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第5回日本ジュニア&マスターズボディビル選手権大会

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月刊ボディビルディング1993年10月号
掲載日:2020.03.04
8月8日/神戸国際会議場メインホール

闘将 磯村俊夫 朝生に 競り勝つ!!

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 第2、3代マスターズチャンプ磯村俊夫と第4代チャンプ朝生照雄の夢の対決がついに実現した。戦前の予想では全日本常連の朝生が有利との事だったが、結果は万全の仕上がりで臨んだ磯村が同点決勝の末勝利をもぎ取った。40才台最後の大会を優勝で飾ることができた磯村、マスターズの雄はまだまだ健在である。
Photo/Ben
西日本でも、近年人気の高い観光地である兵庫県神戸市。その神戸市は三宮駅から、埠頭をぐるっと一周するように走る『ポートライナー』という無人電車(モノレール?)に乗り「市民広場」という駅で降りると、近代的な建造物が数多く立ち並ぶ、独特の風景に遭遇する。

 それらの個性的な建造物の中にあって、一際大きく構える『神戸国際会議場」で、第5回を迎える全日本ジュニア&マスターズ選手権大会は開催された。

■日本マスターズOVER40

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3位の米沢昭も仲々筋量豊かな選手であった

3位の米沢昭も仲々筋量豊かな選手であった

左より朝生、磯村、米沢。何しろ磯村の仕上がりの良さが目を引く

左より朝生、磯村、米沢。何しろ磯村の仕上がりの良さが目を引く

4位/前田憲二

4位/前田憲二

5位/亀山芳信

5位/亀山芳信

6位/東海林徹

6位/東海林徹

バルクでは磯村を圧倒していたが、やはり調整不足がたたったのだろう

バルクでは磯村を圧倒していたが、やはり調整不足がたたったのだろう

左より東海林、亀山、前田

左より東海林、亀山、前田

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キレまくる体でついに朝生を磯村が敗った

キレまくる体でついに朝生を磯村が敗った

7位/渡辺好夫

7位/渡辺好夫

8位/伊江公明

8位/伊江公明

9位/田中満昭

9位/田中満昭

10位/上田恭義

10位/上田恭義

今年の全日本マスターズは、かねてからある『噂』で注目を集めていた。その『噂』の主は、昨年のマスターズチャンピオン朝生照雄と、同じく90年、91年のチャンピオン磯村俊夫。この二人のチャンピオンの対決が、OVER40クラスで実現するのである。

 舞台の幕が上がってみると、なんと二人は隣同士。開会式から戦いは始まっていた。

 まず目についたは磯村の仕上がりの良さ。厳しく絞り込まれ、焼き込みも見事なものだ。隣に位置する朝生はというと、磯村に比べ明らかに甘く、肌も白い。朝生の苦戦となるであろう事は、誰の目にも明らかであった。

 注目の比較審査では二回目のコール・アウトで二人の対決が実現した。

 磯村は、胸に深いストリエーションを無数に走らせ、腹筋も一つ一つが大きく存在感がある。対する朝生はというと、何故かリラックス、規定ポーズ共に覇気が感じられない。磯村が控えにあっても常に力を抜かないのに対し、朝生は控えに下がると力が入っていないように思えた。

 ポーズをとると、背中、下半身のバルクでは、やはり朝生が優勢なのだが、フロントでは仕上がりの差が顕著だ。両者とも、フロントの広背筋から上腕にかけてのラインがアピールポイントであるが、仕上がりの甘い朝生は、磯村に迫力で押され気味に思える。

 フリーポーズに入れば、流石に朝生はアピールが上手い。午後に入りパンプが上手く行えたのか、午前中より状態も良いように見える。磯村も厳しい仕上がりを十二分にアピールし、優勝への意気込みが感じられた。

 二人の決着は、なんと同点決勝に持ち込まれ、とうとうチャンピオン同士の一騎打ちとなった。ジャッジペーパーを見ると、比較では朝生が、決勝では磯村がそれぞれ1ポイントリードで、両者同点となっている。

 同点決勝の結果、これも「ポイントの差で、磯村が優勝を掴んだ。二人のチャンピオンの差は、そのまま今大会への意気込みの差と言えるだろう。

 磯村は、前回の世界マスターズ出場時に第3位という好成績を残しているだけに、今回も大きな期待がかかる。上半身の仕上がりはほぼ万全といえる状態であるので、あとは下半身前面と、警部のカットをもっと表現できたなら、世界の頂点も夢ではないだろう。

 朝生は、磯村に敗れはしたが、世界マスターズの出場権を得た。今回の敗戦を良い刺激とし、マスターズの舞台で『世界の朝生』の実力を遺憾なく発揮して欲しい。

 優勝争いこそ二人の独走であったが、3位の米沢昭もまた独走の3位入賞であった。84年の第18代のミスター大阪で、その時以来の出場なら、9年ぶりのカンバックだ。

 エントリーナンバーで磯村の隣に位置し、上位2名と並ぶ事となったが、二人に負けず 劣らずの存在感がある。腕、脚が太く、体幹も厚い。特に脚は見事な涙型に発達し、カットも厳しく上位3名中一番良かった。ただ、上位2名が背中が良いのに対し、米沢はやや弱く、特にリラックスで広がりが無い。その辺りが、米沢を3位に落ち着かせてしまった原因だろう。今後のマスターズの台風の目になりそうな選手である。

 4位から6位の争いはクラスナンバーワンの仕上がりで臨んだ前田憲二、同じく厳しい仕上がりの東海林徹、そして昨年の2位亀山芳信に絞られた。

 結果は、4位に仕上がりで一歩抜け出した前田が入り、昨年より順位を2つ上げた。仕上がりの良い二人に挟まれて苦戦の亀山が5位、東海林は上腕を初め全身に血管が浮きまくり正に皮一枚と言う状態であったが、6位に落ち着いた。7位には昨年に比べやや精彩を欠いた印象の渡辺好夫、8位には重量感はあるが仕上がりに難を残した俣江公明が入った。9位に地元兵庫の田中満昭、2位には長身の上田恭義という結果となった。

日本マスターズOVER50

バルク、仕上がり共に群を抜いていた鳥屋健吾は 断トツの優勝だった

バルク、仕上がり共に群を抜いていた鳥屋健吾は 断トツの優勝だった

朝生(左)と磯村

朝生(左)と磯村

東京クラス別大会の48kg超級でゆうしょうを飾っている鹿間由利子は、そのままの好調さをたもって連勝した

東京クラス別大会の48kg超級でゆうしょうを飾っている鹿間由利子は、そのままの好調さをたもって連勝した

マスターズ50才以上を制したのは、最年長(58才)の登坂勉だった

マスターズ50才以上を制したのは、最年長(58才)の登坂勉だった

マスターズ50才以上2位/金沢利翼

マスターズ50才以上2位/金沢利翼

マスターズ50才以3位/内田義一

マスターズ50才以3位/内田義一

 本年度から新設されたOVER50。初代チャンピオンには、なるべき人物がなった。

 今シーズン既にミスター関東で9位と好成績をあげている、登坂勉である。年令は8歳とエントリー選手の最高年齢であるのにも関わらず、仕上がりの厳しさ、上体のラインの美しさで群を抜いていた。マスターズに止まらぬ、幅広い活動が若さの秘訣だろうか。

 2位に入ったのは、これも大ベテラン金沢利翼である。重量感は一番だが、やや甘さを 残し、登坂の牙城を崩すには至らなかった。

 3位には地元兵庫の内田義一。胸郭が大きくスケールの大きな選手だ。4位にも地元兵庫から森山年章が、厳しい仕上がりで入った。5位には京都の水谷日出朗、6位には三重から阿野田英生がそれぞれ入賞した。

■日本マスターズ女子

女子マスターズ2位/石川早百合

女子マスターズ2位/石川早百合

女子マスターズ3位/朝生記子

女子マスターズ3位/朝生記子

 毎年、参加人数が寂しいマスターズ女子だが、今年も残念ながら4名と寂しい人数になってしまった。さらに、関西の神戸市で行われたにも関わらず、参加県は東京と埼玉の2県のみ。これでは『全日本』の名が泣くのではないか。地元開催県から1名の参加も無いと言うのは寂しい限りである。

 さて、肝心のコンテストの方は、まず4名の出場者が3名に絞られた。本命は夫婦揃っての出場となった、マスターズ初参加の朝生記子。しかし仕上がりは甘く、調整途中という感じだ。

 そしてもう一人埼玉からの参加は本年度のミズ埼玉の石川早百合。腰高でプロポーションの良い選手である。残る一人は東京から、今年の東京クラス別 姫超級を制した鹿間由利子。彼女も身長が高く、見栄えのする選手である。

 結果から言うと、朝生が3位になるという大波乱の結末となった。筋量では圧倒的であるが、あまりにも甘いというのがジャッジの判断だったようだ。朝生を破っての金星は鹿間が掴んだ。石川とは互いに近いタイプであるが、鹿間は焼き込まれており、仕上がりでも一歩リードしていたようだ。

 一躍全日本チャンピオンとなった鹿間、そして全国区進出を果たした石川と、上り調子の両選手であるが、共にまだこれからの選手である。今後のさらなる活躍に期待したい。

■日本ジュニア

ジュニアにしてはバックも充実している鳥屋

ジュニアにしてはバックも充実している鳥屋

ジュニア2位/平林康之

ジュニア2位/平林康之

ジュニア3位/書間光司

ジュニア3位/書間光司

ジュニア4位/武田 修

ジュニア4位/武田 修

ジュニア5位/橋村 成

ジュニア5位/橋村 成

左から武田、鳥屋、平林

左から武田、鳥屋、平林

 昨年は開催地が東京という事もあり、非常にレベルの高い戦いとなった全日本ジュニア。今年は昨年の煽りを受けたか、ややレベル的には低下してしまったようだ。

 そんな中、他の選手と一線を画し断トツの優勝を飾ったのは、昨年の4位、鳥屋健吾であった。太く安定性のある脚が売り物だが、今年は上半身も良くなったようだ。ただ脚が非常に良いだけに、もう一つ上半身にアクセントが乏しく見える。今後一般の選手と戦って行く為には、もう一回りの上半身の筋量アップが必要だろう。

 2位には昨年の千葉のジュニアチャンピオンである平林康之が入った。今年は東京からの参加だ。昨年よりもステージでは落ち着いていたようだが、あまり体に変化が見られなかったのが残念。

 3位の書間光司は、昨年の東京のジュニアで入賞している選手だ。まだ線は細いがフレームは大きなものがある。今回は特に仕上がりが良かった。4位に入った千葉の武田修は、背中の広がりはあるのだが、下半身が細く、仕上がりも甘かった。5位の橋村成は長い手足を持ち、バランスも良いのでこのまま大きくなって行くと面白い。6位には広島の赤澤範昭が入ったが、小柄ながら脚も太く、背中も良い。将来は軽量級での活躍を期待したい。
1993年度 日本ジュニア・マスターズ選手権大会

1993年度 日本ジュニア・マスターズ選手権大会



 今回は、マスターズ男子のレベルが高く、参加選手の年齢をものともしない厳しい仕上がりに、非常に高い意気込み、気迫が感じられた。しかし、マスターズ女子、ジュニアはやや活気に欠け、出場した選手も物足りなかった事だろう。

 確かにマスターズ女子は各県に選手権がある訳では無いので、選手の発掘は容易では無いと思われるが、前述のように参加県がたったの2県ではあまりに寂しい。各県の連盟と、全国の女子マスターズ選手の奮起を期待したい。

 また、これは男子のマスターズとジュニアで気が付いた事であるが、染料をまるで泥でも塗り付けたように使用している選手が数名みられた。今回に限らずここ数年非常に目につく。あれでは、黒くしたといってもかえって醜い。折角会場に入る前の使用は許可されているのだから、上手に使って欲しいものだ。選手一人一人、そして指導にあたる各ジムの責任者にも、一考して頂きたい。
月刊ボディビルディング1993年10月号

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