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日本トップ・ビルダーのトレーニング法 ~背部のトレーニング その注意点とアドバイス~

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月刊ボディビルディング1983年6月号
掲載日:2020.10.21
1982年度ミスター日本★小山裕史
私のバック・ポーズ(1982ミスター日本)

私のバック・ポーズ(1982ミスター日本)

 「背」それは、私が最も魅力を感じ憧れを抱く部分の1つであり、当然多大の努力を強いられてきた。

 この部分の高度な発達が、ビルダーとして大成するための必須の条件であると気がついてから久しく、この“大魚”に挑む釣人の心とは別に背の各種目ほど、トレーニングの真髄を感じさせてくれるものはなかった。これが原動力となって、私を駆りしててきたのであろう。

 前述したように、実際に、過去から現在に至るまで、私が最も多くの時間と研究を費やしたのが、この背部である。今回、この部位の私のトレーニング法を紹介するに当っては少々趣きを変えて、まず私の背部トレーニングの変遷から振り返ってみよう。それは私の考え方の歴史でもあるから……。

◆1972年トレーニング開始時

①チンニングMAX2~3セット

 そして半年後には、ワン・ハンド・ダンベル・ロゥイングとラット・マシーンを追加した。

 MAXといっても、そんなに高回数は繰り返せなかった。それに、自宅トレーニングという状況では運動種目も限られていた。
チンニング

チンニング

 ベント・オーバー・ロゥイングは当時の私にはフォームが難解すぎ、真似はいくらでもできたが、納得できなかったので実施しなかった。この種目はその完遂の困難さから、初心者向けのものではないと考えていた。なお、この種目が自分で納得でき、フィットするようになったのは、ずいぶんと後年のことである。

 しかし今では、ポイントさえ押えれば、初心者でも完全に運動でき、非常に有効な手段であると考えている。

 逆に、運動の方向性を考えると、ワン・ハンド・ロゥイング等は、初心者の段階で採用するのは必ずしも正しいとは言えない種目であったと思う。

◆1975年頃のトレーニング法

記事画像3
 1978年当時には、上記①②③④のみで50セント平均消化している。これは当時の自分としては、決して軽いものではなかった。

 この頃からロゥイング種目を主体とし始めている。また、同一筋群の週間頻度が、週3回から2回へと移行していった時期でもある。ただ、単純なABC分割方式ではなく、この部位は相当優先して鍛えていたのを覚えている。

 使用する器具類も増え、チンニングの他、ラット・マシーンにも愛着を感じていたが、主眼は、あくまでもロゥイング系統から離さなかった。つまり、この系統の運動が、自分の背中を分厚く、強力にしてくれると信じていたからだ。

 的確なフォームを得ること、そして可能な限り重いウェイトを使用することが、未だに変わらぬ態度であるが、これは、この頃形成されたようだ。そして、この態度を昇華させるために、マスター・キーを探した。“ポイント”という名のその鍵を。それがためには、何セットもこなさなければならなかった。

 ただ、不思議にも、Tバー・ロゥイングや、ベント・オーバー・ロゥイングを何セットも実施する時「背中」を単に意識するよりも、大殿筋や大腿ニ頭筋が辛抱できぬくらいに痛むように意識する時(意識しなくても、正しいフォームなら、当然この部位が痛みを覚えるはずだが)背中に強烈な刺激が残った。筋肉構造を考えると容易に理解できることではあるが、当時の私にとって、矇朧とした視野の中に光明を見出した想いだった。

 そして今でも、大腿ニ頭筋と大殿筋が痛くて立てなくなるようになるか否かを、運動量を決定する要素としている。

 筋構造の話が出たが、詳細は後述するとして、このロゥイング系統の運動を中心に置くというトレーニングの傾向は、渡米以来さらに強まり、現在のロー・プーリー・マシーンに執着するようになるまで綿々と続く。

 しかし、実際には、マシーンによる納得できるトレーニングは、帰鳥して、自作のマシーンを作成するまで果せなかった訳で、自宅トレーニングの皆さんにも、やり方によればバーべル1本でも大きな効果を得ることができることをお伝えしよう。何故なら、私の背中は、器具類が無い間にもどんどん発達し、同時に筋力も増加した。
バーベル・プルオーバー

バーベル・プルオーバー

 因みに1980年の大阪府パワーリフティング大会に出場した時の私のデッド・リフトの記録は250kg(体重82.3kg)。トレーニングの中にこの種目を採用するようになったのは最近のことで、この時もパワー大会の2週間前からの採用であった。要はポイントを押えたトレーニングが大切なのである。

 パワー・トレーニングも主題の1つである自分にとって、大きな自信となった。練習のやり方ひとつで、こんなに大きな成果があがるということも知った。なお、現在のベスト270㎏に成功するまで、私のとっていたフォームがナロー・スタンスであったことも参考程度に付加しておきたい。
Tバー・ロゥイング

Tバー・ロゥイング

◆1981年5月以後のトレーニング法

 帰鳥し、半年間のブランクが開けてのトレーニングが始まったが、このときのトレーニング法は次のようなものだった。
 
①ラット・マシーン・プルダウン
80~110㎏で4セット、これには110~70㎏までのマルティ・パウンデッジを含む。
②Tバー・ロゥイング 55~100㎏ 5セット
③ロー・プーリー 60~100㎏ 5~7セット
④ハイ・クリーン 60~100㎏ 5セット

 当時は、ABCコースによる分制法を採用しており、4日目をオフとする変則トレーニングで、背の運動はBコースとして実施。

 Tバー・ロゥイングも私の好む種目の1つであるが、アメリカのそれを見て、かなり工夫して設置した。(支点の位置を上げることによって、体重の後方移動在避ける--後述)

◆1981ミスター日本直前のトレーニング法

 過労からしばらく病床に伏したが、その間に考えたとおりに使用重量を増すことに努めた。具体的には次のとおりである。

①チンニングMAX 7~8セット
②ラット・マシーン・プルダウン 80~120㎏ 5~10セット
[註]①②は①がフロントなら②はビハインド・ネック、または①がビハインド・ネックなら②はフロントという具合に変化をつけた。
③Tバー・ロゥイング 75~125㎏ 5セット
④ロー・ブーリー 85~120㎏ 5セット

 この時点で、上部からの引きつけ運動(プル系統)が多くなってきているが、重点願度としてはロゥイング系統の方が高い。

 1981年ミスター日本で、反省点を得て、部分優先法を採用してからは、当然の如くこの部分の内容が濃くなる。1期~7期に分けてトレーニングした中で、背部のトレーニングもようやく佳境に入った。

 1982年4月頃の背部のトレーニング法は次のようなものだった。
 
①ラット・マシーン・プルダウン
100~130㎏ 10セット
②Tバー・ロゥイング
70~130㎏ 10セット
③ロー・プーリー
70~140㎏ 6セット
④デッド・リフト
100~220㎏ 5セット

そして2か月後の6月には次のように変化していく。

①ラット・マシーン・プルダウン 100~130㎏
②アンダー・グリップ・ラット・プル 80~130㎏
③Tバー・ロゥイング 130~150㎏ 
③ロー・プーリー 110㎏ 

 セット数はそれぞれ5~10セットを充当し、納得するまで実施するといった方式を採った。ただし、①~⑦期の基本的な考え方が根底にあった。

 アジア選抜に向けてのトレーニング法は、
①デット・リフト
100~210㎏ 8~2回 4セット
②ラット・マシン・プルダウン
80~120㎏ 5~10セット
③Tバー・ロゥイング
55~155㎏ 10~6回 6~8セット
④ロー・プーリー
80~130㎏ 10~6回 6~8セット
⑤ハイバー・バック・イクステンション
0~30㎏ 10~6回 6~8セット

 当時、身体部位の中で、背部のトレーニングに最も多くの時間をかけている。そして、ミスター日本コンテスト前のトレーニングでは、さらにこの傾向が強まった。

①チンニング
②ラット・マシン・プルダウン 80~120㎏
③リバース・プルダウン 80~120㎏
④ベント・オーバー・ロゥイング 60~120㎏
10~15セット
⑤ロー・プーリー 70~120㎏ 7セット
⑥Tバー・ロゥイング 75~150㎏
3~5セット

 以上の推移から見ても、私がロゥイング種目を主体にしてきたことが判ると思うが、その理由の1つとして、下背部を含めた背中の隆起的な発達こそが強力なパワーを生み、この部位が強化できれば、他の採用種目、及び使用重量にも幅ができ、上背の発達も容易になると考えていたことがあげられる。

 それに加えて、中・下背部の発達は困難なものの代表的ともいえるもので、この部位の充実した日本人ビルダーの数少ないことも、私にとっては奮起を促す材料たりえた。

 背中は、部位別にトレーニングしなければならない最重要部だといえる。背中の大筋である広背筋においても、部分的な役割を考察すれば、上腕骨上部前面から腸骨稜、腰椎、胸椎と付着し、発達そのものは、上腕を体幹に近づけることによって可能となってくるが、上腕の引きつけ方で、効果が大きく違ってくる。

 槍投げ選手、野球の投手等にとっては重要部位である上部広背筋も、発達そのものは容易であることは周知のとおりである。それは、運動動作そのものが自然な形で行なえることに加え、最も意識しやすい小指と親指の位置によって影響を受けやすいからである。

 意外とこの指の位置のことについては忘れやすい傾向にあるが、主働筋が、広背筋のような大筋群であっても、実際に運動を司るのは腕や指であることを念頭におかねばならない(バーベル等で、親指と小指の位置、角度等が区別しにくい場合には別の方法をとらねばならないが。)

 次に考え方の基本として、各系統別の留意点を述べておく。
ベント・オーバー・ロゥイング

ベント・オーバー・ロゥイング

ロー・プーリー

ロー・プーリー

◆プーリー系統--ラット・マシーン等(上方からの引きつけ運動の場合)の留意点

 筋構造、神経分布を考えても、上体を反らせた形で動作することが肝要。特にバーを引きつける時に、このことを意識しなければならない。肩甲骨を体の内側に引き寄せるようにすると、その発達は助長される。

 ただ、ウェイトそのものは、座位の殿部の垂線上にあることが望ましく、垂線下(体幹に向って)に引きおろす際に、背中の上半分だけを反るようにして運動することが要点といえる。

 背中の広がりそのものには、今までさほど留意しなかった私だが、もう1つとらえたポイントは、腕を伸展させる時(ウェイトを戻す時)に、両肩を入れるようにすれば、効果が増大するということである。

 チンニングの時も同様である。また、スターティング・ポジションで両肩を入れて、大円筋、及び上部広背筋を伸展させる動作を1回ごとに加えると、最高である。

 両動作に共通することは、両肘をできるだけ体幹深く引きつけるようにすること。また、上部広背筋の発達のためには、フィニッシング・ポイントの肘の位置が、体幹側面より可能な限り後方にあるようにしたいと考える。

 背中の上部トレーニング、特に広背筋上部の発達には、意外と思われる次のことにも気を配って欲しい。

 それは、腕を屈曲した時にのみ、背中が運動するという短絡的な考え方で、上腕ニ頭筋のみ意識しないこと。つまり「上腕三頭筋をうまく使用し、意識しろ」というのがそれである。このことは、上腕三頭筋と、上部背筋群の連結構造を見ても明らかである。
ラット・マシン・プルダウン

ラット・マシン・プルダウン

◆プーリー系統--ロー・プーリー等(低い位置でのプーリー運動)の留意点

 この種目で上背を狙うか、下背を鍛えるかという問題が起こるが、ロー・プーリー系統そのものは、運動の方向性を考えても、なかなか発達しにくい下部広背筋を含めた、下背部から中背部にかけての運動であるという意識の下に実施したほうがよいと思われる。

 この運動の重要点は他でも述べるが、両小指が運動中、平行もしくは少し内側を向き合っている状態が理想で、筋肉の運動方向を考慮すれば胸部ではなく、下腹部へ向って引き下げるように運動する。そしてラット・プルダウン等と同様、ウェイト(グリップ)が引きつけられる時、胸を張るようにすることである。

 百論を議するよりも、一度実施されると、私の述べた部分に強烈な刺激が与えられるのがご理解いただけると思う。また下背部のためには特に肘をできるだけ体の内側に向って(脇を締めて)運動した方がベターと考える。

 脚は、腰部にかかる負担をハムストリングで和らげさせるためにも、膝を少しだけ立てておいたほうがいい。下腿部から固有背筋にかけての帯状構造を考える上でも、必要な対処の仕方である。

◆ロゥイング系統(バーベル、ダンベレの場合)の留意点

 これも、引く動作、引きつける位置によって効果の及ぼす部分が違ってくる。ロゥイング系統の運動によって広背筋の他、大円筋、小円筋、肩甲挙筋、僧帽筋、大菱形筋、仙棘筋等が、連動動作によってある程度は刺激を受けるが、両者の筋の発達という面では、分けて考えた方がよいと思われる。

 広背筋の発達を狙ってベント・オーバー・ロゥイングを行なう場合によく起こる間違いに、ややもすると後者の僧帽筋や肩甲挙筋等にばかり刺激が移行しやすいフォームで実施していることがある。

 上体を床と平行か、やや反り加減で行なえば、広背筋が強く作用するということは誰でも知っていることである。これは動作中、上方から下方(ベント・オーバー・ロゥイングでは遠方から手前)に運動すればよいことを意味するのだが、実際には、床と平行とは言い難いくらいに体を起こしていたり、逆に、肩が下がっていることに加え、引きつけ動作の完了時に、体重を同時に後方へ移動させてしまうことが多い。このことは、再三繰り返したように、広背筋の運動角度を考えた場合、非常に不利である。

 これらの解消法として、また、考え方の延長として、バーベルを引きつける時に、上体を前方に押し出すようにする。逆に、下降時には、上体をやや後方に引いてやれば、さらにグッドである。バーベルのロウィングよりも、Tバー・ロゥイングの時に意識しやすいので、試してみられるとよい。

 参考までに、体重を支えるポイントは、踵ではなく、つま先である。つま先で支えることによって、重心の後方移動が回避でき、主要部位への運動による刺激が確実に得られる。

 上背の発達を狙う場合にも、脚のポイントは共通しているので応用すればよいが、引きつけ位置を胸部にするか、完全なベント・オーバー形(両肩を落とした体勢)で実施する。この時、僧帽筋、肩甲挙筋以外を狙うなら、肘は体外側に開くようにし、また、この部分を狙うなら、肘を体内側に近づけるようにして上げた方がよい。そして、この時に意識しなければならない手指は、両親指である。

◆腰背部トレーニングの留意点

 一般スポーツの競技能力の向上、ビルダーの下背に力強さを与える部分として重要なこの部位は、特に単調運動が主役となるが、単調な運動をトーンも変えることなく流してしまってはいけない。

 デッド・リフトやハイパー・バック・エクステンションが、腰背部のための代表的な種目であるが、この部位を的確に鍛えるためには、それなりにポイントを押えて実施しなければならない。

 仙棘筋の発達は、下背運動のみならず、上背運動によっても可能であるが、体の前後の動作の際、フィニッシング・ポイントで静止状態を保てるようなやり方が有効である。

 ベント・ロゥイング等で、腰背部を反り返らせた状態で運動することのほかに、前述のデッド・リフトやハイパー・バック・イクステンションの際、バーベルを上げきった状態でとめたり、上体を最高に反らせた位置近くで、静的筋収縮を付加することによって効果が倍増する。

 私のすすめる実践的運動法としては、特に、ハイパー・バック・イクステンションで、自力で限界まで繰り返した後、パートナーの助力を得て、反って静止した状態を5~1O秒間つくってもらう方法である。むろん、1回ずつ、このパートナーのアシストを加える方法も有効である。

 パワーが増し、故障のおそれがなくなった時、ハイ・クリーン、ハイ・スナッチ等の大きな運動量を持つ種目を採用するとよい。

 長い眼でみると、この部位の完成のためには、前述した帯状構造群の例からも、別の視野から、大腿二頭筋、大殿筋を強化することが近道といえる。


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 背部のカット・アップの方法については後日、別項として機会があれば述べてみたいと思います。

 日本人の弱点といわれている背中。この部位は、トレーニング法そのものが確立されていなかった最たる部分とも言えます。過去及び現在が弱点だったとしても、将来もそうであるとは限りません。また、それではレベルは向上しません。

 今日からのトレーニングに、私の述べたことを少しだけでも採り入れてみてください。何らかの変化が生じるはずです。私の考えがベストでないにしても、文字どおり、弱い部分からの脱却の第一歩が始まるかも知れません。

 この稿をしめくくるに当って皆様に捧げる言葉は「考えと、行動が、背と腹の関係にある時、人間はとてつもないパワーを発揮する」
月刊ボディビルディング1983年6月号

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