フィジーク・オンライン

ボディビルダーによる生理学的検証<その2> 参加者による座談会

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1993年9月号
掲載日:2020.02.28

オフの除脂肪体重を知る事は、パフォーマンス向上に役立つ

参加者/石井直方氏、宮畑豊氏、西脇清明氏、小沼敏雄選手、新井弘道選手、大河原久典選手、中村勝美選手、有賀誠司選手、内藤格選手
西脇 これより、測定を終えての皆さんのご意見を伺う座談会に入りたいと思います。

 まず最初に、石井先生から本日の『生理学的検証』の意義等について説明して頂きたいと思います。

石井 実はこの測定は、始めはボディビルダーの筋力やパワーを測ろうとしたのではなく、最近社会的に問題になっている、骨の問題から始まりました。

 科学や医療の発達で平均寿命が伸びる中で、肝心な体を支える骨の障害が深刻な問題になっています。それがボディビルダーとどう関係するのかと言いますと、例えば宇宙飛行をすると骨が弱くなるという事実があります。これは宇宙飛行中は無重力状態となる為に、骨の長軸方向に力が加わらなくなり、骨が弱くなってしまうのです。しかし、逆にネズミを遠心器などに入れ、地上の重力の2倍程になる環境をつくり、その中で生活させると2~3日で骨がみるみる強くなってくるという結果も報告されています。ですからボディビルダーの様に、定期的にトレーニングにより骨の長軸方向に重さをかけている場合は、非常に骨が丈夫なのではないかと思えるのです。

 そこでボディビルダーの皆さんに集まって頂こうという事になり、また折角多くのビルダーが集まるという事で、筋力やパワー等の基本的体力を測定しようという事になった訳です。

 1月31日に第1回の測定を行いましたが、3分の1が専門にボディビルを行っている人達で、残りのメンバーは他競技の補強にウェイトトレーニングを行っている人達でした。また競技ボディビルダーの中でも選手のレベルにばらつきが見られました。

 勿論、測定の結果は有意義なものでしたが、他の競技を行っている場合、その影響も考えられますので、今度は専門にボディビルを行っているトップビルダーの皆さんに集まって頂き、再確認をする必要があるという事になった訳です。これは測定される皆さんにとっても、正確な除脂肪体重を測ったり、自分自身の筋力の特性等を知る良い機会ではないかと思われました。ある一面においてはあまり気持ちの良いものではない事は私も良く知っているつもりですが、今回は無理を言って集まって頂いたという訳です。

西脇 最初は私のジムの会員さんである田中先生(ウーマンズ・スポーツ医学会幹事)から骨密度の測定への協力の依頼があり、この計画が持ち上がりました。正直なところこれ程精度の高い測定が行われるとは思っていなかったので、第1回の測定後は、もっと多くの方に声をかければ良かったと反省していたところ、石井先生より再度測定を行いたいとの意向があり、急遽連盟行事として認可して頂いたという事なのです。

石井 連盟にとってプラスになる点としては、選手強化という点が上げられます。例えば、測定によって科学的にコンテスト時における各自のベスト体重を割り出す事ができます。これは、ベテランの選手でも、実際のコンテスト体重と、データーによる理想体重とではかなり異なる事が予想されます。トップクラスの選手が自分の最も良いパフォーマンスを発揮できる体重を把握するようになれば、選手全体のレベルも上がり、海外との差を縮めて行く事になると思います。

西脇 今日の測定でいろいろなデーターが得られた訳ですが、一例として、朝生選手の場合、世界大会には70kg以下級に出場していますが、測定により除脂肪体重は75kgに近いことが判りました。実に5kgもの筋肉を落として出場していたことになります。これは大変なご苦労があったと思いますが、今まではそのような事実も判らずにいたのです。

 また、過去に国際大会に出場した選手、役員は、一様に日本選手のバルク不足を口にして来ました。では、それに対する対策はどうすべきなのかと言うと、答えが無いと宮畑会長からも問題提起がありました。

宮畑 私もアジア大会、世界大会に出場して来ましたが、西脇氏からも言われました様に、それこそ20年前から日本選手はバルク不足であるとの指摘を受けて来ました。しかし、その対策はというと誰も教えてはくれません。また何とかしようという研究もされていませんでした。

 例えば日本は韓国よりもボディビルの歴史も長く、実績もあったのですが、ここ数年は押されてしまっています。このように他国に遅れを取らないためにも、もっと科学的にボディビルを研究し、まずは韓国に追いつき、そして世界大会で3位以内に入賞できるような選手を皆さんの力を借りて養成して行きたいと思います。これまでは連盟と選手の連携が悪く、選手の中に日本代表という自覚の欠ける選手も見られました。連盟も代表選手に対し、十分な待遇をして来たとは言えないかも知れません。この度の社団法人化を機に、連盟として選手に対し、プラスになる事をすべきだと思います。

 実際に役員の一部からは、国際クラスの選手に対して、海外研修や合宿などを行うべきである等の意見も出て来ており、前向きな方向へ向かいつつあります。選手、役員が一致団結して協力し合えば日本選手のレベルアップができると思います。今のところはその方向を手探りで見つけようとしている段階ですが、やがては日本選手からも100kg、90kg級の選手を育てたいと思っていますし、それぞれのクラスでも世界に通用する選手を生み出せるように、皆さんの協力をお願いしたいと思います。

西脇 それでは、参加された選手のみなさんから今回の測定に参加しての感想やご意見を伺いたいと思います。

新井 一番為になったのは除脂肪体重の測定ですね。やはり減量していると除脂肪体重が気になるものです。今までは減量というと体重が落ちて行くという事が嬉しくて、落ちればそれで良いと言う感じで、たとえ筋肉を犠牲にしていたとしても判らない訳です。ですから定期的に正確な除脂肪体重を測っておけば、良い減量の目安になりますので、これからも是非ともお願いしたいと思います。

大河原 私も新井選手の言った事と同感です。私は2ヵ月前の第1回の測定にも参加させて頂きましたが、その時と今回の2ヵ月間に体重が5kgほど増えたのです。それでその中身がどういった物で増えたのか知りたいという気持ちが大変強かったですね。結果は思った通り筋肉が2.5kg程増えていまして、今後のオフシーズンの間の筋量アップの貴重なデーターが得られて大変嬉しく思っております。

内藤 僕も除脂肪体重が判ったことが参考になりました。石井先生が除脂肪体重プラス2~3kgで仕上げられれば良いとおっしゃっていましたので、それを目標に今年はがんばりたいと思います。具体的な目標ができたのは大変有り難いと思います。

中村 私は東北から参加させて頂きましたが、我々東北の選手の場合、関東や東京の選手と情報を交わす事自体少ないので、レベルがやや低いというのが事実だと思います。ですから、この様な機会が今後もあるのなら、是非参加させて頂いて、いろいろなノウハウや情報を東北にもって帰り、東北のレベルアップに役立てたいです。そしていつの日にか、東北から全日本ゃアジアのチャンピオンを出してみたいと思っています。

有賀 私も皆さんと同じく、除脂肪体重が判って、大変有り難く思っています。今後のトレーニングに、今日伺ったことを生かして行きたいと思っています。除脂肪体重以外の測定項目に関しては、トレーニングにどのように生かして行ったら良いか判らない部分がありますので、これからご指導をお願いしたいと思っています。

小沼 自分も除脂肪体重は凄く参考になりました。石井さんが言われるように、理想体重は除脂肪体重プラス3kg位という事ですが、自分の場合、今までそれ位で出場していますので、自分のやり方は正しかったのだなと確認することができました。

 それと自分が一番知りたいと思っているのは、オフには体脂肪率をどれ位に保つべきなのか、また理想的に絞る為には、体脂肪率を何パーセント位にしたら良いのか、また絞り易いのかと言うことです。

石井 個人によって違うと思いますが、小沼選手の場合現在の体脂肪率が8.5%位ですよね。今の段階で、この数字は多分オフの体としては絞り過ぎだと思います。体のパフォーマンスが高い、つまり高い筋力が出せて、体調も良くパワーも出る。そういう状態なら代謝の面でも、とった栄養(タンパク質)を筋肉にする余裕が出てくる訳です。8%という数字はその点少し低いかなと思います。

 今小沼選手は体重が89kgですから、90kgを超える位まで増やしても構わないでしょう。ただ、絞る時に筋肉まで一緒に落としてしまっては元も子も無いのは言うまでもなく、それがうまくできれば良いのですが。オフには、多少体重を増やしてみるのも、試す価値はありますね。
8.5%の体脂肪率だった小沼選手。この数値、オフのパフォーマンス向上には少々低いと石井先生は言っていた

8.5%の体脂肪率だった小沼選手。この数値、オフのパフォーマンス向上には少々低いと石井先生は言っていた

新井 スクワットをする時等は、単純に腹は太い方が重い重量を扱えると思うのですが、つまり使用重量のアップを狙うには、体重が増えた方が良いと思うのです。そうして使用重量を増やした場合、筋肉も増え易いのでしょうか。

石井 重い物を扱うという事と、即筋肥大が結び付くかというと少し違うでしょう。また、ボディビルダーの場合、自分の体型をどのように仕上げるかと言うこと、つまり胴回りが太い方が良いか、それとも引き締まっていたほうが良いのか、という事が問題になります。

 確かに胴回りがしっかりしている人は、脚が太くなる素質がある様ですが、それだけのために胴回りを太くして余分な脂肪をつけてしまうと、絞る時に苦労するでしょう。そのために減量が厳しくなって脚の筋肉まで落としてしまっては困ります。やはり必要以上の脂肪はつけるべきではないでしょう。パワーリフターなどの場合は多少話が違いますが。

新井 やはり必要最小限の体脂肪率というと10%位になるのですか。

石井 スクワットだけに関してならもっと体脂肪率が高いほうが良いでしょうが、一般的に無駄なく運動し易いという点では、脂肪で胴回りを大きくする事によって、体を動かす機能は落ちると言えます。力士などはその点、良い状態とは言えない訳です。一般的にはですから、相撲の世界ではそれが必要なのでしょうが。

 皆さんも減量をすることによって100%の力が出なくなる状態は経験していると思いますが、そのようにならない体脂肪率が10%位といわれています。つまり10~12%と言ったレベルを維持して行けば筋肉を大きくし、自分のもっている力を100%使うことができる。それが8~6%になってくると、本来もっている力を出し切れない色々な原因が生まれてしまいます。

 普通の男性の場合、健康であると言える範囲は10~20%位です(女性は11.5~31%)。ボディビルダーの場合も同じように、健康な状態の方が飢餓状態(10%を切るような状態)にあるよりは、摂取したタンパク質を筋肥大に回す余裕が出てくる訳です。

 飢餓状態では、収支で言うなら赤字の状態になってしまいます。貯金(脂肪)があまりに少ないと収入(栄養素)がかなり多くないとなりません。借金だらけ(体脂肪が低く、栄養素が足りない)で何か作ろうとしてもうまくいきませんよね。体脂肪が低くなり過ぎると体内の窒素バランスが悪くなり、筋肉を壊して、エネルギーにしようとしたり、折角とったタンパク質をエネルギーとして使ってしまおうと作用するのです。
水中体重計により除脂肪体重を測る大河原選手

水中体重計により除脂肪体重を測る大河原選手

西脇 一言で言うなら、オフのバルクアップを狙う時期には、健康を害さない程度の体脂肪率に保った方が善いということでしょうね。それが10%から12%と言った所であるという事でしょうか。

石井 そうですね。その点では今日測定された皆さんは妥当な線であると思いますが、小沼選手の8%と言うのは前に申し上げたように、やや少ないのではないかと思います。

宮畑 今日の朝生選手の測定の結果を見ると、もう少し減量期間を長くして、食事にも配慮をすれば、もっと良い結果が得られるのではないかと思います。

 やはり年間を通して食事に配慮する事も大切だと思います。大会が終わった途端にバーッと食べてしまう様な行動は、考え直さなければいけないと思います。

 このような点についても、個人個人のデーターを出し合って、良いものを作り上げて行かなければいけないと思います。
 (以下次号に続く)
月刊ボディビルディング1993年9月号

Recommend