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★ボディビルダーの道しるべシリーズ★ 疲労回復の科学的研究<5>

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月刊ボディビルディング1981年12月号
掲載日:2020.08.19
筆者=ジョー・ウイダー (マッスル・フィットネス発行者) 訳者=松山令子 監修と解説=後藤紀久(医学博士、国立予防衛生研究所主任研究官)

第二章 ストレス

 ボディビルダーが烈しいトレーニングをせねばならぬということは、苦しいことである半面、ある利点がある。それは、烈しいトレーニングは、彼が時により意気消沈することを防ぎ、ストレスの諸症状を和らげるということである。ジムでの適切なハード・トレーニングは、過剰な脂肪酸とストレス・ホルモンを消散させ、緊張を緩和し血圧を下げる。しかし、ジムへ行くこと自体が、心労の原因となることもあり得る。ジムへ行けばそこにはあなたのライバルがいる。あなたは彼らの体と自分の体を比較する。評判やゴシップが耳に入る。いやな相手とも友達づきあいをせねばならぬ。

 こういうわけで、優れたかしこいボディビルダーは、トレーニングのためだけにジムへ行く。ただそれだけである。トレーニングが終るとさっさと家へ帰る。もちろん、トレーニング中も決してまわりの人々と無駄な話はしない。

 一身上の大きい変化は、それがどんな種類のものであっても、ストレスを起こす原因となる。たとえば、結婚すること、離婚すること、転居、転職、家族の病気とか死亡などということがストレスをひき起こさせる。突然、大金が入ってきて金持ちになることすらストレスの原因となる。

 この種のストレスの解消法としてはその起こった事実を、ありのままに事実として受入れて認める以外に方法がない。自分がストレスで圧迫されていると認めさえすれば、何とか自分の心をその問題から切離そうとか、何か心の休まる別のことをしようと探してみるとか、ともかくも、何とかしてストレスを解消してリラックスしようと努力をするチャンスが生まれる。

 一身上の突然の変化から、一時的な短時間のストレスをひき起こすこともある。しかし、それがストレスを起こす習慣となって、慢性のストレスになることもあり得る。このようなことは他の何かの行為でも、知らぬ間にくせとなり、いつしか身についてしまうのと同じである。

 こんなふうに、ストレスが慢性になるのを防ぐには、先ず、そのストレスの原因を認め、それに代わるべき別のことをするように努めることである。

 もし、あなたが、コンテストが近づいてくると、いつもだんだんと神経質になり、結果のことが気がかりで、心配せずにおれない自分であることを知ったら、何とかしてリラックスし、結果についても取り越し苦労をしない方法を自分自身に教えてやりなさい。

 それをするのはそれほどむつかしいことではない。ゆっくりと坐って、眼を閉じ、自分を完全なリラックスの状態にもっていきなさい。そして、それから、コンテストの光景を心の眼にえがき、楽しくくつろいだ気分を持つ練習をしなさい。やがてそれがあなたの習慣となり、これが、以前のコンテストのことを思うだけで、心配で胸がドキドキしていた状態と入れかわる。このことは、あなたをストレスの圧迫から救うだけでなく、こういう心理状態を把握することによって、あなたのコンテストでのステージの上の演技まで進歩する。

 コンテスト前のダイエットを実行しているボディビルダーというものは、苦しさがふだんより倍加する。すなわち、彼らは、コンテストのためのトレーニングに自分をかり立てながら、厳重なダイエットを実行しなければならない。こうして、いつもより多いエネルギーを必要としながら、いつもよりエネルギーの不足する状態にいなければならないという矛盾から、ストレスが起こる。あなたが健康であればあるほど、そして上手に食べ、上手に眠れば眠るほど、あなたはこのストレスにうまく対処できる。

 だから、ボディ・コンテスト前の気のいら立ちと、コンテスト前のダイエットの結果で苦労するボディビルダーは、もっともっと、自分に適切なリラックスと、休息と、トレーニング休止期間を与えることについて、もっと注意深くあらねばならぬ。

 われわれはみんな、それぞれの生活の中で、いろいろなストレスに直面する。これをうまくコントロールしないと生命をおびやかされるような事態にもなりかねない。ストレスから生まれる高血圧は何らの徴候も伴なわない。が、しかし、時としては致命症になることもある。

 ストレスそれ自身には徴候がある。それらの徴候としては、ちょっとしたことが自分の思うようにならないと、しきりに気に病んだり、睡眠状態が悪くなったり、大酒にひたったり、むやみに薬を飲んだり、情緒不安定になったり、緊張のために頭痛を覚えたり、消化不良、痔疾、大腸カタルになったりすることがある。

 あなたの生活の中の不安定な事態や混乱をできるだけ除去することによって、あなたはストレスを出来る限り少なくしたのちに、まだあとに残っている圧迫を取り除くよう努力しなさい。

 これをする方法としては、そのストレスに打ち勝とうとするよりは、むしろ新しい行動のパターンをつくり出すことで、簡単に出来る。

 その新しい行動のパターンは、散歩や読書、釣り、切手の収集、あるいはセックスであっても、ともかくあなたの気持を和らげ、くつろがせ、あなたをリラックスさせ、幸福にさせるものならば何でもよい。

 今日、このように多くの人々がテレビを見るという現象が起こった原因のひとつは、あなたの心をテレビの画面にひきつけ、テレビの中の出来事を見ている間は、あなたの心配事を忘れさせるという、いわば半麻酔的な効果があるからである。しかし、このようなことは、ストレス解消法としては非常に受動的な消極的な方法である。

 確かにテレビはあなたをリラックスさせてくれる。しかしそれは、あなたにあなた自身をリラックスさせる方法を教えてはくれない。自分をストレスから解消するほんとうの方法、それは自分の力で自分をリラックスさせることを覚えることである。

 ストレスを解消するために、ぜひ記憶しておいてほしい大切なことの1つは、困った問題を避けようとしたり、無視したりしようとすると、かえってストレスが増し、リラックスから遠ざかるということである。

 もし、家賃を払わねばならぬなら、もし、車を修理に出さねばならないなら、もし、恋人とのけんかを収拾せねばならないなら、そのときは、それを実行するよう努めなさい。ひとたびあなたが、それをまっすぐに受けとめて実行するなら、ストレスを起こす原因が消えてしまう。ほんとうに困ったことを処理することに失敗したら、ストレスはだんだん大きくなっていく。

 ストレスは、生活の中で価値のある役割をつとめる。ストレスあってこそ物事は刺激的となる。ストレスは、否応なく力強い行動に追いこむ。ストレスはまた、あなたがコンテストの舞台に上るとき、あなたの胃の中に蝶を何匹も送りこむ(興奮して胸が変になること)。

 しかし、ストレスは、他のいろいろのことと同様に、適量に生活の中にとり入れられねばならない。ストレスのないくつろぎだけの期間のつづくのを破って、適当にストレスを生活の中に混入せねばならない。そのようなストレスがあったり、また、リラックスがあったりするバラエティのある感情生活を送ることは、あなたが人生に興味と関心を持って生きていくために必要な状態である。

 そしてあなたが、ボディビルディングで成功するためには、ストレスもまた必要である。トレーニングの間に、あなたの筋肉を刺激したり、リラックスさせたりするのと同じように、あなたには自分の感情を刺激し、しかるのちに、休息と、リラックスと、疲労回復の期間は、極めてのびのびと過ごす必要がある。

 つまり、刺激による緊張と、そのあとの弛緩が交互に起こることが必要である。それが人間らしい生活である。そうして、そういう刺激による緊張とこのあとのリラックスが、あなたをボディビルディングのチャンピオンにするのである。ストレスを統御し、調節することによって、あなたは疲労回復の過程をマスターすることへの大きな一歩を踏み出すことになる。

 来月号では、あなたの感情が、疲労回復にどのように影響するかについて話すことにしよう。

<解説>…………医博・後藤紀久

 ストレスについての解説は前回に行なっているので、今回は省略することにし、読者の皆さんに次のストレス・テストを実施していただこう。

 次に掲げるA、Bの各症状の該当する配点に○をつけ、その合計点で症状を判定する。[A-1]、[A-2]、[A-3]は、症状がときどき出現し3日以内に消失する場合に使い、[B]は、症状が3日以上持続する場合に使う。

[A-1]――身体的症状(身体過労による急性疲労)
1.頭が重い…1点
2.全身がだるい…1点
3.体だのどこかがだるい…1点
4.腰が痛む…1点
5.肩がこる…1点
6.ねむい…1点
7.足がだるい…1点
8.あくびが出る…1点
9.冷汗が出る…1点
10.ツバがねばり、口が渇く…1点

[A-2]――精神的症状(精神疲労によって起こる症状)
1.イライラする…2点
2.気が散る…2点
3.物事に集中できない…2点
4.ど忘れをする…2点
5.物事が気にかかる…2点
6.行動に自信がもてない…2点
7.頭がのぼせる、ぼんやりする…2点
8.考えがまとまらない…2点
9.人と話をするのが面倒である…2点
10.ねむくなる…2点

[A-3]――神経感覚器的症状(過労により精神や感覚器に機能障害が起こる症状)
1.めまいがする…3点
2.耳が遠くなり、耳鳴りがする…3点
3.手足がふるえる…3点
4.まぶたや顔面の筋肉がピクピクする…3点
5.きちんとしていられない…3点
6.目が疲れる、ぼんやりする…3点
7.目が乾く…3点
8.動作がぎこちなくなり、ミスをする…3点
9.立ちくらみがする…3点
10.においが鼻につく、味が変る…3点

 [診断]以上、合計60点満点で、あなたの該当する点数の合計が10~20点は軽度、20~30点は中等度、30点以上は重度。

[B]--慢性的症状(警戒警報発令)
1.体重減少…5点
2.食欲不振…5点
3.血圧不安定…5点
4.息切れ、胸苦しさ…5点
5.顔色がすぐれない…5点
6.安静時の脈拍増加…5点
7.通常の仕事をするのに努力が必要…5点
8.気が散りやすくイライラする…5点
9.倦怠感の持続(溜息がでる)…5点
10.仕事や日常生活への興味消失…5点

 [診断]以上、合計50点満点であなたの該当する点数が10点以上は要注意、20点以上は医師の診断を受ける。精密検査も必要。慢性疲労はストレス症状の一部であり、当然、ストレス症状と重複する。さて、あなたの診断結果は?
月刊ボディビルディング1981年12月号

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