‘92 Japan Open
1st 新井弘道
2nd 水島宙信
3rd 谷野義弘
1st 後藤多賀子
2nd 清 結花
3rd 朝生記子
4th 内藤 格
5th 山田頼一
6th 佐々木孝二
4th 横田喜代美
5th 須藤ゆき
6th 内田美紀子
左より須藤、後藤、清の比較
キレ味抜群、清のバックショット
◆ミズの部
ラインナップにおいて目についたのは、全日本常連の朝生、須藤、後藤、岡本、そして、昨年東日本を制している横田などである。しかしコンディションを見るなら、後藤、横田が無難な仕上がりなのに対し、朝生、岡本は少々甘さが見られ、厳しいとは言えない。逆に、厳しい仕上がりで我々の目をひいたのはゼッケン1番の清である。全くノーマークの選手でやや硬い印象を受けるが、厳しく仕上がっていて、ギスギスした感じも無い。ゼッケンの示す通り一番背が低いのだが、なかなかマッシブだ。実はこの清が、今大会の台風の目となってくるのである。
ミスは2名のエントリーの為、ピックアップは無く、いきなり順位付けの比較審査となった。
比較審査の幕開けは、後藤、横田、須藤の3名。続いて2回目のコールが、清、後藤、須藤と来た。
須藤は一昨年、昨年と2位、あとは優勝するだけなのだが、今回も状況は厳しそうだ。
同じく3年続けて出場の後藤。今回はショートカットにしての登場だ。実は彼女は過去2回を含め、毎回髪形が違う。体の方は、昨年から今年にかけて、大きな変化こそ無いが、確実に筋肉は充実して来ている様だ。
横田は反対に、髪を伸ばして来た。仕上がりは上々、広い肩幅は今年も映えている。
注目の清は、横田、須藤ら長身の選手と並ふとどうしても小さく見えるので、その辺りが審査にどう影響するかが興味深い。
本命の朝生は3回目にやっと呼ばれた。清、内田との比較だが、朝生と清は身長もほとんど同じ、両者共バルキーで、面白い比較だ。
今年のMS日本が楽しみ、優勝の後藤多賀子
2位●清 結花
3位●朝生記子
4位●横田喜代美
5位●須藤ゆき
6位●内田美紀子
7位●高橋智美
8位●石川祐子
9位●中島美香
10位●岡本久子
比較は計6回行なわれ、再審査一回のおまけもついて、いよいよフリーポーズに移る。
トップは清。ラインナップでは一番端、そして無名と言うハンデを背に、いかに健闘できるか注目だ。フリーは力強く、切れの良さを強調したポージングでアピールポイントは特に無いが、欠点も無い。上腕に浮かぶ太い血管が印象的だ。
続く朝生は今回、やや甘さを残しての出場。東日本では敵無しの勝利だったが少々緊張感が持続できなかったのだろうか。折角の大きな腹筋も、今回は鳴りをひそめてしまった。
ベテラン岡本は下半身が明らかに甘い。上体の筋量は充実して来ているだけに、一度バリバリを見たい選手だ。
続く石川は今年、精力的に出場して来ている選手だ。かなり厳しく絞れているのだが、それが逆に、細いという印象も与えてしまう。もう一回り筋量アップして、今のカットが出せれば将来的に優勝も望めるだろう。
イメージチェンジの後藤は、ポージングも従来のコミカルなものから、しっとりとした大人のイメージへと、一新して来た。仕上がりは無難なものだが、下半身の充実度で、他の選手とは一線を画した。バックポーズでハムストリングスのアウトラインが出るのは彼女だけではなかろうか。脚の太い朝生が厳しさに欠けるので、とりわけ良く見えた。あとは背中がさらに充実すれば、バックポーズは彼女のアピールポイントとなりうる。全体的に見てあまり個性の強い方では無いので、いかにアピールポイントを作るか、がこれからの課題だろう。
神奈川の高橋、続く東京の中島ともに、脚が太い選手だ。しかし二人ともやや甘い。太い脚が絞れると面白いのだが。
横田は広い肩幅と細いウエストが美しいラインを作り、リラックスが映える。ポーズをとっても、バックのスプレットは、一番きれいなVシェイプを見せていた。長い腕にも筋量がついて来たが、やっぱり問題は下半身と腹筋だ。今回は、ミッドセクションの抜群に切れた選手はいなかったが、やはり腹筋は順位を動かす鍵だ。下半身の筋量不足は、本人も十分解っている事と思うが、アクセントのある体を持っているだけに、期待したい。
須藤のポージングを見るのは昨年の本大会以来だが、彼女程のビッグネームでも、勝つ為には、何か変化が欲しい。正直な所、昨年と印象が変わらない。下からの追い上げが厳しいだけに、苦しい所だろう。
とりを務める内田は今年のクラス別東京で優勝し、スタートは良かったが、その後は苦戦している。リラックスの腹筋などは出て来たと思うが、同じ長身の横田らを敵に、対抗しうる武器が欲しい。
さて、今年のポーズダウンで最初に呼ばれてしまったのは岡本。甘さが大きく尾を引いた。続いて9位中島、8位石川、7位高橋、この3名は実力迫中、誰がトップクラスへ飛び出すか、楽しみだ。
6位は内田、昨年より一つ順位を落とす結果となった。
5位には、須藤が呼ばれた。今後も戦いは厳しくなりそうだ。
4位に横田、あと一歩という所で表彰台に手が届かなかった。しかし須藤を破った事は、自信となるだろう。下半身のバルクアップが待たれる。
残るベスト3、最初に呼ばれたのは朝生だった。本来なら優勝候補筆頭の彼女だが、甘さに泣いた。二連勝してミス日本へ乗り込みたかったところだが。
そして朝生を破る大金星を上げたのが清だ。朝生に負けない程マッシブで、仕上がりは厳しかった。正に今大会の台風の目となり、有名選手を後ろに回しての準優勝だ。
最後に名前をコールされたのは後藤だった。第一回、二回ともに4位と足踏みの彼女だったが今年、一気に頂上へ登りつめた。
闘志とか、気迫と言った言葉とは無縁に、静かに戦うタイプの後藤だが、今回は密かに自信を持っての出場だったのではないだろうか。下半身の充実、全体のバランスの良さで2位以下を寄せつけない優勝だった。
武器になる脚を生かし、このジャパンオープンを制した今、いよいよ彼女も日本のトップが見えて来た事だろう。そろそろ彼女自身の大きな勝負どころに来ているのかもしれない。
奇しくも1位、2位を静岡勢が制して熱戦は幕を閉じた。この二人、2月のミス日本でも、旋風を巻き起こしてくれる事を期待したい。
ボ歴5年の後藤が優勝し、3年の清が2位。日本のミスは、確実に新たな時代を迎えようとしている。
左より新井、谷野、水島。谷野のバックの前では新井も水島も影が薄い
左より佐々木、山田、内藤
◆ミスターの部
今大会の前身であるミスター・アポロをすでに獲っている上、ここ数年ミスター日本でも常に上位に入っている、新井弘道である。彼自身としても出場するからには負けられない、といった所であろう。
出場選手の中には、目につくホープ達が数人いるが、新井と互角の戦いができるかと考えるとやや役不足な感じもする。余程はずしてこない限り、新井の優勝はこの時点で動かないように思えた。
さて、ラインナップした精鋭は20名。まず目に飛び込んで来たのは地元からエントリーの水島である。昨年、怒涛の如く東日本をかっさらっていったあの水島である。
次に目についたのはMR東京で全身にスーパーカットを見せて3位に入った谷野義弘である。そして、その隣に大本命の新井を見ることができた。彼の仕上がりは80%といったところか。それでも優勝はまず動かないであろう。
ピックアップを終え、比較審査へと進んだのは10名。そのトップで呼ばれたのは水島、谷野、そして新井の3人である。新井の完成度はやはり群を抜いていた。新井と比べるとまだ水島、谷野の2人には欠点が見られる。これ以後、新井は比較に呼ばれることはなかった。
今回の注目度ナンバーワンの水島は、地元のせいか会場からの声援がものすごい。彼も又、それに応えるかの様に闘志満々でポーズをとる。肩、三頭筋、広背と言ったシルエットを作る部位が大きく、非常に重量感が有る。仕上がりも、四頭筋にはストリエージョンが走り、殿部、ハムストリングスまではっきりセパレーションが出ている。殿部の切れと言えば、小沼、上沢、谷野等中野ヘルス勢のお箱だったが、これを見ろと言わんばかりの見事さだ。中野ヘルス勢が細かく切れるのにし、水島のそれは、塊が浮き出る、という感じだ。
そしてその中野ヘルス勢の一人、谷野は今回もスーパーカットは健在、もちろん、殿部もバリバリで水島に優るとも劣らない。白熱した2位争いになりそうだ。
その後比較は、内藤、野上(智)の軽量級の精鋭や、佐々木、初めて見る山田、昨年も出場の大沢らを中心に念入りに行なわれた。
フリーポーズは神奈川の野上からだ。仕上がりは上々、四頭筋のふくらみや、背中の広がりも増した様だ。毎年、ガラッと出場者の入れ代わるこの大会で唯一の3年連続出場である。内藤と盛んに比較されたが、バランスで勝り、仕上がりで一歩譲った感が有る。
その内藤は、東京で見せた厳しい仕上がりのまま、持って来た。バキュームを強調したポージングも同じだが、見ていて飽きない。
そして3番手に水島。彼はその表情からしてふてぶてしく、何か俗に言うなら暴力的な臭いすらする。あの須江選手のふてぶてしさとは持つ雰囲気が異なる。抜群の仕上がりと相俟って、見ていてわくわくする選手だ。ポージングはリラックスからして独特の癖がある。左右にアンバランスでシンメトリーから言えば今一つ。しかしそれが彼の個性とも言える。ただ、脚の内側にすき間が見られるのは少々気になった。フリーは大いに乗って、大声援を受け、大迫力であった。
続く山田はまったくノーマークの選手だったが、胸、肩を中心とするカットが良く、迫力があった。ただ、上体に比べ脚が細く、その上体もまだ厚みに欠ける。もう一回りの厚みが欲しい。
これも初めて見る深民。全身に欠点無く発達しているが仕上がりは甘い。もう一絞りして来て欲しかった。また、彼ももう一回りのバルクが必要だろう。
今年大活躍の佐々木は少々疲れ気味か。そのバルクで予選は楽々通るのだが、優勝にからむには甘い。一度ベストの状態を見てみたいが、まだ26歳、そんなに焦る事も無いのかもしれない。
さて、谷野は今回もバリバリで会場を沸かせた。この大会に絞りこれも厳しく仕上げて来た水島との一騎打ちとなったが、重量感では譲るものの、水島の背中がややセパレーシヨンに乏しいのに比べ、谷野は背中の迫力が売り。仕上がりなら負けない、という所だ。
しかし、我々の目が慣れたのか、連戦の疲れか、少々体に張りが無いようにも思えた。
そして実に硬い優勝候補、新井の番だ。その完成度は流石。しかし以前から指摘されているアブドミナルポーズでのウェストの太さは、改善されていない様だ。このクラスの戦いでは影響しなくても、ミスター日本クラスでは、致命傷になりかねない。
ゼッケンで新井と隣りの大沢は、腕、脚が太く、バルキーな選手だがポーズに力みが強く、ちぢこまってしまうのが勿体ない。上体の仕上がりは良かった。
地元千葉のもう一人、向野は、背中の広がり、全身のプロポーションが良く、脚も太い魅力的な体だが、今回は戦えるコンディションでは無かった。
全日本クラスへのステップアップをかけてのポーズダウン。10位から深民、向野、大沢が呼ばれた。メジャーな大会での入賞を、今後に生かして欲しい。
7位には野上、体は良くなっているのだが順位が伸びない。
6位に佐々木、元気の無さが気になった。5位に山田、ミスターでも静岡勢が一波乱を起こした。バルクでは他に引けをとるものの胸のストリエージョンがアピールしたようだ。
好調、内藤は4位。今シーズン、一番の評価をうけたのではないだろうか。がんばっている甲斐があったというものだ。
そして今大会を盛り上げた2位争いは、水島に軍配が上がった。重量感の水島、シンメトリーの谷野、共に抜群の仕上がりだっただけにさぞかし審査も難しかった事だろう。実際二人のスコアはプレジャッジ、決勝を通して同点。ボディビル連盟の規定を用い雌雄を決した。
谷野は線が細いと言われるが、彼のこの一年の成長は目ざましいものがある。なにせ、昨年水島が優勝している東日本で、彼はまだその他大勢の7位だったのだから。また、次の一年後が非常に楽しみだ。
今大会にかけて来た感のある水島。今年は優勝はならなかったが、また一歩トップへ向けて近付いた感がある。あとは重量感のある体を、どうポージングで生かしていくか、そしていかに洗練させていくか、が課題だろう。新井との差はサイズよりも、各部位の筋肉のメリハリ、完成度だったようだ。
そして優勝するべくして優勝した新井。仕上がりでは2、3位の二人に煽りを食った形になったが、キャリアが作りあげた安定感で、文句の無い優勝だった。
彼のように、すでにある程度の評価を得ている選手は、大会の出場の選択も、難しくなって来る。次に彼が目指すべきものを考える時、本人も、そして我々も同じだと思うが、日本一を決める大会の、一番高い所、それしか無い。「将来のミスター日本」と言われて久しい新井だが、彼にとっての「機」が熟するのは、一体いつなのか、このジャパンオープンの後の彼に、注目したい。
余裕で勝利をものにした新井弘道
2位●水島宙信
3位●谷野義弘
4位●内藤 格
5位●山田頼一
6位●佐々木孝二
7位●野上智章
8位●大沢三夫
9位●向野博史
10位●深民 誠
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