フィジーク・オンライン
  • トップ
  • スペシャリスト
  • 食事と栄養の最新トピックス<51> 食生活赤信号<16> ジャームオイルはだいじょうぶか?

食事と栄養の最新トピックス<51> 食生活赤信号<16> ジャームオイルはだいじょうぶか?

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1985年5月号
掲載日:2021.06.01
ヘルスインストラクター 野 沢 秀 雄

1.スポーツマンの人気商品

「一流選手の食事作戦」を見ると、プ口ティンと並んでジャームオイルを採用しているビルダーが多い。日本だけでなく、アメリカやヨーロッパも同じである。

 1922年にビタミンEが発見され、1950年代にスポーツ医学界の長老といわれるキュアトン博土が、水泳選手や陸上競技選手に採用した。「スタミナが続く」「記録が伸びる」と公表され、以来、約30年間にわたり、広くスポーツ界に普及している。

 日本では順天堂大学体育学教室の青木先生らが、メキシコ・オリンピック候補選手たちに投与し、大きな成果を挙げたことが有名である。

「ジャームオイル」という聞きなれない言葉が、だんだん一般人に普及し昨年度わが国で年間300億円も売上げているという。すごい数字だ。

 図1は薬品として販売されているビタミンEと、健康食品として売られているジャームオイルを比較したものである。医薬品としてのビタミンEの伸びより、健康食品のほうが圧倒的に増えていることがわかる。

 ジャームオイルを日本語で言えば胚芽油である。主に小麦胚芽油を指している。一部、米や大豆の胚芽油も売られている。胚芽とは種子の中で、土に播くと芽になる部分で、各種栄養素を多く含んでいる。とりわけビタミンEが多い。「食品成分表」によれば、小麦胚芽中の脂肪は約10%。この脂肪中0.2~0.3%がビタミンEである。つまり小麦胚芽油100g中に0.2~0.3g(200mg~300mg)のビタミンEが含まれるわけである。

「少ないなあ」と感じるかも知れないが、天然に存在する食品のなかで、小麦胚芽油が一番多くビタミンEを含んでいる。ちなみに他の食品の例をあげれば、天ぷら油やサラダ油は100g中に30~120mgで、平均60mgくらい。ごま24.6mg、アーモンド16mg、ピーナッツ8.7mg、白米0.3mg、とうふ5.3mg、卵2.8mgなど、いずれも低い数字である。(東京都消費生活センター調べ。食品100gあたりの数字)

 以上から「ビタミンEを多くとるための供給源」として、ジャームオイルがスポーツマンにも一般人にも脚光をあびていることがわかる。

2.ビタミンEの効果は?

 ではビタミンEをとると、体にどんな効果があるか、医学的に公認されている項目を述べよう。

①未梢の血行を良くする。毛細血管を発達させ、体のすみずみまで血液循環をよくする。

②細胞膜を強化し、栄養素や酸素を供給しやすくする。

③酸素が異常酸化(過酸化)に関与すことを抑制し、過酸化脂質(老化の原因物質)の生成を防ぐ。

④また各種疾患や運動負荷時に認められる組織の酸素欠乏状態の改善に寄与する。つまりスタミナが続く。

⑤上垂体--副腎系に作用して、ホルモン分泌のアンバランスを再調整する。

⑥血管内皮細胞膜を強めて、血管抵抗性をよくする。俗にコレステロールを減らし、血圧を下げると言われ、実際にこれを確認するデータも発表されている。

 以上は「全訂医薬品要覧」に基づいたが、医家向けの専門書にも共通していることは言うまでもない。そして、次のような適応症が示されている。

 未梢循環障害(脳率中後遺症。高血圧症、高脂血症などを含む。また凍瘡いわゆる霜やけ、四肢冷感症にも投与される)・妊娠機能障害(排卵障害)・過酸化脂質の増加防止。

 用法・用量は、1回50~100mgを1日に2~3回服用することになっており、最大1日に約300mgのビタミンEをとることになる。

 健康食品として売る場合は、以上のような効能・効果を表示したり、宣伝することは許されていない。薬事法違反になる。したがって「美容に」「健康維持に」「スポーツマンに」といった一般的なPRしかできない。けれども実際には医薬品同等、ないしは過度な説明(口頭による説明なので証拠に残らない)がされている。

 私が知っている一例として「飲むと頭が良くなる」「精力がつきます」「高血圧がなおる」「コレステロールがとれる」「がんに良い」など、デパートや薬局で耳にすることがよくある。

3.ビタミンEに副作用はないか?

「ビタミンEは多くとっても人体に害はない」と言われてきた。実際に昭和58年に改訂される以前は「副作用は知られていない」と医家向けの要覧に述べられている。

 だが、現在版では「胃部不快感、下痢・便秘・発疹etc.」と記載されている。ビタミンEを動物実験(ラット)したデータでは、体重1kg当り150gくらい与えても死亡はしないが、といって全面的に安全といえるわけではない。
<図1>ビタミンEの消費状況

<図1>ビタミンEの消費状況

<図2>カプセル製品及び液体製品のビタミンE及びα換算トロフェロール1mg当りの価格分布

<図2>カプセル製品及び液体製品のビタミンE及びα換算トロフェロール1mg当りの価格分布

 アメリカで発行されている「薬の副作用年鑑」をみると、興味ある例が報告されている。(1979年版より抜粋)

「25歳から79歳までの血栓症静脈炎患者46名に対して、10年間にわたりビタミンE投与したところ、26例はかえって血栓がふえた。ホルモン系の異常がある人には逆効果である」「ホルモン剤を使用中の人は、同時にビタミンEをとると特に血栓ができやすい」「健康食品店で400mgのビタミンEを含むカプセルを入手し、毎日服用していた69歳の患者に全身麻酔したところ、高熱を発して手術できなかった」などである。

 河北総合病院の薬局長である加賀保子さんらが、昨年3月仙台で開催された日本薬学会で、次の例を報告されている。(医薬ジャーナル・1985年3月号より)--39歳の女性が1日100mgのビタミンEを1週間飲んだところ、まず頭痛、疲労感を訴え、体温が上昇した。同じ時期に歯科医にかかっていたが出血がとまりにくく、また胃部に不快感があった。2週間目に50mgにヘらしたら症状は軽くなり、4週間目に20mgにへらすと、体調はかえって良くなった。

 さらに昨年5月4日の各新聞は「ビタミンEで乳児大量死」というショッキングなニュースを報道している。

「ビタミンビームの中で日本でも人気の高いビタミンEを大量投与された乳児が、全米でこれまでに38名も死亡していることが米食品医薬品局(FDA)の調査で判明した。FDAが原因究明に乗り出すとともに、事態を重視した米下院政府活動委員会が公聴会を開く」という内容である。

 かねてからビタミン類の大量服用を心配していた良心的な薬剤師たちは、

「薬ならば使用制限があり、一応責任がとれる体制になっているが、最近の健康食品の行きすぎで、どんな事故が日本でも起こるかわからない。自分勝手にビタミンをとりすぎないように」と警告している。

4.ビタミンEの適正量は?

 ボディビルダーやスポーツ選手たちが使っているジャームオイルを全面的に否定するわけではない。また不安を与えることが目的でもない。

 ビタミンEには効果があることは自らも認めている。とくにボディビルの一流選手は毎日の激しいトレーニングで常識以上の栄養素が要求される。だが現実には「どこまで摂ればいいか」が不明確である。高単位の製品を飲めば飲むほどよい、と誤って理解している人が多い。

 プロティンの場合は「体重1kg当り1.8~2.2gがトレーニングしている人の適正量だ」と私は基準を設けている。ビタミンEやC等についても、正確な基準量(もしくは目安)が必要ではなかろうか?

 私なりの知見に基づいて、1日当りの必要量を述べてみよう。

①アメリカ人に必要とされるビタミンEは1日10mgである。このくらいの量は普通程度の食事をとっていれば誰でも満たされている。

 とくに最近は天然の酸化防止剤として、ビタミンEがチョコレートやスナック、ラーメンなど一般食品に広く使われている。また、バターやマーガリン、食用油にも合まれる。だから、普通人はジャームオイルをそれほど使わなくてよい。

②健康管理に使う人なら、1日に1粒(25mg)を朝に飲む。ジョギングやウェイトトレーニングする人は、その前にもう1粒(25mg)飲む。

③本格的にボディビルを1日1~2時間以上実行する人は、大粒(100mg)を朝1粒、練習30分~1時間前にもう1粒と、2回飲む。つまり1日200mgとっておけばよい。最大300mgと考えたい。

④アメリカ等で、1粒中400mg~800mgもビタミンEを含む製品があるが、その必要性は全くない。また一度に多く食べても体内へ吸収されずムダになる。栄養素は分けてとるべきである。

⑤カプセル状の製品のほか、液状びん入りや缶入りのジャームオイルが売られている。東京都の調査では、ビタミンEをとる場合、液体は割高で効果は少ないとされている。液状製品を使うより、カプセル入りのほうが有利とされている。

⑥体質によっては副作用が現われることがある。また周囲のゼラチンたんぱくが体に合わない例がある。変だと思ったら量を減らし様子をみる。それでも治らないときは使用をあきらめる。

5.ジャームオイルの問題点

 薬局で売っているビタミンE(エーザイのユベラなど)と、健康食品として売られているジャームオイルは、どちらが体に吸収されやすいだろうか?

 前記の加賀保子さんらの学界報告によると、意外にも健康食品のほうが優位なのである。

 すなわち、10名に医薬品としての酢酸トコフェロールを40mgずつ1日2回与えた組と、ジャームオイルを同量与えた組を比較すると、前者の血液中に1.5mg/dlを起えた者が1名だけなのに対し、後者は4名である。しかも総体的に前者は血中濃度が増えなかったのに、後者はすべて増加していることがわかった。

 この理由として、①ジャームオイルにはビタミンEの吸収をよくするリノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸が合まれてる。ジャームオイルは天然型のビタミンEのため活性が高い。③レシチンを含んでいる製品はさらに体内への吸収が高まる等が考えられる。

 逆にいえば、天然でなく、合成ビタミンEを配合している製品は、体内への吸収が悪く、活性が低いと言える。また、ビタミンE濃度だけが異常に高い製品(1粒で400mgとか800mgのもの)は結局、体内に利用されずムダと言える。

 先の東京都消費生活センターが実施した試買テストの結果が興味ぶかい。

 都内デパート、スーパー、薬局からカプセル製品43銘柄と、液体製品8銘柄を購入し、ビタミンEなどが表示どおり含まれているかどうか、検査したところ、次の通りであった。

①表示しているビタミンEより少ない製品が、カプセルで9品、液体で3品あった。この中にはスポーツマン向けにジム等で売られている製品が入っている。また1社の品は31%も不足。

②天然ビタミンEでなく、合成ビタミンEを使っているメーカーが1社あった。前述のように効果は少ない。

③カプセル1粒中に含まれるビタミンE量は0.2~161mgまで大きな幅があった。同じ1粒でも効果は全然ちがう。

④ビタミンEとってもα、β、γ、δ別のトコフェロールにより、カ価は異なる。米国の標準にならってα=1、β=0.5、γ=0.1、δ=0.01として、銘柄ごとにα換算トコフェロール値を算出した。(当然αの%が多い製品ほど、同じビタミンEでも効果が大きいのである)

 その結果、カプセル内容液1g中の含有量は0.5~396.6mg実に大きな差が見られた。(約800倍も!)

 また、1粒当り0.1~138.8mgの差があることがわかった。

⑤最終的にα換算トコフェロール1mg当り何円になるか調査したところ、安い製品で0.3円、高い製品で280円となった。(図2参照)

⑥全般的にレーベルの表示が不親切でわかりにくい。また内容量を示していない製品もあった。

--これでわかるように、銘柄により、含有量も価格も大きな差がある。自分が使っている製品はどうなのか、よくよく見直してほしい。

 良心的なメーカーなら、公的検査機関で、定期的に分析をおこない、含有量が表示どおり入っている証明書をコピーしてくれる。いい加減のメーカーはズサンで、分折もしていない。

 読者の中に「天然の小麦胚芽油中にビタミンEは0.2~0.3%しか含まれていない。1g中に2~3mgのはずだ。それなのにカプセル入りや液体びん入りの濃度が高いのはなぜか?」と疑問に思う人がいるかも知れない。

 スポーツ用として売られている製品(国内)は、1カプセル中に小麦胚芽油が0.8g。このうち97mgがビタミンE、そしてビタミンEの約80%がα-トコフェロールである。1g中に120mgもビタミンEが含まれるわけで、天然の40~60倍になっている。

 また、一般用は1粒中250mgの小麦胚芽油を含み、その10%つまり25mgがビタミンEである。1g中になおすと100mgとなり、天然の30~50倍になっている。メーカーによって倍率は異なり、東京都のデータのように少ない製品もあるが、大体はビタミンEが強化されている。

「ではこのビタミンEは何か?」となるが、天然の大豆や落花生から得ている場合が多い。化学的合成品であるdl酢酸トコフェロールを使うメーカーがあるけれど、前記の分析のようにガスクロマトグラフィーに証拠が現われる。検査すれば判ってしまうのだ。そして体内への吸収が悪いので、良心的なジャームオイルとはいえない。

 なお、小麦胚芽油を得る方法としてヘキサン等の石油から得られた溶剤で抽出する方法と、高圧でプレスしてとる方法がある。前者は石油成分が残る心配があるが、何回も洗浄を反復するので一応は安心とされる。国内の優良メーカーは圧搾法で小麦胚芽油を得ている。

 以上から「天然法でとれた小麦胚芽油に天然のビタミンEを強化した製品が一番よい」ということになる。

6.なぜ日本の製品は高いのか?

 外国に出かけた人たちは、プロティンやビタミンE、ビタミンCなどが日本の半額以下の値段で買えることに驚く。「安いから」とお土産にしたり、外国在住者に送金して買ってもらう人が増えている。

 健康食新聞という業界紙にさえ「日本の健康食品は高すぎ、おかしい」と記事がのっている。本当にそうだと思うが、理由としては次の1~6が考えられる。

①ブームになる以前は、作っても売れずコスト高になっていた。広告宣伝費などに費用がかかった。

②薬局で売ってもらうためには、薬並みのマージンを与えねばならず、小売価格を高くせざるを得なぃ。

③マルチ商法のように、段階的にマージンを与えるシステムの場合も必然的に末端価格は高くなる。30%引で入手しても一般市販品よりまだ高いほどだ。

④アメリカやドイツは原料産出国であるが、日本は原料を輸入しており、運賃や関税が高くつく。

⑤日本のほうが包装に費用をかけている。材料費も人件費も高くつく。

⑥日本人は「高い製品ほど良い製品」と誤解しやすい。同じ内容なのに割高なものを買っても気付かない。また表示をよく見たり、比較しないので、悪いのに売れている例がいくつもある。

 --このように、健康食品の実状は決して満足できるものではない。こんな状態では長つづきは困離である。カッパブックスに日経流通新聞編「昭和60年感覚」という本がある。この本をみると、「アメリカではビタミンブームはもう終った」と書かれている。これは専門紙の健康食新聞でも認めていることである。

 以前、読売新聞が「薬価の内幕」をシリーズでのせ、キャンペーンを張ったことがある。その結果、薬価はだんだん常識価格に近づいてきている。

 健康食品も同じ道をたどる運命にある。先の東京都の調査でわかるように「内容が伴わない低品質の製品が、大きな有名会社から、高い価格で卸され、一流デパートなどで売られている」という事実は、やがて消費者の失望を買うことになる。残るのは良心的で、内容の良い品質を少しでも安く提供する会社だけ。

 最終的には東京都の調査方法のように、ビタミンE1mgとるのに何円につくか、理想としてはα-トコフェロール1mgとるのに何円につくか、自分で計算してみることだ。α-トコフェロール1mgあたり0.7円くらいなら納得できるが、それ以上高い製品を使うのはよく考えなおしたい。

 表示が不十分で、このような計算ができない製品も多い。これでは困る。日本食品分折センター等で有料で検査をしてくれるが高くつく。

 外国からジャームオイルなどを買うのはよいが、運賃や手数料を考えるとかえって高くなることがある。現地で自分で買う場合も12個ぐらいまでなら税金がかからないが、多いとトラブルになる。また力価が高すぎ、吸収されなかったり、日本人の体質に合わなかったり、添加物が使われていたり、問題は多い。事故がおこっても責任をとってもらえない。

 なるべく信頼でき、安価で良い製品に出会い、愛用してほしいと願うのみである。
月刊ボディビルディング1985年5月号

Recommend