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ボディビルダーの幸福と健康をまもるために、ボディビルダー向けの薬品その他の真実を探究するシリーズ(その10)
ステロイド無し
わがボディビルディング

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月刊ボディビルディング1981年1月号
掲載日:2020.03.26
文=ルウ・フェリーノ
(ミスター・アメリカメン、ミスター・ユニバース ウイダー健康研究所メンバー)
訳=松山令子
(IFBB・JAPAN副会長 IFBB・JAPAN国際総局)
監修と解説=後藤紀久
(国立予防衛生研究所主任研究官・医博 IFBB・JAPAN医学委員会委員長)
 以下はルウ・フェリーノがマッスル・フィットネス(以前のマッスル・ビルダー)誌上で、読者からの次のような質問に答えた文である。
“ぼくは最近、ナショナル・インクワイヤー誌上で、あなたが映画“ハルク”の仕事をつづける以上は、ステロイドの使用をつづけねばならない、と書いてあるのを読みました。そういう目的でステロイドを用いるなんて、まったく馬鹿げていると思います。そうではないでしょうか”
 全くあなたのいうとおり、そんなことは馬鹿げたことです。他の何人かのボディビルダーと同じように、ぼくもボディビルを始めた初期に、ちょっとステロイドを試したことがあった。
 しかし、ぼくの場合は、ステロイドを6週間ほど使って得た結果は、体内の水分の保有量がふえたということだけでした。たったそれだけの疑わしい効果を得るために、大切な健康を賭けるだけの値うちはないと思う。ぼくは断固としていいます。“ハルク”の撮影中にステロイドを用いたことは一度もないし、“ハルク”のプロデューサーも、一度としてぼくにステロイドを使うようにいったことはありません。
 あなたが送ってくださった記事を読んで、ぼくは非常に驚きました。早速ぼくは、自分がステロイドを用いていないことを立証しようと決めました。
 マイケル・ワルツァク博士は、ぼくの腕から血液のサンプルを2つ採取しました。そしてそれらは、符号がつけられて、他の2つの別のサンプルと共に、バークレイにあるカリフォルニヤ大学医学部へ送られ、検査されることになりました。
 ぼくの2つのサンプル以外の他の2つのうち、1つはステロイド常用者からのもの、もう1つは、全くステロイドを使用したことのない人からのものでした。
 カルフォルニヤ大学で、この4つのサンプルについて2種類の異なるステロイドのテスト(解説①ブラインド・テスト)が行なわれました。
 最初のテストは、イギリスのロジャー・バニスター博士によって開発されたスクリーニングテスト(解説②)であった。バニスター博士のテストでは、過去2カ月から3ヵ月さかのぼってのステロイドの使用を検出することができる。
 その結果、ぼくの2つのサンプルともう1人のサンプルは、ステロイドの使用に関しては陰性であった。すなわち、少なくとも、ここ2~3ヵ月は全然ステロイドを用いたことがないことが立証されたわけである。そして、あとのもう1つは陽性であった。
 第2のテストは、ガスリキッドクロマトグラフィ・テストといって、ずっと細かいことがわかるテストが行なわれたこれは、7~8カ月さかのぼった時期でのステロイドの使用が検出できる。さらに、ステロイドだけでなく他の特殊な薬剤を用いたことも同時に検出できる。
 この第2のテストの結果も、やはり最初のコンテストの結果と同じであった。そして、ステロイドを使用していた人の血液のサンプルからは、彼が使用したステロイドの種類もわかった。
 これらのテストに加えて、ぼくの顧問医は、ぼくの肝臓機能テスト(解説③)をした。もし、ぼくがステロイドを使っていたら、少なくともぼくの肝臓から出る酵素の1つは、何らかの異状をあらわしていただろう。しかし、ぼくの肝臓から出る酵素はすべて正常であった。
 これらの3種類のテストから引き出せる唯一の結論は、ぼくは決してステロイドを用いていないということである。事実、ぼくはここ何年間もステロイドを用いていない。
“ハルク・シリーズ”で、あなたがたが見られるぼくの体のすべての筋肉は自然のものであり、その方法について、ぼくがしばしば本誌上でみなさんにすすめてきたハード・トレーニングと、適切なダイエットをつづけた結果つくりあげたものである。
 どうか、ステロイドの誤った情報を信じないで、やはり、努力することによって立派なボディビルダーになってほしいと思います。それ以外に方法のないことをもう一度、はっきりと認識してほしいと思います。
<解説>…解説=医博・後藤紀久

①ブラインド・テスト(盲検法)

 どのサンプルが誰のものかを隠して、サンプルには符号のみを記し、試験者が主観的な影響を除いてデータを分析できるようにする試験法。

②スクリーニング・テスト(選別試験)

 一般的にはサンプル中に含まれる多くの物質の中から、効果が強く、毒性の弱い物質を比較して選別する方法をいう。多数の物質を同一条件下で試験するときに用いる。しかし本文にあるスクリーニング・テストが、どういうものかは不明である。

③肝臟機能テスト

 このシリーズの最初に肝臓に関しては解説したので、ここでは肝臓機能テストについてのみ解説する。
 主な肝機能検査には次のようなものがある。a胆汁排泄:血清ビリルビン、尿ビリルビン、尿ウロピリノーゲン b蛋白代謝:血清総蛋白、血清アルブミン、アルブミン/グロプリン比 c糖質代謝:ブドウ糖、ガラクトース負荷試験 d脂質代謝:血清コレステロール e血清酵素:アルカリ・ホスファターゼ、トランスアミラーゼ、などがある。
 以上の検査結果より肝疾患の鑑別ができる。しかし、肝臓はある程度の障害があっても異常所見が検出されない場合もある。

④最近、用いられているアナボリック・ステロイドの検出法

 この方法は、モントリオール・オリンピックのときから実施された、免疫学的な方法で、特別な薬物をウサギに注射して、特殊な物質をつくり、選手から採取した尿にそれを混ぜることによって、反応を見る。
 この方法によれば、十万分の一マイクログラムという微量のステロイドが検出できるが、検査に時間がかかりすぎるという難点がある。
 モスクワ・オリンピックの女子五種競技で5000点の壁を破り、5083点の世界新で金メダルを獲得したソ連のナデジダ・トカチェンコ(31才)の広い肩と女ヘラクレスのような太い腕が思い出され5、このトカチェンコは、1978年のプラハ欧州選手権で優勝したとき、この試験に引っかかり、1年6ヵ月の出場停止処分を受けている。
月刊ボディビルディング1981年1月号

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