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マイク・メンツァーの背中全体を
爆発的に発達させる電撃作戦

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月刊ボディビルディング1981年3月号
掲載日:2020.04.27
マイク・メンツァー ★ミスターアメリカ ★ミスターユニバース
訳=松山令子

マニラで会ったマイク・メンツァー

 1980年11月29日、世界選手権のプレジャッジングが終った日の夜、私たち何人かの役員がトム・オルテガ氏の邸に招かれた。フィリピン・プラザ・ホテルからはかなり遠い距離にあるオルテガ邸ヘはバスが用意され、皆はそれで運ばれていった。
 トム・オルテガ氏邸は、暑いマニラの家にふさわしく、床は全部石造りで、庭も家も開放的であった。
 ウイダー世界会長・ベティウイダー夫人はじめ、主だった人たちが全部そろっていた。料理はバイキング風で、すべてが数多い大皿に盛られて、好きなものを好きなだけ食べられるようにしてある。室内にも庭にもぎっしりとテーブルと椅子がならべられていた。皆くつろいで楽しんでいた。
 そこにマイク・メンツァーがまじって座っていた。私も冗談の仲間入りをして楽しく過した。黙っていると、何となく学者風で、かたくるしい感じのマイク・メンツァーも、口をきくとまことに明るく朗らかな人である。
 プレ・ジャッジングが終わったとき撮った、マイク・メンツァーと私の写真を添えて、メンツァアーの近影をお目にかけることとした。
松山令子
マニラ、1980.11.291980世界選手権プレジャッジングのあとでマイク・メンツァーと松山令子

マニラ、1980.11.291980世界選手権プレジャッジングのあとでマイク・メンツァーと松山令子

 背中は、いろいろ異る筋肉が集って出来ているので、背中全体をうまく発達させるためには、全力投球の思い切ったトレーニングが必要である。
 背中を、それ以外の諸筋肉と比べると、他の筋肉は成り立ちが簡単で機能の種類も少ないのに対し、背中は、種々の機能も形も異る多くの筋肉の集合体であるので、背中全体を発達させるためには、他の筋肉を鍛える時より、はるかに多種類のエクササイズでのトレーニングが必要である。
 以上のように背中は、いろいろ形の異る多くの筋肉の集りであるのでそれらの筋肉がつくり出す凹凸の多い幾何学的な変化に富む背中の眺めは、見る人にとって最も興味ある箇所である。私の考えでは、よく出来た背中は、すべてのボディビルダーの体の中で最も美しい部分である。
 背中の諸筋肉の中で、最も複雑な構造のものは僧帽筋である。これは頭蓋骨の下端からはじまって、肩胛骨のところで左右にひろがり、そこから上背部を経て、背中の中ほどの背骨のところの一点に集って終っている。そして、その僧帽筋の終っているあたりには広背筋がある。広背筋は、僧帽筋よりは形が単純であるが僧帽筋よりも大きく、背中に幅を与える。
 上背部にある筋肉で、僧帽筋や広背筋と同じくらい重要ではあるが、それよりはもっと小さくて、もっと複雑ないろいろな筋肉があり、実際に背中の細部を美しい形につくりあげるのには、なくてはならぬ役目を果たしている。
 あなた方のうちの何人が、背中にある大円筋や菱形筋や棘下筋について知っているだろうか。これらの比較的小さい筋肉は、それ自体がよく発達し、同時に、体にデフィニッションが出来たと時(皮下脂肪がとれた時)は、外部からはっきりと見ることが出来、ジャッジと観客の眼を惹きつけて離さない。
ビハインド・ネック・マシン運動のフル・レンジ(全幅)は、バイセップスが頭の横におしつかられるところから始まり、ローラー・パッドが胴の両脇を押えるところで終る。あなたの前腕を垂直にして、大胸筋が運動に参加しないようにすること

ビハインド・ネック・マシン運動のフル・レンジ(全幅)は、バイセップスが頭の横におしつかられるところから始まり、ローラー・パッドが胴の両脇を押えるところで終る。あなたの前腕を垂直にして、大胸筋が運動に参加しないようにすること

 多くの若いボディビルダーたちは背中の解剖学的構造と、それぞれの筋肉の機能を学ぶことを怠るという誤りをおかしている。この無知から彼らは不完全な背中のトレーニング・ルティンを採用することとなり、それは公然的にプロポーションの悪い体をつくりあげるという悲しい結果を生む。
 ただラット(広背筋)のトレーニングのみをして、僧帽筋や上背部のいろいろの小さい筋肉のトレーニングを怠る人たちは、発達した広背筋によって、背中の幅を増すことは出来ても、背中の筋肉の厚味やデンシティ(密度)を増して、重厚で立体的な力強い背中をつくり出すことは出来ない。いろいろな筋肉でつくり出す複雑な凹凸こそは、コンテストでジャッジや観客を驚嘆させるものである。
 背中の美的要素については、いまここ論じないこととし、コンテストで戦い、優勝するのに必要な背中全体の完全な発達についてここで述ぺることとする。コンテストのステージで最初にジャッジと観客の眼をとらえるのは、選手の胴体。すなわち胸と背中である。
記事画像3
 背中は、前にもいったとおり、それぞれに大きさも機能も異る数多くの筋肉で出来ているので、背中全休を発達させるためのトレーニング・ルティンには、多種類のエクササイズを用いなければならない。しかしながら、どのエクササイズを用いるとしても、多くのセット数を行なうことは決して必要でない。必要でないばかりでなく、多すぎるセット数は、かえって逆の結果を生み、筋肉は発達するどころか衰えて小さくなる。
 筋肉を発達させて大きくするには筋肉を強く宿させることが原則であり、この強い収縮をさせる目的でいろいろのエクササイズが行なわれるのである。だから弱い収縮でハイ・レップスのエクササイズでは、決して筋肉は発達して大きくなるということはない。これはもう周知のことである。
 背中の主要な筋肉は非常に大型であるので、それをトレーニングするには、大きい動作のトレーニングが必要であり、用いるウエイトも当然、重いので、大量のエネルギーを必要とする。また、内に貯えた地力が必要である。
 私のトレーニング・ルティンでは背中の各主要筋肉に対するトレーニングの最大量は、4セットまたはそれ以下である。背中を、その主要筋肉別に3つの部分に分けて、①ラット、②上背部または僧帽筋、③下背部または腰椎直立筋とする。これらの背中全体に対する私のトレーニングの量は、トータルで12セットまたはそれ以下である。
 もし、これを疑うなら、いままでよりも重いウェイトで、いままでよりも烈しく、いままでよりも少ないセット数のトレーニングをして、その結果をみてごらんなさい。われわれはすでに持っている自分の能力以下のカで、生ぬるいトレーニングをするときは、たとえ何セットくり返しても、決して筋肉は大きくならない。もし、長くこんなトレーニングをつづけると、筋肉は小さくなり、力は弱くなる。
シュラッグ 私は、ユニバーサル・ジムのベンチ・プレス・ステーションのハンドルから、私の手が離れないように、握るところにスタラップを用いる

シュラッグ 私は、ユニバーサル・ジムのベンチ・プレス・ステーションのハンドルから、私の手が離れないように、握るところにスタラップを用いる

ハイパー・イクステンション 私の脊椎直立筋のバルクと形の両方をよくるために、私は好んでハイパー・イクステンションをする。どれだけ運動の一番高い位置で私の体が高く持ち上げられているかに注目してください。同時に、私が臨時のウェイトを首のうしろにどれだけ架けているかにもしてください

ハイパー・イクステンション 私の脊椎直立筋のバルクと形の両方をよくるために、私は好んでハイパー・イクステンションをする。どれだけ運動の一番高い位置で私の体が高く持ち上げられているかに注目してください。同時に、私が臨時のウェイトを首のうしろにどれだけ架けているかにもしてください

プーリー・ロウ 私はプーリーロウを、背中全体のトレーニングの中のよい種目だと認めています。スタートの時は前方へ上体をかがめ、ハンドルをあなたのウェイストの方へ引くときは少しうしろへかたむけること

プーリー・ロウ 私はプーリーロウを、背中全体のトレーニングの中のよい種目だと認めています。スタートの時は前方へ上体をかがめ、ハンドルをあなたのウェイストの方へ引くときは少しうしろへかたむけること

デッド・リフト 全身の力と下脊部の筋肉の厚味を増すのには、これ以上のいいエクササイズはない。私はいま非常に重いウェイトをあげているので、私はリバース・グリップを使わねばならないし、補強のためにストラップで私のリバーズド・グリップをはなれないようにしている

デッド・リフト 全身の力と下脊部の筋肉の厚味を増すのには、これ以上のいいエクササイズはない。私はいま非常に重いウェイトをあげているので、私はリバース・グリップを使わねばならないし、補強のためにストラップで私のリバーズド・グリップをはなれないようにしている

 私のトレーニングでは、背中のトレーニングを真先にする。これは、背中のような大きい部分を鍛えるには、大量のエネルギーがいるのでまだエネルギーがたっぷりあるトレーニングのはじめに、背中をトレーニングするのである。
 このように、大きい筋肉からはじめるというのは、かしこいやり方である。私の背中は、トレーニングをはじめた頃は、なかなかはかばかしく大きくならなかった。そこではウイダー・プライオリー・プリンシプルに従って、トレーニングの冒頭に背中をおいた。
 普通では、私は、ラット――僧帽筋――腰椎直立筋というルティンを三角筋のトレーニングにつづいて行なう。何故なら、三角筋を鍛えるためのある運動には、背中も共に運動するからである。このことは後部三角筋について特に著しい。後部三角筋を鍛える運動には、肩胛骨のあたりの上背部のすべての筋肉爛与して共に働く。

 いままでの3週間――オリンピア・コンテストの約2ヵ月前、私は背中のトレーニングを、他の身体部分と同じよ沁、8日間に2回という割合で行なっていた(ウイダー・スプリット・システム)。
 私はいま、再びスプリット・ルティンによってトレーニングしている。背中を三角筋とバイセップスといっしょにトレーニングする。月曜日は背中と三角筋とバイセップス、火曜日は休み、水曜日は胸とトライセップスと脚、木曜日は休みである。そして、金曜日は月曜日と同じトレーニングをす、月・水・金のトレーニングのあとは、土・日と2日つづけて休む。
 私のトレーニング・パートナーである弟のレイとデニー・マロイと私の3人は、われわれは、トレーニングしたあと、完全に疲労回復するには、トレーニングをした翌日には、まる1日休息することが必要だとわかった。
 私は以前、しばらくの間、2日つづけてトレーニングし、次の日は休むというスケジュールを用いたことがある。しかし、この時、このスケジュールでは、われわれの望んでいる筋肉の発達が得られないだけでなく、トレーニングを終えたあと、次のトレーニング開始までの間に疲労を回復出来ないことを知った。
 ボディビルディングの大切な知識として、トレーニングしたあとは、必ず完全に疲労を回復してから次のトレーニングを開始すべきだということを銘記しておきなさい。誰でも充分な強度のトレーニングをしたあと、次のトレーニング開始までに完全に疲労を回復するだけの充分な休息時間をとった人は、自分の筋肉が発達してサイズを増し、同時に加強くなることを発見するだろう。
 だから、単に昔からいい伝えられているというだけの理由で、週4日のトレーニング法に固執するよりも、われわれは、むしろ自分の体がわれわれに語りかける言葉に耳を傾けてこの声に従うことにした。(ウイダー・インスティンクティブ・プリンシプル)。そして本質的な考えから、われわれの筋肉にふさわしい週3日のトレーニング・プログラムに変えた。
 これを実行しはじめてから、われわれの体は著しく変化した。先ずデニーの背中の筋肉のサイズとカが驚異的に伸びた。彼の体重は1カ月ちょっとで102㎏から118kgに増え彼のデッド・リフトの記録は125kgかから227㎏に躍進した。
リバース・ラット・プルダウン バーをリバース・グリップで握り、私はしばしばリバース・グラビティ・スタイルでプルダウンをする。私は2人のパートナーに、私が非常に重いウェイトを引きおろすのを助けてもらう。それから彼らはウェイトをはなし、私は自力でスターティング・ポイントに戻ろうとするのに対して闘う

リバース・ラット・プルダウン バーをリバース・グリップで握り、私はしばしばリバース・グラビティ・スタイルでプルダウンをする。私は2人のパートナーに、私が非常に重いウェイトを引きおろすのを助けてもらう。それから彼らはウェイトをはなし、私は自力でスターティング・ポイントに戻ろうとするのに対して闘う

ビハインド・ネック 私は握りが水平になっているハンドルを使う。それでバイセップスは最もプリングに強い力を出せるポジションにある。この機械でビハインド・ネックでのプリングは、私がラットをパンプ・アップさせるのに大いに役立つ

ビハインド・ネック 私は握りが水平になっているハンドルを使う。それでバイセップスは最もプリングに強い力を出せるポジションにある。この機械でビハインド・ネックでのプリングは、私がラットをパンプ・アップさせるのに大いに役立つ

 私自身についていうなら、体重94㎏(そのうち89㎏が脂肪のない筋肉で、5kgは脂肪)であったのが、このトレーニング法の最後の1ヵ月で体重が97.5kg(うち筋肉が94kg、脂肪が3.5kg)になった。筋肉だけで5㎏増し、脂肪は1。5kg減ったのである。
 弟のレイは、私と同様に体重が増えた。はじめ、102kgの体重(約95kgの筋肉と約7kgの脂肪)が104.5kg(約99kgの筋肉と約5kgの脂肪)に変わった。筋肉だけで4kg増し、脂肪は2kg減少した。
 これらのわれわれの体重の変化を示す数字はドラマティックといえるが、それよりもっとドラマティックなのは、ここ1カ月という短い期間に起こった、われわれの外観である。ジョー・ウイダーを含めて私の体を見た何人かの人々は、まだオリンピアまで8週間あるというのに、私の体はもう去年の体を追い越した発達をしているという。
 レイについては、ここまで発達していたボディビルダーにも、このような新しい発達が可能だということを信じてもらうためには、彼の写真を見てもらえば何の説明もいらない。われわれの超強度のトレーニングにつけ加えて、私は、ジョーがレイと私のために特別に新しい栄養摂取のプログラムをつくってくれたことを述べねばならない。
 そのプログラムには、栄養学の上で、著しい進歩であるところの新しいアミノ酸製品が含まれている。レイと私には、それが有効であることがすぐにわかった。このことについては稿を改めてくわしく述べることにする。
[以下、本文62ページへつづく]
月刊ボディビルディング1981年3月号

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