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食事と栄養の最新トピックス65
中・上級者のための食事法<11>
グルコース・ローディングについて

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月刊ボディビルディング1986年6月号
掲載日:2022.01.19
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1・グリコーゲンの役割

ようやく最近になって、ボディビルの一流選手の間でも、炭水化物(糖質と繊維)の重要性が認識されだした。
あるトップビルダーは「筋肉はたんぱく質が主成分ではあるが、それだけでなく筋肉に含まれるグリコーゲンも大切な役割を果す。だから食事法にはデリケートな配慮をおこなっている」と語っている。
前回述べたように、個人差はあるが筋肉の成分はおよそ次のとおりと考えられる。
〈表1:筋肉成分分析例>

〈表1:筋肉成分分析例>

タイプAはスポーツ選手なら器械体操、マラソン選手、 レスリング軽・中量級などの男子選手(10代後半~20代前半)、それにボディビルダーでコンテスト出場時の状況が該当する。外観上、脂肪はほとんど無いようにみえ、腹部の皮下脂肪厚は5ミリ以下である。
タイプBはバスケットボール、バレーボールなど広く一般的なスポーツ選手が該当する。ボディビルやレスリング選手で、減量しない時はこのような状況と考えてよい。筋肉間にやや脂肪がみられる。

タイプCは、あまり運動をしない普通の人や、スポーツを実行している女性が該当する。やや肥満タイプで、腹部の皮下脂肪厚は10~20ミリ前後である。霜降り肉のように、筋肉間に脂肪がまざり出している。
タイプDは、肥満タイプの男性や一般の女性に多く、相当に脂肪が多い。腹部の皮下脂肪は30ミリ以上である。サーロインステーキ状に、かなり筋肉内に脂肪が入り込んでいる。
この4タイプを平均して、前号のような数字になるわけだが、糖質の成分は大部分がグリコーゲンである。
トレーニングなどに使われるエネルギーは次の順序でまかなわれる。

①血液中のぶどう糖

②肝臓や筋肉中のグリコーゲン

③体内に貯えられた脂肪

――厳密にいえば、それぞれ細かい補給経路があり、たんぱく質や脂肪からぶどう糖が生成されたり、筋肉内に発生する乳酸が再利用されエネルギーに変ることは既述のとおりである。
わずか0.2~0.7%しか含まれないが、筋肉内のグリコーゲンはスタミナ源として重要な役割を果す。

2グリコーゲンを増減させる

赤筋(遅筋)と白筋(速筋)によって、すなわちスポーツの種目によって主にどの栄養素が大切な役割を果たすか、近年の研究により徐々に明らかになっている。
前号で紹介した「スポーツの栄養・食事学」(鈴木正成著、同文書院)では、「100~400mのダッシュとか、短距離の水泳、 ウェイトリフティングなど、短時間に集中的に運動が行なわれるような激しい運動の場合、ブドウ糖やグリコーゲンがエネルギー源として中心的に使われる。
ジョギングやマラソンのように、長時間続けられるような持久性のスポーツの場合には、脂肪がエネルギー源として積極的に使われる」と述べられている。

けれども、共通して筋肉中に蓄積されるグリコーゲン量が多ければ多いほどスタミナが高いという事実がある。
上記の書物に、モーガンとプールが行なった有名な「グルコース・ローディング実験」の結果が次のように引用されている。

①普通食(2910kcal/日、炭水化物比42.5%)、 ②低炭水化物食(4150kcal/日・炭水化物比2.6%)、 ③高炭水化物食(2290kcal/日、炭水化物比84.2%)を順にとらせて、全力自転車こぎをさせ、疲労困ぱいするまでの時間を測定した。
下表はスタミナテストの結果で、数字は運動持続時間(単位は發)を示している。
記事画像2
すなわち、高たんぱく・高脂肪の低炭水化物食ではバテるのが早い。高炭水化物食にして、筋肉内の貯蔵グリコーゲン量を高めるほど、 スタミナが続くわけである。
この結果に基づいて、 スポーツ選手たちは意識的に筋肉内グリコーゲン量を高める方法を研究しはじめた。

①試合の1週間くらい前に、疲労困ぱいするまでトレーニングをして(1日に2回、全身の運動種目を行う)、全身の筋肉と肝臓のグリコーゲンをできる限り使いきる。

②そのあと3日間、わざと炭水化物がほとんど含まれない高脂肪、高たんぱく食を食べ続ける。

③次の3日間は高炭水化物の食事をとりつづける。
――この方法により、肝臓のグリコーゲン量は2倍も超回復するといわれている。
ちょうど、飢餓状態にしたあとは、食べた栄養素が一挙にドッと脂肪に変わる状況に似ているわけだ。
実際にマラソンや駅伝などの選手にこのグリコーゲンローディング法が採用されている。

3・グルコース・ローディング具体例

アメリカやヨーロッパのマラソンランナーは、 レース前夜にスパゲティやパスタなどのでんぷんを多く食べるといわれ、 日本選手の場合は、ごはん・うどん・ジャガイモ・和菓子などが適すると考えられている。
この応用例として、前述の鈴木正成氏の著書では、

①高校野球の早朝第1試合の場合。

起床4時半、朝食5時半~ 6時。でんぷん質としてジャガイモ、カロリーメイト、シチュウ、紅茶、 コーヒー、オレンジジュース、総合ビタミン剤。

②午前中は試合がなく、午後に試合のある場合。

朝食にごはん・パン・うどん・そば・イモのいずれかを主食にし、食後にデザートとして甘いジュースやケーキをとる。カロリーメイトなどもよい。

③午前中にも試合、午後にも試合あるの場合。あるいは1日に何回も試合のある場合。(前者はボート競技、後者はカラテの試合などによくある)

㋑試合後に、糖分とクエン酸をとっておくと回復が早い。オレンジジュースやグレープフルーツジュースも効果が高い。

㋺高炭水化物の朝食・昼食が回復を早める。じゃがいも、 さつまいもなどのイモ類がもっともよく、ごはん・パン・うどん・そばがこれに次ぐ。
また、デキストリン(でんぷんの加水分解物)が主成分のポリコース(アメリカアボット社製品)、 カロリーメイトが回復力が大きい。

④競技中にグリコーゲンを緊急補給する場合。

果糖とアルギニン(アミノ酸の1種)、クエン酸を組み合わせた栄養処方が有効。

⑤マラソンのラストスパートを成功させたい場合。

後半すぎの勝負所でオレンジジュースのように糖分を含む飲み物をとると、 10分もたたないうちに、筋肉をはじめ全身のエネルギー代謝が改善される。(前半は乳酸発生を最少にするため、脂肪がエネルギー源になっていることが大切な前提)――と、説明されている。
ボディビルディングの場合にも、 日常のトレーニングで簡単にバテては本来の筋肉養成に役立たない。強いスタミナを備えることはビルダーとして成功するための重要な条件である。不適切な食事法を長期にわたり続けているため、バテやすい体質になってしまっている場合がある。

とくに減量する場合、極端な低炭水化物食になりやすい。筆者が過去に食事分析を行なった30例について統計をとると、炭水化物の比率は32%が平均で、極端な場合は5%とか、13%の例もみられた。
これらはトレーニング上、マイナスになることが容易にわかるだろう。この点については別にくわしく述べることとする。

4・ボディビルコンテストへの応用

グリコーゲンは筋肉のバルクを増加させる効果はないが、バテずにトレーニングを続けるスタミナ源として重要である。
コンテスト直前のコンディションづくりに関して、以前に本誌に述べたことがある。また、 ミスターカナダコンテストで日本人として活躍している河内山和夫選手が講演してくれた内容を「健康体力ニュース」にのせたことがある。
また、何人かのコンテストビルダーには個人的にアドバイスし、実行し、喜ばれた経験がある。

これらのメインポイントは先のグルコース・ローディング法と共通する点が多い。すなわち、
①減量時にも極端なレベルまでは炭水化物(糖質)を減らさない。

②コンテスト1週間前くらいからは、炭水化物も減らす。

③3日前から糖質もなるべくカットしておく。

④前夜は炭水化物の多い食事にする。

⑤大会当日の朝も炭水化物をふやした食事にする。

以上の方法により、バテずに試合にのぞむことができ、パンプアップも充分におこる。
――逆によくある現象だが、「〇〇選手は大会の舞台上ではゲッソリしていて生気がなく、筋肉に張りがなかった。ところが1週間後のゲストポーズで見ると、筋肉が急に大きくなり、それでいてカットも失なわれていない」ということがしばしばある。

コンテストが終わってホッとして、ごはんやケーキ、アイスクリームなど、永らく食べていなかった糖質を急にドッと食べたためである。
何のことはない。グルコース・ローディングを知らず知らずにタイミングをはずして実行していたことになる。

この実例のように、タイミングをうまく考え、試合の当日にピークを持ってくるように周到な計画が必要だ。
なお、炭水化物のとり方だけでなく実は水分のとり方も「ピーキング」にはひじょうに重要な役割を果たす。
選手によっては利尿剤を用いる例さえ多いようだ。これには当然問題があり、議論の余地が多い。この点についても今後述べる予定にしている。

5・糖質の比率をうまくする方法

低開発国ほど、米・麦・ひえ・あわ等の穀類を主食にするため、炭水化物の占める比率は高い。
わが国でも別表のように、経済が低成長の時代は炭水化物の比率が高く、最近のように恵まれた状態になって、次第に低くなってきている。
<表2>カロリー摂取量とその内容   スポーツ選手に理想とされる三大栄養素の比率は、炭水化物:脂肪:たんぱく質が4 : 1 : 1といわれる。%になおすと66% : 17% : 17%となる(いずれも重量比)、ボディビルダーの場合、ふつう時は47% : 19% : 34%、減量時は32% : 20%:48%となっていて、いずれも炭水化物は大幅に不足し、たんぱく質が多すぎるのが実状である。 [図参照]

<表2>カロリー摂取量とその内容 スポーツ選手に理想とされる三大栄養素の比率は、炭水化物:脂肪:たんぱく質が4 : 1 : 1といわれる。%になおすと66% : 17% : 17%となる(いずれも重量比)、ボディビルダーの場合、ふつう時は47% : 19% : 34%、減量時は32% : 20%:48%となっていて、いずれも炭水化物は大幅に不足し、たんぱく質が多すぎるのが実状である。 [図参照]

記事画像4
今まで何回か重ねて述べてきたように、 トレーニングのエネルギー源として、炭水化物(糖質)が体にもっとも有効である。今までボディビルダーは「脂肪がつく」という心配のあまり、避けすぎてきた。
炭水化物の中でも、エネルギーに変るのにそれぞれ特徴がある。

①単糖類や二糖類(ぶどう糖・果糖・砂糖・ハチミツ・水あめ等)はエネルギーに変るのが早く、疲労回復に速効性があるが腹もちはよくない。

②これに対して、ごはん・ソバ・うどん・パン等は消化吸収にやや時間がかかるが腹もちはよい。徐々にエネルギーに変るので持続力がある。

③ジャガイモやさつまいも、やまいものようなイモ類は消化性にすぐれ、せんいも多い。1日に1回とるくらいの心がけでよい。特に今の秊節は新ジャガが安くて豊富である。
ポテトサラダやベークドポテト (蒸してオーブンにかけ、バターを乗せて食べる。北海道産のジャガイモは最高にオイシイ)、肉ジャガなど料理法は多い。
フライドポテトはカロリーが高くなりすぎるので、アメリカでもボディピルダーにはすすめられていない。ポテトチップも同様にカロリーが多くなりすぎる点や、油が酸化する心配があり、それほどはすすめられない。

④枝豆やインゲン、 ソラマメなどの豆類もビタミンやたんぱく質が同時にとれ、せんいが多いことでも見逃がせない。豆類も1日1回、ぜひメニューに加えたい。

⑤オレンジジュースやグレープフルーツジュースは「チャンピオンのジュース」といわれるほど、スタミナに良い成分を持っている。なるべく100%天然ジュースを選びたい。
牛乳と並んで冷蔵庫に常時おきたい飲物である。もちろん、野菜ジュースやトマトジュースも結構である。
――以上のような大まかな基礎をふまえて、1日のメニューを次の順序で決めてみよう。

①朝食はトースト2枚を基本にし、バターロールやクロワッサン、アンパン、ジャムパン、ハンバーガーなどを好みに応じ、その日ごとに入れかえる。

②昼食は弁当または外食だが、ごはんは残さずに必ず1人前は食べる。

③夕食はごはんを茶わん2杯~3杯食べて構わない。メニューの中に、イモ類または豆類を必ず加えておく。納豆やとうふでも構わない。

④間食にプロテインドリンク以外に、体重をふやしたい人はラーメンやうどんなどの麺類を卵と共に食べる。もちろん、オレンジジュースやグレープフルーツジュースはのどのかわきに応じて適宜のむ。
疲労回復にチョコレートやアイスクリーム・キャンディ・和菓子・洋菓子をとることも許される。量はとリすぎないこと。
――このように今までタブー視したり、食べることを遠慮していた糖質を、 とくにトレーニングした日には心配しないで少量ずつ食べてよい。次回は「減量と糖質」「糖質とりすぎの害」などについて説明する予定である。
月刊ボディビルディング1986年6月号

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