
第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1984年12月号
掲載日:2021.04.26
名城大学助教授 鈴木正之

Ⅳ 下肢の運動 その2

◎下肢の筋肉

下腿の筋のうち、下腿の前面にあって、脛骨、および腓骨から起こり、足背、及び指背に至る筋群は伸筋群と総称され、これに属するのが前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋などである。これらの筋の作用は、足を背側に曲げたり、足の指を伸ばしたりする。

ボディビルでは前脛骨筋が目立つ程度で、あまり重視されていないが、他のスポーツ、例えばサッカーやラグビーにおけるインステップ・キックの場合、ボールに回転を与える重要な役目をする。

下腿の後ろ側にある屈筋は、下腿の中で最も発達している下腿三頭筋が代表的なものである。下腿三頭筋は腓腹筋(速筋線維)の二頭とヒラメ筋(遅筋線維)からなる。

腓腹筋は大腿骨の下端より起こり、ヒラメ筋は腓腹筋におおわれて脛骨及び腓骨から起こり、いわゆるフクラハギを形成している。

腓骨筋とヒラメ筋は合体してアキレス腱となり、踵骨の後端に付着している。その働きは、足と足指を足底側に曲げる作用をする。一般的にボディビルではカーフ(Calf)と呼ばれ、大腿四頭筋と共に、その発達状態は下肢の評価に重要な意味を持っている。

下腿におけるトレーニングは、この下腿三頭筋に集中しその主力運動はカーフ・レイズ(Calf Raise)である。なお、踵を上げる動作からヒール・レイズ(Heel Raise)、もしくは、つま先立つことからトゥ・レイズ(Toe Raise)とも呼ばれる。

下腿三頭筋のトレーニングにおける共通した注意事項は筋の機能的性質、すなわち歩行やランニング、あるいはジャンプなどの運動にみられるように、持久的作用に耐え、且つ、瞬間的にパワーを発揮する点にある。

このような性質を持つということは、トレーニングにおける反復回数がハイ・レペティションでなければ効果が出にくいことを示している。したがって、4~5回でオールアウトするような強い負荷よりも、15~20回くらい反復できる負荷でもってトレーニングする必要がある。

≪1≫スタンディング・カーフ・レイズ・オン・カーフ・レイズ・マシン(通称:カーフ・レイズ、初心者)〔図1〕
<かまえ>カーフ・レイズ・マシンのロールに肩を当て、ハンドルを握り、踏み台につま先をのせ、膝を十分に伸ばしてかまえる。
<動作>踵を上げてつま先立ち、元の位置におろす。
<注意点>この運動は最もポピュラーなカーフ・レイズである。自分の体重と重量物による負荷を、下腿三頭筋の収縮によって引き上げる方法は、初心者から上級者まで幅広く採用できる。重量物を肩で支えるので、ロールがしっかり巻かれたもので、肩にソフトに当る物がよい。また、重量はプレートによって変化させるが、プレートを取りはずす形式のものより、指しピンでもって重量調節できるものの方がよい。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図1〕カーフ・レイズ

〔図1〕カーフ・レイズ

≪2≫スタンディング・ワン・レッグ・カーフ・レイズ・オン・カーフ・レイズ・マシン(通称:ワン・レッグ・カープ・レイズ、中級者)〔図2〕
<かまえ>カーフ・レイズ・マシンのロールに肩を当て、ハンドルを握り、踏み台に片足のつま先をのせ、膝を伸ばしてかまえる。
<動作>踏み台にのせた片足の踵を上げて、下ろす。
<注意点>片足に意識集中させる場合や、重量物が軽い場合はこのワン・レッグで行うようにする。
片足がオールアウトしたら、もう一方の足に交替するが、交替した方もオールアウトしたら、次に両足でもって行うフォースド・レプス・システムに移行して反復を継続させることもできる。
その他、最初から両足をつけておくが、主力は片足ずつで動作をしたり、片足交互に行なったりしてバリエーションをつけることができる。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図2〕ワン・レッグ・カーフ・レイズ

〔図2〕ワン・レッグ・カーフ・レイズ

≪3≫シーテッド・カーフ・レイズ・オン・カーフ・レイズ・マシン(通称:シーテッド・カーフ・レイズ、初心者)〔図3〕
<かまえ>シーテッド・カーフ・レイズ・マシンに腰かけ大腿部に重量支持台をのせ、踏み台につま先をのせてかまえる。
<動作>踵を上げ下げする。
<注意点>この方法は、コンセントレーションが悪く、強い負荷をかけられない女性や高年者向きの方法である。坐ることにより姿勢が安定し、コンセントレーションを高めることが出来る。ただし、より強い負荷を得るためには、肩に重量をのせるスタンディングの方がよい。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図3〕シーテッド・カーフ・レイズ

〔図3〕シーテッド・カーフ・レイズ

≪4≫シーテッド・バーベル・カーフ・レイズ(中級者)〔図4〕
<かまえ>ベンチまたは椅子に腰掛け、踏み台につま先をのせ、バーベルを大腿部にのせて両手で支持する。
<動作>踵を上げて下ろす。
<注意点>この方法はシーテッド・カーフ・レイズ・マシンがない場合に採用するが、負荷はバーベルをのせる位置により変化するので注意する。つまり、膝の方に寄せれば負荷は大きくなり、腰側に寄せれば小さくなる。
また、バーが細いために、重量支持点が小さいので、大腿部が痛くなることがある。このような場合は、大腿部に座布団を当てがうとよい。座布団を当てがった場合はバーベル以外に、プレートやパートナーをのせて運動を行なってもよい。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図4〕シーテッド・バーベル・カーフ・レイズ

〔図4〕シーテッド・バーベル・カーフ・レイズ

≪5≫ライイング・スーパイン・トゥ・レイズ・オン・レッグ・プレス・マシン(通称:レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ、中級者)〔5〕
<かまえ>レッグ・プレス・マシンに仰臥し、足でボードを押し上げ、ボードにつま先だけをかける。
<動作>つま先を上げて下ろす。
<注意点>レッグ・プレス・マシンの多目的利用法の1つとして、このトゥ・レイズがある。動作も簡単で、しかも強い負荷をかけることができる。
また、バリエーションとしてワン・レッグ・トゥ・レイズ、オールタネット・トゥ・レイズなどが多目的に採用できるので、レッグ・プレス・マシンの利用方法については大いに研究の余地がある。
<作用筋>主働筋……腓腹筋。
〔図5〕レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ

〔図5〕レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ

≪6≫ライイング・スーパイン・トゥ・レイズ・オン・インクライン・レッグ・プレス・マシン(通称:インクライン・レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ、中級者)〔図6〕
<かまえ>インクライン・レッグ・プレス・マシンに仰臥し、足でボードを押し上げ、ボードにつま先をかけて、アキレス腱を伸ばしてかまえる。
<動作>つま先を上げて、下ろす。
<注意点>前項のレッグ・プレスを利用した場合、脚を真上に上げるため、アキレス腱を十分に伸ばし難いが、インクラインの場合はアキレス腱側を伸ばすことができるので、エクセントリック的運動がやりやすい。前項と同様、ワン・レッグやオールタネット・トゥ・レイズを行うことができる。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図6〕インクライン・レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ

〔図6〕インクライン・レッグ・プレス・マシン・トゥ・レイズ

≪7≫ドンキー・カーフ・レイズ・オン・レッグ・プレス・マシン(通称:レッグ・プレス・マシン・ドンキー・レイズ、中級者)〔図7〕
<かまえ>ベンチまたは椅子に手を突き、背中でレッグ・レイズ・プレス・マシンを押し上げ、踏み台につま先をかける。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>これもレッグ・プレス・マシンによる運動のひとつで、安全、且つ確実に下腿三頭筋に強い負荷をかけることができる。欠点としては、ベント・オーバー姿勢になるためアキレス腱を十分に伸ばし難い。これをカバーするには膝を軽く曲げるとよい。その他この姿勢からオールタネット・カーフ・レイズを行うことができる。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図7〕レッグ・プレス・マシン・ドンキー・レイズ

〔図7〕レッグ・プレス・マシン・ドンキー・レイズ

≪8≫ドンキー・ワン・レッグ・カーフ・レイズ・オン・レッグ・プレス・マシン(通称:レッグ・プレス・マシン・ワン・ドンキー・レイズ、中級者)〔図8〕
<かまえ>ベンチまたは椅子に手を突き、背中でレッグ・プレス・マシンを押し上げ、踏み台に片足のつま先をかける。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>片足ずつ行うカーフ・レイズで、目的や方法は前項と同様である。片足の場合は、よりコンセントレーションを高めることができ、しかもオールアウト後、両足に移行し、フォースド・レプスができる利点がある。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図8〕レッグ・プレス・マシン・ワン・ドンキー・レイズ

〔図8〕レッグ・プレス・マシン・ワン・ドンキー・レイズ

≪9≫スタンディング・カーブ・レイズ・オン・ハック・リフト・マシン(通称:ハック・リフト・カーフ・レイズ、初心者)〔図9〕
<かまえ>ハック・リフト・マシンのグリップを握り、踏み台につま先をのせて、アキレス腱を伸ばし、姿勢を真すぐにしてかまえる。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>ハック・リフト・マシンにも構造上、多目的にトレーニングが出来るようなものと、そうでないものがあるので、足首のトレーニングを含めた肩当てのついたものを選ぶとよい。
ハック・リフト・マシンを利用したカーフ・レイズはカーフ・レイズ・マシン同様、初心者から上級者まで幅広く採用できる。このように多角的に利用できれば、高価な脚の器具も生きてくる。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図9〕ハック・リフト・カーフ・レイズ

〔図9〕ハック・リフト・カーフ・レイズ

≪10≫スタンディング・バーベル・カーフ・レイズ・オン・アイソメトリック・ラック(通称:バーベル・カーフ・レイズ、初心者)〔図10〕
<かまえ>アイソメトリック・ラックに通したバーベルを肩にかつぎ、踏み台につま先をかけ、アキレス腱を伸ばしてかまえる。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>スタンディングで、バーベルを利用したカーフ・レイズは、アイソメトリック・ラックを利用するが、一般的には支柱間隔が広いのでバランスが保ちにくい。その点、パイプ・スライド式ラックを利用すれば、安定した姿勢で行うことが出来る。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図10〕バーベル・カーフ・レイズ

〔図10〕バーベル・カーフ・レイズ

≪11≫スタンディング・ワン・レッグ・カーフ・レイズ・オン・ディッピング・バー(通称:ワン・レッグ・カーフ・レイズ、初心者)〔図11〕
<かまえ>ディッピング・バーの継手バーに片足をのせてバーを握り、アキレス腱を伸ばしてかまえる。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>上体を支持しやすいので、ディッピング・パーを利用しているが、つかまる物があれば、踏み台、プレート、器具の台などを用いても同じである。ただし、負荷が自分の体重だけなので、片足で行う必要がある。セットは右足がオール・アウトしたら左足というように、交互にくり返して行う。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図11〕ワン・レッグ・カーフ・レイズ

〔図11〕ワン・レッグ・カーフ・レイズ

≪12≫ドンキー・カーフ・レイズ(初心者)〔図12〕
<かまえ>踏み台にのり、腰までの高さの器具に腕をのせたら、パートナーが馬乗りができるようにかまえる。パートナーは椅子などを利用して、静かに腰のあたりに乗ってやる。
<動作>踵を上げて、下ろす。
<注意点>この運動は、適当な専門マシンがない場合に、パートナーの体重を借りて行う方法である。
背中が水平になるように適当な高さの器具か台を利用して姿勢をとり、パートナーに背中よりも腰側に静かに乗ってもらい、カーフ・レイズを行う。1人で軽い場合は、2人でも3人でも乗ってもらうとよい。
<作用筋>主働筋……腓腹筋、ヒラメ筋。
〔図12〕ドンキー・カーフ・レイズ

〔図12〕ドンキー・カーフ・レイズ

月刊ボディビルディング1984年12月号

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