フィジーク・オンライン

ボディビルダーのバイブル(聖書)
世界に誇り得る肩をつくる法

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1981年8月号
掲載日:2020.06.17
ユサップ・ウィルコッシュ
★1979IFBB世界選手権ヘビー・クラス優勝
★1980プロ・ミスター・ユニバース有限会社
訳=松山令子

ウィルコッシュの肩のトレーニングのモットー

1.最大限の強度でのトレーニング
2.エクササイズの多様性
3.ウイダーの各トレーニングシステムに密着したトレーニング
この3つを忠実に実行したことがウィルコッシュの偉大な肩をつくりあげた秘訣でありどの選手にとっても、これが優勝への最短距離である。
記事画像1
 わたしは、初めてボディビルディングのトレーニングを開始した日から今日まで、特に、肩のトレーニングに力を注いできた。そのわけは、肩の諸筋肉の発達は、コンテストで優勝を争うボディビルダーには絶対欠かせないものだと思うからである。
 コンテストのステージで、ポージンングをするとき、たいていの発達不足の筋肉は、何とか目立たなくすることが出来る。しかし、誰にとっても、どんなにうまいポージングででも、絶対にかくせない部分がある。それは肩の三角筋と脚のカーフである。この2つの部分は、どんなポーズをとっているときにも、はっきり見える。

 人なみはずれたすぐれた肩をつくるために、三角筋を発達させるには先ず何よりも、人なみはずれた筋量が必要である。しかも、三角筋を構成している前部、中部、後部の各ヘッド(先端)が、つりあいのとれた同じ筋量であることが必要である。ほとんどのボディビルダーは、前部を過剰発達させ、後部の発達に意を用いていないといっていい。そして彼らは、何故自外がコンテストで敗れたかを不思議がる。原因を確かめることもせずに。
 このように、三角筋の前部ヘッドが、他のヘッドよりもより多く発達するという主たる原因は、胸を発達させるためのどのエクササイズをしても、三角筋の前ヘッドが刺激を受けるからである。インクライン・プレスでは特にこのことが著しい。

 わたしが、さきに、すぐれた三角筋をつくるには、大きい筋量が必要であるといい、かつ、3つのヘッドがバランスのとれた大きさであるべきことをいった。また、その3つがはっきりと外部から区別して見えねばならない――つまりセパレーションが出来ていなければならないことと、ここでさらに、つけ加えて1つ1つのヘッドにそれぞれストリエイション(条溝)がなくてはならないことをいわねばならない。

 コンテストで戦い、勝利を得るのに必要な筋肉のたくましさをつくるためには、わたしは厳しいダイエットを行ない、かつ、ウイダーのアイソテンション・コントラクション・プリンシプルを実行している。これは、各筋肉を他の筋肉から切り離して、個々に緊張させることのトレーニングであって、わたしは、この目的で、三角筋をいろいろな位置におき、1回15~20秒間継続して緊張させる練習をする。
プーリー・アップライト・ロウイング“プーリーは、持続的に筋肉を緊張させてくれるので、わたしはこのエクササイズを好んで行う”

プーリー・アップライト・ロウイング“プーリーは、持続的に筋肉を緊張させてくれるので、わたしはこのエクササイズを好んで行う”

 また、わたしは、筋肉を最大限に発達させるためには、ウイダーのインスティンクティブ・プリンシプルにのっとって、三角筋のトレーニングには出来るだけ種々の運動をとり入れて、筋肉の生理的な機能を利用して最大限に筋肉を発達させることにしている。同じプログラムを続けていると、同じ刺激になれて、筋肉は、そのエクササイズによって刺激を受けなくなる。従って、パンプ・アップせず、その結果、いくらエクササイズしても、思うように筋肉が発達しないという状態におちいる。これを防ぐために、わたしは、つねにプログラムの内容に変化をつけることで、筋肉に新しい刺激を与えるようにしている。この方法による筋肉の発達は著しい。
 わたしの畏友でもあり、かつまたわたしのトレーニング・パートナーをしてくれたアーノルド・シュワルツネガーが、1つのテクニックをわたしに授けてくれた。これは、マッスル・コンフュージョン・システムといい、筋肉に思いもかけぬ運動で刺激を与え、筋肉をあわてさせる方法である。筋肉は、刺激になれる暇もなく次々と新しい刺激を与えられるので、どしどしそれに反応して大きくなっていく。わたしはこれを、1980IFBBプロ・ミスター・ユニバース・コンテストで戦うために、サンタモニカのワールドジムで実行した。そのときのわたしのトレーニング・ルティンをここに記して、諸君のために役立てる。

ルティン(A)

①オルタニット・フロント・ダンベル・レイズ
 5セット 10~12レップス
これを、以下の②③④⑤のエクササイズとそれぞれ組み合わせてスーパー・セットとする。
②サイド・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス
③シーテッド・ベント・ラタラルズ
 5セット 10~12レブス
④シーテッド・ミリタリー・プレス
 5セット 10~12レップス
⑤ケーブル・サイド・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス

ルティン(B)

①サイド・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス
これを、以下の②③④⑤のエクササイズとそれぞれ組み合わせてスーパー・セットとする。
②シーテッド・プレス・ビハインド・ネック
 5セット 10~12レップス
③スタンディング・ベント・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス
④バーベル・アップライト・ロウィング
 5セット 10~12レップス
⑤ケーブル・サイド・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス

ルティン(C)

①ケーブル・サイド・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス
これを、以下の②③④⑤のエクササイズとそれぞれ組み合わせて、スーパー・セットとする。
②ケーブル・ベント・ラタラルズ
 5セット 10~12レップス
③ダンベル・プレス
 5セット 10~12レップス
④フロント・バーベル・レイズ
 5セット 10~12レップス
⑤ケーブル・アップライト・ロウイング
 5セット 10~12レップス

 わたしは、自分の三角筋のトレーニングには、これ以外に他の多くのタイプのルティンも用いる。時として、わたしは、トライセット法も用いる。最もよく用いるトライセット法は、次のものである。
 フロント・レイズ+サイド・ラタラル・レイズ+リヤ・ラタラル・レイズ(ペック・デッキ・マシンを用い)

 三角筋のトレーニングのプランをつくるときは、出来るだけ多くの想像力を働かせなさい。しかし、その中へ、三角筋の3つのヘッドをそれぞれ鍛える1種目のエクササイズを必ず、忘れずに入れなさい。
 そしてもしも、あなたの三角筋のどれかのヘッドが他のそれより発達が遅れていることを発見したら、その部分へのトレーニングのセット数を他の部分へのそれよりも2倍にしなさい。
 わたしはコンテストの3~4週間前に、自分の三角筋をあらゆる角度から点検する。
そして、発達の遅れている部分を、わたしのルティンで猛烈に攻撃する。わたしは、実際に3~4週間、自分の精神的、肉体的両エネルギーを集中し、勇猛果敢に弱い部分を攻撃することによって、約20%は発達させることが出来る。
 どんな筋肉群をトレーニングするときにも、必ず、精神をその筋肉に集中させねばならない。何故なら、トレーニングによる筋肉の発達のうち、その50%は精神が受け持つからである。わたしは、運動しつつある筋肉に、自分の心を完全に集中させることが出来るので、筋肉カ収縮したり伸びたりしているとき、自分の手に持っている器具の重みさえ感じないほどである。そして、わたしがオーバーヘッド・プレスをするときわたしは、自分の前部三角筋のみが働くのを感じて、自分のトライセップスの働くのを感じない。だから、このトレーニングで、わたしの三角筋は、最大限に、烈しく攻撃されるのである。

 わたしが、三角筋のトレーニングで、相当重いウエイトを用いる場合は、どれだけのウェイトを用いるかということよりも、どのように筋肉を働かせるかということの方が関心事となる。トレーニングで重要なのは、先ず、筋肉の働き方である。わたしは、各セットの最後のレップスまで、ストリクト・フォームですることを心がけている。これは、ウィダー・スロー・コンティニュアス・テンション・プリンシプル(ゆっくり、持続的に筋肉を緊張させる法則)である。
 わたしが、ほとんどのセットの最後のレップスを歯を食いしばり、苦しみながらやり終えるのに、どれぐらいの時間がかかるか、あなたがたは想像もつかないだろう。最後のレップスのスタートのポジションからフィニッシュのポジションに至るまでに、10秒はかかる。そこから再びスタートのポジションに戻すのに、また10秒もかかる。最後のレップスで、フィニッシュのポジションからスタートのポジションへ戻すネガテイブ・ワークを非常に重要だと考えている。このいプスは、実に苦痛にみちたものである。しかし、これこそが、わたしをチャンピオンにしてくれたのである。
シーテッド・ベント・ラタラルズ“立って行なっても、腰かけて行なっても、このエクササイズは、三角筋のヘッドを発達させるには最も有効である”

シーテッド・ベント・ラタラルズ“立って行なっても、腰かけて行なっても、このエクササイズは、三角筋のヘッドを発達させるには最も有効である”

アップライト・ロウイング“これをプーリー、またはバーベル、あるいはEZカール・バーでするとしても、このエクササイズは、三角筋と僧帽筋を連動させるものとして最高である

アップライト・ロウイング“これをプーリー、またはバーベル、あるいはEZカール・バーでするとしても、このエクササイズは、三角筋と僧帽筋を連動させるものとして最高である

プーリー・ヘッド・ラタラルズ“これもまた、三角筋の後ろのヘッドの発達には最適である。それは筋肉を持続的に緊張させるから”

プーリー・ヘッド・ラタラルズ“これもまた、三角筋の後ろのヘッドの発達には最適である。それは筋肉を持続的に緊張させるから”

 わたしは、つねにヘビー・ウェイト・トレーニングなので、トレーニングの前のウォーミング・アップは徹底的にする。もし、わたしがそれを怠れば、遅かれ早かれ、肩の関節や筋肉をいためるにきまっているから。わたしは、ウォーミング・アップとして、2~3セットの軽いスーパー・セットをする。比較的軽いウエイトで、1セットを15~20レップスである。伸ばしたり、そのほか型にはまらない運動をする。もし、あなたが、筋肉の最大限の発達をのぞむなら、筋肉を引き伸ばす運動をするのが非常に有効である。
 はじめに述べた、わたしの三角筋のトレーニング・ルテインは、わたしが昨秋、プロ・ミスター・ユニバース・コンテストの準備期間に用いた、プレ・コンテスト(コンテスト前)ルティンである。わたしは、これを、ウイダー・ダブル・スプリット・ルテインの部分として、上腕三頭筋のエクササイズとともに、週3回の割合で実行した。
 オフ・シーズンのわたしは、西ドイツのシュツットガルトに住み、郵便局につとめ、少なくとも1日8時間は勤務せねばならない。それで、このようなハード・トレーニングをする時間がないから、三角筋のトレニングは週2回とし、トータルで約15セットである。オフ・シーズンの間は、概して、より重いウェイトを用い、より少ないレップス数とする。
 わたしのトレーニング・ルティンは、どれもみな、一般のボディビルダーには強すぎると思うので、ここで、みなさんにふさわしい、3つの優秀なルテインをお知らせしよう。

<初心者レベル>

①ミリタリー・プレス
 3セット 6~10レップス

②アップライト・ロウイング
 3セット 8~12レップス

<中習者レベル>

①プレス・ビハインド・ネック
 3セット 6~10レプス
②サイド・ラタラルズ
 2~3セット 8~12レップス
③ベント・ラタラルズ
 2~3セット 8~12レッブス

<熟達者レベル>

①サイド・ラタラルズ
 3セット 8~12レップス
これを、以下の②③④のエクササイズとそれぞれ組み合わせて、スーパー・セットとする。
②プレス・ビハインド・ネック
 3セット 6~10レップス
③ベント・ラタラルズ
 3セット 8~12レップス
④アプライト・ロウイング
 3セット 8~12レップス

 もしあなたが、これらのプログラムを、はげしく、かつ根気よく、むらなく、絶対に1回のトレーニングも手を抜かないぐらい熱しに実行するなら、遠からず立派な三角筋をつくりあげることが出来、ここ数年以内にコンテストで優勝出来るにちがいない。わたしは、かたくそう信じている。
プーリー・サイド・ラタライズこれはわたしの三角筋トレーニングの仕上げのエクササイズである。とくに三角筋の中央のヘッド効果がある

プーリー・サイド・ラタライズこれはわたしの三角筋トレーニングの仕上げのエクササイズである。とくに三角筋の中央のヘッド効果がある

ショルダー・シュラッグ“肩の環状の筋肉群の発達は、僧帽筋を発達させずには永久に成就しない。だからわたしは、大いにこのエクササイズにはげむ”

ショルダー・シュラッグ“肩の環状の筋肉群の発達は、僧帽筋を発達させずには永久に成就しない。だからわたしは、大いにこのエクササイズにはげむ”

ダンベル・プレス“これは、シーテッド・プレス・ビハインド・ネックと同様に、わたしの好むエクササイズの1つである。

ダンベル・プレス“これは、シーテッド・プレス・ビハインド・ネックと同様に、わたしの好むエクササイズの1つである。

ダンベル・サイド・ラタラルズ“これは、三角筋の中央のヘッドの発達を完成させる。わたしは、これをプレス運動とスーパー・セットとして好んで行なう”

ダンベル・サイド・ラタラルズ“これは、三角筋の中央のヘッドの発達を完成させる。わたしは、これをプレス運動とスーパー・セットとして好んで行なう”

古武士のようなウィルコッシュ★松山令子

記事画像10
 あの鍛え抜いた申し分のない体と、特徴のあるひげで、ひと目見て誰にもわかる西ドイツのユサップ・ウィルコッシュを私が初めて見たのは、1978IFBB世界選手権(アカプルコ・メキシコ)であった。この時ウィルコッシュはヘビークラスでマイク・メンツァーと激しい戦いをした。カットとデフィニッツョンではメンツァーをしのいでいたが、バルクの点ではメンツァーの方がすぐれていた。それにメンツァーは既に充分、雑誌の紹介によって有名であった。この時メンツァーはポージングでもウィルコッシュを圧した。自分こそはという自信が、メンツァーの体を大きく見せた。体重の計量の時からメンツァーの気分が高揚してカッカとしているのが、そばにいた私にもわかった。メンツァーにとってはこの年の世界選手権は何が何でも勝たねばならぬ戦いであった。そして、メンツァーは優勝し、ウィルコッシュは2位であった。その翌年、1979IFBB世界選手権は、あのオリンピア・コンテストの開催地として有名なコロンバス市(アメリカ、オハイオ州)で開かれた。そしてこの時、私はジャッジ(審査員)に選ばれ、ジャッジングに加わった。この年のヘビークラス18名の中にウィルコッシュがいた。この時の上位陣には、前年ウィルコッシュが敗れたマイク・メンツァーの弟のレイ・メンツァー(アメリカ)、ヒューバート・メッツ(ドイツ),タンシー・ベックルズ(バルバドス)、チェン・ウィント(ジャマイカ),カール・カインラス(オーストリヤ)、ジョセフ・ヴェスレイ(チェコ)などという顔も名もよく知られている錚々たる選手がいた去年のマイクのように、レイは、今年優勝するだろうという評判が高かった。
 今年、もしレイ・メンツァーに敗れたら、ウィルコッシュは二年つづけてメンツァー兄弟に敗れるという苦渋を味あわねばならない。ウィルコッシュにとっては絶対に負けたくない戦いであっただろう。
 この年は参加42ヵ国、参加選手100名という大規模の大会で計量は午前7時半から開始されそれにつづくプレ・ジャッジングは休みなく夕方までかかって審査は、それぞれの審査員が満足するまで行われた。例年のことながら、自国の選手への声援はものすごい。特にアメリカではそうである。レイ・メンツァーへ集中する声援の中で各国選手は冷静に戦った。特にウィルコッシュは沈着冷静であった。相手に勝とうとするよりも、自分の最善をジャッジに認めてもらおうとする努力が見てとれた。アカプルコではやや物足らなかったバルクは一段と増し、ポージングの貧しさも格段に進歩していた。そして、ウィルコッシュはメンツァーに勝って優勝した。ウィルコッシュの心には、レイに勝ったことに二重のよろこびがあったにちがいない。
 コンテストが終った夜、シェラトン・ホテルのバーは深更まで各国の役員や選手達でいっぱいだった。その中にウィルコッシュの優勝を祝うドイツ・チームの人達がいた勿論ウィルコッシュもいた。私は彼らといっしよに祝盃をあげてウィルコッシュの勝利を祝った。こんな有頂天になってもいい祝宴の中でもウィルコッシュは静かで謙譲な態度を変えなかった。何という奥ゆかしい人だろう、と私は心から思った。その威厳のある風貌、戦士のシンボルのようなその体、そこへあの昔の鎧甲を着せたらどんなによく似合うだろうかと思った。今月号の本誌の表紙を見て、きっとみなさんも私の意見に同感せられることだろう。彼はこの1979世界選手権のあとで、1980IFBBプロ・ミスター・ユニバースで優勝した。そして今年は1981ミスター・オリンピアに挑戦するという。彼の今後変わらぬ精進と健闘を祈っている。
 ここにウィルコッシュの肩のトレーニング法を紹介したのは世界の上位レベルにはまだまだ程遠い日本のボディビルダー諸君に、一日も早くいい肩をつくりあげてほしいという私の願いからである。たとえ、他の部分がどのようにすぐれていても、がっちりとした幅と厚味のある立体的な肩まわりの筋肉群と盛りあがった三角筋なしには、どんな世界レベルのコンテストでも優勝は到底のぞめない。肩こそ、男性の姿全体に男らしさと威厳と、美しさを与える重要な主役であるから。(1981.6.28)
月刊ボディビルディング1981年8月号

Recommend