やさしい科学画科 22 ~ 脂肪の秘密<その5> ~
月刊ボディビルディング1985年7月号
掲載日:2021.06.18
畠 山 晴 行
<8>脂肪は常に分解されている
よく「脂肪が溜(たま)って……」などと言います。しかし、減量しなければ「脂肪が同じ場所に居座って動かない」というのは誤り。
体脂肪は、常に分解される一方、次々と新しいものがつくられています。脂肪に限ったことではなく、われわれの体のすべては、分解される一方で新いものがつくられています。
体脂肪は、常に分解される一方、次々と新しいものがつくられています。脂肪に限ったことではなく、われわれの体のすべては、分解される一方で新いものがつくられています。
“諸業無常”はもともと仏教用語で平家物語にも出てきますが、生命体も常に変化していることを思えば、真理をついた言葉でしょう。
さて、体脂肪の分解と合成はどのくらいのスピードで行われるか? これはとても興味のあることでしょう。
残念ながら、私の手元には人間を調べたデータはありませんが、ネズミの場合は、1日に10%の脂肪酸が新しいものに代っているといいます。もちろん、ネズミの値を人間に当てはめることはできませんし、個人差や体の各部位における差も無視できるものではありませんが、ともかく、見かけ上、動いていないように思える体脂肪も、実はものすごいスピードで作りかえられていることだけは事実です。
だから、現状維持は「合成される脂肪と、分解される脂肪の量が釣り合っている」ということなのです。
考えを進めると、合成される脂肪を減じて、分解される脂肪を最後まで使いきる、この2つの問題を解決すれば、減量はできることになります。超肥満者でも減量に成功した例はいくらでもあります。
この10年くらいの間に明らかにされてきたことですが、肥満になりやすい体質というのは確かにあるのです(遺伝的にある種の酵素の活性が低い場合など)。しかし、減量は決して不可能なことではありません。
残念ながら、私の手元には人間を調べたデータはありませんが、ネズミの場合は、1日に10%の脂肪酸が新しいものに代っているといいます。もちろん、ネズミの値を人間に当てはめることはできませんし、個人差や体の各部位における差も無視できるものではありませんが、ともかく、見かけ上、動いていないように思える体脂肪も、実はものすごいスピードで作りかえられていることだけは事実です。
だから、現状維持は「合成される脂肪と、分解される脂肪の量が釣り合っている」ということなのです。
考えを進めると、合成される脂肪を減じて、分解される脂肪を最後まで使いきる、この2つの問題を解決すれば、減量はできることになります。超肥満者でも減量に成功した例はいくらでもあります。
この10年くらいの間に明らかにされてきたことですが、肥満になりやすい体質というのは確かにあるのです(遺伝的にある種の酵素の活性が低い場合など)。しかし、減量は決して不可能なことではありません。
<9>体脂肪も体温の下では液状
既刊に“脂”は常温(普通の室温)では固形と述べました。豚脂(ラード)や牛脂(ヘット)を思いうかべればそれはわかるでしょう。
でも、豚脂でも牛脂でも、温度が高くなれば液状になります。そして、体温ぐらいでは、体脂肪としてちょうどよい流動性をもつようになります。
人間の体脂肪も同じこと。脂肪細胞の中の脂肪が固形では、それこそ「同じ場所に居座って動かない」ということになってしまいます。これでは生命の維持も体を動かすこともできなくなってしまいます。
実は、体脂肪の流動性は、体温ばかりでなく、周囲の温度にも関係してくるのです。寒い環境にあるときの体脂肪と、暑い環境下にあるときの体脂肪には差が見られます。つまり、冬の体脂肪と夏の体脂肪には差があるということです。周囲が寒くとも、体脂肪が流動的になるように組成が調節されて体脂肪はつくられているのです。
魚油に不飽和脂肪酸が多い理由のひとつは、冷たい水の中でも不飽和脂肪酸が多ければ流動的になるからです。
ところで、一般に動物性の脂肪に飽和脂肪酸が多いのは、次の2つの理由によります。
①不飽和脂肪酸が多いと流動的になりすぎる。過酸化脂質という有害物資も増えて生命をおびやかすことにもなる。
②飽和脂肪酸は、水素がめいっぱいついている。食物中の栄養素こそがエネルギー源となるのだから、不飽和より飽和のほうが、エネルギーを抱えていることになる。つまり、飽和脂肪酸は、大量のエネルギーをコンパクトにつめ込むのに都合がよい。
以上、体脂肪は生命活動に都合のよいようにつくられていることを述べました。しかし、体にそのようなメカニズムがあるにしても、油脂を極端にかたよって摂れば、その影響を大きく受けることになります。豚にピーナッツオイルを大量に与え続けると、豚脂(ラード)はピーナッツオイルに似てきます。
人間に、摂取エネルギーの40%をコーンオイルとする“特別食”を続けて食べさせると、20週目から脂肪組織中の不飽和脂肪酸が増え、160週を過ぎると、体脂肪がコーンオイルに似てきたといいます。
だから、リノール酸を多く含む油を毎日毎日たくさん摂っていると、体脂肪にもリノール酸が増えてくるということがわかります。
でも、そんなことは馬鹿げたこと。前号に述べたとおり、健康のためには脂肪は少なめに、そして、脂肪酸バランスがかたよらないように注意しなければなりません。
でも、豚脂でも牛脂でも、温度が高くなれば液状になります。そして、体温ぐらいでは、体脂肪としてちょうどよい流動性をもつようになります。
人間の体脂肪も同じこと。脂肪細胞の中の脂肪が固形では、それこそ「同じ場所に居座って動かない」ということになってしまいます。これでは生命の維持も体を動かすこともできなくなってしまいます。
実は、体脂肪の流動性は、体温ばかりでなく、周囲の温度にも関係してくるのです。寒い環境にあるときの体脂肪と、暑い環境下にあるときの体脂肪には差が見られます。つまり、冬の体脂肪と夏の体脂肪には差があるということです。周囲が寒くとも、体脂肪が流動的になるように組成が調節されて体脂肪はつくられているのです。
魚油に不飽和脂肪酸が多い理由のひとつは、冷たい水の中でも不飽和脂肪酸が多ければ流動的になるからです。
ところで、一般に動物性の脂肪に飽和脂肪酸が多いのは、次の2つの理由によります。
①不飽和脂肪酸が多いと流動的になりすぎる。過酸化脂質という有害物資も増えて生命をおびやかすことにもなる。
②飽和脂肪酸は、水素がめいっぱいついている。食物中の栄養素こそがエネルギー源となるのだから、不飽和より飽和のほうが、エネルギーを抱えていることになる。つまり、飽和脂肪酸は、大量のエネルギーをコンパクトにつめ込むのに都合がよい。
以上、体脂肪は生命活動に都合のよいようにつくられていることを述べました。しかし、体にそのようなメカニズムがあるにしても、油脂を極端にかたよって摂れば、その影響を大きく受けることになります。豚にピーナッツオイルを大量に与え続けると、豚脂(ラード)はピーナッツオイルに似てきます。
人間に、摂取エネルギーの40%をコーンオイルとする“特別食”を続けて食べさせると、20週目から脂肪組織中の不飽和脂肪酸が増え、160週を過ぎると、体脂肪がコーンオイルに似てきたといいます。
だから、リノール酸を多く含む油を毎日毎日たくさん摂っていると、体脂肪にもリノール酸が増えてくるということがわかります。
でも、そんなことは馬鹿げたこと。前号に述べたとおり、健康のためには脂肪は少なめに、そして、脂肪酸バランスがかたよらないように注意しなければなりません。
<10>植物油を多く摂る減量法の問題点
以前「リノール酸を多く含む植物油をたっぷり摂る」という減量法がありました。もちろんこの方法は、それまでの食事に植物油をたっぷり加えたのではダメなはず。油が多い分、タンパク質や糖質を減らして、食事全体のエネルギーをおさえなければ、当然、減量の効果はあがりません。
この方法で減量に成功した人もたくさんいるようですが、これには次のように大きな問題を3つ抱えています。
この方法で減量に成功した人もたくさんいるようですが、これには次のように大きな問題を3つ抱えています。
①栄養のバランスがくずれる
まず、前号に述べたように、脂肪酸バランスがメチャクチャになってしまう危険があります。また、タンパク源や糖の供給源として摂る食物は、それらが単一で含まれているのではなく、他の栄養素も合わせて持っていますから、ビタミン、ミネラルなどの摂取量も減ってしまうことになるのです。
②過酸化脂質の害
短期減量しようとすれば、体脂肪の合成をおさえるだけでなく、当然体脂肪の利用も増やさなければなりません。つまり、脂肪の分解によって血中の遊離脂肪酸も増加します。そうなると、過酸化脂質の増加もまぬがれません。とくに、植物油たっぷりの減量方法では、体脂肪の流れが加速され、過酸化脂質増加に拍車をかけることになるでしょう。
“賢い減量”では、過酸化脂質の対策がなくてはなりません。良質タンパク(それに含まれるシスチン)やビタミンC、E、B2、それにβカロチン、亜鉛、銅、セレニウムなどは過酸化脂質をおさえ込むのに必要な栄養素です。
いろいろな食品をまんべんなく食べ、不足しがちなビタミンなどはサプリメントを使って強化するのも一法でしょう。脂肪酸の利用にビタミンCやB2が必要なことは度々述べてきたとおり、過酸過脂質をおさえ込む働きもあるこれらのビタミンは、ぜひ減量時には強化すべきです。
“賢い減量”では、過酸化脂質の対策がなくてはなりません。良質タンパク(それに含まれるシスチン)やビタミンC、E、B2、それにβカロチン、亜鉛、銅、セレニウムなどは過酸化脂質をおさえ込むのに必要な栄養素です。
いろいろな食品をまんべんなく食べ、不足しがちなビタミンなどはサプリメントを使って強化するのも一法でしょう。脂肪酸の利用にビタミンCやB2が必要なことは度々述べてきたとおり、過酸過脂質をおさえ込む働きもあるこれらのビタミンは、ぜひ減量時には強化すべきです。
③体が削られる
植物油たっぷりで、タンパク質はそれほど多くなく、糖質が極めて少ないという食事では、次項に述べる“グリコース新生”が進んで、体が削られていってしまいます。この過程は、生化学的に「ピルビン酸キナーゼという酵素のはたらきにブレーキがかかる」ということで説明されます。
「やせた」とか「体重が軽くなった」とか喜んでも、体を削ってしまったのでは何にもなりません。
「やせた」とか「体重が軽くなった」とか喜んでも、体を削ってしまったのでは何にもなりません。
<11>脂肪からブドウ糖ができる
「脂肪からブドウ糖?そんなバカな」と思う方も多いでしょう。
脂肪は、グリセリンと脂肪酸でできています。このうちグリセリンだけがブドウ糖に変身できるのです。植物では、種子の発芽の際に脂肪酸を糖に変えて利用しますが、われわれの体では脂肪酸→糖の反応は起きません。
また、よく知られるように、体タンパクはアミノ酸に分解され、さらにブドウ糖になって、エネルギー源として利用されます(アミノ酸の種類によってはブドウ糖に変身できないものもあるが)。乳酸から糖をつくることもビルダーならば知っているでしょう。
このように、非糖質から糖質をつくる過程を、グルコース(ブドウ糖)新生といいます。
「なぜそんなにしてまでブドウ糖をつくらなければならないか」--これはとても重要なことですが、残念なことに、一般書でこれについて十分な説明がなされている本はありません。
アメリカのロバート・ハースのダイエット、日本の鈴木その子式など、糖の重要性をさかんに説いています。そして、それなりの効果をあらわしていることも事実です。しかし、十分な理論づけがなされていないまま、糖を重視しすぎている傾向がみられます。
減量時にも最少限の糖は摂るべきだということは、ずいぶん前から言われていたことです。しかし、昔の日本食は糖にかたよったもので、低タンパクに関係する疾患の多かったことを、ふりかえって考える必要があります。
脂肪は、グリセリンと脂肪酸でできています。このうちグリセリンだけがブドウ糖に変身できるのです。植物では、種子の発芽の際に脂肪酸を糖に変えて利用しますが、われわれの体では脂肪酸→糖の反応は起きません。
また、よく知られるように、体タンパクはアミノ酸に分解され、さらにブドウ糖になって、エネルギー源として利用されます(アミノ酸の種類によってはブドウ糖に変身できないものもあるが)。乳酸から糖をつくることもビルダーならば知っているでしょう。
このように、非糖質から糖質をつくる過程を、グルコース(ブドウ糖)新生といいます。
「なぜそんなにしてまでブドウ糖をつくらなければならないか」--これはとても重要なことですが、残念なことに、一般書でこれについて十分な説明がなされている本はありません。
アメリカのロバート・ハースのダイエット、日本の鈴木その子式など、糖の重要性をさかんに説いています。そして、それなりの効果をあらわしていることも事実です。しかし、十分な理論づけがなされていないまま、糖を重視しすぎている傾向がみられます。
減量時にも最少限の糖は摂るべきだということは、ずいぶん前から言われていたことです。しかし、昔の日本食は糖にかたよったもので、低タンパクに関係する疾患の多かったことを、ふりかえって考える必要があります。
<12>絶食を続けるとどうなるか
食物からのエネルギー供給が絶たれると、生命維持のエネルギー源を自分の体内に求めることになります。
ブドウ糖、あるいはそれをたくさん束ねたグリコーゲンは、体内にそれほど貯えておけないので、すぐに底をついてきます。でも、血糖値はある程度以下にはなりません。これは、グリコース新生で、ブドウ糖が供給されているためです。
ブドウ糖の利用を最少限におさえるために脂肪酸や、それからつくられるケトン体の利用がさかんになります。ケトン体の増加が水分排泄を促し、体重減少が認められることは既刊に述べました。
70kgの男性を長期間絶食させると、体脂肪の減少はもちろんですが、体タンパクも削られ、その量は5kgにもなったといいます。これは40%以上も体タンパクが減ったということです。
脳がブドウ糖を主なエネルギー源としていることは、今さら申すまでもありませんが、長期間絶食を続けると、やがて体タンパクからのグリコース新生にもブレーキがかかってきます。
「なんとしてでも生き延びよう。これ以上、体タンパクを削られたら生きてゆけない」という、生命活動の限界での制御(コントロール)(アミノ酸分解酵素の活性低下)によるものです。
でも、こうなると、今度は脳が困ります。このような事態になると、脳は代替エネルギーとして先に述べたケトン体(βヒドロキシ酪酸)を使うようになります。
なんとかかんとかやりくりして、生命の火を燃やし続けようとする不可思議な力にはおどろかされるばかりですが、それにしても、底知れぬ脂肪のエネルギーがあればこそ、可能なことなのです。
ブドウ糖、あるいはそれをたくさん束ねたグリコーゲンは、体内にそれほど貯えておけないので、すぐに底をついてきます。でも、血糖値はある程度以下にはなりません。これは、グリコース新生で、ブドウ糖が供給されているためです。
ブドウ糖の利用を最少限におさえるために脂肪酸や、それからつくられるケトン体の利用がさかんになります。ケトン体の増加が水分排泄を促し、体重減少が認められることは既刊に述べました。
70kgの男性を長期間絶食させると、体脂肪の減少はもちろんですが、体タンパクも削られ、その量は5kgにもなったといいます。これは40%以上も体タンパクが減ったということです。
脳がブドウ糖を主なエネルギー源としていることは、今さら申すまでもありませんが、長期間絶食を続けると、やがて体タンパクからのグリコース新生にもブレーキがかかってきます。
「なんとしてでも生き延びよう。これ以上、体タンパクを削られたら生きてゆけない」という、生命活動の限界での制御(コントロール)(アミノ酸分解酵素の活性低下)によるものです。
でも、こうなると、今度は脳が困ります。このような事態になると、脳は代替エネルギーとして先に述べたケトン体(βヒドロキシ酪酸)を使うようになります。
なんとかかんとかやりくりして、生命の火を燃やし続けようとする不可思議な力にはおどろかされるばかりですが、それにしても、底知れぬ脂肪のエネルギーがあればこそ、可能なことなのです。
霜ふり肉はおいしい。けど、脂ののったお肉は高エネルギー。特に減量時には気をつけたいものです。脂(あぶら)の少ない赤身の肉のほうが好ましいですね。
それでも、もう少し脂を抜きたいと思うなら、網焼きにしたり、ボイルしたり、しゃぶしゃぶなんかもよいでしょう。
お肉は火を通すと締ります。そして、脂も温度が高くなるにつれて流れやすくなります。だから脂抜きができるんです。
だが、脂抜きをするとお肉特有のコクもなくなります。ボイルしたりするとウマミの素である遊離アミノ酸が逃げます。
そこで、おいしくいただくためにもうひとつ工夫してみましょう。
自分の好みに合わせて、薬味をいろいろ考えてタレをつくったり、レモンを添えて色どりをよくするのもちょっとした知恵。視覚が味覚をアップしてくれます。お料理もヘルシーに科学できるのです。
お肉を脂抜きすると、脂溶性ビタミンをはじめ、他の微量栄養素も逃げてしまうことを忘れないで。あまり極端な脂抜きは長い時間続けないように!
野菜などもたっぷり食べて、くれぐれもマヨネーズやドレッシング漬けにしないこと。脂抜きで逃げた栄養素の補完にはくれぐれもご注意を!
それでも、もう少し脂を抜きたいと思うなら、網焼きにしたり、ボイルしたり、しゃぶしゃぶなんかもよいでしょう。
お肉は火を通すと締ります。そして、脂も温度が高くなるにつれて流れやすくなります。だから脂抜きができるんです。
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そこで、おいしくいただくためにもうひとつ工夫してみましょう。
自分の好みに合わせて、薬味をいろいろ考えてタレをつくったり、レモンを添えて色どりをよくするのもちょっとした知恵。視覚が味覚をアップしてくれます。お料理もヘルシーに科学できるのです。
お肉を脂抜きすると、脂溶性ビタミンをはじめ、他の微量栄養素も逃げてしまうことを忘れないで。あまり極端な脂抜きは長い時間続けないように!
野菜などもたっぷり食べて、くれぐれもマヨネーズやドレッシング漬けにしないこと。脂抜きで逃げた栄養素の補完にはくれぐれもご注意を!
(美霜)
月刊ボディビルディング1985年7月号
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