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食事と栄養の最新トピックス66 中・上級者のための食事法<12> 減量と糖質

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月刊ボディビルディング
掲載日:2022.02.06
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1.コンテストの問題点

全国各地のコンテストは年ごとに参加者が増加している。コンテストの数自体も増加しており、喜ばしいことである。「日ごろ努力して鍛えた筋肉を評価してもらう」というチャンスであり、また観衆にスポーツとしての面白さを普及させるチャンスでもある。
コンテストによってボディビル人口が増えてゆけばジムの数も増えてゆける。今年度のミスター東京では、「ジュニアの部」(23歳以下)の出場者が70名を上廻るという盛況である。若い人たちでニューパワーが台頭し、新しい大型ビルダーに成長してゆく。われわれOBが期待し、楽しみな点である。

ところで、最近の上位入賞者の傾向として、体に無理と思われる減量の結果を「すごい!よくここまでやった」と高く評価しすぎていないか?当然コンテストに出場を決意した者は、余分な脂肪をカットしようとして減量をおこなう。
私はセミナーなどでよく雪に例えて話をする。「せっかく筋肉を鍛えて大きくしたのに、余分な皮下脂肪が付いていると、地表をおおっている雪のようで、ディフィニションは得られない。雪カキをして、いったん積った雪を除くことが必要だ」と……。

確かにそうなのだが、「単に食べる量を制限すればいい」「とくに糖質は太る原因なので徹底的に除く」「その代りたんぱく質は筋肉の材料なので、こればかり食べる」「水分までとらないようにする」「利尿剤まで使用する」……というように、現実には常識を超えたひどい方法が行われがちではないだろうか?
そして「徹底的に脂肪を除いて、まるでミイラのような筋肉せんいばかりの身体に高い評点をつけがち」というのが、日本もアメリカなども共通の傾向のようである。

このような身体にまで仕上げた努力はわかる。本当に良くがんばったし、無理に無理をしないと、こんな状態になれない。だがそうかといって、肝心の筋肉の発達度を二の次にして、単に脂肪を除いた筋肉のディフィニションのみを第一の美点として評価することはどうだろうか?
無理な減量の結果、筋肉までサイズが小さくなり、異常な状態の人が上位に決まる。この風潮が続くなら、コンテストのために体がおかしくなり、病気になり、再起できないビルダーが続出するだろう。現にそういった例を聞いている。
これではボディビルのイメージが、かえってマイナスである。あくまでも「健康を絵に描いたような筋肉の発達度」を第一に評価しなければと思う。いかがであろうか?

2.無理な減量の原因

ボディビルの努力の方向は、あくまでも立派な筋肉づくりを第一とし、コンテストを目指した無理な脂肪のカットは第二でありたい。といっても程度の問題なので、当然、ある程度は調整して出場することは必要である。
どこからどこまでが無理でなく、それ以上は無理で非常識なのか、これは各自でよく考えねばならない。脂肪が多い体質の人は大幅な減食が必要であるが、これとて短期間にムリをするのでなく、日ごろから太りすぎないようセルフコントロールをしておけば楽である。

水分をカットしたり、利尿剤を用いる方法については問題点が大きいので別の機会に述べることにする。ここでは共通的に誤って実行されている「減量時の食事内容」にポイントをしぼって述べたい。
本誌に連載中の「一流選手のコンテスト前の食事作戦」がもっとも具体的で参考になるところが大きい。昔ほどではないが、炭水化物をカットしすぎている例はまだまだ多い。
記事画像1
――例にあげた選手の方には、その都度アドバイスをして、なるべく極端に走らないように注意している。この3例を表にすると次のようになる。
<表1>極端に糖質が少ない減量食

<表1>極端に糖質が少ない減量食

3.たんぱく質節約作用

<図1>たんぱく質節約作用

<図1>たんぱく質節約作用

炭水化物、とくに糖質の役割について2回にわたり述べたように、エネルギー源として価値が大きい。
一方たんぱく質は筋肉を始めとする体の構成材料として、価値が大きい。それぞれ役割が別なので、両方とも適切な量を取ることが重要になる。
<図1>は「たんぱく質節約作用」といわれる有名な実験結果である。芦田淳著「栄養学概論」にのっている説明文を引用してみよう。たんぱく質は体たんぱく質の合成。すなわち体をつくるために使われる一方、エネルギーにも用いられる。

すなわち、たんぱく質には2つの用途があるわけである。ところがカロリーが不足する場合にはたんぱく質は優先的にカロリー補給に用いられ、体たんぱく質の合成には用いられない。つまり体にとっては必要なカロリーを満たすことが急務のようである。
白ネズミに、いずれも体重維持に必要なたんぱく質は含むが、カロリーが必要量の100%、50%、25%を含む3種の飼料を与え、チッ素出納を調べた結果がこの図である。(注:カロリーの50%くらいのところが、減量時に近いと考えられる)

この図を説明すると、最右端のように必要カロリーが十分ある場合には、チッ素出納は負にならない。この場合たんぱく質は必要量を与えられたのだから、体たんぱく質の分解を補うのに使われていることが理解される。
ところが摂取カロリーが減少すると同量のたんぱく質を摂取したにもかかわらず、チッ素出納が負になることは摂取したたんぱく質が体たんぱく質の合成には使われず、エネルギーに使われたことを示している。

さらにカロリー摂取量が減るとエネルギーに使われるたんぱく質の量が、さらに増加する。このようにたんぱく質はカロリーが不足するときには優先的にその方に使用される。
このことを逆にいえば、カロリーが不足する状態でカロリーを添加するとたんぱく質が体たんぱく質の合成に使用される量が増加してゆくことを意味する。
したがって、炭水化物も脂肪もカロリー源であるため、このような作用を有し、これをたんぱく質節約作用(プ口ティン・スペアリング・アクション)と呼んでいる。

4.あるレベルまで糖質をふやせ

たんぱく質が本来の筋肉合成作用をするには、一定量の糖質や脂肪をとったほうが得である。毎日のトレーニングで消費するエネルギー量は糖質や脂肪でとらないと、高価なたんぱく質がエネルギー源になって消費されてしまう。
特に減量時には全体のカロリー量が少なくなるので、たんぱく質本来の役割をさせるために、一定量のゴハンやパン、麺類をとるぺきである。

では具体的にどの程度をとれば良いだろうか?1日のトレーニングや日常活動に使用するカロリー数は、個人差があるが少なく見積って減量時でも1500カロリー程度が必要と考えられる。もちろんトレーニングの程度、その人の仕事、体の大きさ等々によっても異なる。
女性ビルダーの場合は1200カロリーを一応妥当な数字としてあげておきたい。この1500カロリーのうち、最低限度体重1kg当り1gのたんぱく質をとって、筋肉の維持をはかることを考えよう。
また、脂肪も全てカットするのでなく一定量は摂取するほうがスタミナの維持や空腹感を満たす作用がある。神経質になり、鳥肉をボイルするような作業はしなくてよい。

つまり、1500カロリー程度の範囲ならば、食べた脂肪が体内に蓄積される心配はない、「減量するとき、たんぱくはカットせず、糖質・脂肪のみを極端にカットする」という方法は昔の考え方で、現在は「どの栄養素もバランスよくカットし、バランスよく摂取しておくべきだ」といえるのである。
具体的なバランスとして、関東地区ボディビル連盟の指導者講習会では、次のようなモデル例を提示した。
<表2>減量時の理想的なバランス

<表2>減量時の理想的なバランス

150~180gまでは糖質を食べられるとすれば、減量も相当に楽になる。ごはん1杯130gとして、この中に含まれる糖質は約40gである。だからごはんを朝食・昼食・夕食に1杯ずつ食べても構わない。
野菜や果物などから、残りの糖質をとればバランスは充分よくなるわけだ。

5.無理せず、成功するビルダー

今まで炭水化物に対して不当なほど誤解しているビルダーが多い。「減量時にはごはん、めんなど、炭水化物は一切摂りません」という人を何人も知っている。
以前には「野菜にも少量とはいえ、炭水化物を含んでいるので食べない」という一流選手がいた。彼の影響で何人もの人が野菜や果物を長い間、口にしなかった。

マイク・メンツァーが来日したとき「減量時でも、カロリーの範囲内ならアイスクリームでもケーキでも食べてかまわない」と発言したが、さすが科学的ボディビルダーらしい。
また、以前に本誌に食事法を公開してくれた粟井選手、松原選手、井口選手などは、ふだんも減量中も、決して無茶に糖質をカットしたりしない。
<例1>栗井選手の減量食

<例1>栗井選手の減量食

朝食・・・・・
ごはん1~2杯、ハムエッグ(卵2~4個)、野菜、コーヒー(砂糖はいれない)

昼食・・・・・
プロテインタブレット、ジャームオイル、ビタミンC、カルシウム、果物

夕飯・・・・・
ごはん1杯、野菜サラダ、肉類、果物(主にリンゴ)

間食・・・・・
プロテイン大さじ4~5杯を牛乳2本で溶かしたもの、ジャームオイル、ビタミンC、カルシウム
<例2>松原選手の減量食

<例2>松原選手の減量食

朝食・・・・・
ごはん1杯(150g)、鳥肉(ササ身50g)、野菜50g、トマト半分100g、リンゴ半分80g、納豆半分50g、もずく80g、焼魚(さんま1尾またはサバ一切れ)100g。水200㏄にプロティン15gを溶かす。

昼食・・・・・
朝食とほとんど同じ

夕食・・・・・
鳥肉ささみ50g、野菜50g、トマト50g、レモン1個、もずく80g。

間食・・・・・
水250㏄にプロティン30gを溶かす、ときどき食パン半分。
<例3>井口選手の減量食

<例3>井口選手の減量食

朝食・・・・・
ごはん1杯、納豆80g、みそ汁1杯、しらす干し、ゴマ、漬物

昼食・・・・・
おにぎり2個、ゆで卵1個、プロティンパウダー。

夕食・・・・・
ごはん1杯、副食は肉、魚、卵などの中から1~2品アレンジ、野菜は多く、果物はなし。

間食・・・・・
おにぎり2個、プロティンパウダー。
<表3>糖質が適量の3選手の減量食の例

<表3>糖質が適量の3選手の減量食の例

これらの例のように、減量中の期間でも、ごはん類やパン類をしっかり食べて成功する選手たちが増えてきている。朝生選手、石井選手、小沼選手、それに北村選手など、ミスターユニバース選抜コンテストに出場した選手たちも、大勢としては「糖質の役割を認め以前より重視している」という点はまちがいない。
以前に述べたように、適量の糖質をとらないと、パンプアップは十分におこらない。ブドウ糖→乳酸、ピルビン酸などにより、筋肉たんぱくと反応する変性現象なのだから、当然のことである。

「糖質をカットしていたのを、今年から作戦を変え、適量ずつ食べるようにしたら、非常に楽にトレーニングでき、しかも体調は以前よりもずっと良くなった」と感謝する選手たちが多くなっている。まことに喜ばしい。
私の見るところ、上記の選手の例でまだ「たんぱく質がやや多すぎ、炭水化物が少なすぎる」と判断され、もう少し、ごはん、めん、パン等を増して良い。

特にコンテスト直前には前月号の記事のように糖質を増すことにチャレンジしてみよう。最後に、「糖質はいくら食べても害はない」という意味を述べているわけではない。カロリーが必要量を上廻っているとき、糖質は脂肪に変化するのは事実である。
また、「昔のような日本型の食事法がよい」と言っているわけでもない。ごはんの大食は塩分過多になりやすく高血圧の原因になる。あくまでもビルダーの健康を考え、適切なバランスを考慮しなおすようにアドバイスしているわけである。

6.補足(減量期間について)

1日1500カロリー、たんぱく質70gという少ない栄養状態で、長期間にわたりハードトレーニングを実行することは無理であり、危険である。前記の数字は1週間、もしくは2週以内で、一時的に「体の大そうじ」「たまった雪かき」をするときの栄養指標である。
1回の減量で体重の5%程度ならそれほど無理なく脂肪をとることができる。その人の体脂肪量にもよるが70kgの人なら3.5kg、80kgなら4kg程度である。それでもなお脂肪が多い人は、1ヵ月くらいの期間をあけて、再び減量するのがよい。

ではどのレベルまで脂肪を落としたらよいか、これには個人差があるが、皮下脂肪厚5ミリになればディフィニッションは相当によくなる。4ミリ以下、3ミリ以下になっても「まだまだ良くなる!」と制限なく減量をすることは、かえって外観上も、健康上もマイナスだ。
身長に応じて骨格の太さが大体決まるが、適正体重(もちろんビルダーとしての)は(身長-100)×1.0~1.1の範囲に大体の選手は該当する。170㎝の人なら70~77kg、180㎝の人なら80~88kgである。

この範囲のうち、どの体重にするかは、最終的には「皮下脂肪厚5ミリ」というレベルを目安にすれば良いと考えられる。以前にミスター日本コンテストの会場で、ポージング直後に皮下脂肪厚を測定した結果によると、「3.5ミリや4.0ミリといったビルダーの場合、筋肉まで相当に落ちていた」と判断される。
最後の調整が勝負を決める大きなポイントであるが、無理な減量食を試合直前まで長々と続けるような誤ちはしないでほしい。
月刊ボディビルディング1986年9月号

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