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ボディビルダーのバイブル(聖書)
Row Row Row Your Lats
フランコ・コロンブのロウイング・エクササイズ

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月刊ボディビルディング1981年12月号
掲載日:2020.08.19
筆者=チャールズ・フレイザー 訳=松山令子
シーテッド・プーリーロウイング

シーテッド・プーリーロウイング

 古代ローマの軍艦は、おびただしい数のオールがついた帆船で、そのオールは、私たちがよく映画のシーンで見かけるように、脚を鎖でつながれた奴隷たちによって漕がれた。

 彼らは、その帆船がガリー船と呼ばれたことから、ガリー奴隷と呼ばれた。ガリー奴隷たちは、ガリー船を漕ぐことによってローマ人達が国を治めるのに役立った。

 ガリー船を漕ぐのは苛酷な労役であり、多くの奴隷たちが死んだ。それに耐え抜いて生き残った奴隷たちの体は、一様に、それを見てガリー奴隷だとわかる特徴があった。それは、背中がいちじるしく発達していたことである。とくに広背筋の発達がすごかった。船を漕ぐという動作(ロウイング)が、彼らの上体の筋肉をゆたかに発達させて厚味のあるV型の背中をつくったのである。
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 フランスの有名な小説家であるビクトル・ユーゴーの有名な時代小説“レ・ミゼラブル”(日本名“ああ、無情”)の中でも、人並みすぐれた立派な背中が、大きい役割を果たしている。

 物語りの主人公ジャン・バルジャンは、青年の頃、餓に苦しむ妹の一家に食べさせたいと思い、ひとかたまりのパンを盗んで捕えられ、事の成りゆきによって、実に19年間のガリー船漕ぎという刑を宣告され、やがて刑期を終えて社会復帰した。

 一方、冷酷無比なシャベルという監視官がいて、絶えず刑余者の行方を追い、監視している。そのシャベルが、フランス北部の小都市で市長として徳望をあつめているジャン・バルジャンを発見し、彼がかつてガリー奴隷であったことをつきとめようとして絶えず狙っている。

 そんなある日、ひとりの男が重い荷車の下にはさまれて、そのままにしておけば死ぬ以外にない状況になった。その重い荷車を動かし得る者は誰もいなかったとき、ジャン・バルジャンは、上衣を脱いで、肩を荷車の下に入れ、渾身の力をこめて荷車を持ち上げ、男の命を救う。

 このジャン・バルジャンの背中を見たシャベルは、これこそ鎖につながれてガリー船を漕ぎつづけた男の背中にちがいないと確信し、その献身的な市長の正体をあばき、彼を破滅させることを決意する。ジャン・バルジャンの背中が、このように発達していなかったら、彼は、こうして人の命を救うこともできなかったろうし、また、自分の運命を危くすることもなかったろう。
フランコ・コロンブ、1981オリンピア優勝 コロンバス・オハイオでのフランコ・コロンブ

 1976年オリンピア・コンテストで優勝したフランコ・コロンブは、その翌年“ザ・ストロンゲストマン・コンテスト”で冷蔵庫運びの競技中に膝関節を骨折した。傷はきわめて重く、ギブスをつけた病床のフランコの写真が痛々しかった。

 「フランコ再起不能」の噂が色濃く流れた。それは、IFBB JAPANからの招きを受諾して三度目の来日を実現しようとしていた直前であった。(この年1977年は、フランコに代ってラリー・スコットが夫人同伴で来日して、心温まる多くの思い出を残した)

 事実、フランコはその後、絶えてコンテストで戦うことはなく、月日が流れた。

 1980年、シドニー(オーストラリア)でのオリンピア・コンテストに、1970年から1975年まで6回の連続オリンピア優勝を果しているアーノルド・シュワルツェネガーが5年ぶりに参加して7回目の優勝をした。その時フランコは、シドニーにおもむきアーノルドの介添をした。

 アーノルドの優勝をよろこぶフランコの姿がマッスル・フィットネス誌に掲載され、私達の眼にふれた。年令はアーノルドより上だけれど、アーノルドのそばにいくとまるで弟のようなフランコのよろこびにあふれたほほえみは、すでに私たち日本のファンには親しみ深いものである。

 今年7月末、私は臼井、石村の2選手と共に第1回ワールドゲームに参加すべくサンタ・クララ(アメリカ)へおもむいた。(そこで臼井選手は5位に入賞した)その帰途、ゴールド・ジムやワールド・ジムでのトレーニングを望んでいた2人の選手のために、サンタ・モニカに立寄った。

 運よく、コロンブ夫妻と会うチャンスがあり、また折よくアーノルドの誕生日に遭遇し、私はそのパーティーに招待されて楽しい時を過した。

 その時、フランコは今年のオリンピアに参加すべくトレーニングを始めており、ワールド・ジムでトレーニングするフランコを見ることが出来た。私がほんの短時間見ていたところでは、さして烈しいトレーニングはしていなかった。しかし、よく考えたトレーニングをしているように見えた。

 アメリカから帰ってから、私は、オリンピア・コンテストのジャッジを任命された。そして10月10日、オリンピア・コンテストのプレ・ジャッジングで初めて再起したフランコの体を充分に見ることが出来た。ただひとつ、大腿のカットが不足している点を除いては欠点がなく、とくに上体は正面も背面も見事に発達して、他のすべての選手よりも優れていた。

 彼の今回の優勝を決定した最大の利器は、彼の背中であった。第1ラウンドの自然体の戦いでは、彼の大腿の弱さが目立ち、決して他の選手を大きく引離しているとは見えなかった。

 しかし、第2ラウンドの規定ポーズの戦いになると、三角筋、大胸筋、広背筋、僧帽筋、背筋、脊椎直立筋が、どれもみなそれぞれに著しい発達を遂げながら全体として美事な調和をつくり上げているその美しい上体にかなう者はいなかった。とくに背面から見るラット・スプレッド(広背筋の拡張)では、審査員だけでなく、観衆のすべてが彼の背中の迫力にうなった。

 第3ラウンドのフリー・ポージングでも、今までの彼の淡々たるポージングとは打って変って意気のこもったものだった。

 最後のポーズ・ダウンでは彼の激しい闘志がひしひしと見る者に迫った。3年間の沈黙の間にも彼は黙々としてトレーニングをつづけてきたにちがいない。

 他の選手達のことは後日にゆずり、今日はフランコ・コロンブの優勝を讃えてこの稿を終る。(1981.10.30 松山令子)
ツー・ダンベル・ロウイング

ツー・ダンベル・ロウイング

バーベル・ベント・ロウイング

バーベル・ベント・ロウイング

T・バー・ロウイング

T・バー・ロウイング

 現代では、一目見てボディビルダーのそれとわかるような立派に発達した背中を持っていても、誰ひとり告発される心配がないというのは、まことに結構なことである。美しく発達した人間の背中、それは人間の翼である!肩の下からはじまってウェストに至る豊かな厚味とふくらみのある背中の諸筋肉は、何と美しく何と威風堂々たるものだろう!!

 それらの筋肉は、上体の諸筋肉の中で最も大きい筋肉であって、胴体がどれほど大きく発達しているかを決める最も重要な役割を果たす。

 数年前、わたしはロシアの偉大なバレー・ダンサーであるルドルフ・ヌレイエフと夕食を共にしたことがある。わたしはそのとき彼に、彼がもし上体をもっともっと発達させて大きくしたら、舞台の上での彼の演技は見ちがえるほど迫力を増すだろう、と言った。当時すでに卓越していた彼の風采をさらに偉大にすることについて熱心に学ぼうとする心のあった彼は、眼を輝かせてわたしにどうすれば上体が発達するかその方法を教えてほしいと言った。わたしは彼に、ボディビルディングのジムへ行ってベント・オーバー・ロウイングをして広背筋を発達させ、そして、プレス・エクササイズによって肩を大きくすることをすすめた。彼は私の指示を喜んで受け入れ、ロンドンへ帰ったら早速に始める決心だと言った。

 私は彼以外のいろいろな舞台の演技者達にも、彼らが大衆を魅了する能力を増す目的でこのわたしのアドバイスを実行するように励ましてきた。

 ボートを漕ぐという動作でラット(広背筋)は発達し、上体のスタミナが増す。しかし実際上ボートを漕ぐのはハイ・レペティションであり、かつ、オールが軽く動くようにしてあるから筋肉への抵抗が少ない。したがってボート漕ぎでできあがった体は、ラット(広背筋)は一応発達しているけれども、ボディビルダーのそれに比較すると厚味がなく幅が狭い。しかし、ラットとそれに連なっている背中の諸筋肉を発達させるには、ロウイング・モーション(ボートを漕ぐ動作)以外にはない。

 チンニングででもラットは発達する。しかし背筋を発達させて背中を部厚くし、脊椎直立筋を発達させるには、ロウイング・モーションは絶対に欠かせない。ボートマンの背中の厚味のなさをボディビルダーが解決するには、ロウイング・モーションを行なう際にウェイトを用いて抵抗を増し、それを行なうことである。

 ほとんどのロウイング・エクササイズは、背中が床と平行になるところまで上体を前屈しなければならない。こうすることによって脊椎直立筋はウェイトを胸へ引き寄せる動作のときに最大限に働かねばならない。だから前屈姿勢でのロウイング・モーションは脊椎直立筋を著しく発達させる。

 ロウイング・エクササイズの優れている点のひとつは、これをするために特別な器具が不要ということである。バーベルとダンベルさえあれば誰にでもどこででもできる。
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 ロウイング・エクササイズには複合運動であるラットと脊椎直立筋だけでなく、他の部分をも働かせる要素が含まれている。すなわちロウイング・エクササイズによって関節の運動が行なわれる。

 肩と肘の関節が運動し、ヒップとウェストを折り曲げることから臀筋が発達する。これに加えて、脚は体の安定を保つ能力を増進する。

 何といってもロウイング・モーションはハード・エクササイズである。重いウェイトを用いてロウイング・エクササイズを数セット行なうと、息切れがして全身に発汗する。これは全身の健康のためによい。そして言うまでもなく、ロウイング・モーションを行なうことで上腕筋、上腕二頭筋、前腕筋、手が発達する。

 このようなわけで、このロウイング・エクササイズはボディビルディングの最も重要で基礎的な数種のエクササイズの中の1つに入る。

 ロウイング・モーションは、いわゆる柔軟体操(ウェイトを用いない)に優る点をはっきり示しているところのウェイト・トレーニング・エクササイズの1つである。筋肉を発達させる目的でなら、プッシュ・アップの何千回よりもウェイトを用いた数セットの方がはるかに目的にかなう。

 あなたがボディビルダーであり、もしプレスとフライ・エクササイズが好きなら、是が非でもロウイングを努力して励まねばならない。

 ロウイングはすべてのベンチ・プレス及び大胸筋を鍛えるために腕を前に伸ばすエクササイズに対し対照的である。ロウイングは腕を前に出すのではなく、後方へ出す。(松山注:プレス及びフライは主として前から見られる体の筋肉をつくり、ロウイングは主として横及び後ろから見られる体の筋肉を発達させる。このことに思い及ぶなら、プレスとフライにのみ熱心でロウイングをしないボディビルダーの体がどのようなものであるかがすぐ思い浮かぶだろう。外国の優秀なボディビルダーと日本のボディビルダーの違いは、実にここにある)

ロウイング・エクササイズについての一般的注意事項

 すべてのロウイング・モーションを行なうには必ず守らねばならないいくつかのテクニックがある。先ず動作のスピードは中庸でなくてはならない。鍛えるのはもっぱらラット(広背筋)であって、腕ではないことを念頭から離してはならない。肘を必ず体側につけ、背中を最大限に拡げる。そのまま少時ウェイトを保ち、ラットを収縮させる。それから腕をゆっくりとおろす。ウェイトが下降する時にできる限りそれに抵抗せねばならない(重力に逆らう)。力を抜いてウェイトを急に落下させてはならない。ウエイトを下降させるときの抵抗をあなたが怠るなら、ロウィング・エクササイズの重要な半分の要素をあなたは無にすることになる。

 ロウイング・エクササイズは週2回または3回のトレーニングの中に含ませ、レップス数は6~10である。週3回ロウイング・エクササイズをする場合は、第1回と第3回にハード・トレーニングをし、第2回にはウェイトを軽くしてやや強度も落とす。こうすることでオーバー・トレーニング(過剰トレーニング)を防ぐことができる。

 トレーニングの動作はいつも決まった一定のリズムで行なうこと。休息は弾んだ呼吸が平常に戻るまでで充分である。たいていの初心者は、呼吸が元に戻るのに1分半から2分位かかる。中習者は約1分。かなり進んだボディビルダーなら30秒位の休息で足りる。時にはもっと短い休息で足りるというボディビルダーもいるが、そんな短い休息は、筋肉を鍛えて大きくしようというトレーニングでは実行不可能である。 (松山注:筋肉発達に必要な刺激を与えるに足るウェイトを用いる場合は、絶対にそのような短い休息では行なえない。短い休息で足りるということは、必要以下のウェイトを用いていることを意味している) もしそのような短い休息でトレーニングをしている人がいたら、そのトレーニングには強さもなくコンセントレーション(精神集中)もないから、決して筋肉は発達しない。つまり無駄なトレーニングである。

 すべてのレップスをストリクト・スタイルで鍛えている筋肉に集中して行なわねばならない。しかし週に1回だけは最大のウェイトを用いてチーティングをしてもよく、またパーシャル・レップス(途中までしか腕が上がらないレップス。フォースト・レップスは、力がなくなり完全に行なえなくなったとき他人の力を借りて完全な位置まで上げることをいうが、パーシャル・レップスは、他人の助けを借りず自力で上がるところまで上げることをいう。フォースト・レップスの場合、他人の貸してくれる力の量がわからないから、本人にとっては何にもならない場合がある。パーシャル・レップスはあくまで自力であるから、完全に力を出し切ったことがわかる。それで最近は、フォースト・レップスよりもパーシャル・レップスを用いるボディビルダーが多い。しかしウェイトをあげる方よりもあげたウェイトをおろす方が本命であるエクササイズでは、やはり他人の手を借りて完全にあげ、そのあと自力でネガティヴ・ウォークを行なう。(松山註)

 トレーニングの強度を増すもう1つの方法は、脊椎直立筋を使って腰を振り、弾みをつけてウェイトを扱うことである(チーティングともいう)。この方法を用いると、もっと重いウェイトでもっと多くのレップスをこなすことができる。この場合、ウェイトを下降させるときに必ずゆっくりとやらなければ効果がない。チーティングで持ち上げ、バタンと落としたのでは、少しも筋肉に抵抗を与える場がない。この方法は、セットの終わりでもう力を出し切ってストリクト・フォームではダメという時に用いる。

 自分の行なうべきセット数は、あなたのボディビルダーとしての経験から決めるべきである。ここに参考までにおよそのセット数を記す。

◇ほんとうの初心者

エクササイズ毎にウォーミング・アップ 1セット
トレーニング 1セット

◇少し時の経っている初心者(1ヵ月位)

ウォーミング・アップ 1セット
トレーニング 2セット

◇中習者(6ヵ月位)

ウォーミング・アップ 1セット
トレーニング 3セット

◇進んだ人(2年以上)

ウォーミング・アップ 1セット
トレーニング 4セット
(ウォーミング・アップで使うウェイトは、トレーニングで使うウェイトの80~90%である)
シングル・ダンベル・ロウイング

シングル・ダンベル・ロウイング

月刊ボディビルディング1981年12月号

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