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“ボディビルディングのすすめ”

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月刊ボディビルディング1985年6月号
掲載日:2021.06.10
 セックスを売り物にするある外国の男の話である。何かの雑誌で「その方面の体力をつけるには腕立て伏せがたいへん役に立つ」と述べているのが目につき「ああ、やっぱりそうか」と同感の意を強くした。

 腕立て伏せは、何もセックスばかりでなく、体力全体を強くする重要なトレーニング法の1つなのだが、この男は、たまたま商売の道で、この効用を発見したのだろう。

 なぜ、腕立て伏せが、それほど体力向上に効きめがあるのか。その理由は簡単だ。腕立て伏せをすることによって、血行がよくなり、体内のすみずみにまで栄養がゆき渡り、内臓の機能が活発になってくる。その結果、全身の色つやがよくなってくる。筋肉は腕の筋肉をはじめ、腹筋、三角筋など、すべての筋肉が動員されて発達する。これで体力がつかなければおかしい。

 ベンチプレス、アップライト・ロー、カールなど、この腕立て伏せと同様の効果をあげる。

 相撲がおそらく、代表的な脚のスポーツだろう。あの出足というヤツ、1日や2日でつくものではない。毎日、毎日、シコをふみ、ぶつかり稽古を重ね、関取衆の胸を借りてはじめて身についてくる。

 腕をやるなら、ついでに脚の方もやったらいい。スクワットが、この相撲のシコに当る。これをやると脚・腰が発達し、厚味もぐんと加わる。

 ついでの話だが、脚の発達を試すには、100円硬貨を3~4枚、大モモの間とフクラハギの間にはさんで、どの程度しっかりとはさむことが出来るかで、様子がわかる。ヤセてくると、太モモのスキ間がひどくなり、老化現象のひどさが目についてくる。いきおい体力、スタミナも衰えてくる。

 すでに知られているように、人間の老化は脚・腰の衰えからはじまる。上体はヤセていても、下半身が頑丈の人は若々しく、体力も強い。つづいて老化は目、歯におよんでくる。こうした老化を防ぐためにも脚は大事だ。

 いま大はやりのゴルフも、もとはといえば老人の退化防止スポーツだ。コースを1日5キロ、10キロと歩き回ることによって自然に脚・腰が鍛えられる。

 ボディビルディングの基本は、この脚・腰はもちろん、胸・腕・腹など、全身の筋肉をくまなく鍛えることにある。週に2~3回、それぞれの部分の運動を、いずれも10回程度持ち上げ得る重量で、各3セット(1セット10回)実施し、これを数カ月続ければ、胃腸の弱かった人も、駅の階段の昇り降りですぐ息切れをした人も、やがてケロリと忘れるだろう。当然、体重もガッチリとした筋肉で5キロ、10キロと着実にふえてくる。

 働きバチといわれる日本人にとって、そう長い時間をトレーニングに費やすわけにはいかないだろう。そんなときは、せめて、毎日5分でも10分でもいいから、腰・腰・腹・胸のどれかを鍛えるだけでもけっこう。腕はいろいろな運動に関与して鍛えられる。バーベルを持つヒマのないときは、腕立て伏せ、椅子を使ってのディップス、あるいはアイソメトリックスなどをやるだけで、十分現在の体力を維持できる。

 ボディビルとは少し違うが、日本腕角力協会というのがある。会長さんは確か70歳くらいの歯医者さんだが、いかにも若々しく、体力もすごい。これも腕角力を通して、全身の体力を養成したおかげである。ある意味では、これもボディビルの1つといってもいいだろう。

 つまり、ボディビルは、なにもバーベルにとらわれる必要はないということだ。工夫さえすれば素手でも体を鍛えることができる。山歩き、ランニング、腕立て伏せ、腕角力、ナワ跳び、相撲、鉄棒、なんでもござれである。

 とにかく、心がけひとつで、我々はすばらしい健康・体格・体力を手に入れることができるのだ。(西野 博)
月刊ボディビルディング1985年6月号

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