ボディビルダーの幸福と健康をまもるために、ボディビルダー向けの薬品その他の真実を探求するシリーズ(その13)
強化トレーニングへの力強い援軍
“グリコーゲン・パワー”
月刊ボディビルディング1981年5月号
掲載日:2020.05.28
執筆者=アーマンド・タニー(ウイダー医療研究員)
訳=松山令子
監修と解説=後藤紀久(医学博士・国立予防衛生研究所主任研究官)
訳=松山令子
監修と解説=後藤紀久(医学博士・国立予防衛生研究所主任研究官)
体内に貯蔵されているグリコーゲン、それが充分にあれば、あなたの筋肉は、トレーニングの時に、もりもり力を発揮し、あなたのトレーニングを実のあるものとし、従ってあなたの筋肉は見る見る大きく発達する。
ヘビー・トレーニングの途中で、あなたは急に自分の力が衰えていくのを感じることはないだろうか。また、以前には楽々とこなせたスーパー・セットやフォースト・レップスがこなせなくなるときがありはしないだろうか。あなたは、自分の筋力がだんだん弱くなっていくと感じることはないだろうか。
一般にこんな現象を“壁につきあたる”という言葉で表現する。これは、スポーツマンなら、長いトレーニング生活の間に、誰もが必ず経験することであって、決して憂慮すべきことではない。これは疲労が原因であり、その疲労はいたって単純な原因から起る。その単純な理由とは"体内に貯蔵されていたグリコーゲンが枯渇した"ということである。
疲労のあらわれ方は、個人差によりまた、トレーニングの強度のちがいによりさまざまである。しかし、おおむね、このような現象は、ハード・ウェイト・トレーニングをはじめてから、1時間半か2時間たった頃に起こることが多い。この時点で、あなたのエネルギー源は底をつき、あなたの体は充分に働けなくなる。俗にいう“ガソリンが切れた”状態である。
筋肉は、トレーニングが適度のものであるときは、脂肪と炭水化物の同量をカロリー源として燃焼し消費する。しかし、用いる重量が増し、トレーニングの強度が増すと、筋肉はもっぱら炭水化物をカロリー源として消費するようになる。というわけは、脂肪の酸化からよりは、炭水化物の酸化からの方がより簡単にエネルギーが得られるからである。
グリコーゲンに転化された炭水化物は、ある程度、筋肉細胞それ自身の内部に貯蔵される。このグリコーゲンは手近にあって便利なので、筋肉はこれを即座に使えるエネルギー源として用いる。まだその理由は十分に解明されてはいないけれども、筋肉は、遊離脂肪酸(解説①)やグリコース(ブドウ糖)がそこにあるときでも、常にグリコーゲンをエネルギー源として使う。そしてグリコーゲンがなくなると、筋肉は働けなくなる。
こういうわけで、骨格筋の内部に貯蔵されたグリコーゲンは、トレーニングにも、またコンテストの戦いにも原動力として非常に重要なのである。
炭水化物が酸化されたときは、1リットル当り5000カロリーの酸素が得られる。脂肪の場合は4700カロリーである。トレーニングの秘訣は、充分な酸素をとることである。だから、重い烈しいトレーニングをしているときは、体は、最大のエネルギーを供給してくれる燃料をえらんで使うのである。
ごく一般的な人の場合は、体内に貯えられているカロリー源の80%~85%は脂肪である。体重が155ポンド(約70kg)の人は、体内に貯えている脂肪から得られるカロリーは10万カロリーである。それに比べ、炭水化物の貯蔵から得られるエネルギーの総量はおおむね2000カロリーである。
苦しい連続的なエクササイズの間に選手は、1時間あたり1000カロリーを使う。それで彼は、1時間半か2時間のトレーニングで、彼のクリコーゲンの貯蔵がなくなってしまう。
働いている時の筋力は、つねにある程度のグリコーゲンをつかう。事実、筋肉は、グリコーゲンがある限りは、たとえ脂肪酸やグルコース(ブドウ糖)が使える状態にあっても、グリコーゲンをエネルギー源として使う。貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると、はじめて、体は、エネルギー源を脂肪酸に切りかえる。このとき、トレーニングの強度は必然的に低下する。
トレーニングをしない人の体内のグリコーゲン貯蔵量は約400グラムである。これは、1500カロリーの使えるエネルギーを持っていることを意味している。グリコーゲンの貯蔵量は、筋肉のタイプのちがいによっても、また、その人が訓練された運動選手であるかどうかによってもちがってくる。訓練された選手のグリコーゲン貯蔵能力は普通の人のそれよりは約25%上まわるといわれている。
非常に強度なトレーニングの場合は体内のグリコーゲンがなくなるよりも前に、疲労状態が起こり、トレーニングを継続することができなくなる。
たとえば、ボディビルダーが、ヘビー・ウェイトを用いて、ロウ・レップスでトレーニングするときは、グリコーゲンを使っているが、こんなとき、体内に貯蔵されたグリコーゲンを完全に使い切って、ほんとうの疲労が起こるよりもずっと前に、力がなくなり動きがのろくなってしまう。これは急激な乳酸(ヘビー・エクササイズや重労働などの間に筋肉がつくり出す毒素、解説②)の蓄積が起こってグリコーゲンを充分使わせなくなるからである。
もし、強度なトレーニングで、セット間に短い休息をとるときは、グリコーゲンの貯蔵がからになるということはほとんどない。これと反対に、筋肉の充血を逃さない目的で、休息なしのエクササイズがつづけられると、貯蔵されたグリコーゲンは完全にからっぽになる。
体内のグリコーゲンが枯渇したときの徴候は、誰もがよく知っている。あるテスト・グループを使って行なった実験で、テストされる人達は片脚だけをトレーニングした。その結果、トレーニングされた脚はグリコーゲン貯蔵能力が発達し、トレーニングされない脚よりも疲労が少ないことが最後のテストでわかった。
むらのない、規則正しい、且つ強度なトレーニングを行なっているときに体内のグリコーゲンがいつからっぽになったかは、すぐわかる。それは突然に疲労状態が起こるからである。
しかもその疲労状態は、体全体に一般的な疲労が起こるのではなく、ある特定な身体部分に起こるのである。ボディビルディングのトレーニングの場合は、こんなときトレーニングを継続するには、スピードと強度を落とし、セット間の休息をいままでよりも長くせねばつづけられない。
いろいろのタイプのスポーツ競技会では、選手達は2日間、またはそれ以上にわたって戦いつづけねばならぬ場合がある。こんなとき、彼らはすべての筋肉のグリコーゲンが枯渇したわけではないが、ある特定の筋肉線維にグリコーゲンの枯渇が起こり、平生のトレーニングで意図しただけの回数や力を発揮することが出来ない。
もし選手が、彼の貯蔵しているグリコーゲンの50%を使ったときは、その減少した分を回復するスピードはおそい。しかし、これを完全に使い果したあとの回復のスピードは、トレーニング直後の6時間は極めて速く、そのあとの10~15時間はかなり速度がゆるやかになる。
完全な休息をとることによって、疲労回復は最初の24時間でおよそ90%果される。このとき大切なことは、大量の炭水化物を含む食事をとることが欠くべからざる条件である。筋肉が働いて失なったグリコーゲンを元通りに貯える速度は、エクササイズでグリコーゲンを失なう速度よりも遙かに遅い。
グリコーゲンの枯渇で疲労した筋肉線維に、24時間以上の休息を与えよというのは、まことに当然のことと思われる。ウイダー・システムは、ここにその根拠を置き、トレーニングとトレーニングの間には、その特定の筋肉に最小限度2日間の休息を与えよ、と説く。
普通の休息時間をとりつつ、グリコーゲンの貯蔵量を増すことは可能である。この方法は、“炭水化物のつめ込み”と呼ばれる。この方法によって、グリコーゲンの貯蔵量は60%増す。
先ず、あなたの継続するトレーニングの間に、あなたは、あなたの最大酸素摂取量(体を動かすのに必要な酸素を、体重1kg当りどれくらい取り入れられるかを示す数字)の70%以上の酸素を使うことによって、あなたの体内のグリコーゲンはなくなってしまうにちがいない。
そのあと2日か3日、プロテイン・ダイエットのみを摂取することによって、グリコーゲン貯蔵は低いままで保たるべきである。そして、そのあとの2日か3日を炭水化物を大量に含むダイエットに切り換えるべきである。
こうすることによって、筋肉は、次に来るべきグリコーゲンの枯渇期間を見越して炭水化物を充分に受入れる。この時の炭水化物の“補充”は、正常なレベルよりも遙かに上まわって行なわれる。そして、次の“炭水化物のつめ込み”プロセスのあとでは、筋肉は以前のトレーニング時をはるかに上まわる耐久力があることが、いろいろの実験で立証されている。
コンテスト・ボディビルダーの間では、コンテストの前日に炭水化物を摂取することは珍らしいことではない。連続するウォーミング・アップ、プレジャッジング、ファイナル・コンテストで、選手は非常に疲労する。だからグリコーゲンを追加して体に入れることは、コンテスト当日の力強い競技を保証することとなる。
ボディビルディングのトレーニングで、長い苦しい努力をする間、炭水化物の燃焼は極めて高い。大きレ、筋肉をつくりあげるには大量のグリコーゲンを必要とする。
ハード・エクササイズの間中、働く筋肉は一番手近にあって使えるエネルギー源をさがしもとめる。その手近に用意されているエネルギー源は、グリコーゲンという形で、筋肉細胞それ自身の中に存在している。
あなたのトレーニングから最大の効果を得ようと思うなら、あなたは充分に炭水化物を食べなければいけない。生物学的に、人間の体は、自然の炭水化物を新陣代謝するのに適するようにつくられている。
精製された砂糖と澱粉は、1分間でわれわれの血糖値を上げ、次にそれを下落させる。果糖(果物やハチミツの中に含まれている自然の糖分)は、炭水化物からつくられた優れたエネルギー供給する。
他のダイエット的な甘味料とちがって、果糖は、体細胞の中へ入るときにインシュリン(解説③)を必要としない。果糖は、インシュリンの分泌を促す普通の消化経路によらず、インシュリンの反応によって上昇したり下降したりする血糖値に引きかえ、果糖を摂取する場合は、体へのエネルギーの流入が非常になめらかである。
果糖はすべての糖類の中で最も甘味が強い。それは果物や野菜中の中に自然に含まれている。果糖のカロリーは1グラムにつき4カロリーである。カロリーにおいては普通のテーブルシュガーと同じであっても甘さにおいては2倍である。果糖は転化したテンサイ糖やとうもろこしからつくられる。
果糖は、トレーニングの前やコンテストの前にとるのがよい。それは精製された炭水化物の摂取から起こる突然の血糖値の下落や、エネルギーの減少を招かないから。果糖は、以上の理由で、トレーニングの最中にとってもよい。
ボディビルダーは、彼らがつづける苦しいトレーニングのためにエネルギーを永持ちさせることが出来るものは何でも必要としている。たゆまずつづけるセットとレップスには、炭水化物の大量の燃焼が必要である。
もし、あなたが、立派なからだをつくりあげたいなら、ボディビルダーの要諦として、いつのトレーニング前にも、すぐれた炭水化物の中に含まれているグリコーゲンを大量に体に与えることを怠ってはならない。
炭水化物といえば、まるで敵のように思っているビルダーも少なくない。しかし、炭水化物こそは、大望を抱くボディビルダーへの力強い援軍であることを忘れてはならない。炭水化物を適当に摂取せずして大成したチャンピオンは1人もいない。
≪解説≫…………医博・後藤紀久
①遊離脂肪酸――血漿(血液から有形成分、すなわち赤血球、白血球、血小板を除いた液体成分)に含まれる脂肪酸のうち、コレステロール、グリセロールのようにエステルになっていないもの。糖尿病の時など脂肪をエネルギー源として利用することが増えるとき、血中の遊離脂肪酸が増加する。
②乳酸――グリコーゲンから解糖(糖を分解してエネルギーを得る代謝過程)により生成される物質で、疲労した筋肉内に蓄積され、筋肉痛の原因ともなる。
③インシュリン――膵臓に散在する細胞から分泌されるホルモンで、血糖降下作用を有する。これの不足は高血糖を、過剰は低血糖をきたす。インシュリンの欠乏に際しては、組織のブドウ糖の利用が減衰して血糖が増大し、また糖尿病の症状を呈す。
ヘビー・トレーニングの途中で、あなたは急に自分の力が衰えていくのを感じることはないだろうか。また、以前には楽々とこなせたスーパー・セットやフォースト・レップスがこなせなくなるときがありはしないだろうか。あなたは、自分の筋力がだんだん弱くなっていくと感じることはないだろうか。
一般にこんな現象を“壁につきあたる”という言葉で表現する。これは、スポーツマンなら、長いトレーニング生活の間に、誰もが必ず経験することであって、決して憂慮すべきことではない。これは疲労が原因であり、その疲労はいたって単純な原因から起る。その単純な理由とは"体内に貯蔵されていたグリコーゲンが枯渇した"ということである。
疲労のあらわれ方は、個人差によりまた、トレーニングの強度のちがいによりさまざまである。しかし、おおむね、このような現象は、ハード・ウェイト・トレーニングをはじめてから、1時間半か2時間たった頃に起こることが多い。この時点で、あなたのエネルギー源は底をつき、あなたの体は充分に働けなくなる。俗にいう“ガソリンが切れた”状態である。
筋肉は、トレーニングが適度のものであるときは、脂肪と炭水化物の同量をカロリー源として燃焼し消費する。しかし、用いる重量が増し、トレーニングの強度が増すと、筋肉はもっぱら炭水化物をカロリー源として消費するようになる。というわけは、脂肪の酸化からよりは、炭水化物の酸化からの方がより簡単にエネルギーが得られるからである。
グリコーゲンに転化された炭水化物は、ある程度、筋肉細胞それ自身の内部に貯蔵される。このグリコーゲンは手近にあって便利なので、筋肉はこれを即座に使えるエネルギー源として用いる。まだその理由は十分に解明されてはいないけれども、筋肉は、遊離脂肪酸(解説①)やグリコース(ブドウ糖)がそこにあるときでも、常にグリコーゲンをエネルギー源として使う。そしてグリコーゲンがなくなると、筋肉は働けなくなる。
こういうわけで、骨格筋の内部に貯蔵されたグリコーゲンは、トレーニングにも、またコンテストの戦いにも原動力として非常に重要なのである。
炭水化物が酸化されたときは、1リットル当り5000カロリーの酸素が得られる。脂肪の場合は4700カロリーである。トレーニングの秘訣は、充分な酸素をとることである。だから、重い烈しいトレーニングをしているときは、体は、最大のエネルギーを供給してくれる燃料をえらんで使うのである。
ごく一般的な人の場合は、体内に貯えられているカロリー源の80%~85%は脂肪である。体重が155ポンド(約70kg)の人は、体内に貯えている脂肪から得られるカロリーは10万カロリーである。それに比べ、炭水化物の貯蔵から得られるエネルギーの総量はおおむね2000カロリーである。
苦しい連続的なエクササイズの間に選手は、1時間あたり1000カロリーを使う。それで彼は、1時間半か2時間のトレーニングで、彼のクリコーゲンの貯蔵がなくなってしまう。
働いている時の筋力は、つねにある程度のグリコーゲンをつかう。事実、筋肉は、グリコーゲンがある限りは、たとえ脂肪酸やグルコース(ブドウ糖)が使える状態にあっても、グリコーゲンをエネルギー源として使う。貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると、はじめて、体は、エネルギー源を脂肪酸に切りかえる。このとき、トレーニングの強度は必然的に低下する。
トレーニングをしない人の体内のグリコーゲン貯蔵量は約400グラムである。これは、1500カロリーの使えるエネルギーを持っていることを意味している。グリコーゲンの貯蔵量は、筋肉のタイプのちがいによっても、また、その人が訓練された運動選手であるかどうかによってもちがってくる。訓練された選手のグリコーゲン貯蔵能力は普通の人のそれよりは約25%上まわるといわれている。
非常に強度なトレーニングの場合は体内のグリコーゲンがなくなるよりも前に、疲労状態が起こり、トレーニングを継続することができなくなる。
たとえば、ボディビルダーが、ヘビー・ウェイトを用いて、ロウ・レップスでトレーニングするときは、グリコーゲンを使っているが、こんなとき、体内に貯蔵されたグリコーゲンを完全に使い切って、ほんとうの疲労が起こるよりもずっと前に、力がなくなり動きがのろくなってしまう。これは急激な乳酸(ヘビー・エクササイズや重労働などの間に筋肉がつくり出す毒素、解説②)の蓄積が起こってグリコーゲンを充分使わせなくなるからである。
もし、強度なトレーニングで、セット間に短い休息をとるときは、グリコーゲンの貯蔵がからになるということはほとんどない。これと反対に、筋肉の充血を逃さない目的で、休息なしのエクササイズがつづけられると、貯蔵されたグリコーゲンは完全にからっぽになる。
体内のグリコーゲンが枯渇したときの徴候は、誰もがよく知っている。あるテスト・グループを使って行なった実験で、テストされる人達は片脚だけをトレーニングした。その結果、トレーニングされた脚はグリコーゲン貯蔵能力が発達し、トレーニングされない脚よりも疲労が少ないことが最後のテストでわかった。
むらのない、規則正しい、且つ強度なトレーニングを行なっているときに体内のグリコーゲンがいつからっぽになったかは、すぐわかる。それは突然に疲労状態が起こるからである。
しかもその疲労状態は、体全体に一般的な疲労が起こるのではなく、ある特定な身体部分に起こるのである。ボディビルディングのトレーニングの場合は、こんなときトレーニングを継続するには、スピードと強度を落とし、セット間の休息をいままでよりも長くせねばつづけられない。
いろいろのタイプのスポーツ競技会では、選手達は2日間、またはそれ以上にわたって戦いつづけねばならぬ場合がある。こんなとき、彼らはすべての筋肉のグリコーゲンが枯渇したわけではないが、ある特定の筋肉線維にグリコーゲンの枯渇が起こり、平生のトレーニングで意図しただけの回数や力を発揮することが出来ない。
もし選手が、彼の貯蔵しているグリコーゲンの50%を使ったときは、その減少した分を回復するスピードはおそい。しかし、これを完全に使い果したあとの回復のスピードは、トレーニング直後の6時間は極めて速く、そのあとの10~15時間はかなり速度がゆるやかになる。
完全な休息をとることによって、疲労回復は最初の24時間でおよそ90%果される。このとき大切なことは、大量の炭水化物を含む食事をとることが欠くべからざる条件である。筋肉が働いて失なったグリコーゲンを元通りに貯える速度は、エクササイズでグリコーゲンを失なう速度よりも遙かに遅い。
グリコーゲンの枯渇で疲労した筋肉線維に、24時間以上の休息を与えよというのは、まことに当然のことと思われる。ウイダー・システムは、ここにその根拠を置き、トレーニングとトレーニングの間には、その特定の筋肉に最小限度2日間の休息を与えよ、と説く。
普通の休息時間をとりつつ、グリコーゲンの貯蔵量を増すことは可能である。この方法は、“炭水化物のつめ込み”と呼ばれる。この方法によって、グリコーゲンの貯蔵量は60%増す。
先ず、あなたの継続するトレーニングの間に、あなたは、あなたの最大酸素摂取量(体を動かすのに必要な酸素を、体重1kg当りどれくらい取り入れられるかを示す数字)の70%以上の酸素を使うことによって、あなたの体内のグリコーゲンはなくなってしまうにちがいない。
そのあと2日か3日、プロテイン・ダイエットのみを摂取することによって、グリコーゲン貯蔵は低いままで保たるべきである。そして、そのあとの2日か3日を炭水化物を大量に含むダイエットに切り換えるべきである。
こうすることによって、筋肉は、次に来るべきグリコーゲンの枯渇期間を見越して炭水化物を充分に受入れる。この時の炭水化物の“補充”は、正常なレベルよりも遙かに上まわって行なわれる。そして、次の“炭水化物のつめ込み”プロセスのあとでは、筋肉は以前のトレーニング時をはるかに上まわる耐久力があることが、いろいろの実験で立証されている。
コンテスト・ボディビルダーの間では、コンテストの前日に炭水化物を摂取することは珍らしいことではない。連続するウォーミング・アップ、プレジャッジング、ファイナル・コンテストで、選手は非常に疲労する。だからグリコーゲンを追加して体に入れることは、コンテスト当日の力強い競技を保証することとなる。
ボディビルディングのトレーニングで、長い苦しい努力をする間、炭水化物の燃焼は極めて高い。大きレ、筋肉をつくりあげるには大量のグリコーゲンを必要とする。
ハード・エクササイズの間中、働く筋肉は一番手近にあって使えるエネルギー源をさがしもとめる。その手近に用意されているエネルギー源は、グリコーゲンという形で、筋肉細胞それ自身の中に存在している。
あなたのトレーニングから最大の効果を得ようと思うなら、あなたは充分に炭水化物を食べなければいけない。生物学的に、人間の体は、自然の炭水化物を新陣代謝するのに適するようにつくられている。
精製された砂糖と澱粉は、1分間でわれわれの血糖値を上げ、次にそれを下落させる。果糖(果物やハチミツの中に含まれている自然の糖分)は、炭水化物からつくられた優れたエネルギー供給する。
他のダイエット的な甘味料とちがって、果糖は、体細胞の中へ入るときにインシュリン(解説③)を必要としない。果糖は、インシュリンの分泌を促す普通の消化経路によらず、インシュリンの反応によって上昇したり下降したりする血糖値に引きかえ、果糖を摂取する場合は、体へのエネルギーの流入が非常になめらかである。
果糖はすべての糖類の中で最も甘味が強い。それは果物や野菜中の中に自然に含まれている。果糖のカロリーは1グラムにつき4カロリーである。カロリーにおいては普通のテーブルシュガーと同じであっても甘さにおいては2倍である。果糖は転化したテンサイ糖やとうもろこしからつくられる。
果糖は、トレーニングの前やコンテストの前にとるのがよい。それは精製された炭水化物の摂取から起こる突然の血糖値の下落や、エネルギーの減少を招かないから。果糖は、以上の理由で、トレーニングの最中にとってもよい。
ボディビルダーは、彼らがつづける苦しいトレーニングのためにエネルギーを永持ちさせることが出来るものは何でも必要としている。たゆまずつづけるセットとレップスには、炭水化物の大量の燃焼が必要である。
もし、あなたが、立派なからだをつくりあげたいなら、ボディビルダーの要諦として、いつのトレーニング前にも、すぐれた炭水化物の中に含まれているグリコーゲンを大量に体に与えることを怠ってはならない。
炭水化物といえば、まるで敵のように思っているビルダーも少なくない。しかし、炭水化物こそは、大望を抱くボディビルダーへの力強い援軍であることを忘れてはならない。炭水化物を適当に摂取せずして大成したチャンピオンは1人もいない。
≪解説≫…………医博・後藤紀久
①遊離脂肪酸――血漿(血液から有形成分、すなわち赤血球、白血球、血小板を除いた液体成分)に含まれる脂肪酸のうち、コレステロール、グリセロールのようにエステルになっていないもの。糖尿病の時など脂肪をエネルギー源として利用することが増えるとき、血中の遊離脂肪酸が増加する。
②乳酸――グリコーゲンから解糖(糖を分解してエネルギーを得る代謝過程)により生成される物質で、疲労した筋肉内に蓄積され、筋肉痛の原因ともなる。
③インシュリン――膵臓に散在する細胞から分泌されるホルモンで、血糖降下作用を有する。これの不足は高血糖を、過剰は低血糖をきたす。インシュリンの欠乏に際しては、組織のブドウ糖の利用が減衰して血糖が増大し、また糖尿病の症状を呈す。
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