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南波敗れる!

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月刊ボディビルディング1993年1月号
掲載日:2020.02.17

第10回全日本アームレスリング選手権大会
第1回全日本車椅子アームレスリング選手権大会

平成4年11月7日/宇都宮グランドホテル特設ステージ
 今年もアームレスリング日本一を決める季節がやってきた。天高く気持ちのよい秋晴れ続く今日この頃、全国から選び抜かれた鉄腕、剛腕、力自慢の精鋭約350名が栃木県宇都宮市にある宇都宮グランドホテルに集結した。
 今回は記念すべき第10回全日本アームレスリング選手権大会と初の試みとして、第1回全日本車椅子アームレスリング選手権大会が同時に開催された。なにかと活動の場が限られてしまう障害者の皆さんに勇気と希望をもたらすすばらしい企画だったと思う。この初の試みが実現したのも、大会関係者の理解と協力があってこそである。
 さらに史上最大規模に膨れ上がった今大会は、来る12月6日に千葉ポートアリーナで千葉市の政令指定都市記念行事として開催される第6回WAWC世界アームレスリング選手権大会の選手選考会を兼ねているため、いやが上にも盛り上がっていった。全日本を取れば世界の舞台に立てる。会場に集まった一国一城の主達はいつもの大会とは違う顔つきで会場を一気に興奮の坩堝にしてしまった。
 小さなテーブルでは持ちこたえられない選手の熱気は観客に伝わり、割れんばかりの声援がさらに会場を盛り上げた。
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南波やぶれる! 和佐選手の圧勝だった

南波やぶれる! 和佐選手の圧勝だった

 一般女子の二階級では、高橋明美選手、村上洋子選手が圧倒的な強さでディフェンディングチャンピオンの実力を見せつけた。今年から一階級となったジュニアの部は、神奈川県の三土手選手が一方的な試合運びで圧勝した。車椅子の部では茨城県の鈴木秀明選手が初代チャンピオンに輝いた。車椅子部門での参加であったが、一般の部に出場しても充分に通用する力量だった。一般男子フライ級とフェザー級は常連のベテラン選手を差し置いて若手有望株、山本哲也、西川の両選手がそれぞれ初優勝を獲得した。ライト級は大接戦の末京都の清本秀文選手が前チャンピオンの福島延泰選手と同じく山本雅也選手を逆転フォール勝ちで初優勝した。実はこのクラス、熱戦に次ぐ熱戦、ビッグファイトの連続だった。清本選手との審判の判定を巡って、山本選手が陪審員へ訴える一幕もあった。迫力といい勝負といい一番見応えのあるクラスだった。この清本、山本両選手は今後とも激しいバトルを繰り広げるライバルになるだろう。
危なげなく48kg級を制した高橋明美選手

危なげなく48kg級を制した高橋明美選手

各クラスの優勝者、よっ日本一!

各クラスの優勝者、よっ日本一!

 ミドル級はテクニシャン伊藤光治選手が若手No1の大森友紀選手をねじ伏せて優勝、健在ぶりを示した。
 次のライトヘビー級は、いつもスーパースター、南波勝夫選手の独壇場だったが今年は異変が起きた。この異変には伏線があったのか、ドラマまで起きた。南波選手出場の直前の試合でそれは起きた。ねじ伏せようとする選手と必死に耐えようとする選手がすごい形相で戦っていた。そのとき、"ぼくっ"と鈍い音がした。骨折である。女性レフリーが"折れちゃった、折れちゃった"と関係者をステージに呼び、当て木を当てて病院へと向かった。会場は心配と"本当に腕が折れるんだ"というショックとで静まり返った。
相手の腕まで引き抜く伊藤選手

相手の腕まで引き抜く伊藤選手

顔もすごいが力もすごい三土手選手

顔もすごいが力もすごい三土手選手

 そしていよいよ南波選手の登場だ。会場も気を取りなおして、盛り上がりを取り戻し、報道陣も今年も優勝するというストーリーのニュースを作ろうとテレビカメラがステージに詰めよる。気合いを掛け合う選手、レフリーがゴーをかけた。南波選手が押し込まれていく、歓声が高まる。しかし、南波選手は戻す事なく非情な"ウィナー"の判定が相手の和佐選手に告げられた。和佐選手の大金星である。あれだけ高まった歓声が"ウソー"という声に変わった。誰もが南波選手の優勝を信じていただけに、まさかの一回戦敗退に信じられない様子だった。もっと大変なのは報道陣である。"おいどうする。こまったな!"とぼやいた報道陣の声。試合前の骨折が精神的に影響したとの見方も中にはあるが、負けたという事実は覆らない。リング上で仁王立ちの和佐選手は会場からやんやの喝采を浴びた。ニューヒーロー誕生といったところか。
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激戦ミドル級を制した清本選手(手前)

激戦ミドル級を制した清本選手(手前)

 ヘビー級は宮城県の佐藤和彦選手の初優勝だった。新旧後退とレベルアップのために実力が伯仲してきた事を物語っていた一般部門である。レフトハンドでは70kg級で神奈川県のベテラン清松一喜選手ががんばってつかしめした。95kg級は清松、伊藤、山本、中島の4強対決となった。京都の鉄腕中島義斗選手が気迫の初優勝をもぎ取った。+95kg級では、一般部門での敗退という今までに味わったことの無かったプレッシャーのなか、こちらでは危なげなく楽勝。世界レベルの実力を見せつけられて、今大会は幕を閉じた。
 今大会の各クラスのベスト8進出者は来る世界選手権大会に日本代表として出場することが決定した。各自コンディションを崩さずに世界選手権で活躍してほしい。そして一人でも多くの日本代表選手が世界で通用する実力ある選手に育ってくれることを祈ってやまない。
 最後に、今大会開催県である栃木県アームレスリング連盟理事長酒井孝氏をはじめ役員、関係者各位に対し深く感謝しております。参加者全員に代わって御礼申し上げます。
(レポート/全日本アームレスリング協会田崎二郎)
月刊ボディビルディング1993年1月号

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