ボディビルダーのバイブル(聖書)
立派な胸を作ること、それは至難のわざである
訳★松山令子
トレーニングの要諦は、どれだけ重いものを持ちあげ得るか、ということではなく、どれほど有効にウェイトを使って、筋肉を鍛えるかということである。
ミスター・インターナショナルのタイトルを持つグレッグ・ドゥフェロは、故郷であるニュー・ジャージーにいた頃のことを回想して話す。
“ニュー・ジャージーのジムへ多くの若者たちが、未来のボディビルダーを夢見てやってきたものです。しかし、彼らのほとんどは、深く考えることをしないで、胸と腕のトレーニングにほとんどの時間をかけるのがつねでした。
そんなトレーニングは彼らのエゴ(利己心)を満足させはしましたが、そういうトレーニングによって、真のボディビルダーとしてふさわしいだけの体をつくることは全く不可能でした。
そして、誰もが、ベンチ・プレスで大きいウェイトを上げることでした。他の誰よりも重いウェイトを上げるのは、たしかに鼻の高いことでした。ただ問題は、たとえ世界一力の強い人になることが出来たとしても、それがボディビルダーとしての得点にはならないということです”
グレッグの考えによれば、胸のトレーニングのエクササイズの中ではベンチ・プレスは至上のものではない。というのは、大胸筋を働かせる目的のこのエクササイズでは、肩や腕の諸筋肉が否応なく共に働くので胸の発達が他の身体部分の発達よりも遅れているというような場合にはベンチ・プレスのみに頼っていてはいいボディビルダーにふさわしい大胸筋の形や大きさをつくりあげることは不可能であることを、彼は以前から知っていたのである。
“大胸筋を、隣りあっている筋肉とは別個のものであると外からわかるように発達させることは決して楽なことではない。トレーニングをするには、こうなりたいというはっきりとした目的をたて、その目的に副って集中的にトレーニングしなければ決して効果はあがらない。1つのエクササイズで、多くの筋肉が共に同時に働くようなトレーニングをしている限りは、運動の全的な効果がうすれ、決して目的とする筋肉を発達させることはできない”
このことは、常にグレッグ・ドゥフェロにとって特別の課題であった。何故ならば
①彼の生まれつきの体格であるところの、広い肩幅と、比較的に短い腕、力強いトライセップスというベンチ・プレスにはもってこいの体であったために、彼にはベンチ・プレスは骨カ折れなさすぎた。
②たとえ彼の体が、上記のような特別にベンチ・プレスに向く体でなかったとしても、彼のトライセップスは図抜けて力が強かったので彼か特別に工夫して、大胸筋をよく運動させる努力をしなかったらベンチ・プレスによって、彼の大胸筋を現在のように充分に発達させることは出来なかっただろう。彼はいう。
私は、私のトレーニング・ルーティーンの中で、もちろんベンチ・プレスはするけれども、特にベンチ・プレスを重視するということはなく、他のエクササイズも大切に思って真面目に実行している。
コンテストのオフ・シーズンにはグレッグは、普通は週に4日のトレーニングをする。身体各部は週に2回ずつトレーニングする。コンテストに備えてトレーニングする場合は週6日のスケジュールで、身体各部は週3回トレーニングする。
“私のルテインは、普通では、胸と肩とトライセップスを1日のトレーニングで行ない、背中脚、バイセップスは次の日に行なう。この週4日のトレーニングで、私の筋肉は実によく発達する。
そして、週6日のスケジュールに移っても、私はエクササイズの種目を増やしたり、セット数を増やしたりすることはしない。私のすることは、他の筋肉より発達が遅れていると思う筋肉を特別に眼をかけて熱心に充分にトレーニングすることである。私がダブル・スプリット・ルティンを実行するときでも、臨時にエクササイズを増やしたりはせず、ふだんのトレーニングを折半するだけである。そうするだけで充分なら、それはまさに充分なのである”
グレッグの胸のトレーニングは、普通は、インクライン・ベンチ・プレスからスタートする。彼はこのエクササイズが、
フラット・ベンチ・プレスよりもはるかに直接的に大胸筋に効くことを体で感じる。そしてこのエクササイズは、特に胸の上部の筋肉に効果があることをグレッグは信じている。
この胸の上部筋肉の発達は、彼にとって大きい意義をもっている。というのは、彼のとび抜けて巨大なトライセップスとの釣合上、この大胸筋上部の発達は、彼にとって必要欠くべからざるものであるので。
“私は、インクライン・プレスは、ダンベルよりはバーベルまたはスミス・マシン(写真参照)を使ってすることにしている。ダンベルでする場合は、体のバランスを保つために多大のエネルギーを浪費するから”とグレッグは説明する。
グレッグは、肩幅よりもやや広い手幅でバーベルを握り、肘を脇につけずに、意識して脇からはなし、腕を高くあげて、肘を意識的に出来るだけうしろへ引く。
こうすることで、トライセップスがこの運動に関与して、胸の筋肉の活動を減殺することを防ぐ。腕を高くあげ、充分に肘をうしろへ引くことによって、胸の筋肉を思い切り引きのばす。
“インクライン・ベンチ・プレスの次には、フラット・ベンチでのダンベル・フライをする。脚をベンチの上にあげ”肘を充分に曲げてダンベルを持つ。こうすることで、肘の関節の内側カ強く引っぱられることを防ぐ。
私は、このフライを、かなりの速度ですることが好きである。レップス数は10またはそれ以上。
私の体は、特にフライに向いている。私がどれ位のウェイトを扱うかについては、ほとんど制限がない。といっても、私にとって重過ぎるウエイトは、それほど効果があるとは思えない。それよりも私は、私の力に適するウェイトをえらび、運動の速度をはやめる。セット間の休息は30秒くらいにして”
フライというエクササイズの要点は、ダンベルが持ち上げられて上に持っていかれるときに、ダンベルが移動する弧状の軌道である。グレッグはこう信じている。
胸骨のところから、ゆっくりとダンベルを引いて、ちょうど“抱きしめる”のと同じような腕の動きである。このような腕の使い方によって両方の大胸筋の間にあるくぼみがくっきりとした線になるとグレッグはいう。
パラレル・ディップス
スミス・マシンを使ってのインクライン・プレス あまりにも多くのボディビルダーが、大きいエゴ(利己心)と、小さい未発達の大胸筋を持っている、とミスター・インターナショナルはいっている
ベンチ・プレス8~10レップスのあとで、ケーブル・クロスオーバに移る。これはグレッグの好きなエクササイズである。このエクササイズによる筋肉の収縮が、優秀なボディビルダーの大胸筋はかくあるべきという理想的な胸の形をつくるのにどのエクササイズよりも役立つ。グレッグはいう。
“一般的にいって、フライはプレスよりはずっとすぐれた効果がある。私はその日のトレーニングで、多すぎるほどのセット数をこなした日以外は、あらゆるタイプのフライ・エクササイズをする。すなわち、スタンディング、インクライン・ベンチ、フラット・ベンチ、デクライン・ベンチでのケーブル・フライである”
このスーパー・セットのあとで、グレッグは、パラレル・ディップスをする。彼は特別にウエイトを体につけたりはせず、自分の体重だけでディップスをする。というのは、ここに至るまでのトレーニングで彼はほとんどのエネルギーを使い果たしているので、このディップスでは彼自身の体重を持ちあげるだけで彼には充分ハード・トレーニングであるから。
ディップスのテクニックについては、グレッグは特に慎重な注意を払う。彼は、自分が用いる重量よりもディップスを行なう動作を重んじる。それを出来る限り確実に行なうことに努力をかたむける。
このエクササイズは、直接、胸の筋肉に効く。もし、この動作に注意を怠るときは、トライセップスとバイセップスがすぐに運動に参加して大胸筋が運動するのを滅殺する。
“以上のエクササイズのほかに、私がするのはプルオーバーである。ベンチに十文字に交差して仰臥し、1個のダンベルを両手で持って行なう。
私は、このエクササイズの効果を他の多くの人々が思っているようなリブ・ゲイジ(肋骨で囲んでいる胸郭)を拡大するものとはいちがいに考えてはいない。胸郭は、内側から拡大させることが出来るのであって外側から影響を与えて拡大することは出来ない。
胸郭を拡大するための何よりの方法は、思い切り胸を張って、出来るだけ大量の空気を胸の中へ吸い込み胸郭の骨を内側から外へ押し拡げることである。これは、他のエクササイズで胸を張り、胸の中へ大量の空気を吸い込むときも同様の効果がある。大量の空気を吸い込むことは、大量の酸素を吸い込むという目的と胸郭を拡大するという2つの目的に役立つ。
“私が、プルオーバーから得る効果は、肋間筋と前鋸筋の発達であってこれらカ斃達するときは、リブ・ケイジを支え、隆起させる。この肋間筋と前鋸筋の発達は、ほんとうに、トルソー(胴体)をねじるどんなポーズにも素晴らしい風格をつける。
ベンチに十字架に交差して行うプルオーバー 私のトレーニングの秘訣は、運動している筋肉を感じることであって、私が用いるウェイトの量ではない。
ノーチラス・マシンによるベック・フライ
彼は感じる――人々は、このエクササイズで重すぎるウェイトを用いている。そして、重すぎるウェイトを用いることが原因で、運動中にいろいろな体のねじりが起こり、これによって、いろいろと働いてはいけない筋肉が運動に動員される。つまり、効果の少ないムダな運動をすることとなる。
インクライン・プレスをするときその変化エクササイズの1つで、グレッグが好んで用いるのは、プル・セットである。バーに重いウェイトをつけて、出来る限り数の多いレップスをする。多分4~5レップスくらい。それから誰かにすばやくウェイトを滅らしてもらって、そのあと直ちに総計で10レップスかそれ以上する。
“私は、このトレーニングは、パートナーに助けてもらってするフォースト・レップスによく似ていると思う。しかし、この方法は、フォースト・レップスとはある意味でまるでちがう。
すなわち、この方法では、最後のセットまで自力であげねばならない。だから、どんなに苦しいトレーニングに自分が堪え得たかという点では自分を軽蔑することは出来ない。私は、若い青年たちがフォースト・レップスをするときに、パートナーが助けるという形をとりながら、実は全部パートナーの力であげているのをよく見かけたものだ。これではいくらフォースト・レップスをしたところで筋肉が発達するはずがない”とグレッグはいう。
ケーブル・クロスオーバー
彼は、ウイダー・クオリティ・プリンシプル(量より質を重んじるトレーニングの原則)が質のよい)をつくることへの鍵であり、特に胸のトレーニングではそうである、とかたく信じている。
“いつでも、胸の運動をするときはいま大胸筋がどのような動きをしているか、ということに心を集中していなければならない。ウェイトは、筋肉の発達という目的に到達するための単なる手段に過ぎない。ウェイトは、筋肉がそれに抵抗して働くためのものである。
トレーニングしている間は、その筋肉がどのように収縮しつつあるかを心の眼でえがきなさい。そして、その筋肉を間違いなく最大限まで働かせなさい。ウェイトが一番低い位置にきたときは、出来る限り胸の筋肉を引き伸ばし、その次は、胸の筋肉群を引っぱり、しめつけ、最大の収縮をさせなさい。
しかし、どんなことをしようともどれだけのウェイトを自分が寺ちあげることが出来るかということにとらわれてはいけない。もし、そのことに関心があるのならパワーリフターになればよい。何故なら、ウェイトの数字にとらわれている限りは、あなたはi夬してボディビルダーとして成功することは出来ないから。
ダンベル・フライ大胸筋が烈しく燃える感覚を起こすまで突き進みなさい。この点に到着したあと、最後の2レップスで、痛みの防壁を越えるために戦いなさい。
フラット・ベンチ・プレス
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