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ビギナーのためのやさしい栄養講座 ◎持久力をつける食事法 ◎うまく減量する食事法 ◎もっと食事に関心をもとう ◎水の上手な飲み方

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月刊ボディビルディング1985年5月号
掲載日:2021.05.28
ヘルスインストラクター 野 沢 秀 雄

“持久力(スタミナ)をつける食事法”

◇練習ですぐアゴが出る

「友人に誘われてトレーニング・ジムに入会して約2カ月になります。もともと体が貧弱で体力もなく、せめて人並みの体になりたい一心で、1日おきにジムに通っています。そして、コーチに指示された初心者用のコースを実施するのですが、途中で苦しくなってきてとても全部をこなすことはできません。とくに私の場合は、持久力(スタミナ)がないのです。

 私と同じ頃に入会し、同じような体格の人が平気でやっているのに、私は心臓がドキドキとはずんだり、筋肉がいうことをきかなくなったりして、途中でダウンしてしまうのです。入会前に医師に精密検査をしてもらったのですが、どこも悪いところはないということでした。

 ふだんの食事はごく一般的なものですが、食事法の改善でなんとかスタミナのある体にすることはできないものでしょうか」

--ある読者からの手紙である。体力のある人はどんどんいい体になっていくのに、体力のない者はとり残されて落伍していく。トレーニング量で補いたいと思ってもスタミナがつづかない、という気持がよくわかる。

 そして、質問者自身が気付いているように、食事法を改善して、あせらずにじっくりとトレーニングを積んでいくことによって、必ずたくましい体に変身することは可能である。

◇食事内容がポイント

 手紙を寄せられたみなさんに調査用紙を送り、毎日どんな食事をしているか、アンケートをとった。多数の方々から報告をいただいたが、その中にはスタミナが不足していると思われる人がかなりたくさん見受けられたので、それらを参考にして解説をすすめることにする。

 まず、朝食・昼食・夕食・間食に何をどのくらい食べているかのリストをつくり、これに基づいてカロリー、タンパク質、脂肪、炭水化物の量を計算してみた。

 その結果、まず食事について無関心の人が多いのが目についた。「腹がすいたら、家の人がつくったありあわせの食事を食べ、とくに何を食べたいというような注文はしない」という人が大部分だ。また、街で売っているコーラやコーヒー、菓子パンやスナック類をよく食べている。

 極端な例だが、次のメニューは実際にボディビルを毎日実施しているある若者の食事法である。

<朝食>ごはん3杯、わかめのみそ汁1杯、たくわん少々、お茶3杯

<昼食>ごはん2杯、野菜の天ぷら1皿、アイスクリーム1個

<夕食>ごはん2杯、野菜の煮物・漬物、お茶3杯

<間食>オレンジジュース1缶、だんご1皿

「戦時中ではあるまいし、こんな片寄った食事を食べているはずはない」と不思議に思い、問い合せてみると「間違いありません」という返事だ。

 このメニューを計算してみると、カロリー2,200、タンパク質はわずか40gだ。身長163cm、体重57kgというから体重1kg当りのタンパク質量は0.7gにすぎない。10代の成長期で、しかも激しいスポーツを毎日しており、これでは「バテやすい」「体力がつかない」というのも当然であろう。

 このような食事でさらに問題となることは、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が大幅に不足することだ。持久力を増すためには、タンパク質と同時にビタミンB1、B2、B6、C、パントテン酸、カルシウム、カリウムなど、微量だが体内の化学反応をスムーズに進める栄養素が必要である。これらが総合的な力を発揮して、筋肉や骨、内臟、神経などをじょうぶに強くしていくわけだ。

◇生れつきの体質も改善できる

「オレは生れつき体が弱かったから仕方がない」とあきらめてしまう人がいると思うが、実は「遺伝」より「育てられた家庭環境」のほうが大きく影響を及ぼしている。

 つまり、家庭の主婦が、どれだけ食事や栄養に関心を持ち、子供たちに充分なタンパク質やカルシウムなどの多い食品を与えてきたかが、成長する過程で体格や体力に大きな影響を与えているのだ。

 気付くのが早く、幸運にもこの記事を読んだ人は「自分は毎日何をどれ位食べているか」を食品成分表などを使って検討してみるがいい。アメリカの若者は自分で本や雑誌を読んで食事に関する知識を身に付けており、自然食や健康食にも関心が深いといわれている。「自分の体は自分でつくっていく」という気概をもって、バランスよく栄養がとれるような食品を選んで食べていただきたい。
〔表1〕ビタミンB1を多く含む食品

〔表1〕ビタミンB1を多く含む食品

◇スタミナをつける食品

 まずスタミナをつけるにはビタミンB1が絶対に不可欠である。筋肉が疲労せずに、くりかえし運動するのをスムーズにしてくれるからだ。ビタミンB1を多く含む食品としては〔表1〕のように、豚肉、レバー、ハム、たらこ、落花生、枝豆、セロリ、アスパラガス、あじ、さばなどがあげられる。逆に、コーラ、ソーダ水、カップめん、スナック、ケーキ、和菓子などは砂糖が主成分で、これらはB1、を消耗するので好ましくない。

 その次に必要なのはビタミンEだ。体内くまなく酸素が到達する役目を果し、筋肉持久力を高めることが報告されている。ビタミンEを多く含む食品は小麦胚芽油(ジャームオイル)、マーガリン、植物油、ピーナッツ、卵、レバーなどである。

 第3は筋肉細胞そのものを大きくするのに必要なタンパク質を十分に摂ることだ。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品、缶詰製品、それにプロティンなどが有効なことはいうまでもない。

 このほかビタミンCやクエン酸なども持久力向上に貢献する栄養である。「そんなにあれもこれも食べるのはとても無理だ」と心配する人があるかもしれない。だが安心するがいい。毎日の食事を全部急に変えなくても、次にあげるような食品を1品か2品、食卓に加えていくだけでいい。

 たとえば、家族と一緒の食事のほかに、今日は納豆とチーズ、明日はサバの缶詰、というように、ちょっと工夫して自分のメニューを加えていく。あるいは渋皮のついたピーナッツや、市販のヘルスフードを採用したり、というようにすればいい。

“うまく減量する食事法”

◇やせる常識のウソ

「こうやればやせられる」と宣伝文句にうたってあるのを信じて、実際におこなってみると全然体重が減らなかったり、逆に体重が増えてしまったという話をよく聞く。

 たとえば、サウナ風呂。ボクサーたちが減量に用いるので、一般の人や女性にも人気が出ている。

 確かに体重計で測定すると1kgくらいは減る。高温でどんどん汗を流すのだから当然だ。ところが風呂からあがってビールやコーラを飲めばすぐに元に戻ってしまう。これではなんにもならない。体のあちこちに付着している脂肪がとれないと本当の減量とはいえないわけだ。

「ジャズダンスやエアロビクスダンスをすればやせる」と信じている人も多い。時間とお金をかけて、やせる教室に入会し、せっせと練習にはげむのはいいが、終った後や、家に帰ってからが問題だ。

「今日は運動したので腹がペコペコ。ごはんがうまいや」とつい食べすぎてしまう。笑い話ではなく、本当にある話だ。

 以前、ある「やせる教室」のカルテを詳細に調べたことがある。入会して3~4カ月たって体重がいくらかでも減ったのは約3割。中には逆にふえている人もいる。

「食事についてのアドバイスはしていないようですね」と指摘したところ、まさにその通りであった。トレーニングと食事法は、双方ともに関係が深く、太るのもやせるのも総合的に考えなくては効果があがらない。

◇無理な減量法は危険

「10日で5kg無理なくやせる」なんていう広告が新聞にのっていた。スタイルを気にする女性や中年太りの人、あるいはスポーツ選手で太りぎみで動きのにぶい人は、ついキャッチフレーズにつられて実行してみるが、とても10日で5kgも減量できるわけがない。

 詳しく調査してみると「90kgの人が5kgやせたとか、82kgの婦人が5kgやせた」というのだ。同じ5kgの減量といっても超デブの人と、50~60kg台の人とでは条件がまるでちがう。

「薬局の人の指示で、わけのわからない酵素を飲んで、飲まず食わずの生活をしました。3日目の夜、風呂に入っているとき目まいを起こし倒れてしまいました。貧血になったのです。それ以来、現在も体調がよくありません」と、ある学生は私に手紙を書いて送ってきた。

 これは、こわいことだが「拒食症」といって「やせるためには食べなければいい」と単純に信じて、骨と皮になり、精神病院に入れられる人がふえているという。

 ここまでくればゆきすぎだ。いくら減量したいからといっても、体をつくり、エネルギー源となる必要最少限の栄養素だけは毎日とらないと、破たんがくるのは当然である。

「標準体重」という数字に問題があるともいわれている。同じ身長でも骨太の人、筋肉のない人、脂肪の多い人少ない人、水ぶとりでブヨブヨしている人というように「体質」によりまるでちがってくる。骨が太くて筋肉質の人なら、標準体重より多くても何ら問題はない。骨格の割に水分や脂肪が多すぎる場合が、スポーツをやるときや、成人病に関連して問題なのだ。

◇1週間が決め手

 以上でわかるように、体の内外に付着している脂肪をうまく除くことがポイントでなければならない。身体や血液を構成しているタンパク質まで損ってしまう減量法は危険である。

 やせたい人は腹をつまんで何cmあるかをまず測ってみるがいい。

 ヘソの横1~2cmのところを両指ではさみ、厚さをメジャーで測定する。「男性1㎝、女性2㎝」が平均である。マンガ本や電話帳の厚さがある人は、脂肪をとるために次のような方法を実行されたい。期間は1週間。これだけで相当に脂肪がとれ、体が軽くなる。〔別表参照〕

①第1日目は朝食だけにする。昼食と夕食はお茶のみ。もちろん間食も食べない。この日の夜がひもじいが、早くふとんに入って寝てしまう。ここがガマンのしどころ。

②2日目~7日目は3食きちんと食べていい。ただし、野菜と牛乳が主体で、卵・チーズ・納豆・魚・肉などは少しずつ食べる程度にする。

③1週間の間、腹筋運動を毎日100回実施する。とくに、夕方の空腹でたまらないときにトレーニングすれば体の各所に付着している脂肪がエネルギー源として消耗されてスマートな体になる。
④毎日きまった時間に体重を測ったり腹部の脂肪の厚さを測定しておく。1日1日と減少していくのが判り、おもしろくなる。

⑤1週間でストップする。うまく減量していても、継続しすぎると危険なので、必ず停止して、翌日からは普通の食事に戻す。
◇1週間の減量テスト例

◇1週間の減量テスト例

◇無理なく減量できるのは?

 いま述べた1週間の減量コースを見て「ずいぶん簡単そうだが、ほんとうに効果があるのだろうか?」と思う人もいるだろう。タンパク質と野菜を毎日とっているので貧血の危険はないし通常どおり会社にいって仕事をしたり学校で勉強したり、スポーツ練習をしてもまったくだいじょうぶ。

 もし、1週間やってみて、思うような効果が得られなかった人は、しばらく期間をあけてから、再度この方法を実行するとよい。

 こうしてうまく減量できたあと、その体重を維持するには、毎日、腹筋運動を続けるほか、次のような食事面の配慮が望ましい。

①間食はとらない。とくにコーラやソーダ、ジュースは不可。

②食事は普通の人と逆の順序にする。つまり、まずお茶、もしくは水を飲む。次に生野菜をたっぷり食べ、デザートの果物を食べてから、副食の肉や魚に手をつける。最後に少量だけごはんを食べる。

③佃煮、漬物、わさび漬けなどは買わない。あるとついごはんを食べすぎることになる。

④茶わんや皿は小さな物にかえる。

⑤テレビを見ながら食べない。

⑥食事が終ったらサッサとテーブルを片づけてしまう。残っていると、つい手を出してしまう。

“もっと食事に関心をもとう”

◇“ドンブリめし”ではダメ

「腹がへったなあ。アンパンでも食べようか、それともカップラーメンにしようか」などと言いながら下校する学生をよく見かける。そして、商店街で菓子パンや中華まんじゅう、立ち食いソバなどをパクパク食べている姿はいかにも健康的であるが、成長期の若者にとって「本当に体のためになっているのだろうか?」と考えると、いささか心配である。

 たしかに食欲は満たされるが、でんぷん質ばかりいくら食べても、血や肉となるタンパク質やビタミン、ミネラルなどが不足するので、本当の体力づくりには結びつかない。

 食事のとり方が悪いと、せっかく食べても「少しも体重がふえない」「すぐ疲れる」「めまいを起こす」「カゼをひきやすい」といった事態になる。

 こうした「悪い食事法」を直し、本当に健康的な体力を養成するためには食事法そのものの大変革が必要だ。

◇身体は刻々と変化している

 あなたの爪を見てみよう。のびている人はいないかな?ヒゲはどうか?髪の毛は?--こんな外からわかる現象だけを見ても「私たちの身体は毎日毎日変化している」ことが分るだろう。

 つまり、見た目には同じように見える私の身体も、実は常に新しい細胞がつくられ、同時に古くなった細胞がこわされて、モーレツなスピードで変化しているのだ。風呂でゴシゴシこすって出てくるアカは古い細胞のなれの果てである。

 身体表面だけでなく、内臓や筋肉、血管、血液なども同じように常に入れかわりを行なっている。

 次の表は、体の組織の半分が何日で入れ替わるかを示したものである。
記事画像3
 全身平均80日ということは、約3カ月で体の半分がまったく新しくなることを意味している。文字どおり「昨日の自分は今日の自分ではない」ということになる。

 このことはまた「食事法を改善し、懸命にトレーニングすれば、3か月ぐらいで体が相当に変化する」ということを裏づけるデータでもある。

 もうひとつ重要なことは、私たちの身体をつくる組織は、すべてタンパク質でできていることだ。そして、その組織をつくるタンパク質が時々刻々と変化しているのだ。しかも、その源となるのは毎日食べる食事中のタンパク質である。「タンパク質を重視しろ」といわれるのはこの理由による。

◇1カロリーのエネルギーは?

「この食事は○○カロリーある」とよくいわれる。〔注:一般にカロリーといわれているのは、正しくはkcal、つまりキロ・カロリーのことである〕

 1カロリーを仕事量に換算すると、「1kgの物体を426mの高さに持ちあげる仕事量に等しい」といわれている。「426kgの物体を1mの高さに持ちあげる仕事量に等しい」といってもよい。
 わずかスプーン1杯(3g)の砂糖が12カロリー持つから、少量の砂糖といえどもすごいエネルギーになることがわかる。私たちは毎日2000~3000カロリーの食事量をとっていることから毎日何万トンもの重量をあげる仕事をしていることになる。

 つまり、体の内部で消化したり、筋肉を合成したり、あるいは仕事をしたり、運動をしたりするエネルギーは実はたいへんな量であることが判る。

 毎日毎日、なにげなく食物を口にしたりしているが、カロリーの大きさやタンパク質の変化、あるいは微量に含まれるビタミンやミネラルの大切さなど、科学的にみればひじょうに重要である。

 次に主な食事に含まれるカロリーとタンパク質量を示すので、参考にしてほしい。
記事画像4

◇さてあなたの食事は?

 私はボディビルダーばかりでなく、他のスポーツ選手からも食事に関する相談をよくうける。

 それらの選手の食事法を聞いてみると、ひどくアンバランスで「体を大きくしたい」「体重をふやしたい」と希望していながら、「朝食は食べない、昼食はカレーうどんとコーヒー、夜はカッドンにみそ汁とおしんこ、間食にインスタントラーメン、コーラ」といったような食事内容の人が多い。これでは当然タンパク質は不足するし、ビタミンやミネラルも大幅に不足だ。

 新聞の報道によると「近ごろの若者はインスタント食品やコーラ、ソーダを愛用し、腹はふくれても本当に健康に役立つ栄養素をとっていない。そのためすぐ骨折したり、貧血でたおれたり、関節が痛んだり、いろいろな症状になっている」という。私の心配していることがまさに現実となってあらわれてきているのだ。

 とくにスポーツを行なって体力を消耗する人ほど、良い内容の食事をとっていただきたい。ちょっと食事内容を変えただけで、メキメキ効果のあらわれた例が多い。

 最後に、年齢別に必要なカロリーとタンパク質量をあげておく。これは一般の人ではなく、激しい練習を毎日実施している人の例として計算してあるので、毎日の食事のメニューをつくるときの参考としていただきたい。
記事画像5

”水の上手な飲み方”

◇水はこんなに大切

 毎日の生活に水は欠かせない。顔を洗って歯をみがき、お茶を飲む。米をとぎ、みそ汁やおかずをつくる。パン食のときならコーヒーや紅茶を飲む。それだけで1人約1リットルの水を使う。

 昼になり、また水の世話になって昼食をする。午後トレーニングしたらシャワーを浴び、ノドがかわいたら「ゴクン、ゴクン」と水を飲む。

 そして夕食。また水の世話になり、最後が入浴。「いい湯だな」などとタップリ使うとすぐ10リットルくらい消費してしまう。湯あがりにウイスキーを水割りにしたり、子供はカルピスを水でうすめたり、奥さんは紅茶を飲むという具合で、1軒当り1日に50~100リットルの消費にすぐなってしまう。

◇体の成分の60%は水

 まず次の〔表1〕を見ていただこう。成人の人体を構成する成分を男女別に示したものだが、年令が低い幼児や少年少女は「みずみずしい」といわれるように、この表の数字よりもいっそう水分が多い。そして年令が高くなるにつれて水分が細胞から失われ、シワが目立つようになる。また、脂肪の少ない男性のほうが、女性より水分が多いことがわかるだろう。
〔表1〕人体を構成する成分比率

〔表1〕人体を構成する成分比率

 〔表2〕は体内に入る水と出る水のバランスを示したものである。これはあくまでも平均的なもので、激しいトレニングをしたり、子供などのように遊びまわって汗をかくと、当然もっと多くなる。その1例として、スポーツと汗の量の関係を〔表3〕に示した。
〔表2〕1日当りの水の摂取と排水※代謝水とは、体内で栄養にかわるときに出てくる水分のこと。

〔表2〕1日当りの水の摂取と排水※代謝水とは、体内で栄養にかわるときに出てくる水分のこと。

〔表3〕スポーツと汗の量

〔表3〕スポーツと汗の量

◇水分のとり方で体調がわかる

 スポーツマンの場合、水分のとり方がいいか悪いかによってコンディションが決まるといっても過言ではない。夏バテをした選手を調べると、たいてい①飲水量が多い、②汗の量が多い、③食塩のとり方が少ない、という事実が報告されている。

 ノドが渇いたときにコーラやジュースを飲む人が多いが、いずれも砂糖が1缶に25~35g(大さじ約3杯分)も含まれているので、これらの飲みすぎは特に注意が必要だ。糖分のとりすぎはカルシウムやビタミン類の不足につながるので、かえってマイナスの効果が大きい。

 栄養やカロリーの点からいって、ノドが渇いたときには牛乳や豆乳、あるいはこれらに栄養補助食品であるプロティンパウダーを溶かしたプロティンドリンクを飲むのがスポーツマンにとっては好ましい。

 また最近は、各食品メーカーから様々な“スポーツドリンク”が発売されている。このスポーツドリンクの中には水分を素早く吸収させ、ビタミンやミネラルなど、汗と一緒に失われてしまう微量栄養素を含んでいるものもあるので、使ってみるのもよいだろう。

◇水を制限して死亡した例

 ある高校の夏期合宿中でのことである。「お前らはたるんどるから、しょっちゅう水が飲みたくなるんだ。水を飲むと体が重くなって、よけいバテやすくなる。水を飲まなくても練習を続けられるように、体質をなおさんといかん!」と恐い先輩の叱咤がとぶ。

 なるほど砂漠のラクダやサボテンは少量の水で生きていけるように適応している。

「水というものは、飲んですぐ吸収されるものではない。口やノドを通って胃に入り、腸までいって初めて体に吸収されるのだ。この間に何時間もかかるから、水をいくら飲んでも渇きはすぐに止まらない。すぐまたノドが渇くだけだ……」と先輩の話は続く。

 --こんな状況で毎日練習が続けられ、次第に汗をかきにくくなったのは事実であるが、合宿もあと2日を残すという日になって、暑いなかのランニングを命じられた高校生がバタバタ倒れた。そして中にはついに帰らぬ人となってしまった高校生も出た。

◇効果的な水の飲み方

 それでは、どんな時に、どのように水を飲めばよいのだろうか。次に具体的な水の飲み方をあげてみよう。

①暑熱時の水分補給

 決して一気にガブ飲みしてはいけない。コップ1杯の水をゆっくりと落ち着いて飲む。冷たい水を一度に大量に飲むと腹部は冷やすし、必要以上に発汗を促進させてしまう。

 一時に飲む水の量は、多くてコップ2杯まで。それもゆっくりと。なお、異常なノドの渇きには、少量の塩水や牛乳がよく効くこともある。

②激しいトレーニングのあとでは

 前項と同様の飲み方をする。発汗が少ない場合は、急に水分を補給せず、しばらくおいて疲労が回腹したあと、少量ずつゆっくり飲む。

③睡眠直前、空服時は

 睡眠直前に水を飲むのは、これまで一般によくないとされていたが、最近は、少量ならさしつかえないと考えられるようになった。

 また、満腹や絶食のあとではつつしむ必要があるが、適度の空腹ならコップ1杯くらいの飲水は頭部のうっ血を放下し、腹部の安定感をよくするので、かえって望ましい。

④疲れがひどいとき

 こんなときこそ適量の飲水が何より必要である。水を飲むことによって、情緒的に新鮮な気分をよみがえらせ、身体的にも老廃物を排除し、内臓器管の機能に新しい活性を与えてくれる。

 生水を1~2杯飲むことは、疲労回復にきわめて有効で、しばらく休憩したあとで自然水を飲めば、蓄積した疲労物質の排除に役立つばかりでなく、全身の新陳代謝をよくして各組織にエネルギーと栄養を補給することにつながる。

⑤食前の飲水

 西洋式のオードブルとはまた違った意味がある。すなわち、胃のウォミングアップ作用によって、消化器系の働きを活発にする。しかし、これは通常コップ半分くらい、ときによってはひと口かふた口で十分。理想としては食前30分前くらいに生水を飲むのがよい。

◇食塩の摂りすぎは考えもの

「汗と同時に塩分が失われるから、食塩をなめなさい」と言われたものだ。ところが、食塩をなめすぎて、かえってノドが渇いてこまる、といったマイナス面が出てくる。

 私たちの体液は、海水とほぼ等しい3%の食塩濃度に保たれている。「食塩をとりすぎると、水が飲みたくなる」というのは、この塩分濃度を3%に保つために体が水分を要求しているということで、これは生理的に当然である。

 ビールやウイスキーなどのおつまみにピーナッツやさきイカ、うに、塩からなど、塩分が多いものがよく合い、おいしく感じられるのもこのためだ。「せっかくやせようと思って、お茶と梅ぼししか食べないのに、少しも体重が減らない」と嘆く人がいる。そんな人は水分が多くなって水ぶくれになっているのだ。体をキリッと引きしめたい人は、食事内容と同時に味つけなどにも注意していただきたい。
月刊ボディビルディング1985年5月号

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