ボディビルディングの理論と実際<47>
第6章 トレーニング種目
◎頸部の筋とそのトレーニング種目
ボディビルに関して最も重要なのは広頸筋の下にある外側頸筋、すなわち胸鎖乳突筋である。胸鎖乳突筋は胸筋の上端と鎖骨の内側端の2点より起こり、頭蓋の乳様突起に付着する強大な三頭筋である。この名称は、各起始と付着の頭文字をとって名付けられたものである。この筋の下を後方に走るのが頭板状筋である。
胸鎖乳突筋は両側が同時に働くと頭を前屈させるが、片側のみが働くと斜前屈をするように顔を反対側に向ける。この場合、頭板状筋が協力して働くが、頭板状筋が同時に働くと頭を後屈させる。
次に頸筋群であるが、これは前後に分けることができ、前頸筋群として舌骨筋がある。舌骨筋は上方にあるものを舌骨上筋と呼び、顎二腹筋、茎突舌骨筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋があり、開口運動や嚥下運動に関与している。
舌骨下筋は胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、肩甲舌骨筋があり下顎を引き下げる作用をもつ。
このように舌骨筋は開口運動や嚥下運動に関係する筋であって、直接ボディビルとは関係ないので、トレーニング実施上、重要視する必要はない。
後頸筋群は頸椎の前面と外側面にあって、頸椎を上下に走っている。また、頸椎前面を走っている頸長筋や頭長筋などは胸鎖乳突筋と共に頭や頸の運動を行う。頸椎の後面を走る前・中・後斜角筋は頭を横に曲げたり、第1、第2肋骨を引き上げたりする。
以上の筋群を覆っているのが肩についている僧帽筋であり、肩甲挙筋である。これらの筋肉が頸部運動を助けている。このように頸部の複雑な動きは、大小多数の筋肉によって行われ、その名称や動きを理解するのは難しいので、大きなポイントとなる胸鎖乳突筋を中心としたトレーニングを組むようにする。
〔頸部の筋〕
Ⅰ 徒手で行う頸部の運動
そこで、徒手で行う頸のトレーニングとしては、①自分の体重を利用して行う方法 ②自分の腕の力を抵抗として行う方法 ③パートナーの力を借りて行う方法の3つが一般的に行われている。
次に、以上3点のバリエーションを紹介していくが、特にブリッジ系の運動は自分の体重が利用でき、しかもいろいろ変化させて手軽にできるので利用価値が高い。
≪1≫レスラー・ブリッジ(初心者)〔図1〕
<動作>膝を伸ばしながら背筋に力を入れ、頸を反らして額をマットに触れるように全身を弓なりに反らせる。そして、再び肩を落して元の姿勢に戻す。
<注意点>初心者は手で体重を支えるようにして、頸への負荷を軽くするが、上級者は逆にプレートをのせたり、ブリッジ姿勢でベンチ・プレスやプル・オーバーをして負荷を強める。運動に馴れたら人をのせて行なってもよい。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋、固有背筋、その他。
〔図1〕レスラー・ブリッジ
≪2≫リバース・レスラー・ブリッジ(初心者)〔図2〕
<動作>つま先立ちながら、体重を前に移動させ、後頭部をマットに触れさせるように頸部を前屈したら、元の姿勢に戻る。この動作に馴れたら頸部を左右に曲げてみるのもよい。
<注意点>負荷の強弱は、手を置く位置や足の位置によって変化するので、レベルに応じて変化をつけるようにする。 また、前屈、後屈動作ばかりでなく、左右への動きを加え、胸鎖乳突筋への負荷を強める。その他、前項のブリッジと合せて前後転回や回転動作を入れ、バリエーションをつける。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、補助筋……頸長筋、頭長筋、その他。
〔図2〕リバース・レスラー・ブリッジ
≪3≫ネック・エクステンション・オン・オール・フォーアズ(中級者)〔図3〕
<動作>パートナーの手に抵抗しながら顔を起こし、元に戻る時はパートナーに押えてもらう。
<注意点>動作が上手に出来るか否かはパートナーの抵抗のかけかたによる。動作を行う側は力を入れたり抜いたりしないで、常に最大の力を出し、パートナーが抵抗を加えやすくしてやる。
パートナーは加える抵抗に強弱をつけ、リズミカルに継続反復ができるようにする。アイソメトリックとして行う場合には、フィニッシュの位置で静止し、最大抵抗を受けるようにする。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図3〕ネック・エクステンション・オン・オール・フォーアズ
≪4≫ライイング・フロアー・ネック・サイド・レジスタンス(中級者)〔図4〕
<動作>パートナーの抵抗を受けながら、頭を上方に上げて、元に戻す。
<注意点>前項同様、パートナーの抵抗がすべてであるので、適度な抵抗を常に継続するように心がける。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、頭板状筋、補助筋……僧帽筋、その他。
〔図4〕ライイング・フロアー・ネック・サイド・レジスタンス
Ⅱ ヘッド・ストラップによる頸の運動
ヘッド・ストラップは頭にかぶって重量をつける物で、専門的に作られたものもあるが、ラグビーのヘッド・キャップのような代表品もある。また、丈夫な皮か布があれば自分の頭のサイズに合せて手製でも出来る。重量をつるすものは犬の鎖りか、登山用のロープなど丈夫なロープを利用すればよい。
器具が準備できたならば、頸の運動方向を考えてバリエーションをつける。すなわち、頸の基本運動である前屈、後屈、側屈動作に加えて、身体の姿勢方向を考慮して、立位、座位、仰臥位、伏臥位、横臥位などと変化をつけることにより、頸の筋肉をバランスよくトレーニングすることができる。
≪5≫ベント・オーバー・ヘッド・ハーニス・プレート・ネック・エクステンション(通称:プレート・ネック・エクステンション、中級者)〔図5〕
<動作>上体を固定したまま、顔を上に起こし元に戻す。
<注意点>上体をあおらないように固定し、頸の後部に意識集中して行う。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図5〕プレート・ネック・エクステンション
≪6≫シーテッド・ヘッド・ハーニス・プレート・ネック・エクステンション(通称:シーテッド・ネック・エクステンション、中級者)〔図6〕
<動作>前項同様
<注意点>スタンディングで行うと姿勢が安定しない場合がある。その点、椅子を利用すれば下半身が安定するので運動がやりやすい。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図6〕シーテッド・ネック・エクステンション
≪7≫ライイング・ヘッド・ハーニス・ネック・エクステンション(通称:ライイング・ネック・エクステンション、中級者)〔図7〕
<動作>顎を突き上げるように頸を上方に反らしたら、ゆっくり元に戻す。
<注意点>頸の後ろに意識集中して、頸を反り上げる。頭を下げた時、ストラップが落ちやすくなるので手で押えておく。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図7〕ライイング・ネック・エクステンション
≪8≫ライイング・ヘッド・ハーニス・プレート・ネック・レジスタンス(通称:ライイング・ネック・レジスタンス、中級者)〔図8〕
<動作>顎を引くように顔を上方に起こし、元に戻す。
<注意点>顎下の筋肉に意識集中し、頭を起こすという感じより、顎を引く感じで行う。運動の可動範囲を大きくするために頭を下に向けておくが、下に向けすぎるとへッド・ストラップが頭からぬけるので、手で押さえる。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、補助筋……頸長筋、頭長筋、その他。
〔図8〕ライイング・ネック・レジスタンス
≪9≫ライイング・サイド・ヘッド・ハーニス・ネック・レジスタンス(通称:サイド・ネック・レジスタンス、中級者)〔図9〕
<動作>耳を肩につける感じで頭を横向きに起こし、元に戻す。
<注意点>頸を起こす側の胸鎖乳突筋と僧帽筋に意識集中して行う。この場合も頭を下げ過ぎるとヘッド・ストラップがはずれるので、手で押さえておく。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、頭板状筋、補助筋……僧帽筋、その他。
〔図9〕サイド・ネック・レジスタンス
≪10≫スタンディング・ヘッド・ハーニス・ロー・プーリー・ネック・エクステンション(通称:スタンディング・ネック・エクステンション、中級者)〔図10〕
<動作>頸を後ろに曲げて、元に戻す。
<注意点>立位姿勢はバランスを崩しやすいので、手を腰に当て、足をしっかりと踏みしめて、つま先加重から踵加重にする。なお、手でつかまえる適当な物がある場合は、それを利用して行うと姿勢が安定する。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図10〕スタンディング・ネック・エクステンション
≪11≫スタンディング・ヘッド・ハーニス・ハイ・プーリー・サイド・ネック・レジスタンス(通称:スタンディング・サイド・ネック・レジスタンス、中級者)〔図11〕
<動作>頭をプーリーと反対側に曲げて、元に戻す。
<注意点>この場合は立って行なっているが、時には座位姿勢で腰を安定させ、空いた手を膝に当てて肩を固定し胸鎖乳突筋に意識集中して行なってもよい。またハイ・プーリーだけでなく、ロー・プーリーでも行なってみる。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図11〕スタンディング・サイド・ネック・レジスタンス
≪12≫シーテッド・バック・サポーテッド・ヘッド・ハーニス・ロー・プーリー・ネック・エクステンション(通称:シーテッド・ネック・エクステンション、中級者)〔図12〕
<動作>頸を後ろに曲げて、元に戻す。
<注意点>座位の姿勢はバランスがとりやすいので、しっかりと腰を下ろしたら手を膝について肩を固定し、頸部後面へコンセントレーションする。背もたれのついた椅子を利用して背中を密着させれば、より一層運動がやりやすくなる。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図12〕シーテッド・ネック・エクステンション
≪13≫シーテッド・ヘッド・ハーニス・ハイ・プーリー・ネック・レジスタンス(通称:シーテッド・プーリー・ネック・レジスタンス、中級者)〔図13〕
<動作>頸を真っすぐにした状態から、顎を引くように頸を前屈させて元に戻す。
<注意点>頸部に意識集中をしやすくするために、椅子に腰掛けて姿勢を安定させ、この形から各方向へのバリエーションをつけるとよい。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、補助筋……頸長筋、頭長筋、その他。
〔図13〕シーテッド・プーリー・ネック・レジスタンス
≪14≫シーテッド・バック・サポーテッド・ヘッド・ハーニス・ハイ・プーリー・ネック・エクステンション(通称:シーテッド・プーリー・ネック・エクステンション、中級者)〔図図14〕
<動作>頸をやや前屈させた姿勢から後ろに曲げて戻す。
<注意点>前項同様、姿勢の安定を保つため椅子を有効に利用し、頸の各方向からの運動を考える。また、プーリーはハイ・プーリーにこだわらず、ロー・プーリーの利用も多目的に行えるので、ここにあげた種目だけでなく筋肉の作用方向とマンネリ化を防ぐための工夫をすることが必要である。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図14〕シーテッド・プーリー・ネック・エクステンション
≪15≫ベント・オーバー・ヘッド・ハーニス・ロー・プーリー・ネック・エクステンション(通称:ベント・オーバー・プーリー・ネック・エクステンション、中級者)〔図15〕
<動作>上体を固定したまま、顔を上に起こす。
<注意点>上体であおらないように注意し、頸部の後ろに意識集中して行う。
<作用筋>主働筋……頭板状筋、補助筋……僧帽筋他。
〔図15〕ベント・オーバー・プーリー・ネック・エクステンション
≪16≫ベント・オーバー・ヘッド・ハーニス・ハイ・プーリー・ネック・プルダウン(通称:ベント・オーバー・プーリー・プルダウン、中級者)〔図16〕
<動作>出来るだけ上体を固定し、ヘソを見るように頸を前屈させて、元に戻す。
<注意点>出来ればプーリーの下に入り、真上の抵抗を引き下げるように行う。上体は固定し、反動を使わないようにする。
<作用筋>主働筋……胸鎖乳突筋、補助筋……頸長筋、頭長筋、その他。
〔図16〕ベント・オーバー・プーリー・プルダウン
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