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ボディビルダーの幸福と健康をまもるために、ボディビルダー向けの薬品その他の真実を探求するシリーズ(その12)
ステロイドの誘惑はいたるところで狙っている

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月刊ボディビルディング1981年3月号
掲載日:2020.04.27
執筆者=ケイケル・ワルツァク(ウイダー医療研究所メンバー・医学博士)
訳=松山令子
監修と解説=後藤紀久(医学博士・国立予防衛生研究所主任研究官)
 栄養学の泰斗であり、永年にわたるその研究の中で、ボディビルダーのダイエットについて広範なデータを集めてきたワルツァク医学博士が、最近のボディビルダーのステロイド汚染を深く憂い、真剣にボディビルダーの自覚をもとめ、ステロイドについての啓蒙運動を行なっている。

 多くのボディビルダーは、ステロイド、およびその他の薬剤を、標準を越える大量処方されているのがつねであって、しかも、それらを用いている間の体の状態を絶えずモニターされることもなく、使用方法を指示されることもなく、野放しの状態で使用されている。
 一例としてチロキシン(ホルモンの一種)の過大量を用いるときは、筋肉の組織を破壊させる。別の副作用としては頻脉(一般的に1分間に100以上の脉拍数の増加をいう)が起こる。それにもかかわらず、いまなお多くのボディビルダーが、医師たちからのチロキシンの過大量を処方される例があとを絶たない。
 理想的には、すべてのボディビルダーは、病気を治療するための薬以外はどんな薬品も用いるべきではない。ステロイドの唯一の働きは、窒素を体内に保留させ、そのことによって、より多量の蛋白質を体留させて筋肉を発達させるのに役立つということである。しかし、これが出来るのは極めて微量である。危険をおかしてまで使用するだけの役には立たない。

 私が過去15年間つづけてきた仕事は第一が、栄養と代謝の分野であって、私はずっと、世界的なボディビルダーたちの成果と取り組み、バランスのとれた健康的なダイエットの効果を記録しつづけてきた。
 この仕事の間で、私が気づいたことは、残念にも、ボディビルダーの中には、肝臓やその他の重要な臓器を正しく働かせるためには、栄養的に正しい食事と、ビタミンやミネラルを補給することが公要であることを重要視していない人が何人かいるということである。人間の体は、最高の新陳代謝の状態で機能されることが好ましい。
 体の新陳代謝が最高の状態になるまでは、いくらエクササイズをしても、ダイエットをしても、薬を飲んでも、にぶい反応しか起らない。
 このような反応のにぶい状態というのは、多くの人が不必要な薬を大量に用いることから起こっていることを私は確信している。人間は新陳代謝機能が衰えた時に、はじめてその回復をはかるために、必要な薬を必要な分量だけ用いればよいのである。


 ここで、ボディビルダーの諸君に、最も重要な知っておいてほしいことを話そう。それは、ボディビルディングのトレーニングと切つても切れない関係にあるダイエットについてである。肝臓の機能は、ゼロ炭水化物のダイエットを実行すれば衰える。そして、そのダイエットはガンの原因にもなる、と信じている研究者たちもいる。
 私は、かつてゼロ炭水化物ダイエットを実行した人を実際に知っているがそのダイエットでは、その人は脂肪を除去することができなかった。
 あるボディビルダーは、牛肉・卵・水というダイエットを1年半つづけたが、その人のミッド・セクション(腹部やウエスト)の脂肪はどうしても落ちなかった。ところが、そのダイエットに、サラダと果物と野菜を毎日加えたら、彼のダイエットのバランスがよくなったのが原因で、脂肪は2週間で落ちた。これは、そのバランスのあるダイエットによって、彼の肝臓と蛋白質代謝作用が正しく機能しはじめたからである。
 もし、人が、活動のために必要とするエネルギー源として、必要なだけの炭水化物を摂取しない場合は、体は、体内にある蛋白質を自分で脂肪に変えることによって、脂肪ゼロという体にとって危険な状態が起こることをふせぐ。

 ボディビルディングのトレーニングは誰が考えても、まぎれもない重労働である。こんな重労働を毎日のように行なうには、かなりのエネルギー、かなりのカロリーが必要なことは誰にでもわかることである。
 従って、その必要なカロリーを適当量の炭水化物摂取によって供給してやらなければ、体はトレーニングという重労働に堪えることは出来ないし、また、体内に保留している蛋白質を自外で脂肪に変えるという自衛機能がはたらく。このところを強く心にとめておいてほしい。
 もし、浴びるほど蛋白質を摂り、充分にトレーニングもしているのに、筋肉が大きくならず、カットもデフィニッションも出ないといって不思議に思っているボディビルダーがあったら、その人は自分の炭水化物の摂取状態を先ず考えてみることである。同時に自分が摂りつつある蛋白質の量と質をよく考察検討してみる必要がある。
 炭水化物の摂取は少なければ少ないほどよいというものでは絶対にない。また同様に、蛋白質の摂取が多ければ多いほどよいというものでも絶対にない。自分が必要とするカロリーを蛋白質だけでとればよいというものでは絶対にない。最も大切で、最も有効な方法は、バランスのとれたダイエットによって、必要なカロリーを供給するという一事である。

 真面目なボディビルダー諸君に強く提案する。ここでもう一度、自分の蛋白質摂取の内容を詳しく検討されることを。私は、諸君が最もトレーニングに効果のある蛋白質として、動物性自然食品(鳥肉、魚肉、卵、牛乳、チーズなど)をとり、これにふさわしいだけの炭水化物と野菜と果物をとることを心からすすめる。
 炭水化物の摂取を必要量以下とすることによって、せっかく摂取した高価な蛋白質が、体内で脂肪に変えられつつあることを諸君はいつも心にとめていてほしい。さらに、その上にビタミン、ミネラルが必要なことはいうまでもない。

 薬品は、ボディビルダーにとって、目的達成のための万能者ではない。どれだけのボディビルダーが、ステロイドを用いつつ、一向にコンテストでいい成績をあげないままでいるかを見れば、それがわかる。
 ステロイドを用いているボディビルダーの100人中の1人が、どうやらいいところまでいく。しかも、その人がいいところまでいけたのは、ステロイドを用いたせいだとは断言できない。コンテストで上位入賞を果すには、筋肉の発達と共に、別の要素が必要である。単に筋肉の発達が凄いからだけでは上位入賞は果せないし、その筋肉の発達そのものがステロイドによるものとは断言できないからである。
 ボディビルダーたちは、医療薬品は病気を治すためのものであるという、薬品の役割と使用法について考えちがいをしている。

 ジムへ来るセールスマンやドラグ・ドクターによって、ボディビルダーたちにステロイドが供給される実状を知れば知るほど、私は将来が案じられてならない。無邪気な若い前途有望なボディビルダーが、彼らの金儲けの犠牲になって、不具者になったり死んでいったりするのは思うだに忍びない。何とかこれに対して急速な防禦対策をたてるべきである。
 このような誤った悪夢から目を覚し自分の将来の運命に責任を持つのは、ボディビルダー自身の責任である。誰に頼るべきことでもない。医療薬品を使うことをあまりにも強くすすめる医者には特別な注意を払いなさい。こういう医者の代りに、ボディビルダーの健康と幸福に関心をよせている医者をえらびなさい。
 ボディビルダーで、それもしばしば有名なチャンピオンで、あなたにしつこくステロイドや、その他の薬品を使うことをすすめ、且つそれをもっともらしい説明をして、薬店で売っているよりもずっと高価な代金で、あなたに売りつけようとする人がいたら、特別の注意を払いなさい。自分をやすやすとそのような人のえじきにしてはいけない。
 あなたの運命と将来の健康は、あなた自身の手の中にある。将来、あなたの体に起こることは、あなた――ほんとうにあなただけの責任である。適切な栄養摂取と、強化されたトレーニング、完全な疲労回復によって、健康で美しい体をつくる努力をなさい。それがあなたの人生の勝利であることがよくわかるでしょう。

こっけいでもあり、真実でもあるエピソード

 まだ16才の無邪気なボディビルダーが、どこかでステロイドのことを聞き、自分のためにステロイドを手に入れてほしいと、ジムのオーナーにしっこくねだりつづけた。
 そのオーナーは、もちろんこれを断った。しかし若者は、まるでこわれたレコードのように、同じことをくり返しつづけた。
 ついにかんしゃくをおこしたオーナーは、若者にサッカリン錠剤の瓶を渡し、これが体重を増やすステロイドだといってきかせた。
 数週間のハード・トレーニングと教えられたダイエットを実行した若者は、空のサッカリンの瓶を持って筋肉たくましく16ポンド(約6kg)も体重の増した体で勢いよく現われた。そして意気揚々と言った。
“ウワオ! あのステロイドは凄くきいた。さあ、早くぼくに次のステロイドをとりよせてくださいよ”
<解説>…………医博・後藤紀久
骨端核――長骨の中央部を骨幹といい両端部を骨端という。長軸の成長は骨端の軟骨成長帯において、軟骨内化骨によりなされる。軟骨の中には骨端核というものが生じ、徐々に成長し、骨幹を連ね骨の長軸成長が起こる。骨端核は損傷されやすく、この部分が侵されると骨の成長は停止する。
チロキシン――甲状腺から分泌されるホルモンの1つで、ヨウ素を含む。その作用は、蛋白質、水の代謝をはじめとする物質代謝を促進する。組織呼吸は増大し、皮膚の総脂肪量や肝グリコーゲン量の減少などが認められる。
頻脉――般的に1分間に100以上の脉脈拍の増加をいう。これは肉体的精神的興奮状態、貧血、甲状腺機能亢進症、熱性疾患などでみられるが本文の場合は、チロキシンの過剰投与のため、代謝が異常に亢進し、血中のチロキシン量が増加し、甲状腺機能亢進症と同じ状態が起こる。

 本シリーズも11回目になり、読者諸氏もステロイドの多大な副作用や適切な栄養のとり方などについて、充分に学ばれたことと思う。新年を迎え、これを機に、ステロイドを用いることなど決して考えず、適切な食事法、トレーニング、そして充分な休養により、本来の目的を達成していただきたい。
月刊ボディビルディング1981年3月号

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