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'92 All Japan Women's Powerlifting Championships

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月刊ボディビルディング1993年2月号
掲載日:2020.02.14
11月1日/愛知県常滑市
レポート/吉田進
撮影/水口康成

復活、姫野恵理子!文部大臣杯を奪取し、その実力をアピール

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JPA斎藤理事長より文部大臣杯を授与される姫野

JPA斎藤理事長より文部大臣杯を授与される姫野

 パワーリフティングに女子の部門が出来てすでに10年以上たっている。当初ものめずらしさで注目を集めたものの、ここ3〜4年はトップクラスの選手のレベルこそ上ったものの、参加者数は増加するどころか減っている場合もあった。
 しかし、今年に入って女子パワーリフターはふたたび増加しはじめているようである。たとえば東京の春、秋の大会で今まで常連だった人よりも、はじめて試合に出て来る人の方が多くなってきている。また、全日本Jr選手権大会でも、若い女性の選手のガンバリが大会をより盛上げるようになってきている。
 そんな中、今年の全日本女子大会の動向が注目されたが、参加者は46名と大幅に増え関係者は女子パワーリフティングの将来に明るいものを感じ皆ほっとしていた。そしてその女子の熱い熱い戦いは、11月1日愛知県は常滑市で火ブタは切られた。

44kg級

 昨年のチャンピオン福島県の北村選手はケガで欠場。参加選手全員が(全日本レベルでは)新顔となった。優勝候補の筆頭と思われた高田由紀江は残念ながらスクワットで失格。残る3人の戦いとなった。
 この中でまだパワー歴は浅い山城晴美(沖縄)は9試技すべてを成功させ、金メダルをものにした。9本成功の影には、セコンドについた世界チャンピオン伊差川選手の適確な指示も見のがせない所だ。
 2位は岡山大の平田理恵、3位は沖縄の松田明美。岡山大は応援の迫力でこの大会を盛上げてくれていた。大会は盛上がれば盛上るほどおもしろい。岡山大学の応援、これからも期待してますヨ。
9試技全てを成功させた山城晴美が、初出場優勝を飾る(44kg)

9試技全てを成功させた山城晴美が、初出場優勝を飾る(44kg)

44kg級2位●平田理恵

44kg級2位●平田理恵

44kg級3位●松田明美

44kg級3位●松田明美

48kg級

 吉田寿子(東京)が世界マスターズ帰りで体調は今一つ完全ではなかったが、本人にとってトータル13回目の日本チャンピオンに輝いた。6月に痛めた腰がまだ治っていないようで、記録的には不満足なものであった。
 2位には吉田と同じパワーハウスでトレーニングする鈴木悦子(東京)が入った。スクワットの1本目を高さで失敗してヒヤッとさせたが、その他の試技をすべて成功させ、ついに300kgの大台を超えたうれしい2位であった。これにはずみをつけてトータル320kg台をねらってほしい。
 3位、4位は275kgの同記録ながら体重差で鹿末恵美子(富山)が銅メダルを手にした。
今一つ記録は伸びなかったが、通算13回目の優勝をものにした48kg級の吉田寿子

今一つ記録は伸びなかったが、通算13回目の優勝をものにした48kg級の吉田寿子

48kg級2位●鈴木悦子

48kg級2位●鈴木悦子

48kg級3位●鹿末恵美子

48kg級3位●鹿末恵美子

52kg級

 阿部千寿歌(宮城)の活躍は、1人のスターが生まれるようでもあった。若くから(今でも若いが)その才能を期待されながらも一時不調でなやんでいたが、この大会でのジュニア世界新記録のスクワット150kg、トータル357.5kgはいよいよ本物になってきたなという感じさえしたすばらしいものであった。
 2位の高橋美恵子(千葉)も、トータル340kgという高い記録を出した。スクワット、ベンチが強いのでデッドリフトを補強すれば阿部と並ぶ名選手に育つだろう。
 3位はジュニアで気をよく新町友佳子。その元気さでトレーニングを続ければ、2〜3年後楽しみな選手だ。
スクワットとトータルでジュニア世界新をマークした52kg級優勝の阿部千寿歌

スクワットとトータルでジュニア世界新をマークした52kg級優勝の阿部千寿歌

52kg級2位●高橋美恵子

52kg級2位●高橋美恵子

52kg級3位●新町友佳子

52kg級3位●新町友佳子

56kg級

 日本で女性のパワーリフティングが始まって以来、1クラス最多の13人が競う、見ごたえのある試合となった。優勝争いは60kg級から下げてきた山岸真由美(神奈川)とベテラン石川和子(香川)。石川にとってライバルと共に2.5kg差で優勝を競うのは初めての経験。それまでは石川の独壇場であったからだ。対する山岸も勝算ありと見ての1クラス下。激しい戦いを勝ちぬいたのは石川だった。
 石川にとっては、スウェーデンでの世界大会の3位入賞の時より、気合が入っていたのではないだろうか?山岸にとってはスクワット2本目、3本目の145kgを失したのが痛かった。これに成功していればデッドリフトで激しい逆転合戦になっていただろう。
 3位、4位には若い長野雅子(岡山)、国府田綾子(東京)が入ったが、上位との間の差はまだ大きかった。
山岸との接戦を制した56kg級の石川和子

山岸との接戦を制した56kg級の石川和子

56kg級2位●山岸真由美

56kg級2位●山岸真由美

56kg級3位●長野雅子

56kg級3位●長野雅子

60kg級

 しばらくぶりに全日本にカンバックした姫野恵理子(東京)が、トータル412.5kgというすばらしい記録で優勝した。この記録は、フォーミュラ(体重差があっても選手の記録を比較できるようにする係数)をかけて出すフォーミュラ・トータルで、全選手中No1であり姫野がベストリフター賞という事で文部大臣杯の授与を受けた。
 2位、3位争いは奥野真理(岡山)と木野田滋美(神奈川)の間で激しく戦いが展開され、デッドリフトでの逆転で奥野が2位に入った。奥野は世界Jr選手権大会の経験が生かされ、逞しい選手に育ってきている木野田は、今日は本調子ではなかったようだ。実力はまだまだこんなものじゃない。
60kg級2位●奥野真理

60kg級2位●奥野真理

60kg級3位●木野田滋美

60kg級3位●木野田滋美

67.5kg級

 本日のメインエベントと言っても良い、山崎頼子(高知)対国弘梅代(山口)の戦いは始まる前からいやがおうでも我々の期待感を高めていた。スクワットでは山崎、ベンチプレスでは両者100kgオーバーのカ。デッドリフトでは国弘、日本の最強の女を決める戦いになる。
 ところが久しぶりに試合に出た国弘は、試合のカンが戻っていなかったようで、残念ながらスクワットで失格165kgを軽くは立つのだが、しゃがみが浅いようで赤をもらっていた。
 山崎はスクワットの190.5kgとベンチの105kgは失敗したものの、トータル447.5kgで堂々優勝。
 2位にはまだジュニアの池谷あや子がトータル395kgで初出場初入賞。特にスクワットの155kg、デッドの175kgは世界ジュニア記録を越えていると思われたのだが、実際にはドイツの選手に破られた後で残念だった。しかしこれはリッパな記録で、近々正真正銘の世界Jr記録を作るだろう。
 3位には香川の河野理恵が入った。彼女もジュニアである。若い力の伸びを予感させる。
安定した実力を発揮して67.5kgで優勝した山崎頼子

安定した実力を発揮して67.5kgで優勝した山崎頼子

67.5kg級2位●池谷あや子

67.5kg級2位●池谷あや子

67.5kg級3位●河野理恵

67.5kg級3位●河野理恵

75kg級

 このクラスは選手3人とさびしかったが試合内容は充実したものだった。岡田美佐(大阪)はベンチプレスで有名だったが、スクワットもデッドも強いバランスのとれた選手であった。トータル400kgはリッパ。
 2位の工藤幸恵(秋田)はまだ18才だがデッドリフトで大きな仕事をしてくれた。まず、2本目で世界Jr記録の175.5kgを成功させ、続く3本目、そして特別試技で180kg、182.5kgにすべて成功してしまったのだ。トレーニングしだいで世界に通用する選手になるだろう。目ざせ500kg!
 上地栄子は、初めての大きな大会にもかかわらず実力を発揮しトータル292.5kgで3位に入った。
75kg級はベンチプレスの強い岡田美佐が勝利を収めた

75kg級はベンチプレスの強い岡田美佐が勝利を収めた

75kg級2位●工藤幸恵

75kg級2位●工藤幸恵

75kg級3位●上地栄子

75kg級3位●上地栄子

+75kg級

 昨年のチャンピオン伊藤福子(宮城)が欠場したため、重量級としてはめずらしく接戦となった。その中から勝ちのこったのが加藤みどり(岐阜)。続いて15才の船木麻衣子が2位に、3位には伊藤千恵子(秋田)、17才が入った。75kg級の工藤を含めて秋田の3人娘はすべて、日本のスーパーヘビー級伊藤和弘選手のジムの選手たち。なぜか皆ほんとに若い。
+75kg級の接戦を勝ち抜いた加藤みどり

+75kg級の接戦を勝ち抜いた加藤みどり

+75kg級2位●船木麻衣子

+75kg級2位●船木麻衣子

75kg級3位●伊藤千恵子      

75kg級3位●伊藤千恵子      

      *

 こうして日本の女子の大会史上最大の試合は終了した。選手の数のわりには応援の声が小さかったが(岡山大はリッパな応援でした)、試合の盛上りは応援の声に比例するもの。これからは盛上る応援の方法も(まじめに)考えていかねばならない。選手が目いっぱいがんばり場内に応援の声と拍手が沸き起れば自然と観客も増えるはず。
 最後に多くの選手が試合進行がよくわからずアップ場でうろうろしていたが、せっかく4つのセッションに分けたのだからIPF方式で試合進行すべきではなかったろうか?ルールに違反するコスチュームの選手もいたが、これもコスチュームチェックでしっかりチェックすべきではなかったろうか?
 しかし、トータルでこの大会はこれからの女子パワーリフティングの向上の一つのきっかけとなる愛知県協会の役員の皆さんのカの込もった良い大会であった。皆さまごくろぅさまでした。来年は60人ぐらい参加するもっと大きな大会に育てましょう!
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月刊ボディビルディング1993年2月号

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