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食事と栄養の最新トピックス[52] 食生活赤信号<17> ビタミンCはだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1985年6月号
掲載日:2021.06.14
ヘルスインストラクター 野 沢 秀 雄

1.読者からの手紙

「コーヒーはスタミナ剤で、肥満防止成分が含まれる。1日5~6杯飲んでよい」と主張する人があるが、その反対に「1日3杯以上のコーヒーは血中コレステロールを高め、心臓病を誘発する」と新聞に記事が出ています。

 また「動物性タンパクのコゲはガンになる」と言われていますが、ある本には「かなり大量に食べなければガンにならない」と報告されています。

 他にもこのような正反対の報告が多くありますが、何を食べても悪いと言われるものばかりの今日において、どのようにすれば少しでも安全に過ごせるか(いろいろな情報にまどわされないか)というような、自分なりの考え方ができるようになり、これも野沢先生のおかげだと喜こんでおります。

 この手紙は東海大学ボディビル部で活躍した田中利夫さんが、今春、社会人としてスタートするにあたり、手紙を寄せてくれた一節である。田中さんは身長184cm・体重76kgの大型選手で、大学選手権では一番最後に登場していた人である。

 その通り。筆者が願うことは一人でも多くの方が、悪い売り方をする業者に欺されずに、納得のゆく製品を選んだり、せっかくかせいだ大切な金をあまり使わずに、本当の健康な体をつくっていただきたいことである。

 考えてみれば「壮快」「私の健康」など、健康雑誌は必ず○○○が効くとか、○○の新効果とか、都合の良いプラス面しかのせない。広告やパンフレットにも一方的な利点をのせるだけである。雑誌の記事や1冊の本全部が、業者の宣伝の目的になっていることも今では珍しくない。

 実際には「使ったが効果がない」とか「逆に副作用があり困っている」といった苦情があるわけだが、これには知らぬふりで、効果があった片面ばかりを強調する。これが社会であり、仕方がないかも知れないが、筆者としては第三者として公平に判断できるデータをなるべく多く集め、読者が損をしないようにがんばりたいと思う。

2.ビタミンCの大ブーム

 ビタミンCは今でこそ健康食品として薬局以外でも購入できるが、れっきとした厚生省認可の「医薬品」だ。もちろん「医薬品要覧」などのリストにものっている。

 ビタミンCの詳しい説明は本誌に畠山晴行さんが連載されていた通りである。「わかってきたビタミンCの驚異的効果」として、次のような点があげられる。

①ビタミンCはガン予防、成人病ストップに効果。

②カゼに対する抵抗力を増す。

③子供の知能指数がアップする。

④傷やヤケドの治りを早くする。

⑤骨折を防ぎ骨折の治りを早める。

⑥アレルギー病がビタミンCで軽くなる。

⑦妊娠中と授乳期にはビタミンCをとるとよい。

⑧ビタミンCにはコレステロールを下げる働きがある。

⑨糖尿病にも有効なビタミンC。

⑩目の老化防止にビタミンCがよい。

⑪ストレスに打ち勝つにはビタミンCが有効。

⑫歯の健康にも役立つビタミンC。

⑬ビタミンCの不足は精神分裂病の一因になる。

 昭和56年春にNHKがビタミンCの効果について番組でとりあげたため、全国にビタミンCの大ブームが巻きおこった。現在、医薬品メーカーはもちろん、化粧品会社、食品会社、ビール会社、化学メーカー、石油業者までビタミンCを自社ブランドで売り出しているほど。昔からの健康自然食品会社も「天然ビタミンC」を売りまくっている。訪問販売や通信販売、イモづる式の会員販売も盛んである。

「ビタミンの大量投与療法(メガドース)」という途方もない主張をする人たちがいて、マスコミに乗り、販路を広げている。

 ビタミンCは本当に効果があるのだろうか?副作用はないだろうか?それにしても高すぎるのではなかろうか?

3.ガンにビタミンCは効果なし

 前述のようにビタミンCは日本では医薬品である。したがって一定の効能効果は認められている。動物実験のデータもある。

①ビタミンCの欠乏症の予防・治療。

②ビタミンCの需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(この中にはボディビルのような激しい肉体労働時の補給も含まれる)。

③ビタミンCの欠乏、または代謝障害が関与すると推定される場合(鼻血や歯肉出血・血尿など。薬物中毒・副腎皮質機能障害・骨折時の骨基質形成・肝斑・炎症後の色素沈着=いわゆる日焼・光線過敏性皮ふ炎など)についての効果と同時に、次のような副作用も明示されている。

④悪心・嘔吐・下痢など。

⑤尿路の尿酸・シュウ酸・シスチン結石を起こすことが考えられるので、大量服用は避けるべきである。(特に痛風の患者)

⑥ビタミンCの注射は血管痛を起こすことがある。速度はできるだけ遅く与える。

⑦LD50、つまり急性毒性テストをマウスでおこなうと、820~920mg/kgで半数のマウスが死亡。

 もちろん、人間に換算すると安全性は高いが、決して無害ではない。これは食塩や砂糖も同じこと。「ごはんは太るから」といって制限しているのに、そのー方で「ビタミンCは大量に飲んでも害がないから」と制限なく認めること自体、たいへん矛盾している。

「この量までならOKで、それ以上は無意味、もしくは有害」という境界線をつくるべきである。ビタミンCは必要量以上にとると、ひとりでに尿中に排出される。大量では下痢や腎結石・尿路結石をおこす。

⑧ポーリング博士は「ガンの予防と治療にビタミンCが効く」と発表したが、その後、世界各地の病院や研究所で「本当かどうか?」の確認試験がおこなわれている。カナダの大学での実験結果では残念ながら「効果なし」と発表されている。

4.ビタミンCのここが問題

 ポーリング博士のような著名な学者でも、たんに学説を述べただけでは定説とはならない。学会にデータを発表し、討議され、かつ確認のための実験を追試の型でおこない、「学説どおりの結果になる」と承認され、さらに実地に何人もの人が使い、はじめて「定説」になるわけだ。ガン退治は全世界の願いである。本当にビタミンCが目ざましく効くのなら、とっくにガンは減っているだろう。

 また、一つの製品が「医薬品」の承認を受けるには、数々の動物実験や臨床実験をおこない、安全性まで確認しなければならない。最低10億円かかると言われている。これに対し、健康食品ならふつうの食品と同じとみなされており、誰でも自由に売ることができる。(製造は食品衛生法に基づき、保健所の立入検査後許可される)

 ビタミンCは原価がキロ当り2千円余りである。これがビタミンC剤として健保適用されるときは4倍以上の1グラム当り9円になる。乳糖などと混合した製品は1グラム当り60円で原末価格の30倍近くである。

 健康食品の場合、価格はピンからキリまで幅が広い。良心的な会社は1グラムとるのに70円くらいだが、高い会社は1グラム当り167円にもなり、薬品でとる方が割安になる。

 もっとバカ高いのは「天然ビタミンCだから高いのは当り前」と、アセローラやローズヒップなどを原料にした製品を売る会社だ。自然食業界に多く見られる。通信販売もある。説明によると「アセローラはレモンやイチゴの28倍も多くビタミンCを含んでいる」「ローズヒップは40倍もビタミンCの濃度が高い」「自然のビタミンCのほうが、同時にビタミンPやKがとれて吸収されやすい」という。

 これは大きな誤りだ。28倍~40倍多いと聞くと、あたかもその製品がふつうのビタミンCに比べて28倍も40倍も含有量が多く、効果が大きいと誤解してしまう。だが何のことはない。その製品1粒当り(もしく1kg当り)ビタミンCがどれだけあるかを調べると、ビックリするほど少ない。「天然を使っている」と説明されても、分析上、まったく差が出ない。

 ビタミンEは前号のように、吸収も効果も天然がまさり、合成は劣っている。ビタミンCはポーリング博士や佐賀大学の村田教授が保証しているように、天然も合成も差がまったくない。吸収も同じである。

「天然ビタミンC」だからといわれ、グラム当り何百円もする製品を使う人は、ダマされているといっても過言ではない。

 そもそもビタミンCを一度に大量に飲んでも体にうまく吸収し、利用されるものではない。自然の野菜や果物に含まれている状態が、吸収される濃度として、ちょうど適切である。

5.ビタミンCの選び方・使い方

 繰り返すようだがビタミンCやビタミンC剤・ビタミン食品を全面的に否定するわけではない。筆者自身、毎日愛用している。カゼを引きかけてノドが痛いようなとき、ビタミンCを15粒くらい飲む。1時間おきに2~3回。すると調子はかなり良くなる。自分だけでなく、何人かの人が試しても同様である。

 また以前に、急に強い太陽の下で長時間肌を焼いたため、シミが全身にできて困ったことがあるが、ビタミンCのお陰で短期間で元に戻れたと思う。(もっとも細胞の新陳代謝のために、時間をかければビタミンCを飲まなくても誰でもシミは薄くなるのかもしれないが……)

 高利益を得ることを目的に、価格の高いビタミンCを、いい加減な説明で売りつける人たちが多いことが残念である。また、知らずに買い、大量に飲み、ムダになっている消費者が気の毒である。

「自分が飲んでいるビタミンCは1粒で何ミリとれ、価格はどうかな?」と調べても、表示されていなかったり、表示されていても本当の数字でなかったり、損をすることが多すぎる。ムードだけで(デザインやネーミング)買ってはいないか?

「原価が安いのに定価が高すぎる」と思う人が多いのは当然だが、流通のマージンや広告費、人件費など、ある程度の適正利益は認めねばなるまい。この場合も、このくらいなら認められるという一線は引けると思う。

 具体的に計算して、1日1グラムのビタミンCをとるのに80円以内ならOKとしたい。いちご・レモン・柿などの果物やパセリ・ピーマンなどの野菜だけで、1日1グラムのビタミンCをとるには80円以上かかる。合成のビタミンCでも効果は同じだから、1日当り80円余り、つまり1カ月分で2500円くらいのびん入り価格が適正な限界である。もちろん流通経費をなくし、デザインも簡素にすれば、さらに安い製品は可能である。

 現実には1日1グラム当り100円を超すメーカーが多い。あなたが使用している製品はどうだろうか?

 また1粒で300~500mgもビタミンCが含まれる錠剤が発売されている。一度に多くのビタミンCをとっても体内へ吸収されず、大部分はムダになってしまう。1日に1グラムとるとしても3回以上に分けて少しずつ食べるほうが効果がある。

 つまり1日3食の食事のあとや、トレーニング中、トレーニング後というように分割して食べたほうが効果があがる。

 風邪でノドが痛むような時は、1時間おきに2~3回にわけて300~400mg相当を飲んでみよう。

「糖分と同時にビタミンCを飲むと成分が破壊されて効果がない」と誤解している人がいる。水溶液にして保存しておいた場合のデータであり、製品として乾燥した状態ならばビタミンCと糖分が共存しても成分が破壊されることはない。

 ビタミンCは熱や光に弱い。褐色に変化しやすい。錠剤の表面にブツブツとした色がついているのはビタミンC自体である。少しくらい斑点が出ても効果はあまり変わらないが、ひどい場合は効果が低減する。製造年月日から2年以内に使用すること。

 スポーツマンのビタミンC必要量は激しいスポーツを毎日2~3時間おこなうとして、1日1グラムとれば充分である。これ以上はムダになる。

 合成ビタミンC以外に、ふつうの食品でとるなら、ピーマン・パセリなどの濃緑色野菜や、いちご・みかん・オレンジ・グレープフルーツ・柿などがよい。これらについては以前の本誌の畠山さんの記事が参考になる。

6.ビタミンCについて補足すれば

 前号で述べたアメリカで発行されている「薬の副作用年鑑」によると、ビタミンCを1日6gずつ医師から与えられ服用していた患者がいた。この患者は原因不明の偏頭痛にかかっており、運動療法とビタミンCにより回復に向っていた。ところが彼は「ビタミンCを飲まないと頭痛をおこす」というビタミンC依存症になってしまったという。一生ビタミンCを止められなくなったわけだ。

 この例のほかに、ビタミン剤の大量使用で障害が出た例が多数のせられている。これについては次回以後に「メガビタミンはだいじょうぶか?」というタイトルで詳しく検討したい。

 ビタミンCは医薬品であるのと同時に、食品添加物である。さまざまな食品に栄養強化・鮮度保持・褐変防止ビールの混濁防止などの目的で広く使われている。世界保健機構(WHO)では添加物としては好ましくないと勧告している。

 成人に1日6gずつ3カ月にわたって連用すると、下痢・嘔吐・頭痛・不眠・悪心(気分が悪くなること)などの副作用があり、幼児では皮ふの発疹がしばしば認められるという。

「ビタミンCを高濃度に含むものは食品とみなされない。医薬品として売るべきだ」という批判を逆手にとり、「それなら食品添加物として売れば良いさ」と一部の業者はビタミンCの粉末をそのまま包装して「食品添加物」の表示でデパートや健康食品店で売っている。

 この方法が認められるかどうか微妙であるが、ずるい売り方である。安ければそれに越したことはないが、よく計算しないと分らない。くれぐれも食ベすぎに注意しよう。

 この原稿を書いている昭和60年4月16日のある新聞に「ビタミンC入りのキャンデーを消費者団体が商品テストしたところ、表示通り含まれていないものが全体の4分の1もあった。レモン○個分という宣伝通りでない商品は82%もあり、問題である。

 また1粒当りのビタミンCは少ないもので0.03mg、多いもので664mgとバラツキが大きい。1粒で1日必要量50mgの13倍以上も含む製品があり、薬品として取扱うべきだ」という記事が発
表されている。

 菓子として売られているので、何mg入っているか表示していないメーカーもある。これでは自分が1日に何mgのビタミンCをとっているか計算することができない。他社品と比較することもできない。困ったことである。

 野菜や果物のような自然界にあるものなら、ビタミンCの量は差があるといっても僅かである。ところが加工食品は人為的にビタミンC量を調整できるため少ない物と多い物では2万倍もの差が出てしまう。よほど慎重に加工された製品(栄養補助食品)を選ばなければならない。さらに自然のビタミンCと合成ビタミンCは全く同じ構造式なので、検査してもわからない。(ビタミンEはわかる)この点を利用して「天然のビタミンCを使っている。だから値段は高いが体に良い」と売りつける人が何人もいる。

 本当に自然なのか区別のつけようがないので、今のところアセローラやローズヒップ入りという製品をわざわざ買わなくてよい。冷静に価格とビタミンC含有量を計算し、ムダなく合理的な製品を選び、必要量をとっていただきたい。
月刊ボディビルディング1985年6月号

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