新★ボディビル講座
~ボディビルディングの理論と実際<28>~第6章 トレーニング種目
◎ラット・マシン系の背の運動
このようなマシンをラットマシン(Lat Machine)と呼ぶ。その語源は、ラティシマス・ドーサイ・マッスル(Latissimas Dorsi Muscle=広背筋)、すなわち広背筋を専門に鍛えるマシンとして誕生し、略してラット・マシンと呼ばれ、多くの人々の広背筋のトレーニング器具として役立ってきた。
このマシンの大きな特徴は、幅広い用途と、チンニングなどでは広背筋の運動ができない初心者や女性にも利用でき、しかも引く方向を90度方向(胸椎方向)から、45度方向、180度方向(腸骨方向)まで、広背筋の幅一杯にトレーニングができるところにある。
また、ベント・オーバー・ローイング系運動では、各方向へのトレーニングもでき、重量の調節もきめ細かくできるが、腰痛のある人や初心者は充分に姿勢がとりにくい欠点がある。この点、ラット・マシンの場合は、腰痛や姿勢に注意することなく安全に行うことができる。
ラット・マシンを引く場合の共通注意点は手や腕の力にたよって引かず、広背筋を充分に伸展させ、収縮させて引くことである。手にバーを持つ関係で、どうしても腕で引きたがるが、あくまでも広背筋の運動としてとらえ、広背筋への意識集中がうまく出来るかどうかが、効果をあげる上でのポイントとなる。
ラット・マシンを引く場合の共通用語は、プルインとプルダウンの2つに大別できる。プルインは、自分のふところ(懐)の内に引き込む場合の運動に使用し、プルダウンは頭上のものを真下に引きおろす場合、及び腕を伸ばしたまま引きおろす場合に使用する。
その他、ラット用のバーは、ナロー・グリップの時は真すぐのバーでよいが、手幅が肩幅より広くなるにつれて、30度~45度方向に曲っているものがよい。また、大腿部のところに自分の体重が浮き上がらないように、ストッバーがついているものを使用するとよい。
《1》シーテッド・フロアー・ワイドグリップ・バー・ラット・プルイン・ハイプーリー(通称:ワイドグリップ・ラット・プルイン、初心者)〔図1〕
<動作>肘を真うしろに引く感じで、肩甲骨をくっつけるように引く。ワイヤーと背柱が90度の角度を保つようにすれば、バーは身体に対して前後運動となる。
<注意点>引く時に上体のあおりを使わず、広背筋と上腕二頭筋の力で引く。戻す時は広背筋を充分伸ばすように胸をうしろに引っ込めながら、ゆっくり戻す。この運動の目的は広背筋の幅である。広背筋の水平方向(胸椎方向)に意識集中する。
<作用筋>主働筋……広背筋(胸椎方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋、菱形筋。
〔図1〕ワイド・グリップ・ラット・プルイン
《2》シーテッド・フロアー・ナロー・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ハイプーリー(通称:ナロー・グリップ・ラット・プルイン)〔図2〕
<動作>肘を身体に対して45度方向に引く感じで、肩甲骨をくっつけるように引く。ワイヤーと背柱の角度は90度を保つようにする。
<注意点>引く場合も伸ばす場合も、ワイドの時と同様に上体のあおりを使わず、広背筋と上腕二頭筋の力で引くようにする。ただ、手幅が狭くなったので、肘方向が下にさがり、広背筋の胸椎方向から腸骨方向への刺激方向が変化し、しかも上腕二頭筋への負荷が強くなるので注意する。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、菱形筋。
〔図2〕ナロウ・グリップ・ラット・プルイン
《3》シーテッド・フロアー・ワイド・グリップ・ビハインド・ネック・バー・ラット・プルダウン(通称:ワイド・グリップ・ビハインド・ネック・プルダウン、中級者)〔図3〕
<動作>肘を真下に引きおろすようにバーを引きおろす。
<注意点>必ずワイヤーの真下に入り、頸の後ろにバーを引きおろす。肘は体側につけるような気持でおろすことが大切である。こうすることによって刺激は腸骨方向となり、ビハインド・ネック・チンニングと同じ効果が得られるので、チンニングができない人は、この方法でもって行なうとよい。
<作用筋>主働筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図3〕ワイド・グリップ・ビハインド・ネック・プルダウン
《4》シーテッド・フロアー・リバース・ミディアム・グリップ・フロント(通称:シーテッド・リバース・プルイン、中級者)〔図4〕
<動作>肘を後ろに引きおろしながら、胸を突き出すように引きおろす。
<注意点>ワイヤーが上体に対して45度方向になるように軽く上体を後ろに倒し、肘の運動が前後運動になるように注意する。とくに上腕二頭筋に力を入れすぎて肘が曲り過ぎないようにする。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋。
〔図4〕シーテッド・リバース・プルイン
《5》シーテッド・ニー・フロアー・ワイド・グリップ・フロント・バー・ラット・プルダウン(通称:シーテッド・ワイド・グリップ・プルダウン、初級者)〔図5〕
<動作>肘を真下に引きおろすように、バーを胸のところまで引きおろす。
<注意点>上方にある肘を真下に引きながら、やや胸を上に突き出した感じで引く。フィニッシュでは、肘を体側にくっつけるように行なう。この運動の特徴は、広背筋の腸骨方向(上下方向)への刺激により、広背筋の長さをつくろうとするものである。その点を考慮して採用すること。
<作用筋>主動筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図5〕シーテッド・ワイド・グリップ・プルダウン
《6》シーテッド・ニー・フロアー・ワイド・グリップ・ビハインド・ネック・バー・ラット・プルダウン(通称:シーテッド・ビハインド・ネック・ワイド・グリップ・プルダウン、中級者)〔図6〕
<動作>肘を真下に引きおろすように、バーを肩につくまで引きおろす。
<注意点>これらニー・フロアー運動の場合、肘の上下方向(広背筋腸骨方向)の運動となるので、ワイヤーの真下に入り、全体重でぶらさがるように引きおろす。脚を伸ばしていないので、曲げた膝に力を入れていれば、体重が上手に利用できるので、膝ストッバーのないラット・マシンを使って運動を行う人は、この方法を採用すれば、体重が浮き上がることなく運動ができる。
<作用筋>主働筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図6〕シーテッド・ビハインド・ネック・ワイド・グリップ・プルダウン
《7》シーテッド・ニー・フロアー・ナロー・グリップ・フロント・ラット・プルダウン(通称:シーテッド・ナロー・グリップ・プルダウン、中級者)〔図7〕
<動作>始動においては、肘を真下に引き始め、後半は弧を描くように背中側に引き込む。
<注意点>かまえの位置や体重のかけ方は、他のシーテッドの場合と同様であるが、広背筋の上下方向をより強く刺激するためには、可動範囲の大きいナロー・グリップの方がよい。欠点としては、腕への負荷が大きくなるので注意する。
<作用筋>主働筋……広背筋(腸骨方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋。
〔図7〕シーテッド・ナロー・グリップ・プルダウン
《8》シーテッド・ニー・フロアー・ナロー・グリップ・ビハインド・ネック・ラット・プルダウン(通称:シーテッド・ナロー・グリップ・ビハインド・ネック・プルダウン、中級者)〔図8〕
<動作>肘を真下に引きおろすように、バーが肩につくまで引きおろす。
<注意点>基本的な注意点は前項同様であるが、バーが頸の後ろ側にくるため、肘は背中の内側に引きおろすようにする。
<作用筋>前項同様。
〔図8〕シーテッド・ナロー・グリップ・ビハインド・ネック・プルダウン
《9》スタンディング・ベント・オーバー・ワイド・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ハイプーリー(通称:ベント・オーバー・ワイド・グリップ・ラット・プルイン、初心者)〔図9〕
<動作>伸ばした肘を曲げながら、バーを胸のところまで引き込み、肩甲骨をくっつけるようにする。
<注意点>ベント・オーバーによる共通した注意点は、上体を前倒させることにより胸が拡大することである。そのため、この運動は単なる広背筋のみの運動ではなく、胸郭の運動ともなるので、バーベルでプルオーバーが上手にできない人はこの運動を採用すればいい。ワイヤーからの抵抗を最後まで続けるために、後半において上体を少し起こしてバーを引きつけることが大切である。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、前鋸筋。
〔図9〕ベント・オーバー・ワイド・グリップ・ラット・プルイン
《10》スタンディング・ベント・オーバー・ナロー・グリップ・ラット・バー・プルイン・オン・ハイプーリー(通称:ベント・オーバー・ナロー・グリップ・ラット・プルイン、中級者)〔図10〕
<動作>伸ばした腕を曲げながらバーを胸まで引き込む。肘は背中の内側に寄せるようにする。
<注意点>かまえの時は充分に広背筋を伸ばし、肩甲骨を上に引き伸ばした感じになるところに位置し、引く時は肘を引き下げつつ、肩にまる味がつくまで引き込むことが大切である。戻す時は、腕を伸ばしながら、上体を下方に沈ませるように広背筋を伸ばす。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、前鋸筋、小胸筋。
〔図10〕ベント・オーバー・ナロー・グリップ・ラット・プルイン
《11》スタンディング・ベント・オーバー・ストレート・アーム・ナロー・グリップ・バー・ラット・プルダウン(通称:ベント・オーバー・ストレート・アーム・プルダウン、初心者)〔図11〕
<動作>肘を伸ばしたまま大腿部までバーを引きおろす。
<注意点>充分に広背筋が引き伸ばされた状態から、脇の下を締めるように、腕を曲げずに引きおろす。広背筋の運動の場合、その主力種目の補助筋は上腕二頭筋となり、上腕三頭筋が補助筋となるのは少ないので、その点を考慮することと、この運動の方が支点関節(肩関節)が遠くなるので、抵抗が大となる。そのため、2種目フラッシングを組む時は、このプルダウンから前項のプルインに移行すれば、より強い刺激を得ることができる。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕三頭筋、前鋸筋。
〔図11〕ベント・オーバー・ストレート・アーム・プルイン
《12》スタンディング・ベント・オーバー・ワイド・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称:ベント・オーバー・ワイド・グリップ・プルイン・ロープーリー、中級者)〔図12〕
<動作>肘を体側の外上に引き上げる感じで、胸の下まで引きつける。
<注意点>上体を上にあおる感じで引き始め、胸を突き出しつつ、左右の肩甲骨を背中でくっつけるように引く。ベント・オーバー・ローイングと同じような筋肉の使い方になるので、ベント・ローが上手に出来ない人はこの運動を採用する。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋、固有背筋、菱形筋。
〔図12〕ベント・オーバー・ワイド・グリップ・プルイン、ロープーリー
《13》スタンディング・ベント・オーバー・ナロー・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称:ベント・オーバー・ナロー・グリップ・プルイン・ロープーリー、中級者) 〔図13〕
<動作>肘を体側に沿って引き上げる。
<注意点>胸を下方に突き出す感じで行なう。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋、固有背筋。
〔図13〕ベント・オーバー・ナロー・グリップ・プルイン・ロープーリー
《14》スタンディング・ベント・オーバー・ストレート・アーム・ワイド・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称:ベント・オーバー・ストレート・アーム
プルイン・ロープーリー)〔図14〕
<動作>肘を伸ばしたまま、大腿部までバーを引き込む。
<注意点>充分に広背筋を引き伸ばすため、バーを遠くに押し出すようにしてから、上腕三頭筋に力を入れて肘を曲げずに大腿部に向って引くようにする。この運動はストレート・アームであるから、支点関節が遠くなり、抵抗が大となる。従って、この運動から肘を曲げるラット・プルインに移行すれば、比較的運動のしやすいフラッシングを組むことができる。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕三頭筋。
〔図14〕ベント・オーバー・ストレート・アーム・プルイン・ロープーリー
《15》シーテッド・フロアー・クロス・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称:クロス・グリップ・プルイン)〔図15〕
<動作>やや上体のあおりを使いながら、正中線(身体の中心線)より45度方向に肘を曲げながら、胸を突き出すように引き込む。
<注意点>クロス・バーと足ストッパーを使ってのラット運動は、腰への負担が少なく、高重量の運動ができる。バルク・アップのためには、この運動を採用し、思いきったローイング運動を行なうとよい。広背筋の可動範囲を大きくするためには、バーのトライアングルを長くし、ふところ深く引きつけるようにする。
<作用筋>主働筋……広背筋。補助筋……上腕三頭筋、菱形筋。
〔図15〕クロス・グリップ・プルイン
《16》シーテッド・フロアー・ワイド・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称:シーテッド・ワイド・グリップ・プルイン、中級者)〔図16〕
<動作>やや上体のあおりを使いながら、肘を外側に開くように、胸を突き出しつつ、バーを引き込む。
<注意点>腰をおろしてロープーリーを使用した場合、ベント・オーバー・ローイングと同じような動きとなるが、上半身の体重を支える必要がないため、思いきって高重量で行なうことができる。バーを手幅広く握ることにより、広背筋の胸椎方向に刺激がくるので、肘を外側に開く感じで行なうこと。
<作用筋>主動筋……広背筋(胸椎方向)。補助筋……上腕二頭筋、腕橈骨筋、菱形筋。
〔図16)シーテッド・ワイド・グリップ・プルイン
《17》シーテッド・フロアー・ナロー・グリップ・バー・ラット・プルイン・オン・ロープーリー(通称シーテッド・ナロー・グリップ・プルイン、中級者)〔図17〕
<動作>やや上体のあおりを使いながら、肘を体側に沿って曲げつつ、胸を突き出すように引き込む。
<注意点>他のシーテッドと同様であるが、手幅を狭くしたということは、肘が最も体側に近くなることで、前項のクロス・バーを使用した場合、あるいは、ワイド・グリップにした場合の三者の違いは、肘方向が0度方向、45度方向、90度方向となり、各々その特色を持っていることに気付かれるであろう。そして、広背筋が胸椎から腰椎にいたるまで幅広く連なっていることを考慮するならば、より高度なトレーニングを求める人達にとっては常に筋肉への作用方向にも注意しつつ、密度を高めていかなければならない。
<作用筋>主動筋……広背筋。補助筋……上腕二頭筋、菱形筋。
〔図17〕シーテッド・ナロー・グリップ・プルイン
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