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第27回全日本学生ボディビル選手権

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月刊ボディビルディング1993年1月号
掲載日:2020.02.17
11月1日/横浜市民防災センター

大器、萩原(早大)4年目で栄冠を掴む!!

記事画像1
 大学一年の頃から大器と叫ばれ、近い将来全日本チャンプの座につくと言われていた早稲田の萩原だったが4年目にしてようやくそのタイトルを奪取することができた。
 去年も萩原は関東大会を制して、全日本のタイトルに最も近い位置をキープしていた。もしここで優勝できたなら、まだ彼が3年であることを考えると、須江正尋に続いて全日本2連覇も夢ではない、という期待を我々は抱いていた。 しかし、萩原は見事に期待を裏切ってくれた。同じ大学の先輩池田に敗れたのだ。池田は、その年の関東大会とは別人のような仕上がりで臨んでき、それに対し萩原はというと、関東の時とはさほど変わり映えがしなかった。強いインパクトという点で池田が勝り、逆転をくらったのである。
 しかし、今年は違った。ラインナップから他の者を寄せつけなかった。それは仕上がり云々なんてものではなく、明らかにバルクの差、レベルの違いであった。それはまさしく、四年間溜まりに溜ったものを爆発させた結果とも言えるだろう。
 小柄ではあるがバルクに富み、その上バランスも整っている。このまま順調に歩んで行けば、社会人の大会でも十分通用できる素材を彼は持っている。
 学生時代だけで埋れるには惜しい気がする。
Photo/Ben.K

Photo/Ben.K

関西のスキンヘッドコンビの出現で、今大会のレベルがグーンと上がった。2位の宮本崇(右)と4位の松浦弘至

関西のスキンヘッドコンビの出現で、今大会のレベルがグーンと上がった。2位の宮本崇(右)と4位の松浦弘至

学生の域を脱している萩原のバック。このままでも社会人大会で十分通用しそうだ。

学生の域を脱している萩原のバック。このままでも社会人大会で十分通用しそうだ。

この一年間で見違える程のバルクをつけてきた金子憲司。3位に終り、少々不満そうであったが・・・

この一年間で見違える程のバルクをつけてきた金子憲司。3位に終り、少々不満そうであったが・・・

第27回全日本ボディビル選手権

11月1日/横浜市防災センター
 この全日本学生選手権の過去を振り返ってみると、ここ数年はどうも関東勢に分がある傾向になっている。優勝者を見てみると、関西の選手は1982年の青野隆宏(西南学院大)以来、ごぶさたとなっている(87年に中部大の牧志幸治が優勝しているが、彼は西日本の選手であって関西の選手ではない)。優勝者に限らず、入賞者でも関東の選手に押されている。昨年も3位以内はいずれも関東勢であり、6位以内にわずか1名入るだけであった。今年も、この傾向は崩れないと思っていたが・・・。
 しかし、今年は上位にくい込みそうな、非常に目を引く関西の選手が2人もいた(しかも2人共スキンヘッド)。一人は、昨年の全日本で1年生ながらも7位に入った松浦弘至(関西外大)である。その時から定評のあったバルクの充実度をさらに増し、1回り大きくなっての登場である。特に肩と腕がいい。マスキュラー等の絞るポーズでは、肩から腕に走るズ太い血管も手伝って、かなりの迫力を見せていた。仕上がりも上半身に関してはまずまずといったところ。しかし、どうも下半身のカットの甘さが目立つ。力の入れ具合が悪いのかもしれないが、上半身の凄さに比べ大腿部は全くのフラット&スムーズ。別物と言ってもよいだろう。
 逆に、もう一人のスキンヘッド、いや注目株関西大の宮本崇は、全身にわたり鋭いカットで目をひいた。宮本は関西大会で松浦を敗り優勝している。バルク面では松浦よりやや劣り、まだ線が細い感じを受けるが、頭のてっぺんから爪先まで研ぎ澄まされたフィジークは、他の選手には見られぬものがある。特にバックのダブルバイでは下背、殿部、そして大腿二頭筋にまで鋭いカットを浮び上がらせていた。色の黒さも手伝って、より体を厳しく見せていた。
金子(左)と萩原

金子(左)と萩原

萩原(右)に果敢に挑む小野。小野の仕上がりは中々よかったが・・・

萩原(右)に果敢に挑む小野。小野の仕上がりは中々よかったが・・・

左より小野、中川、宮本

左より小野、中川、宮本

 この2人の関西の強豪にしてみても、今回の大本命、萩原雄樹(早大)を揺るがすことはできなかった。それ程まで、萩原とのレベルの違いがはっきりでていたからである。昨年も優勝候補といわれながら、あと一歩の調整に泣き、逆転をくらった彼だが、今年は仕上がり云々ではなく、バルクで他の選手とは数段の違いを見せていた。もう言葉でいうよりは、写真を見てもらった方がわかると思うので萩原に関してはこれまでにしたいが、今年は見事我々の期待に応えてくれた。
カットでは萩原を上回っていた宮本崇(関西大)

カットでは萩原を上回っていた宮本崇(関西大)

他を寄せ付けぬバルクで圧勝した萩原雄樹(早稲田)

他を寄せ付けぬバルクで圧勝した萩原雄樹(早稲田)

 さて、熾烈を極めたのは2位争いである。先に述べた関西のスキンヘッドコンビに関東大会2位の金子憲司(東洋大工)を加え、三つ巴の戦いとなった。
 金子は元々バルクでは定評のあった選手だが、昨年の全日本では20位以内にも入っていない。そういった意味では、ここ1年でかなり成長した選手であるといえる。そもそも仕上がりが昨年とは雲泥の差程もあるので評価が急に上がったのかもしれないが、肩、胸、腕の太さ、大きさも去年とはかなりの違いを見せていた。ただ気になったのは、彼の肌の色である。今回はおそらくプロタンにたよったのであろう、全身黄緑色がかっていた。関西の2人が真黒に焼き込んでいただけに、金子の体は立体感に欠けていたようだ。
 バルクの面では金子が宮本、松浦をおさえた感があり、仕上がりの面では宮本が抜きん出ている。この3人非常に僅差であると思うが、全身に鋭いカットを見せた宮本が2位を奪いとり、3位は金子、4位に松浦という結果となった。
3位/金子憲司(東洋大工)

3位/金子憲司(東洋大工)

4位/松浦弘至(関外大)

4位/松浦弘至(関外大)

 全日本初出場で2位となった宮本は、まだ3年である。来年の優勝候補筆頭に上げられるだろう。又、4位に甘んじた松浦もまだ2年、バルクでは宮本より豊富なので仕上がり次第では来年優勝することも夢ではない。とにかく来年の全日本はこの2人が中心となって展開されるだろう。
 専修大の中川祐介は、関東大会では富田、小野の後塵を拝し5位となったが、この全日本では見事にこの2人を下して5位にくい込んだ。骨格が大きく、細さを感じさせない。ポージングも学生にしてはうまい。しかし仕上がりはまずまずなのだが、腹筋のカットが全くといって見られない。腹筋が見られない分、体が平担に見えてしまっているのだ。ウエストも決して細いとはいえないので、プロポーション的には非常に損をしていると言えよう。
5位/中川祐介(専修大)

5位/中川祐介(専修大)

 関東大会では3位に入り、さらに絞り込めば全日本でも3位以内を狙えると思われた早稲田の富田は逆に6位に甘んじる結果となった。しかし、仕上がりとしては関東の時より数段進歩している。身長が低いのでラインナップでは目立たないが、上下のバランスも良く、バルキーな体をしている。難点といえば、他の選手と比べあまりにも肌の色が白いといった所ぐらいだろう。今回は関西の2人のインパクトが強烈だっただけに (頭を含めて)、やや地味だった富田には厳しい評価が下された。実力的には順位程の差はなかったようだ。
6位/富田太(早稲田)

6位/富田太(早稲田)

 7位の小野勝男(筑波大)も実力に対し順位があまり伸びなかった選手だ。個々の筋肉の形もよく、全体に隙のない体をしている。ダブルバイやラットスプレッドでは非常に体が大きく見え、欠点らしい欠点は見当たらないようだ。絞り込みも十分、腹筋、大腿部のカットもキレイに浮き出ている。
7位/小野勝男(筑波大)

7位/小野勝男(筑波大)

 しかし、近ごろの学生には珍らしく、おとなしい性格なのか、闘志が伝ってこない。そもそも学生の大会というのは、体が凄かろうが、凄くなかろうが、とにかく気合十分、闘志むき出しでぶつかり合うのがおもしろいのである。体はまだ不十分なのに、オリンピアクラスのビルダーのポージングをパクッてみたりする。これも又、学生らしいといえる。
 そういった学生らしさから見ると、小野のポージングはおとなしすぎて、アピール性に欠けていたようだ。それが順位を今一つ伸ばせなかった原因だろう。
 8位に入った富田周治(阪南大)もマッスル面ではバランスがとれており、欠点のない体なのだが、アピール性からいえばややおとなしかったようだ。絞り込みも、今一つ厳しさを欠いていたが、まだ3年生であるので来年が楽しみな選手である。
8位/富田周治(阪南大)

8位/富田周治(阪南大)

 9位には東北大学の大沼浩之が入った。この全日本大会で東北の選手が10位以内に入ることは久しぶりである。全体的に大きさを感じさせる選手で、特に脚がいい。ただ、個々の筋肉の形や細かなデフィニションに欠け、やや大ざっぱな体とも言える。もう一歩の絞り込みがほしかった。
9位/大沼浩之(東北大)

9位/大沼浩之(東北大)

 10位の住友謙一は、リラックスでは細さばかりが目につく選手だが、ポーズをとると俄然迫力を増してくる。コンディションも関東大会より良いと思われる。ここ数年は必ず10位以内に東大の選手が入っていただけに、何とかくい込むことが出き面目を保ったといえよう。
10位/住友謙一(東京大)

10位/住友謙一(東京大)

11位/芦野祐一(明治大)

11位/芦野祐一(明治大)

12位/大森槇介(日本大)

12位/大森槇介(日本大)

 今年は10位以内に関西の選手が3名も入り、その上その3名はいずれも2、3年生である。関東勢はというと10位以内に入賞した6人全員が4年生である。関東の3年生以下の選手で一番上位はというと、14位に入っている東大の黒崎である。
13位/山下公仁(東北学院)

13位/山下公仁(東北学院)

14位/黒崎智広(東京大)

14位/黒崎智広(東京大)

15位/水越正則(国学院)

15位/水越正則(国学院)

 これは何を意味するかというと、来年の全日本大会でこのままいくと表彰台を関西の選手に独占されてしまうという事である。もし関東のどこかの大学に今迄大会に出場してなく、学生最後の年にかけているという選手がいたとしても、過去の例から見ると3位以内は可能かもしれないが、優勝はというとかなり難しいだろう。
 来年の全日本では、史上初の関西陣上位独占になるのか、それともそれを阻むことができるのか、すでに戦いは始まっている。
■スコアシート

■スコアシート

■部分賞審査

■部分賞審査

月刊ボディビルディング1993年1月号

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