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食事と栄養の最新トピックス26
1日70種類の食品をとろう

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月刊ボディビルディング1983年4月号
掲載日:2020.10.12
健康体力研究所 野沢秀雄

1. ミネラルも大ブームに

 ビタミンC、ビタミンEを筆頭に、ビタミンをとるブームが全国各地におこっている。デパートの贈答品売場で毎年のように売上げを伸ばしているのは「健康食品」であり、新ご三家と言われるプロティン、ビタミンC、ビタミンEの躍進ぶりは新聞・テレビ・週刊誌で続々とりあげられるほどだ。
 日本が手本にしているアメリカでは2~3年前から「ビタミンばかりでなく、ミネラル不足も問題だ」と言われミネラルも大ブームになっている。ドラッグストアばかりでなく、スーパーにも、ミネラル剤が何十種類・何百種類と陳列されている。
 筆者の手元には、茶色の小瓶に入った「亜鉛剤」「マグネシウム剤」「ヨード剤」などが集められている。輸入業者が「日本でも発売したらきっと売れる」と注文したが、厚生省では「ミネラルの錠剤は薬事法にられるのでダメ」と通関を承認していない。
 ミネラルが盛んになった背景には、毛髪分析といって、髪の毛を2~3cm切りとって、特殊な方法でその中に含まれるミネラルを微量分析する技術開発と、そのデータを解読する技術が高まったことが挙げられる。
 ご存知のように、毛髪は1ヵ月に約1.5~2cmも伸びる。古い髪の毛にかわって常に新しく入れ替っているので毛髪分析をすれば、日ごろの栄養状態や健康状態がひじょうに良くわかる。若いのに毛が白くなったり、ハゲてしまったり、赤毛に変ったりする場合があるが、原因の多くは食事法にあるといわれている。
 また、病気の前兆を毛髪分析で知ることができる。心臓病・糖尿病・腎臓病・通風・ガンなどは、ミネラルの分布状態が微妙に変化することから、早期発見・早期治療も可能といわれている。

2. ミネラルの作用リスト

 今までは、5大栄養素のうち、たんぱく質・脂肪・糖質に主眼がおかれ、これらの多少や、カロリーの適性摂取量が問題にされてきた。やっとビタミンに目が向けられ、つづいて、ミネラルという100種類以上存在する元素と、そのバランスが注目されようとしている。ミネラルのうち、骨や歯を作るカルシウムや、血液をつくる鉄、血圧に「関係するナトリウム、野菜に多いカリウムくらいは、誰でも常識として頭に浮んでこよう。
 だが、「バナジウムが不足すると貧血になる」「セレニウムが不足すると筋肉が弱くなる」「クロームの不足で糖尿病がおこる」などと言われても、すぐには理解しにくい。
 そこで、現在までに知られている主要なミネラルとその作用・含有量の多い食品を一覧表に示そう。リスト作成にあたり、毛髪分析の権威、今井良次氏の講演や著書、「常用食品栄養ガイド」などを参考にさせていただいた。

<表1>主要ミネラルの作用と人体に与える影響、ならびに摂り方
記事画像1
 この表には15種の有益なミネラルを紹介したが、このほかに超微量ながらリチウム、ヒ素、フッ素、イオウなどが人体に必要といわれる。有益なミネラルでも過剰になると、害作用をすることはいうまでもない。とりすぎが怖いので、筆者らは「ミネラル剤」を使用することは全くすすめない。
「害はあっても利はない」といわれるのが鉛、水銀、カドニウム、アルミニウムなどで、精神異常、呼吸困難、全身の疼痛、手足のまひ、胃腸障害等のトラブルをおこす。
 特に日常生活でアルミ鍋を使ったりアルミ箔を用いることが多いので、調理するときは、アルミよりなるべくホーロー製品を使うほうが安心である。

3. ミネラルを上手にとる方法

 ミネラルが健康づくりに重要なことはわかったが、読者のみなさんはどう感じるだろうか?
 大部分の人たちは「やっとタンパク質の大切さやカロリーの知識が頭に入ったところなので、ビタミンの細かいことやミネラルにまで、とうてい気が廻らない」というのが実状ではなかろうか?「食事法にこんなに神経質にならなければならないとは……。心身症やノイローゼになりそう。ほとんどビョーキ」と思う人もいるだろう。
 考えてみれば、人類は猿の時代からむずかしい理屈を考えたりせず、自然に食べ物を食べて生命を維持してきたわけだ。20世紀の終りになって、急に食事のとり方に神経過敏になるのはおかしいといえばおかしい。
「ふつうの食事をしていればミネラル不足の心配はない」と以前から筆者は考えてきた。本誌増刊号「体力づくりの食事法」などにも述べてきた通りである。
 ところが「ふつうの食事をすればいい」という簡単なことが、意外に実行されず、異常な食事法をする人たちが急増している。とくにボディビルダーのトップクラスにも、偏りすぎた食事法をしている人がおり、気になってならない。
 一般人の場合から述べると、毎日毎日、パターンが決っていて「同じ食品しか食べていない」という人がいる。
「朝はパンに卵・牛乳・コーヒー、昼はそばか、うなどん、夜は外食でサバの定食やすき焼き、カレーライスなど。間食にハンバーガー、インスタントラーメン、ドーナッツなど」というケースである。ひどい場合、1日2食で、ラーメンばかりという学生もいる。
 食品工業が20世紀に入ってから急激に発展して、自然の食品から、一定成分だけとりだしたり、精製・漂白したり、食品添加物を多用したり、さまざまな加工を施してきた。その結果、「食べたい時に好きな食事をとる」と「いう、人間本来の食事法をすると、知らず知らずのうちに必要な成分が欠けてしまったり、逆に不必要な添加物が体の中に入りこんだりして、体が異常になってしまう。
 実際に、今井良次氏が病院に診察に来た患者さんの食事分析をおこなったところ、「病気になる人は食事の材料になる食品数が30以下とひじょうに少ない。あるガンになった人は1日に平均15種類しか食べていなかった」と述べておられる。
 食品成分表には、約千種類の食品がのっている。このうち1日に食べる種類は平均して50~70種くらいである。
 料理しだいで、材料の種類が多いと、当然、食品の数は増える。逆に、材料が少ない料理は食品数も少ない。
 たとえば、うなどんは、①ごはん②うなぎ③たれ④さんしょう粉末と、4種類しかない。
きつねうどんは①うどん②油あげ③だしつゆと3種類しかない。
インスタントラーメンに卵を落しても①ラーメン②卵③具のネギの調味料と4種類あまりしかない。
 
逆に五目そばにすれば①ラーメン②ハム③焼き豚④たけのこ⑤しいたけ⑥いか⑦小松菜⑧白菜⑨にんじん⑩卵⑪ラード⑫片くり粉⑬調味料と、一度に13種類もの食品をとることができる。

4. 1日70種をとる食事法

 昔から日本料理は「量は少なくても皿数を多く並べ、いろいろの種類をとる」という点に特長があった。作る側には手数がかかったり、ムダな部分もあるが、食べる側には、季節に応じた魚や野菜を種類多く食べられて、視覚的にも、味覚的にも、健康上からも、ひじょうに役立っていた。
 いっぽう、アメリカ流のファーストフードは、ハンバーガーにポテトフライ、コーラといった簡単な内容で、1年365日、飽きもせずに同じメニューを食べて満足している人が多いといわれる。「これでは危ない。日本食を見直せ」と、スシのチェーン店が盛んになっているが、スシひとつ見ても、タネの種類が豊富で、食品数を多くとることに貢献している。
 食生活の合理化・西洋化を考えすぎて、日本の若い人たちは、簡素な食品に偏りがちである。自分の毎日を振りかえり、反省してみよう。
 ところで、体づくりを目的としているビルダーの場合「〇〇食品がいい」と決めたら、そればかり多食しがちである。「ある有名選手がサバの缶詰を食べているから自分も」と、毎日のようにサバの缶詰を食べたり、「ラリースコットは卵の白味しか食べない」と聞いて、かんじんの栄養豊富な黄味を捨ててしまっているビルダーがいる。
 さらに驚くことは「自分はプロティンの徳用1.2g入りを1週間で使いきっている」という人が結構いることだ。有名一流選手が実行しているから、という理由で、コンテスト前でもない、冬のシーズンオフにもプロティンを主食がわりにしている。これは本末転倒といわねばならない。プロティンやビタミンC、E、レバーなどは、サプリメントフーズ(栄養補助食品)といわれ、あくまでも、1日3食の食事が基礎でなければならない。
 つまり、朝食・昼食・夕食が前提であり、それでも栄養素が不足するときに、効率よく補給する目的で開発され、販売されているのが栄養補助剤である。読んで字のごとく、あくまでも補助である。せいぜい、コンテスト前に、食事制限をする際、栄養素が不足するので、やや多くとるのが納得できる使い方といえよう。
 特定の食品を長期間、集中して用いる場合は、「危険性の分散」ということを頭に入れたほうが良い。ある食品に、有害ミネラルや安全性が心配される食品添加物が入っていたとわかったとき、そればかり集中して多く食べてきた人は、後でどんな危険が出てくるか、現時点では判断できない。なるべく危険と思われる食品は使わない方がいいが、使う場合も、常識的な範囲で使用量使用方法を守ることが大切といえる。
「それでは前号に述べた。週に4回イワシを食べる食事法は心配ないのか?」と質問する人があるだろう。確かに近海魚で、PCB汚染が心配される内臓ごと連続して食べることに危険を感じる人もいる。だが、著者のBフランク氏は「週に4日くらいの頻度ならOK」と、胸を張ってすすめている。核酸と、多種類のミネラルをとれるので、有害の心配より、食べないで栄養が悪くなる心配をしているわけだ。
 スポーツフーズを含む健康食品は、毎日、長期間にわたり、その製品を一定量使用しつづけるという性質上、内容成分を確かめて、偏りすぎない注意をしよう。用いる材料が多いほどいいので、クロレラだけの製品より、ケルプ(海藻)やアルファルファ、コンフリー、麦芽など複合している製品が有利である。カルシウムやレバー、またビタミンCやビタミンEなど、最近は市販されている種類が多いが、なるべく素材のバラエティに富んだ製品が好ましい。
 自然食品愛用者が急増しているが、加工されすぎた食品より、新鮮な食品を丸ごと、自分で調理して食べると|いう姿勢は共感できる。めんどうだが買物の際にも、ドカッとまとめて1種類の野菜や果物を買うのでなく、少量ずつ種類を多く買い求めて、1日に70種以上、食品を食べるように心がけよう。
 また、外食で「何を食べようか?」とメニューを選ぶときも、五目ラーメンやシチュウ、寄せ鍋、八宝飯、スパゲティ、ちらしずしなど、食品材料の多いメニューにしよう。
 意外にも、ちょっとした心がけで、食べる種類はすぐに増やせる。健康体力研究所では、毎日コース別に多くの人びとの食事分析をおこなっている。体格が悪く、病気がちの人は食事内容が粗末であるのに対し、体力づくりに成功している人たちは、食事内容が充実し、種類も多くとっている。
 1日に70種類もの食品をとることはたいへんだと思うかも知れないが、エ夫次第で、それほど困難なことではない。
 結論として、ビタミンやミネラルの微量成分は、一つ一つの成分に神経質にならなくても、食品材料数をふやしメニューに変化を持たせて生活すればまず安心といえる。自分の1日のメニューをメモに書きだし、何種類の材料が使われているか数えてみよう。1日に70種以上なら合格で、それ以下なら増やすように努力しよう。それが健康づくりの成功への道である。
月刊ボディビルディング1983年4月号

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