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★ボディビルダーの道しるべシリーズ★
疲労回復の科学的研究<2>

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月刊ボディビルディング1981年8月号
掲載日:2020.06.17
筆者=ジョー・ウイダー(マッスル・フィットネス発行者)
訳者=松山令子
監修=後藤紀久(医学博士・国立予防衛生研究所主任研究官)

第一章 睡 眠

 睡眠は、疑いもなくボディビルディングのトレーニングと関係の深い疲労回復のかなめをなすものである。
 トレーニング、それは、筋肉を発達させるために必要欠くべからざるものであり、カロリーと栄養補充もまた必要欠くべからざるものであるが、さらに、ボディビルダーにとって必須である第3のものは、疲労回復という領域を研究開発することである。それなくしては、決してボディビルディングの目的を充分に達成することは不可能である。
 では、睡眠について、次の諸点について研究考察をしてみよう。
 ①ボディビルダーにとって、必要な睡眠の量はどれだけか
 ②ボディビルダーにとって、睡眠が必要である理由
 ③眠れないときの対策
 ④何が睡眠の習慣の型を変えるか

 あなたの生活時間の3分の1を占める睡眠という行為についての、以上の4つの疑問は、睡眠の経過中のいろいろの段階を理解することによって解明される。
 人間の生活を構成しているいろいろな行動の組合わせや、順序や、所要時間などは、ほとんどすべて、一定のリズムによって律せられている。
 睡眠――覚醒のサイクルもまた、人間の体が必要とする質的、量的に適当な休息をうまくとれるようにするための1つのリズムである。

 人間が睡眠をはばまれたときに起こるREM(ラピット・アイ・ムーヴメント――眠っているときに眼球がすばやく動くこと)について、いままでにも研究の結果が発表されたことがあるが、これは、夜更けまで眠れずに目を覚ましているときに誰にでも起こる珍らしくない状態であって、これの起こる直接の原因は、副賢皮質ホルモンの分沁の不足である。
 眠っていて急に眼を覚ました直後は誰でも体がシャントせず、疲れた気分でイライラしている。こういうわけでボディビルダーが、トレーニングをしようと思う日の朝に、目覚まし時計で早朝に目を覚ますという習慣ははなはだ感心しない。
 睡眠の必要量は個々の人によって異る。平均的には6時間から9時間である。いままでの睡眠の研究では、睡眠を必要としない人間はいないことが明らかになっている。そして、最短レコードは、一晩約3時間である。もちろんこれは、長期間にわたっての一晩当りの平均睡眠時間である。

 ボディビルダーの睡眠についての研究がなされて以来、今日までに集められたデータは、ほとんど大部分が、実際にボディビルダーの経験から得られたものである。
 先ず、普通のトレーニングは、睡眠の開始(眠りにおちること)には、あまり影響がないようである。たとえばマイク・メンツァーは、ミスター・アメリカ・コンテストで優勝すべく、連日烈しいトレーニングをつづけていたときに経験した睡眠について、次のように語る。
 彼のトレーニングは、実に烈しかったので、コンテスト前の1ヵ月は、ほとんど毎夜ベッドに横たわってはいても、眠ることがなく、眼を覚ましていたという。これは明らかに、何か表面には見えないものが、昼夜のサイクルを変えてしまい、彼がベッドにいる時刻は、いままでの彼の起きている昼間であるという状態に、彼の体をおいたのである。しかし、こうして眠れなかったとはいうものの、彼はやはり毎夜8時間はベッドに横たわっていた。

 フランク・ゼーンが、1978年のミスター・オリンピア・コンテストのために、トレーニングしていたとき、彼は朝と夕方の1日2回のトレーニングの中間で、必ず数時間の昼寝をするのがつねであった。
 彼は、よく眠れば眠るほど、トレーニングの効果もよく、体が発達すると信じていた。だから彼は、1日に12時間眠るように努力していた。このような、普通の人の基準をはるかに越えた長時間の昼寝をするには、そのための特別な訓練とトレーニングが必要である。
 彼の場合は、長時間の昼寝が、夜の定時に始まる8時間の睡眠をさまたげることはなかった。恐らく、その臨時の睡眠は、彼にとって、ボディビルディングの烈しいトレーニングに必要なエネルギーを得る1つの方法であったのだろう。また、おそらくそれは、彼の圧倒されるほどの烈しいトレーニングの重圧を、心からとり除くための心理的な救いでもあったのだろう。
 臨時の睡眠が主たる理由であったかどうかは別問題として、ゼーンの体は日に日によくなり、大きくなり、その年のオリンピアに優勝して、二度目のオリンピアのタイトルを取った。

 1979年、レイ・メンツァーは、最大のアマチュア・コンテスト(1979IFBB世界選手権)のタイトルを目指して、最大の努力をしていた。彼はこれまで、平均して1日に4時間、夜の睡眠をし、昼間、何時間かの睡眠をして補いとした。そして実際に彼の体は日に日に発達した。

 われわれは、このような事実から、人々の睡眠時間は、それぞれちがうという結論を出さねばならない。それはそれなりに、その人にとっては正常なのだから。
 多くの人々は、短い昼寝は有効だと知っている。昼寝は年をとるにつれてふえる。昼寝の回数についていえば、20歳ではゼロ、60歳では平均週2回ぐらい、60歳をこえるとだんだん回数がふえる。
 若い人々(男女とも)を対象とした研究では、夜の睡眠は平均7時間40分である。興味あることには、彼らは平均して、1日に25分ぐらいの昼寝の時間を持っている。若い人の睡眠で最短時間は6時間、最長時間は10時間である。

 カリフォルニヤのマッスル・ビーチは、ボディビルダーがトレーニングの疲労をいやすために、その浜辺で昼寝をすることで有名である。夏のトレーニング・シーズンに入ると、砂浜にはボディビルダーの横になった体が、まき散らしたように見える。有名なボディビルダーが長時間、砂浜で眠っているのは珍らしくない。
 この毎年くり返される昼寝シーンからだけでも、日々の昼寝の重要さがわかると思う。これらのボディビルダーたちは、ダブル・スプリット・システムにより、朝と夕方の2回に分けてトレーニングをし、その中間で昼寝をするのである。
 世界各国で行なわれるコンテストで戦うために、ボディビルダーたちは短時間で地球の向う側まで飛ぶことがある。そんなとき、彼の体のリズムを、すぐに新しい土地の時差に応じたリズムに変えることが出来ないので、体のリズムが乱され、トレーニングに力が入らずコンテストの戦いでも意気があがらない。
 人間の体の機能は、日々の行動が調和のとれたリズムによって流れていくときに、それぞれの行動は最も効果的となる。ボディビルダーが極端に眠る時刻や時間を出たらめにするときは彼の体の機能のリズムがばらばらに乱れ、よくない結果となる。
 ボディビルディングの効果を最大に得ようと思うボディビルダーは、就寝する時刻や時間、トレーニング開始時刻や継続時間を一定に決めて実行すべきである。(つづく)

≪解説≫…………医博・後藤紀久

 睡眠は本能的な生理機能であり、疲労の回復にも重要なものである。睡眠中の最も顕著な特徴は、意識、知覚などの作用が消失し、内外からの刺激に対する反応が消失、または低下することである。睡眠中は全ての器官の働きは低下し、筋肉の緊張が減り、物質代謝が低下する。
 睡眠の深さは、通常、就寝後約1時間が最も深く、それから2~3時間後に浅くなり、その状態が、いわゆる目が覚めるまで続く。
 熟睡できれば1日に4~5時間でよいといわれるが、脳波、眼球運動、呼吸、体動、脈博などを記録すると、熟睡したと思われる人でも、かなり変動しており、必ずしも熟睡が継続したと熟睡できれば1日に4~5時間でよいといわれるが、脳波、眼球運動、呼吸、体動、脈博などを記録すると、熟睡したと思われる人でも、かなり変動しており、必ずしも熟睡が継続したとはいえない。また、自分では毎晩よく眠れないという人でも、熟睡した形跡が認められる。強い刺激によって、睡眠の継続がさまたげられる。睡眠が中断される主な原因としては、夢と物音がそれぞれ30%、用便が20%くらいだといわれている。
 それでは、いったい何時間睡眠をとればいいのか? これは個人差が極めて大きいが、一般的には3時間の睡眠で脳は完全に平常に戻るが、内臓諸器官および筋肉の疲労は、平常に戻るまでにもっと長時間かかる。とくに、ハード・トレーニングの後ではなおさらである。やはり最低6~8時間は必要であろう。
 トップ・ビルダーたちが、昼寝をとり入れていることが本文に出てくる。20分前後の昼寝は、頭脳を明快にしてくれるし、一時的な疲労回復にも確かに効果がある。それは夜の睡眠の数時間にも匹敵するといわれる。しかし、1~2時間も寝昼をすると、それを習慣としている人はともかくとして、かえって吸収したエネルギーを肝臓などで貯臟する作用を開始し、活動エネルギーが減り、また、呼吸作用が緩慢になり、ガス交換の円滑を欠くなどしてむしろ目覚めたとき不快感とだるさを招くことが多い。
 よく眠れないときは、目をつむって、静かに体を横たえているだけでも、筋肉、および内臓はかなり休息できるもののである。人間は、必ずいつかは体が睡眠を要求して眠れるものであるから、決して睡眠薬などを使用せず、あせらず眠くなるのを待つことが必要である。
月刊ボディビルディング1981年8月号

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