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食事と栄養の最新トピックス60
中・上級者のための食事法<6>
たんぱく質評価法

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月刊ボディビルディング1986年3月号
掲載日:2021.11.08
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1. ビルダーは飽食しすぎ

前号まで5回にわたり、たんぱく質の適正摂取量をメインテーマに述べてきた。「量」と「質」の両方を研究することが大切である。そして「○○がいい」と単に質ばかりに目がゆきとかく量は忘れやすい。

たとえば、最近「ビタミンCやビタミンEは不要である」というニュースが報道されたが、ビタミンCやビタミンEそのものが何の役割も果さないということではない。ただ常識を超えた大量服用を「意味がない」と厚生省が見解を示したのである。

たんぱく質(プロティン)についても同様である。たんぱく質が体重1kg当り1.2g程度であれば普通人と同量であり、普通人と同じような量と質の食事法を行いつつ、トレーニングやスポーツ訓練をすることは「スポーツ性貧血」をおこす原因になる。

トレーニングを実行する者は高たんぱく食にすることが必要である。ただし過剰になってはいけない。かえって有害である。

たんぱく質の量が適切かどうか、次の3つの方法から検討するとよい。

①体重1kg当り何gとっているか?
②たんぱく質・脂質・糖質の三大栄養・素の割合(%)を計算する。(重量)
③摂取カロリーのうち、何%がたんぱく質に由来するか計算する。(カロリー比%)

今までの結論をまとめると、
①体重1kg当り1.8~2.2gが適切
②重量比で18~25%が適切
③カロリーのうち10~15%が適切
ということになる。

ところが実際にビルダーたちの食事法から、たんぱく質の量を計算すると下の表のようになる。これは本誌「一流選手の食事法」に掲載された48名のデータに基づいている。

当然ながら摂取カロリーに占めるたんぱく質の量の点からも大幅にとりすぎている。

たんぱく質のとりすぎは単に無駄であるだけではない。消化されなかったたんぱく質は大腸菌により腐敗作用がおこりガンを発生させる。この詳しいメカニズムは今は述べないが、たいへん由々しい事実である。

くれぐれも過剰にならない範囲で、しっかりとたんぱく質をとっていただきたい。

≪通常のトレーニング期:体重1kg当りのたんぱく質摂取量≫
※上段の数字は体重1kg当りのたんぱく質摂取量(単位g)

※上段の数字は体重1kg当りのたんぱく質摂取量(単位g)

≪通常のトレーニング期:三大栄養素のうちたんぱく質の占める割合(重量比)≫
※上段の数字はたんぱく質の占める割合(単位%)

※上段の数字はたんぱく質の占める割合(単位%)

≪減量期:体重1kg当りのたんぱく質摂取量≫
記事画像3
≪減量期:三大栄養素のうちたんぱく質の占める割合(重量比)≫
記事画像4

2. 質はアミノ酸の比率による

ではいよいよ、どんなたんぱく質が良好なのか検討してみよう。

「動物性たんぱく質のほうが、植物性たんぱく質よりすぐれている」という考えが一般に広まっている。

たんぱく質はアミノ酸が約百~数百個連結してできた物質である。アミノ酸は食品中に存在するものが20種類ある。ローマ字のAからZまでの26文字で辞書いっぱいの単語ができるのと同じように、20種類のアミノ酸が百~数百個さまざまに結びついて、全身のたんぱく質をつくりあげている。

20種類の天然に存在するアミノ酸のほかに、人工的に合成してできるアミノ酸や体内での代謝中に生じるアミノ酸(オルニチンなど)がある。

これらアミノ酸には、化学的特徴や医学・薬学的特徴、味による特徴があるが、これらについては次号以下で述べることにする。

たんぱく質が胃や小腸で消化され。体内に吸収され、最終的には肝臓にたどりつく。体内の化学工場である肝臓で、アミノ酸を単位材料として、さまざまな組み変えがおこなわれる。

①アミノ酸から他のアミノ酸の合成
②ぶどう糖からアミノ酸の製造
③脂肪からアミノ酸の製造
④多すぎるアミノ酸の分解
⑤古くなったアミノ酸の分解
などである。

20種のアミノ酸のうち、12種類は体内で合成できるが、次の8種類は合成できない。①スレオニン ②バリン ③ロイシン ④イソロイシン ⑤リジン ⑥メチオニン ⑦フェニールアラニン ⑧トリプトファン。

これらのアミノ酸がバランスよく含まれている食品ほど、たんぱく質生合成に好都合である。つまり、動物実験や人体実験で、体重がふえ、成長がスムーズであることが判明した。

動物性たんぱく質は、一般にこれら必須アミノ酸のバランスがすぐれており、植物性たんぱく質はバランスがよくない。

したがって「成長期の人やスポーツマン、トレーニングする者は、動物性たんぱく質を60%、植物性たんぱく質を40%の割合でとるのがよい」といわれる。

3. プロティンスコアによる判定

前述の必須アミノ酸のバランスを次のような絵で例えると理解しやすい。

〔図1〕は「アミノ酸のオケ」と呼ばれ、トリプトファンを1とすればフェニールアラニンとスレオニンが2倍、イソロイシン・リジン・含硫アミノ酸(メチオニンとシスチン・システインの合計)が3倍、ロイシンが3.4倍になる。この比率のときもっともバランスがよく、最大の効果が上げられる。

逆にこのうちのどれか一つが上記の理想的な比率より少なければ、そのアミノ酸のレベルにしか、水は貯まらない。いくら他のアミノ酸が多く含まれていても、利用されずムダになる。
〔図1〕8種類の必須アミノ酸 体のたんぱく質を構成するアミノ酸のうち8種類の必須アミノ酸だけは私たちの体内で作ることができません。だから毎日の食物から摂取しなければなりません。 また必須アミノ酸のうちどの一つが欠けてもたんぱく質を作ることができず、このことは8枚の枠板でできた「アミノ酸の桶」としてたとえられています。

〔図1〕8種類の必須アミノ酸 体のたんぱく質を構成するアミノ酸のうち8種類の必須アミノ酸だけは私たちの体内で作ることができません。だから毎日の食物から摂取しなければなりません。 また必須アミノ酸のうちどの一つが欠けてもたんぱく質を作ることができず、このことは8枚の枠板でできた「アミノ酸の桶」としてたとえられています。

この最も少ない比率のアミノ酸を「制限アミノ酸」と呼ぶ。そしてこの比率を理想状態を100として何%にあたるか計算した数字が、いわゆる「プロティンスコア」である。

「プロティンスコアとはたんぱく質の含有量だ」と誤解しやすいが、そうではなく、必須アミノ酸バランスから計算した利用率のことである。量ではなく質を示す数字である。

具体的に主な食品のプロティンスコアを〔図2〕に示す。
〔図2〕主な食品のプロティンスコア

〔図2〕主な食品のプロティンスコア

卵100、豚肉90、アジ89……というように、動物性たんぱく質は100に近いが、米78、大豆56、落花生49、小麦48、とうもろこし16……というように、植物性たんぱく質はプロティンスコアが低い。

意外なことに、しじみはプロティンスコアが100である。「肝臓病の人にしじみ汁を飲ませると回復が早い」と言い伝えられているが、科学的にも説明できることである。また卵のうち、卵白が100で卵黄は89である。卵の白味も捨てないで食べよう。

当然ながら、私たちは日常、単独に一つの食品を食べるわけではない。いろいろ混ぜあわせて食べるので、トータルしてプロティンスコアを出すことが現実には適している。

たとえば「とうふにカツオブシ」をかけて食べれば、大豆に不足しているメチオニンをカツオブシのほうで相当に補ってくれる。その結果プロティンスコアは上昇する。

また、ごはんに味噌汁という組合せも相互にリジン、トリプトファン、含硫アミノ酸をカバーしあうので、トータルすれば、当然、プロティンスコアは上昇する。

日本人の普通の食事法では、トータルしたプロティンスコアは約80となっている。

4. プロティンスコアは時代遅れ?

ところでプロティンスコアの考え方は今世紀の始め、オズボーンら栄養学者の研究によりスタートした。
〔図3〕を見ていただきたい。
〔図3〕とうもろこしたんぱく質に対するアミノ酸の補足効果(白鼠)

〔図3〕とうもろこしたんぱく質に対するアミノ酸の補足効果(白鼠)

①とうもろこしのたんぱく質(ツェイン)だけでネズミを飼育すると、体重は増えるどころか、逆に減少してしまう。

②これにトリプトファンとリジンを加えると、体重がよく増えた。

③ツェインにトリプトファンだけを加えた飼料では、体重は増えもしなければ減りもしなかった。

④この飼料にリジンを加えると体重はよく増えた。

このような詳しい実験を反復して、どのアミノ酸が必須アミノ酸か、またどんな比率が理想的か、解明されたわけである。

プロティンスコアは理想的なアミノ酸バランスを100と仮定し、これに対して食品ごとに制限アミノ酸を見いだして、その%をプロティンスコアと決めている。FAO/WHOもこれに基づいている。

市販のプロティン製品にはアミノ酸組成表がのっている。良心的なメーカーほどちゃんとした分析センターの検査結果を公表している。そして、たんぱく質100g当り、各アミノ酸が何%かを示してある。この数字からプロティンスコアが出せる。

ふつう含硫アミノ酸が制限アミノ酸になっている。理想的な数字では4.2%である。発表されているメチオニン+シスチンを合計して何%になるだろうか?

もし4.2%以上ならば、その製品のプロティンスコアは100である。それだけを単独に食べたとしても充分に体内で利用されるわけである。

もし3.9%という数字になれば、3.9÷4.2=93となるので、プロティンスコアは93である。つまり食べたうち93%は利用されるが、残り7%分はロスになる。

ロスといえば当然、突出して多い部分がすべてロスになるわけだ。プロティンスコア100といっても、それ以上に超えているアミノ酸は使われずにロスになる。(いずれも単独に食べた場合であり、ロスの部分のアミノ酸は他の食品の不足アミノ酸をカバーすることは前述のとおり。あくまでも1回の食事全体で判断することが正しい)

プロティンスコアのほかに、卵価・人乳価・アミノ酸価など、理想とする基準に何をもっていくかにより、たんぱく質の優劣を判定する方法が存在する。プロティンスコア(たんぱく価)は1957年に発表されて、現在も根づよく使われている。卵価と人乳価は1965年に示されたもので、ケミカルスコアとも呼ばれる。アミノ酸価は1973年にFAO/WHOで発表されたもので、全般に100に近づいている。

ところでプロティンスコア等の判定法は食糧不足時代に考えられた方法で時代遅れではなかろうか?

確かにアフリカ大陸や東南アジアの一部などに深刻な食糧難がある。このような人びとを救うために、「小麦粉にリジンを加えたらよい」といった処置がとられた。

いわば平均レベル以下の人を平均に近づけるための考え方だと思う。

現在の日本のように何でも選択して食べられる国では、プロティンスコアよりさらに現実的な判定法が適しているのではなかろうか?

5. 新しいたんぱく質評価法

最近アメリカの業界事情を視察に行かれた(株)健康体力研究所の川島新社長の話によると、「日本ではビルダーたちがプロティンスコアの数字を重視するが、アメリカではプロティンスコアはあまり重んじられていない。むしろプロティン・レシオ(以下に述べるPER)を宣伝や説明に使って、自分の製品はどのくらい体重をふやせるか論じあっている」というのが実状のようである。

プロティンスコアは動物実験の必要がなく、単にアミノ酸の分析結果さえわかれば計算で出せる。便利な方法であるのは事実である。

だが専門の栄養学者から見れば、たんぱく質の消化率・吸収率を考えていないので実際的でない、という意見が出され、今では次のような評価法が公表されている。

①PER(たんぱく効率)

成長期の動物に特定のたんぱく質を与えて飼育する。体重増加量を摂取した飼料の重量で割った数字がPERである。

カロリーを充分に与え、特定のたんぱく質のみで一定期間飼育する。飽食の状態では、それ以上いくらたんぱく質をとっても体重は増えず、効率が低下するときがくる。このときに上記の計算で出す。

PERは卵12、落花生9、小麦5といった数字が示されている。(たんぱく質約12.5%の飼料)

<PERの考察>

PERは簡単な動物実験ですむが、体重増加が体たんぱくの増加と比例しないことが欠点である。つまり脂肪で体重が増えているとすれば誤差が大きく、意味がなくなる。

また飼料中のたんぱく質のみが体重増になるわけではなく、たんぱく質以外の糖質や脂肪から体内でたんぱく質に変えられ、体重増をもたらす。

したがって、どの%にたんぱく質を調整すればもっとも効率がよいか、これが一つのポイントになる。

〔図4〕は「バランスのよいたんぱく質ほど少量で最大の効果をあげることを示している。また、たんぱく質はとればとるほど体重が増えるわけでなく一定のMAX(最高値)を超えるとかえって体重増加にマイナス」ということを如実に物語っている。
〔図4〕飼料中蛋白質とP.E.R.(白鼠)

〔図4〕飼料中蛋白質とP.E.R.(白鼠)

②生物価(BV)

身体を構成する細胞は時々刻々と作っては壊れている。吸収したたんぱく質のうち、体の成分にどの程度変われるかを示すのが〔図5〕の「生物価」(BV)である。
記事画像9
たんぱく質を含まない飼料を与えたときに、糞尿中に出てくるN量を補正して計算する。

生物価はたんぱく質の吸収が完全であるか不完全であるかについて考慮されていない。そのたんぱく質が最高の効率で利用されるように、体重維持に必要な最適量において、データをとることがポイントになる。

BVは卵95、カゼイン(乳たんぱく)80といった数字が示されている。
〔図5〕たんぱく質含量と生物価(白鼠)

〔図5〕たんぱく質含量と生物価(白鼠)

③たんぱく正味利用率(NPU)

NPUはたんぱく質の消化率と腸から吸収されるアミノ酸の生物価(BV)の両者を合わせた指数である。
記事画像11
つまりPERが単なる体重増加量を分子としていたのに対し、NPUは実際に吸収され、体成分として合成されたNの量を分子として計算する。

動物の場合は7日間の飼育後、解剖して、実際にNがどのくらいか測定する。人の場合は窒素平衡から間接的に計算する。

NPUは卵100、牛肉80、牛乳75、大豆56、小麦37、米57といった数字になる。

以上のほかにも、いろいろの評価法が発表されているが、専門的すぎるため省略させていただく。

6.今月のまとめ

同じ食べるなら、どんなたんぱく質が効果が大きく、かつ経済的であるかは誰でも関心を持つことである。

アミノ酸バランスから判定する「プロティンスコア」は机上の計算値にすぎないが、実際に動物実験で得られるPER・BV・NPUの数字と傾向が同じことに驚く。つまり日本で簡便的に評価手段として使っているプロティンスコアも、アメリカで使っているPERも、大きな矛盾はないと考えてよい。

卵や魚、肉などは効率のよいたんぱく源であり、植物性のものは劣っている。(けれども不足しているアミノ酸を補足すればカバーできる。それについては次回に詳しく述べたい)

最後にプロティンパウダーのような健康食品を販売される方に要望したい点がある。筆者が明治製菓にてプロティン85を発売に踏みきった際、ネズミを用いた動物実験をおこない、PERやNPUを確めた。対照として乳たんぱくのカゼインを用い、これと同等以上の体重増加作用があり、しかも解剖により、内臓・皮ふ・毛などに異常が現われないことを特に念入りに注意した。

健康食品は一つの種類を長期間にわたり毎日毎日食べつづける性質の食品である。安全性には他の食品より数倍も注意しなければならない。

ところが現実には「儲かるから自分も発売しよう」と栄養知識や食品衛生の知識がないまま、市場に参入する企業や個人が多いようだ。外国のように信頼できる機関で以上のような実験を踏んで発売しているならいいが、日本の場合は、プロティンだけでなく、どの健康食品にしろ、単に○○が効くといった宣伝だけで、きっちりした学術的裏付けがないケースが多い。

「西田式健康法」がヤリ玉に上っているが、架空の体験談に基づいているとしたら、これほど消費者をバカにした商法はない。くれぐれも学術的研究や実際の動物実験のデータをとり、安心できる健康食品を提供していただきたい。そうしないと、いつ、どこで、予想だにしなかった危険(人災)が突発するかわからない。現代はいつそれが起っても不思議でない状況にある。

買い求める側でも、質・量のことをよく考えて、効果があり、安全で、しかも経済的なたんぱく食品や健康食品を選んでいただきたい。
月刊ボディビルディング1986年3月号

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