新★ボディビル講座 ~ ボディビルディングの理論と実際<27> ~ 第6章 トレーニング種目
Ⅳ ダンベル系の背の運動
バーベルにおける背筋運動の場合、バーが膝や胸につかえて全可動範囲にわたってトレーニングができない場合がある。その点、ダンベルは、可動範囲全体にわたって運動ができ、しかも膝につかえることもなく、運動しやすい特徴がある。また、片手にダンベルを持った場合、もう一方の手で上体をサポートすることもできるので、腰痛時などにおいて行なう背筋運動としても便利である。なお、トレーニング中、グリップが疲れる場合は、ストラップを使用するとよい。
《1》ダンベル・ハイ・クリーン(初心者)〔図1〕
<動作>バーベル・クリーンと同じように、膝までの初動では、脚と腰の力でゆっくりと引き上げ、セカンド・プルで一気に背筋群を使って高い位置まで引き、肘と手首を返す。
<注意点>バーが膝にあたらないのでクリーンしやすいが、バーが左右にあるため、安定性が悪い。また、バーの方向を前後方向に強くすると、手首が返しにくいので、プレートがローイングしやすい方向を考える。
<作用筋>主働筋……固有背筋。補助筋……浅背筋、下肢群筋、上肢筋群。
〔図1〕ダンベル・ハイ・クリーン
《2》ダンベル・デッド・リフト(初心者)〔図2〕
<動作>バーベルと同じく、初動は脚で引く感じで引きはじめ、セカンド・プルで固有背筋を意識し、ゆっくりと上体を起こす。
<注意点>バーベルと違って、膝にあたるバーがないので引き上げるとき、膝の部分の通過が楽になる。初心者や女性向きのデッド・リフトといえる。欠点としては、リバース・グリップが使用できないので、グリップが疲労しやすい。従ってリスト・ストラップを使用したほうがよい。
<作用筋>主動筋……固有背筋。補助筋…浅背筋、下肢筋群。
〔図2〕ダンベル・デッド・リフト
《3》スティッフ・レッグド・ダンベル・デッド・リフト(中級者)〔図3〕
<動作>普通のダンベル・デッド・リフトのセカンド・プルの感じで、固有背筋でもって、上体を起こしながらダンベルを引き上げる。
<注意点>背筋への負荷を高めるため、背と膝を伸ばしきってから行なうのが原則であるが、初心者、中級者は、膝を軽く曲げ、背を反らしてかまえる。上級者は、背中がまるくなるように背筋を伸ばしてから反らす。
<作用筋>主働筋……固有背筋。補助筋……浅背筋。
〔図3〕スティッフ・レッグド・ダンベル・デッド・リフト
《4》ベント・オーバー・ツー・ダンベル・ローイング(通称:ダンベル・ローイング初心者)〔図4〕
<動作>背が曲がらないように固有背筋を緊張させ、両手に持ったダンベルを体側に引き上げる。この時、肘方向が体側に対して遠くなると広背筋の幅のトレーニングとなり、体側に近く引きよせると広背筋の長さのトレーニングとなる。
<注意点>バーベル・ローイングの場合と同様、背筋を緊張させ、正しいフォームを作るようにする。バーが胸に当らないので、フィニッシュまで充分に引き上げることができるが、腕で引く感じより、広背筋で引く感じで動作をする。引く肘の方向によって、広背筋への刺激が変化してくるので注意すること。
<作用筋>主動筋……広背筋。補助筋……固有背筋、上腕二頭筋、菱形筋。
〔図4〕ダンベル・ローイング
《5》ベント・オーバー・ワン・ハンド・サポーティング・ワン・ハンド・ダンベル・ローイング(通称:ワン・ハンド・ローイング初心者)〔図5〕
<動作>膝についた手で上体を固定し、ダンベルを持った手を体側に引き上げる。前項同様、肘の引き上げる方向によって刺激が変ってくる。
<注意点>片手の運動で、しかも上体を支持しているので、腰の悪い人でも、ハードにヘビー・ウェイトでトレーニングすることができる。この場合もオーバー・グリップであるから、リスト・ストラップの使用と、肘の方向に注意する。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、菱形筋。
〔図5〕ワン・ハンド・ローイング
《6》ハンド・オン・ベンチ・ワン・ハンド・ダンベル・ローイング(通称:ベンチ・ワン・ハンド・ローイング、初心者)〔図6〕
<動作>前項と全く同様の動作でダンベルを引き上げる。
<注意点>上体を支持した手を、前項の膝より安定しているベンチに置くため、運動がしやすく、さらにハードに安定して行なうことができる。適当なベンチなどがある場合は、膝に手をつくより、ベンチに手を置いて行うほうがよい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、菱形筋。
〔図6〕ベンチ・ワン・ハンド・ローイング
《7》ベント・オーバー・ヘッド・サポーテッド・ダンベル・ローイング(通称:サポート・ダンベル・ローイング)〔図7〕
<動作>類を固定したままダンベルを引き上げて下ろす。額が固定しているので、必然的に上体のあおりが使えず、ストリクト・スタイルで動作できるのが特徴である。
<注意点>バーベルの時と同様、手とか額で上体を支持し腰部にかかる負荷を軽減させることは、腰痛がある場合とか、あるいは広背筋への意識集中を高めるという面で有効な方法である。しかし、体の一点が固定されることは、運動が中途半端になりやすいので、ダンベルの特色を生かして充分に筋肉を伸ばし、収縮させてやるようにする。そのためには、足の下に踏み台をおく方法もその1つである。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、菱形筋。
〔図7〕サポート・ダンベル・ローイング
《8》ベント・オーバー・ヘッド・サポーテッド・ワン・ハンド・ダンベル・バック・レイズ(通称:ベント・オーバー・バック・レイズ)〔図8〕
<注意点>上体をサポートする点は前項と同様であるが、腕を伸ばしたまま動作を行なうところが違う。広背筋の運動の多くは、補助筋が上腕二頭筋となるが、この運動では上腕三頭筋となる。スーパー・セットやフラッシング・セットを組む場合、過度に補助筋が疲労することがあるので、伸筋群を補助筋として採用する種目の導入をはかるとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕三頭筋、肩甲挙筋。
〔図8〕ベント・オーバー・バック・レイズ
V チンニング系の背の運動
広背筋の運動は、引き上げるとか引き下げるというように、負荷を脚や腰の力を借りて行なう運動の多い中にあって、脚や腰の力を使わず、自分の体重を利用して行なうこのチンニングはたいへん利点がある。しかも、広背筋の長さを作る運動として欠くことのできない種目である。
チンニング系の運動で特に注意することは、腕で体を引き上げようとする傾向があるが、あくまでも広背筋の運動であることを意識して、肘を曲げるという感じよりも、肘を下にさげる感じで行ない、広背筋の伸展と収縮を大きくしてやる必要がある。その他トレーニング効果をあげるために、手幅、負荷のかけ方、上体を引く方向、ストラップの使い方などにも注意して、初心者から上級者まで幅広くトレーニング・コースに組み入れていただきたい。
なお、手幅の目安は、ベンチ・プレスの時と同様、肩幅までのグリップをナロー・グリップ(またはクローズ・グリップ)、肩幅より広く約80cmまでのものをミディアム・グリップ、それより広いものをワイド・グリップと呼ぶ。
《9》ナロー・グリップ・フロント・チンニング(通称:チンニング初心者)〔図9〕
<動作>バーの高さまで顎を引き上げる。反復の前半はできるだけストリクト・スタイルで行ない、後半は身体の前後反動を用いてチーティングを入れてもよい。
<注意点>手幅が狭いと上腕二頭筋と腕橈骨筋に負荷がかかりやすくなるので、胸を上方に突き出すようにして、できるだけ広背筋を使うようにする。そのためには、胸を上方に突き出すようにする。また、手幅が狭いと広背筋の運動は胸椎方向に刺激がくる。
<作用筋>主働筋……広背筋(胸椎方向)、補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図9〕チンニング
《10》ワイド・グリップ・フロント・チンニング(通称:ワイド・チンニング初心者)〔図10〕
<動作>バーの高さまで顎を引き上げるのであるが、手幅が広くなればなるほど、広背筋への負荷が強くなり、顎まで引けなくなってくる。動作を反復するためには、顔まででもよい。他は前項と同じ。
<注意点>広背筋の長さを目的とした場合は、ワイド・グリップの方が肘をさげやすいために効果的といえる。また、身体の上下運動でも、垂直の上下運動より、胸・腹を上方に反らせるようにすると、刺激部は広背筋の長さを求める腸骨方向から、広背筋の幅を求める胸椎方向に変化する。ラット・マシンの代用としてこの運動を行なう場合は、胸・腹を突き出したチンニングがよい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図10〕ワイド・チンニング
《11》ワイド・グリップ・ビハインド・ネック・チンニング(通称:バック・チンニング、中級者)〔図11〕
<動作>バーの高さまで首の後ろを引き上げる。肘方向は体側にまっすぐつけるように引き下ろすが、感じとしては、肘を前に出すようにする。
<注意点>この方法は、広背筋の長さを目的としたものであるから、肘を真下から、いくぶん前方に出すように引き下ろすとよい。広背筋全体が使用できないため、負荷が強くなるので、力の弱い人は後ろからパートナーに足を持って補助してもらうか、机とか椅子に足を掛けて体重を軽くして行なうとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図11〕バック・チンニング
《12》アンダー・ミディアム・グリップ・フロント・チンニング(通称:アンダー・グリップ・チンニング初心者)〔図12〕
<動作>肘を後方に引く気持で、バーの高さまで顎を引き上げる。
<注意点>アンダー・グリップの場合、上腕二頭筋に力が入りやすく、広背筋より先に二頭筋が疲れてしまう傾向がある。目的が上腕二頭筋の発達にある場合はそれでもよいが、広背筋の発達を目的としている場合には、この運動だけではその目的を達成することはできない。
<作動筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋。
〔図12〕アンダー・グリップ・チンニング
《13》ワイド・グリップ・ウェイテッド・ビハインド・ネック・チンニング(通称:ウェイテッド・バック・チンニング)〔図13〕
<動作>バック・チンニングと同じ。
<注意点>中級者以上になると、通常の方法では反復回数が多くなってくるので、トレーニングを効率よく行なうために負荷をつけて実施する。負荷のつけ方は、ベルトに紐や鎖でプレートをぶら下げる方法が最も標準的であるが、その他リックサックにプレートを入れて背負う方法、足にアイアン・シューズをつける方法、足の甲にチェスト・バーをひっかける方法、パートナーに足を下に引っぱってもらう方法などいろいろあるので、各自で工夫してみるとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図13〕ウェイテッド・バック・チンニング
《14》ワイド・グリップ・ウェイテッド・フロント・チンニング(通称:ウェイテッド・フロント・チンニング)〔図14〕
<動作>フロント・チンニングと同様。
<注意点>負荷をかけて行なう目的や方法はバックの場合と同様であるが、その負荷でオールアウトしたならば、腰につけたプレートを順次軽くしていく。そして最後は自分の体重のみで行なえば、重量減量法と同じ意味になるので、上級者は積極的に採用してほしい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図14〕ウェイテッド・フロント・チンニング
《15》ワイド・グリップ・ウェイテッド・トゥ・バック・チンニング(通称:フロント・トゥ・バック・チンニング、中級者~上級者)〔図15〕
<動作>バーを中心として、顎を前と後ろに引き上げる。すなわち、バーを顎の方に引き、次に首の方に引く動作を交互に繰り返す。
<注意点>広背筋を幅広く使うために行なう運動であるから、常に肘方向に注意する。フロント側に引く時は肩甲骨を寄せて肘を後方に引き、バック側に引く時は肘を前方に出すような気持で体側に寄せる。加重方法や重量減量方法は各レベルに応じて採用すること。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
[図15フロント・トゥ・バック・ウェイテッド・チンニング
《16》ワイド・グリップ・サイド・トゥ・サイド・フロント・チンニング(通称:サイド・トゥ・サイド・チンニング、上級者)〔図16〕
<動作>バーを握った腕を、左と右に交互に引き上げる運動である。片腕側に全体重をかけるようにして引き上げたなら、いったん、腕を伸ばして元のかまえの姿勢に戻り、次いで反対側の片腕で引き上げる。ハイ・レベルの人は、元の姿勢に戻さないで、連続して左右に移動してもかまわない。
<注意点>より強い刺激とバリエーションを考えるなら、このように、片腕ずつ交互に行なうチンニングに発展し、最終的にはワン・ハンド・チンニングにいたる。ワン・ハンド・チンニングに挑戦する前提条件として、まずこのサイド・トゥ・サイド・チンニングよりトレーニングに入るとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図16〕サイド・トゥ・サイド・チンニング
《17》クローズ・グリップ・Vバー・チンニング(通称:Vバー・チンニング、中級者~上級者)〔図17〕
<動作>胸をVバーの間に入れるような気持で、肘を開かずに体側に沿って引き下ろす。その結果、左右の肩甲骨がくっつくようになるとよい。
<注意点>Vバーを使用することにより、腕は捻られることなく良性肢位(自然に腕や手首が向っている方向)の状態となり、チンニング運動がやりやすい。ただし、手幅が狭いため腕への負担が大きくなるので、できたら幅の広いVバーを使用するとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図17〕Vバー・チンニング
《18》クローズ・グリップ・チンニング(中級者~上級者)〔図18〕
<動作>バーに胸をつけるような気持で引き上げる。フィニッシュでは頭がバーに当るから、頭を左右交互に逃がすようにする。
<注意点>この運動はVバーがない場合に用いる運動で効果及び目的は同じである。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図18〕クローズ・グリップ・チンニング
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