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食事と栄養の最新トピックス 64

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月刊ボディビルディング1986年7月号
掲載日:2021.12.28

中・上級者のための食事法<10>
炭水化物のとり方

ヘルスインストラクター 野沢 秀雄
 前号まで9回にわたり、「たんぱく質のとり方」について述べてきた。たんぱく質は筋肉づくりに欠かせない重要な栄養素である。計画的なウェイトトレーニングとたんぱく質の適切なとり方により、相乗的に筋肉の発達が期待されることは事実である。
 たんぱく質およびたんぱく質を構成するアミノ酸について、まだまだ説明したい点が多い。たんぱく質単独ではなく、ビタミンB6などビタミンのとり方も重要である。
 たんぱく質をとりすぎた際の有害についても状況は安心していられない。「足の親指の付け根がひどい痛さで、歩行できなくなった。病院で検査を受けたところ、たんぱく質のとりすぎで痛風になってしまっていた」と、相談の手紙をいただいている。こんな例は意外に多いと思われる。
また、アミノ酸に関連する物質のL-DOPAが海外のビルダーに麻薬的に使われており、由々しい問題となっている。
 このように、たんぱく質のとり方についてさらに詳しく述べる必要性を感じているが、たんぱく質以外の栄養素に関しても早く知ってもらいたい事項が多い。「糖質」「せんい」「脂肪」「ビタミン」「カリウム」などは「1日知るのが遅れたら、何ヵ月もマイナスが続く」といっていいほど、大切な問題点を含んでいる。
 そのほか、主要なボディビルコンテストやパワーリフティング大会で「薬物検査」がいよいよ実施される。これらの薬物に関する解説も必要である。
 筆者として気があせってならないがひとまず「たんぱく質」に関しては区切りをつけて、今月より「炭水化物」に話題を転じよう。

1.炭水化物の分類

「炭水化物」と呼んだり、「糖質」と称したり、混乱が続いている。本来は炭素(C)と水素(H)、酸素(O)の三元素から構成され、特にH2Oという水の組成式を単位として含み、Cn(H2O)nという構造になっているものを「炭水化物」あるいは「含水炭素」と呼んだ。
 ところが厳密にいうと、この炭水化物は1g当り4カロリーの熱量を出す物質と、消化されにくい繊維物質に分かれることがわかった。前者がいわゆる糖質である。糖質の中に、ぶどう糖・果糖・ガラクトース・マンノースといった単糖類と砂糖や乳糖のように単糖類が2つ結合した2糖類、ごはんやいも、豆、でんぷん等の多糖類というように、連結する単糖数のちがいにより、さまざまな種類がある。
 また、繊維の中にも種類があるが、食物繊維は1年ごとに重要性が判明しており、順を追って別に述べることにしたい。
 栄養学上は「炭水化物」という一般的な呼び名は使われることが少なくなり、次第に「糖質」「繊維」と別々に分けて考えられるようになった。本誌でも「糖質」という名称を主に使ってゆきたいが「糖質」という言葉から、どうしても砂糖やブドウ糖などの甘い物質だけをイメージしやすい。
 実用的には以下のような分類が便利である。
①主食として使われる糖質
 ごはん(米)・そば(そば粉)・うどん・パン・ラーメン・マカロニ(以上、小麦粉)など、いわゆる穀類。

②副食になるイモやでんぷん類
 さつまいも・やまいも・さといも・じゃがいも・でんぷん・はるさめ等。

③砂糖および甘味料
 砂糖・水あめ・ぶどう糖、果糖・はちみつなど。

④菓子類
 でんぷんや砂糖を主成分にした和菓子・洋菓子・せんべい・スナック・キャラメル・チョコレートなど。

⑤豆類
 あずき・えんどう・いんげんまめ・そらまめ・大豆など。

⑥果物・野菜
 バナナ・りんご・柿・桃・ぶどう・カボチャ・にんじんなどに「糖質」が比較的多く含まれる。

2.糖質が処理されるルート

 以上のような糖質を食べたあと、体内で消化液の作用をうけて、原則としてすべて「ぶどう糖になる」と考えてよい。ぶどう糖はC6H12O6という構造式で表わされ、もっとも広く自然界に分布している。(でんぷんやグリコーゲン、セルロースなどはぶどう糖が連結してできた複合物である)
 ぶどう糖は次の4つのルートにより体内で役割を果たしている。
①エネルギー源として利用され、炭酸ガスと水に分解し、体外へ出る。

②グリコーゲンに合成されて、肝臓や筋肉に貯蔵される。

③アミノ酸に変わり、たんぱく質に合成される。

④脂肪酸やグリセリンに転換して脂肪となる。

 どのルートをたどるかは、食事をするときの状況により左右されるのだがぶどう糖のメインの役割は何といっても①のエネルギー源である。
 空腹時にタイミングよく適した量の糖質を食べるなら、そのほとんどが活動のエネルギー源に使われ、炭酸ガス(CO2)と水(H2O)に分解される。トレーニングのエネルギー源として、糖質に依存するのが生理学上、もっともムリのない、自然な方法といえる。
 逆にいえば、活動するために、血液中にいつも必要最低限のぶどう糖が流れていなければならない。「血糖値」は血液100ml中のぶどう糖含有量であるが、空腹時で70mg~食後1時間位で120mgある。体重65kgの人は血液が約5リットルなので血液中に合計3.5~6g程度のぶどう糖を持っている。
 激しい運動でぶどう糖が消耗されると、健康上、障害を生じるので、緊急用として肝臓に70g、筋肉内に300~400gのぶどう糖をグリコーゲンの形で備蓄している。これが上記②のルートである。
 人体の構成をみると、水分60%、たんぱく質18%、脂肪17%、カルシウムやリンなどのミネラル3.5%で、重要な糖質はわずか0.5%にすぎない。体重70kgの人で350g程度である。すなわち血液中のぶどう糖、および肝臓中や筋肉中のグリコーゲンが人体に含まれる糖質のほとんどすべてである。
 同じエネルギー源の備蓄なら、1g 9カロリーを生じる脂肪に変えてストックしたほうが体積は少なくてすむ。同じ1万円でも千円札なら10枚ですむが、100円玉なら100枚になり、カサばって不便である。これと同じ原理で活動に必要とされるぶどう糖量および備蓄するグリコーゲン量を上廻る糖質をとっている場合はじめてルート④の糖質→脂肪の変化がおこる。
 興味深いのはルート③の糖質→たんぱく合成の経路である。前回に述べたように、牛や馬は草食だが、立派な筋肉をつくりあげる。戦時中の食糧の乏しい時代、麦やヒエ・アワ・イモが主体の食生活ながら、人々は活動に必要な筋肉を保持してきた。アミノ酸のバランスが悪いので効率は悪く、栄養失調で死んでゆく人も多かったが、このルートがあるために救われたことも事実である。もちろん現在もこのルートでたんぱく質生合成の一部はおこなわれている。

3.トレーニングと糖質

 筋肉が運動するエネルギーは、基本的にぶどう糖が燃焼して(解糖)、その際に生じるATP(アデノシン3リン酸)が持つ化学エネルギーに依存している。
 最近の研究によると、筋肉の種類によってエネルギー獲得のメカニズムが異なることが定説となっている。
①速筋(FG線維)、白い筋肉
 瞬発力(パワー)を出す筋肉。収縮速度は早いが疲労しやすい。ボディビルやパワーリフティングで作る筋肉は一般にこの筋肉である。
 速筋は酸素の補給がない状態で解糖をおこない、ブドウ糖1分子からATP3分子と乳酸を生じる。酸素がないため乳酸は筋肉内に蓄積されやすく、疲労のもととなる。

②遅筋(SO線維)、赤い筋肉
 パワーはないが、疲労しにくい。いわゆるスタミナが続く筋肉で、マラソンなどの長距離ランナー、水泳選手等、長時間つづけるスポーツにより作られる。ウェイトトレーニングでも比較的高回数・低負荷の練習により強化される。
 遅筋は主に酸素の補給がある状態でTCAサイクルを経て、ブドウ糖1分子からATP38分子も生じ、効率が良い。また生じた乳酸が酸素によりATPへとつくりかえられるので、筋肉内に疲労物質がたまりにくく、スタミナが続くと考えられる。

③中間筋(FOG線維)
 無酸素過程解糖システムと、有酸素過程呼吸システムの両方でATPを生産する。FGとSOの中間的性質を持つ。
 実際には上記①②③が混在しているわけだが、実行しているスポーツの種類やトレーニング法により、これらの占める主要比率が変わってくるわけである。


 ところで、ぶどう糖以外にも、脂肪やたんぱく質がエネルギー源になる。脂肪は1g当り9カロリー、たんぱく質は1g当り4カロリーを出す。
 これらは体内でいったんぶどう糖に変えられてから、上記の有酸素的ないしは無酸素的プロセスによりエネルギーとなるルートと、これ以外に直接に燃焼してATPを獲得するルートが存在する。
 脂肪は脂肪酸となり、β酸化系と呼ばれる系路でアセチルCoAとなり、これがTCAサイクルの出発物質となり、呼吸系によりエネルギーを生産する。代表的な脂肪酸のパルミチン酸はアセチルCoAに転換するまでにATP34分子をつくり、さらにアセチルCoAがTCAサイクルで完全に炭酸ガスと水にまで分解すると、さらに96分子のATPを生産できるという。これだけ脂肪は高カロリーなのである。
 また、たんぱく質はアミノ酸の一種αーケト酸になってTCAサイクルに入り、同様にATPを生じる。
 重要なことは、脂肪・たんぱく質の両者とも、有酸素的なプロセスで燃焼しエネルギーになることである。

4.糖質を重視するワケ

 ちょっと専門的になりすぎ、理解しにくいと思うので、簡単な表にまとめてみよう。
<栄養素がエネルギーに変るルート>

<栄養素がエネルギーに変るルート>

 われわれが実行するウェイトトレーニング、特にボディビルディングでは筋肉組成のうち、速筋のボリュウムを高めようとする。この場合、エネルギーは無酸素的な、解糖系によって供給される。
 上表で明らかなように、栄養素として、脂肪・たんぱく質より糖質を用いることが理にかなっている。
 実際にRQ(呼吸商)という方法でどの栄養素を使ってエネルギー源としているか調べたデータによると、長距離選手、水泳選手、スキー選手のように、速筋が少なく遅筋が多いタイプのスポーツではRQが0.7~0.8と低く、主に脂肪がエネルギー源に使われている。逆に、短距離・跳躍・砲丸・円盤投げ、ウェイトリフティングなど、速筋が多く遅筋が少ないタイプのスポーツではRQが1.0に近く、主として糖質がエネルギー源として使われていることがわかる。
 以上のように、ボディビルダーは糖質をエネルギー源にあおぐことが適切で、体にムリを与えない。
 脂肪も有効なエネルギー源ではあるが、スタミナや持久力の面で威力を発揮する。腹モチがいいので空腹に耐える作用もある。
 だがトレーニング時の栄養源としては少量ずっ糖質を補給することがベストである。間食にプロテインをとるときに同時に、カルピスやジュースをとる方法がよい。
 チャンピオン達の食事法を調べている筑波大学の鈴木正成助教授によると「モハメッド・アリのチャンピオンジュースには、アボガド・タマネギ・ニンニク・レモンにハチミツが加えられていた」「オレンジジュースやグレープフルーツジュースには砂糖・ぶどう糖・果糖などの糖分が10%前後と、クエン酸が含まれている。クエン酸にはグリコーゲンの蓄積作用がある」と述られている。(「スポーツの栄養・食事学」同文書院)
 ボディビルダーは主食に食べるごはん・パン・うどん・そばなどの量が少なすぎる。そのうえ菓子やジュース、カルピス等は太ることを心配して、ほとんど口にしない。食べ方を工夫すれば太ることはなく、スタミナ増強に役立つので、糖質のとり方についてもっと研究を深めていただきたい。
 これからの季節は新ジャガイモが出廻る。ジャガイモは筋力トレーニングに適した糖質なので、積極的に料理に加えよう。

《今月のまとめ》

「ごはんや菓子を食べると太る」という俗説はウソではないが、必要量以上に食べすぎた場合のみである。トレーニングに見合った量を食べるならスムーズにエネルギー化し、炭酸ガスと水に分解してしまい、何の害も起こさない。むしろトレーニングは楽に進行し、パンプアップもおこりやすい(もちろん過剰に食べた場合は害をおこす。これについては次回以後に述べる)「ビルダーはエンゲル係数が高く、経済的にたいへんだ」と嘆く人が多いが、高価なたんぱく質を食事の中心におき、これをエネルギーとして燃焼させているとしたら「ムダ」という以外に言いようがない。よく考え、ぜひ食事法を工夫し、経済的にも健康的にもソンをしないよう心から願いたい。
 次号はスタミナと関係が深い「グリコーゲン・ローディング」や「減量と糖質」について述べる予定である。
月刊ボディビルディング1986年7月号

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