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'93MRオリンピア観戦記

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月刊ボディビルディング1993年11月号
掲載日:2020.03.05
by Ben Kamata
Round1

Round1

 リー・ヘイニーは、93年のミスター・オリンピアに出場するか、しないか? という噂は、オリンピアの開催地がヘイニーお膝元のアトランタであると知らされた、去年の秋頃からもち上がった。ニューオリンピアに輝いたドリアン・イエーツに、自分の地元で易々と二連勝はさせないだろう、というのが大方の見解であり、誰もがヘイニーの復活を心待ちにしていたと思う。

 しかし、アメリカでのプロ・コンテストシーズンが開幕し、中盤を過ぎた辺りから〝リー・ヘイニーは今年も出場しないらしい〟という声が日本にも届いてきた。そして、私自身、今年ヘイニーは絶対に出ない、そう思わせたのは8月号でレポートしたFIBOでのヘイニーの写真であった。その写真に写っているヘイニーの姿は、後3カ月くらいでピークコンディションにはとうていもっていけそうもない体をしていたからだ。

 ヘイニーが出場しないとなると、やはり優勝候補筆頭はドリアン・イエーツだろう。彼の重量感溢れる身体がどうなっているのか非常に楽しみである。その彼に対抗するのは、やはり、プロデビュー以来4連勝と波にのるフレックス・ウィラーだと思う。ヘイニーも〝ドリアンはフレックスに倒される〟と予想しているが、その答えはもうすぐでる。

超ド迫力のドリアンに対し少々影の薄いフレックス

 ジョージア州・アトランタは、黒人の非常に多い街である。街中を歩いている半数以上が黒人であり、タクシーの運転手はほとんどである。ゴールドジム・ベニスのあるカリフォルニアからは、飛行機で5時間弱とかなり遠いが、気候は暖かく、ダウンタウンは高層ビルが立ち並び近代化が進んでいるようだ。ヘイニーに言わせれば、このアトランタの地をロサンゼルスのように、ボディビルのメッカにしたいそうだ。その第一歩として、彼は広大な敷地面積をもつ〝ワールド・クラス・フィットネス・センター〟をこの夏にオープンさせた。このジムを拠点として、ボディビルをもっとメジャーにし、一般に受け入れられるようにする、という事が、現在ヘイニーの最も重要な仕事らしい。だから、今はコンテストの出場を見あわせていると言っていた。

 さて、今年でオリンピアの取材は私にとって4度目だが、今回は余裕を見て大会の前々日(木曜日)に現地入りをした。これは一日余裕をみることにより体調を整えるということもあるが、オリンピアの前情報が色々と聞けるのではないか、と思ったからである。そして、私の期待通りにいくつかの情報が入ってきたが、その第一番目はアッと驚く事だった。

 それは、7月に来日しオリンピアでの再会を誓っていたポーター・コトレルが今回不出場。その原因は定かではないが、体調が悪いとのこと。今回は6位以内が有望視されていたポーターだけに、非常に残念である。

 大会の前日ともなると、ホテルのロビーはもうそれらしき人たちで満杯となる。普段はフォーマルなカッコウをしてないと泊まれそうもないちょっと高級そうなホテルだが、この時ばかりはバギーやトレーナー、タンクトップ姿のマッチョマンたちが濶歩している。私もご他聞にもれずバギーにトレーナー姿だ。そのマッチョ群衆の中に見馴れた顔のオッサン、いやビルダーがいる。皆さんご存知の83年MR・Oのサミア・バヌーである。今年のオリンピアで引退するとの噂もあったが、どうやら出場しないらしい。肌が白いうえに、見るからにオフの顔をしているので。

 レストランで食事をしているとサニー・シュミットがやってきた。「今回は223ポンドで仕上げられたよ。調子はもう絶好調。優勝は無理にしろ5位以内は確実だ」なんて聞いてもいないのに自分のコンディションをベラベラと喋りまくった。明日のコンテストが楽しみだ。

 大会当日の朝、ミロス・シャシブに出会った。3月のアーノルド・クラシックで会った時とは別人のように頬がこけていた。「今年は昨年のようなアクシデントはなかったので、結構良いコンディションで臨めると思うよ」とサニーとは逆に謙虚な発言だった。いつもニコニコとほがらかなミシコ。彼の回りには大会を直前に控えたピリピリとした緊張感はない。奥さんのアースラさんも彼と同じようにいつもニコニコしている。本当にオリンピアに出場するのか疑いたくなる程だ。

 プレジャッジは2時からである。やはりアメリカで開催されるオリンピアは、盛り上がりが違う。開演1時間以上も前からすでに熱心なファンでロビーは満杯となり、トイレに行くのにも一苦労である。昨年のヘルシンキで開催されたオリンピアには少々がっかりさせられていただけに、やはりオリンピアはアメリカで開催されるのが一番だなと普段は嫌う人ごみにもまれながら、一人想いにふけってしまった。

 さて、かなり前おきが長くなってしまったが、93年ミスター・オリンピアにコンピートしてきた選手は23名。その選手名をゼッケン順に紹介していこう。

①フレックス・ウィラー(USA)
②ルー・フェリーノ(USA)
③レイ・マクニール(USA)
④ハマドゥラ・アイクトゥル(トルコ)
⑤ジョン・シャーマン(USA)
⑥マウロ・サーニ(イタリア)
⑦フラビオ・バシアニーニ(イタリア)
⑧パベル・グロルマス(チェコ)
⑨チャールズ・クレアモンテ(イギリス)
⑩J・J・マーシュ(USA)
⑪アンドレアス・ムンツァー(ドイツ)
⑫ショーン・レイ(USA)
⑬ケビン・レブロン(USA)
⑭ロン・ラブ(USA)
⑮ヨハン・シャッツ(オーストリア)
⑯ドリアン・イエーツ(イギリス)
⑰サニー・シュミット(オーストラリア)
⑱マイク・マタラゾ(USA)
⑲リー・ラブラダ(USA)
⑳ミロス・シャシブ(ユーゴ)
㉑アーサー・バーマン(オランダ)
㉒ポール・ディレット(カナダ)
㉓アンドレ・シャレット(カナダ)

 オリンピアのクオリファイを持っていながら不出場の選手は、先にも述べたポーター・コトレルとサミア・バヌーそれにティエリー・パステル、ナサール・エル・サンバティ、アルQ・ガーレー(彼は来日していた)の5人である。

 ラインナップで私が非常に注目していたのはフレックス・ウィラーである。今年絶好調の彼が、本当にこのオリンピアのステージでも好調さを保ったまま登場できるのか。フレックスの場合、まだ圧倒的なサイズがないだけに、少しでも甘い仕上がりだとただのプロポーションの良い選手になりかねないので、厳しいところだ。

 ゼッケンナンバーワンのフレックス、今回の仕上がりはまあまあ。今年のアイアンマンとアーノルドをたして2で割ったくらいである。だが、23名のラインナップの中でフレックスは、あまり目立たない。ゼッケンが1番なので端に位置していることもあるが、隣にいる男が悪かった。ルー・フェリーノである。190cm、120kgを超えるルーの巨体が、完全にフレックスを覆いつくし、彼を視界からおいやってしまったのだ。それに対しドリアンはもの凄いオーラを発していた。フレックスとドリアンを並べて比較しなくとも、その重量感の違いは一目瞭然。すでにフレックスは、ラインナップの段階で完全に打ち負かされてしまったようだ。

 昨年はシャープさを追求したためか、ややサイズを犠牲にした感があったショーン・レイだが、今年はそのシャープさを保ちながら一回り大きくなっていたようだ。今迄私が見てきた中で最高だと思う。

 フレックス、ドリアン、ショーン、この3人は第一ラウンドの初めに比較に呼び出された。フレックスはウエストが細いし、節々の関節が細い上、一つ一つの筋肉が丸いので美しさでは目を引く。だが重量感がないというのか、密度がないというのか、ドリアン、ショーンと比べてしまうと迫力というものが伝わってこない。それこそ空気で膨らました筋肉のように思える。

 ドリアンの筋肉はというと、カッターで切っても中にはぎゅうぎゅうに繊維状のようなものがつめ込まれているような感じである。この筋肉の質の違いが、迫力の差となって現れているのだろう。大腿四頭筋や背部のセパレーションではフレックスの方が勝っているのだが、それがかえって体を軽く見せてしまうようだ。

 アイアンマン、アーノルドで思わぬ敗退をしてしまったリー・ラブラダは、今回仕上がりの面から言えばフレックスを上回っていただろう。リラックス・ポーズで、外腹斜筋にまできっちりとカットを出していた。
フレックスはアウトラインの美しさで目を引くが、厳しさではラブラダの方が勝っているようだ

フレックスはアウトラインの美しさで目を引くが、厳しさではラブラダの方が勝っているようだ

今回に懸ける意気込みが窺えるショーン・レイ

今回に懸ける意気込みが窺えるショーン・レイ

◇Round 1 Coll Outs
1.ショーン、ドリアン、フレックス
2.ラブラダ、ショーン、フレックス
3.ラブラダ、レブロン、ディレット
4.ラブラダ、フレックス、ドリアン
5.ディレット、サニー、ラブラダ
6.ディレット、サニー、ムンツァー
7.ディレット、サニー、クレアモンテ
8.ディレット、ムンツァー、レブロン
9.ディレット、ショーン、レブロン
10.クレアモンテ、ルー、サニー、
11.レブロン、ルー、ディレット
12.ドリアン、ルー、ディレット
13.ムンツァー、クレアモンテ、サニー
14.JJ、ミシコ、ラブ
15.マクニール、フラビオ、マウロ
16.ラブラダ、ショーン、レブロン
17.ディレット、レブロン、サニー
18.JJ、ムンツァー、ミシコ
19.ムンツァー、ルー、クレアモンテ
20.ミシコ、マタラゾ、マクニール
21.ミシコ、ラブ、マウロ
22.ムンツァー、クレアモンテ、レブロン
23.ラブラダ、フレックス、ショーン
 大胸筋を断裂してオフをにぎわせたケビン・レブロンはどうだろう? 大胸筋の形はそれ程変わっていない。おそらく切ったという事実を知らなければ、わからないだろう。だが、やはりというべきか、トレーニング不足なのだろう、全くの調整不足といった体であった。

 調整不足といえば、今年フレックスと共に驚異の新人としてメディアを騒がしているポール・ディレットも、プロデビユー以来一番甘いと思わせる体だった。ケビンにしろポールにしろ、サイズでは一流のものを持っているのだが、まだ隙が多いようだ。

 仕上がりの厳しさと全体的なプロポーションの良さで目を引いたのが、去年NABBAからIFBBに移籍したチャールズ・クレアモンテである。今年のNOCで4位に入り、クオリファイを得たのだが、実際ステージ上で私が見るのは今回が初めてである。全体的に過不足なく筋肉が発達しており、弱点らしい弱点が見当たらない。バルバドス出身とあってか、その頬のこけたカリブ系の顔立ちも又印象的である。

 もう一人の南国出身のビルダー、サニー・シュミットも彼の言葉通りきっちりとピークを合わせてきたようだ。3月に行われたアーノルド・クラシックを見た時は、今年のサニーはダメだなと思ったが、単なる通過点であったらしい。

 今年も特別招待で出場してきたルー・フェリーノ。全体的にサイズを増し、体形的にも去年より幾分良くはなってきているが、まだ現代の体にはなっていないようだ。それは特にバックポーズに言え、臀部から膝にかけての大腿部外側の直線的なラインは、彼の体をクラシカルに見せてしまう。

 第一ラウンドの比較は、別表の通り全部で23回行われたが、何故ドリアンとルーが比較されるのであろうか。昨年も第一ラウンドでこの二人が比較されているが、どう考えても選手の優劣をつける流れの中でドリアンとルーを比較する必要性はないと思うのだが…。これは、きっと大会を盛り上げるためのワンシーンであることにしておこう。
Round 2

Round 2

フレックスにプレッシャーをかけるショーン・レイ

 15分間の休憩を挟んで第2ラウンドに入った。私はすでに第1ラウンドで大たいのトップ3の目やすはつけといたが、私の予想とファーストコールアウトは、ズバリ的中した。その3人は、ドリアン・イエーツ、ショーン・レイ、そしてフレックス・ウィラーである。

 ドリアン・イエーツの優勝は、彼がステージに現れた段階でほぼ確定となり、この3人の比較も、ほぼショーンとフレックスどちらが2位かを決める比較といって良いだろう。第一ラウンドのシンメトリーを見る比較では、関節の細さを売りにしているフレックスがアドバンテージを得ていたが、第2ラウンドのポーズをとる比較では俄然ショーンが勢いづいてきた。

 見た目のハードさでは勝っているショーンだけに、筋肉をフレックスさせるとさらにカットで差がつく。筋肉のセパレーションの美しさではフレックスに軍配が上がるかもしれないが、彼の場合どうしても細かなデフィニションに欠けるのでハードさがでてこない。それが、しいては密度のなさにつながり、ドリアンやショーンに比べて重量感のない体に見えてしまう原因なのだろう。

 2回目のコールアウトでは、ケビン、ラブラダ、ディレットが呼ばれた。この比較は、もちろんトップ3に続くものと思われるが、私はケビン、ディレットの甘い2人に代わってサニー、クレモンテの2人が呼ばれると思ったが…。

 ラブラダは2、3年前と比べればかなり大きくなっているし、仕上がりも上々だった。ただ、昨年のオリンピア時とあまり変わり映えはしていないようにも思えた。やはりオリンピアのトップレベルは、重量級が多いだけにもっともっとサイズを追求し、インプルーブさせていかないと今後の戦いはもっと厳しくなるだろう。

 昨年オリンピア2位のケビン・レブロン。先にも書いたように、とにかくあまい仕上がりだった。特にミッドセクションが顕著でありダブルバイでは腹を突き出す癖があるので、凹凸のない腹部が余計フラットに見えてしまっている。上腕も二頭筋のピークが足りないためかあまり太く感じられない。マスキュラーポーズでは、肩と上腕三頭筋、胸の筋量が半端でないだけに隙が窺えないのだが、ダブルバイでは何故か弱さが露呈してしまう。

 ポール・ディレットは、仕上がりが甘目なのもそうだが、何しろもっと規定のポーズの練習をしたほうが良いだろう。特にバックポーズはいただけない。写真を見てもらえばわかると思うが、左右の力の入れ方が違うのかひん曲がってしまっているのだ。超ド迫力の筋肉もアピールする術をもっていなくては、単なる肉の塊になりかねないのだから。

 3番目に呼ばれたクレアモンテ、サニー、ムンツァー。仕上がりではこの3人、ケビン、ディレットを打ち負かしていただろう。

 NABBAユニバースで4回優勝をしているイギリスのチャールズ・クレアモンテは、本当に素晴らしいフィジークをしている。カットで比較するなら、あのアンドレアス・ムンツァーにだって負けはしないだろう。ただまとまりすぎていて、おもしろみのない体といえるかもしれない。弱点を強いてあげるなら背中だと思う。カットやセパレーションは問題ないのだが、もっと厚みと下からの広がりが欲しい。

 全身ストリエージョンの嵐であるムンツァーは、おそらく5kg前後のバルクアップに成功したのではないか? 91年のMRオリンピアでは大きくはなっていたものの、全く絞れていなかったが、2年後の今、一回り大きくなってバリバリの状態である。ただ、全体にサイズを増した分、ウエストも太くなっているようだ。元々、腹直筋のセパレーションがあまりキレイでないだけに、アブドミナルポーズではかなりブロッキーに見えた。隣のクレアモントのミッドセクションがハードなだけに、余計そう見えたのかもしれないが…。

 サニー・シュミットはまだ弱点が克服できていないようだ。筋肉のつき方といってしまえばそれまでだが、やはりもっと腹直筋の厚みは欲しい。それにポーズのとり方も今一つである。初めてオリンピアに出場した2年前よりはかなり改善されているが、まだポーズによっては損をしている部分がある。バック、フロント共にスプレッドでは完全に他の2人をおさえているのに、ダブルバイとなるとまるで迫力が無くなってしまう。やはり、これはポーズに問題があるとみた。

 サニーのトレーニングパートナーであるミシコは、今回はベストで臨んでいた。昨年は大会の直前に食当りをおこし、張りのない体で登場してしまったが、今年はバルクを増して大変身を遂げたようだ。

 JJ・マーシュはアーノルドの好調さを保てたようだ。だが、彼の体はどうもムンツァーのようにバリッとはこない。力を入れれば胸などにそこそこのストリエージョンは出るのだが、それも雀の涙程度である。かといってフレックスのように筋肉一個一個のセパレーションが良いかといえばそうでもない。あまり血管が浮きでないのも、厳しく見えない原因の一つかもしれない。

 JJとは逆にキレキレのバリバリ、まさに水分ゼロの皮一枚、といった感じなのがイタリアのフラビオ・バシアニーニである。今年のアイアンマンで6位、2週間後のサンノゼで3位に入り、初めてオリンピアに出場してきた。身長が148cmと、おそらくオリンピア史上一番背が低いのではなかろうか? 背の低いビルダーの代表でもあるラブラダより15cm以上も低いフラビオだが、カットが鋭いため一人だと小さく見えない。特に腹部と大腿部のカットがズバ抜けている。ルー・フェリーノとの比較でも、まさに大人と小人の身長差でバルクでは圧倒されてはいたが、迫力負けはしていなかった。

 カットバリバリと言えば、トルコからエントリーしていたハマドゥラ・アイクトゥルももの凄かった。ハマドゥラは昨年のユニバース、ライトヘビー級で優勝した選手であるが、ライトヘビーにしてはやや線が細いようだ。このハマドゥラ、第1ラウンド、第2ラウンドを通して1回しか呼ばれていないのだが、彼が全身に力を入れた瞬間、会場の盛り上がりようはドリアンをしのぐものがあった。彼の場合、筋肉のカットというよりは、筋肉の一個一個に走るストリエージョンが、それは見事に現れるのである。写真を見てもらえば一目瞭然だが胸、肩、そして臀部にこれほどまで一本一本の筋線維をはっきりと見せたビルダーはお目にかかったことがない。ムンツァーも真っ青といった所。臀部で大根でもすれそうな程深く、細かくストリエージョンを走らせていた。

 ここ数年、第2ラウンドの比較が少なくなってきた。確かに順位は15位までつければ良いのだが、このレベルの高いオリンピアを10回前後の比較で順位をつけてしまうのには、少々首を傾けてしまう。特に10位前後、15位の当落線上にいる選手は実力が拮抗しているだけに、一回比較しただけで本当に優劣がつけらるのだろうか。特に今回、ドリアンを含めて一回しか呼ばれなかった選手が10名もいる。比較の呼び方を見ても、明らかに第1グループ、第2、第3、第4、第5とに分けて行われているが、例えば第4グループのトップと第3グループの下位の比較とか第5グループのトップと第4グループの下位の比較が行われていない。さらに、サニー・シュミットはムンツァー、クレアモンテとの比較だけで、仕上がりの甘いケビン、ディレットとの比較を受けていない。

 オリンピアという最高峰のコンテストなのだから、比較も選手、観客が納得のいくように行ってほしいものだ。
名コンビ、ルー&フラビオ

名コンビ、ルー&フラビオ

Dorian Flex

Dorian Flex

◇Round 2 Coll Outs
1.ショーン、ドリアン、フレックス
2.レブロン、ラブラダ、ディレット
3.ムンツァー、クレアモンテ、サニー
4.ショーン、フレックス、ラブラダ
5.JJ、ルー、ミシコ
6.ディレット、クレアモンテ、ラブラダ
7.ハマドゥラ、ルー、フラビオ
8.ショーン、フレックス
9.マクニール、ラブ、マウロ
10.ディレット、レブロン
FINAL

FINAL

同じミュージックを使いながら最高のポージングを見せたドリアン・イエーツ

 昨年のヘルシンキで開催されたオリンピアは、プレジャッジは予定より1時間も前から始まり、ファイナルは40分遅れるという、非常に時間にルーズなものだった。今年のオリンピアはというと、きっちりとほぼ定刻通りの開演だった。しかし、ジョー&ベン・ウィダーの前おきが少々長かったようだ。彼らの挨拶の後には、功労賞らしきものの授与が行われ、又その人達の長々としたスピーチ。唯一の救いは、その中にリー・ヘイリーがいたことだろう。

 そのスピーチに飽き、そろそろ欠伸(あくび)が出始めた頃、ようやくロニー・テッパーの司会でナイトショーの幕は開けられた。

 トップバッターは、ミスター・パーフェクトことフレックス・ウィラーである。得意のバラードでゆったり魅了してくれるが、何かプレジャッジの時よりさらにハードさを欠いていたようだ。彼の場合、筋肉をフレックスさせた時は驚異的なセパレーションで、迫力があるのだが、ポーズとポーズとのつなぎの力を入れていない時は、非常に甘く見えてしまう。フリーポーズではゆっくりとした曲を使うので特にポーズの決めと決めとの間の時間が長く、つまりは甘く見える時間が長いということになる。彼の血管が細く、バスキュラリティーに乏しいという点も、今一つ体にハードさが出ない原因だろう。

 2番手はルー〝ハルク〟フェリーノである。サイズを一回り大きくし、仕上がりも臀部を除けばまずまず。マスキュラーで見せる胸、肩、腕の迫力は、ドリアンも真っ青といった所だろう。ただあまりにも上体がデカイだけにやはり下半身が淋しく見える。さらに、正面ではこの世の物とは思えぬ程の上半身も、バックとなると、まるで別人のようになってしまう。僧帽筋の盛り上がりと異様な形をしたカーフがやけに目立つだけである。今後、もしオリンピアに出場し上位を狙いたいのであれば、もっとシンメトリーを整えるようにし弱点を克服しなければならないと思う。ウエストと両大腿部の幅が同じでは、どうしようもないだろう。

 オリンピア初出場のレイ・マクニールが3番手に登場。体幹部と大腿部は結構充実している。横から見た大腿部の厚みはフレックスに匹敵するものがあるし、臀部の形が良いのでそこもアピールポイントとなっている。ただ全体としてみると癖のある体をしている。まず僧帽筋が首の上部、それこそ耳の横辺りから付いているため首がなく、常に首をすくめているようにみえてしまう。さらに三角筋の形が丸みをおびていなく、コッペパンのように長方形をしているため、肩幅はあるのだがハンガーみたいに角ばってしまう。その肩から出ている上腕、そして前腕と先端に向かって細い。脚も大腿部は太いのだが、その下の下腿部が細い。彼が両手両足を広げたらヒトデのようだ、といえば想像がつくと思う。今回は水を含んだようにカットがぼやけてしまい15位以内に入ることは難しいと思えた。

 トルコのハマドゥラ・アイクトゥルは、サックスフォンのゆったりとしたメロディにのって、まるで筋線維の一本一本まで披露するかのごとくポージングをとっていた。体の線が細いとはいっても、さすがにこれだけのカット&デフィニションをもってすれば、5000人もの観客を熱狂させることは可能だ。少々ポージングが固い印象を受けたが、それは初出場なので、まずよしとしよう。
自分に酔うのは良いけど、ちょっと何か違うんじゃない

自分に酔うのは良いけど、ちょっと何か違うんじゃない

 7月の選抜大会で来日した、昨年のNPCナショナルズ総合優勝のジョン・シャーマンは、まるで良い所がなかった。日本に来た時は10位以内には入りたいと言っていたが、この状態では15位以内も無理。第1、第2ラウンドを通して一度も比較に呼び出されぬ程の甘い仕上がりである。筋肉の一個一個が丸く、プロポーションも良いので、その点は小型のフレックスといえるのだが、身長が162cmと低いため調整不足だと全くといって目立たなくなってしまう。元々細かなデフィニションが出るタイプではないが、今回はちょっと甘過ぎたみたいだ。
フレックスはポーズに少し癖ある

フレックスはポーズに少し癖ある

 '93ナイアガラフォールズの優勝者、イタリアのマウロ・サーニもオリンピア初出場である。コンディションは仲々良く、全体に厳しく仕上げられている。昨年のナイトオブチャンプで彼を見たことがあり、その時は規定ポーズが下手、という印象が強かったが、今回はかなり改善されていたようだ。だが、このオリンピアで上位にくい込むにはまだまだバルク不足。腹筋にしろ大腿部にしろカットは良いのだが、腹筋は一個一個の厚みが足りないし、大腿部はセパレーションが深くない。プロポーションは良いのだから、今後はいかにサイズと密度を増すかだろう。

 もう一人のイタリアン、フラビオ・バシアニーニは、今回の出場者の中で一番のエンターティナーだった。今年のアイアンマンインビテイショナルでも仲々ユニークなフリーポーズを披露してくれたが(ビデオではカットされている)、それ以上のものをこのオリンピアではやってくれた。体の小さいフラビオがステージをチョコまかと動く姿は、まるでチャップリンの喜劇でも見ているかのようである。もっと背中の広がりと厚みをつけて又来年ステージ上でお目にかかりたい。

 チェコのパベル・グロルマスは、昨年のMRユニバース・バンタム級の優勝者である。ユニバースのバンタム級優勝者でオリンピアに出場してきたのは、87年のスティーブ・ブリスボワ以来だと思う。やはりバンタム級の選手はウェイトが軽いだけに、フラビオ位のカットをもたないと目を引かない。肌の色が白いので仕上がりもぼやけている。アピール性が乏しいのでほとんど目に止まらない。フリーポーズも10年以上前の曲を使い、やる気も窺えなかった。彼は'85ユニバース・ライトへビー級で優勝しているジョセフ・グロルマスの兄だそうだ。

 昨年のイギリスグランプリでIFBBにデビューしたチャールズ・クレアモンテ。その時より2回り以上も大きくなっているし、フリーポーズも意欲的に行っていたと思う。元NABBAのチャンプは、これからもIFBBで大暴れしそうだ。

 〝プリンス〟の異名を持つJJ・マーシュは得意の脚振り、腰振りで会場を沸かしていた。が、全体的にもっとシャープさが欲しい。血管が浮かないという弱点が体を甘く見せるようだが、今後はもっと密度を増したいところだろう。

 シャープな体といえばこの人アンドレアス・ムンツァーである。彼も最近は曲を色々とアレンジしたりしてフリーポーズに凝るようになった。彼の上背部のカットと厚みは今迄以上に鋭さを増したように思うが、下背部にどうも弱さが見られる。ダブルバイでは背中を反りすぎてしまうため、下背に太いしわができてしまうのも気になる。フリーポーズは仲々見せてくれるのだが、リラックスを含めもっと規定ポーズの研究が必要ではなかろうか。

 今回のショーン・レイは、本当に気合いが入りまくっていた。同じカリフォルニアのフレックス・ウィラーを意識してのことであろうが、これだけのサイズを残して、ハードでシャープに仕上げたショーンを見たのは初めてである。

 逆にケビン・レブロンは、精彩を欠いていた。プレジャッジの時よりはやや水が抜けてカットが出てきたようだが、それでもピークコンディションにはほど遠い。得意のマスキュラーポーズでも、ほとんど肩や胸にストリエージョンが走らない。やはり、今年は休むべきだったのでは…。

 ロン・ラブも一回り小さくなった上に仕上がりが甘かったようだ。全体にフラットで、メリハリに欠き、お腹がせり出ているのが気になる。毎年ラブは、このオリンピアにはそつなく仕上げていたのだが、今年は去年の9位より大きく順位を下げそうな気がする。

 昨年のユニバース・ミドル級で勝ったヨハン・シャッツは、少々ブロッキーなウエストが気になった。その上、カット不足であり、本当にユニバースで優勝したのか、と疑いたくなるようなコンディションである。彼もライオネル・リッチの『Say You, Say Me』というかなり古い曲を使っていた。

 ヨハンで少々トーンダウンしたのだが、その次のドリアンが登場すると、会場はもう壊れそうな騒ぎとなった。ミュージックは昨年と全く同じもので、ルーティーンも2、3新しいポーズを入れただけ。ほとんど、似たような感じである。しかし、ドリアンの肉体の完成度とカリスマ性を持ってすれば、曲やルーティーン等はもうどうでもいいように思えてくる。何しろ、立っているだけでも十分迫力は伝わってくるのだから…。このポージング・ルーティーンで、おそらく5000人もの観客全てを自分の虜としてしまったドリアン、優勝のコールを待つまでもなく、今年のMRオリンピアはもう決まったようであった。

 サニー・シュミットは喜太郎の『古事記』の中の曲を使い、今迄とはイメージを一新してきた。このルーティーンは、アーノルド・クラシックでも使っていたが、あまり練習していないのか、単にポーズが下手なのか分からないが、あまりしっくりきていないようだ。フリーの最後は、彼十八番のマスキュラーで押しまくっていたが、やはりサニーにはハードロックでガンガン攻める、という方がお似合いだと思う。
一寸の隙も見せないラブラダの完壁なポージング。これぞお手本

一寸の隙も見せないラブラダの完壁なポージング。これぞお手本

 アーノルド・クラシックでは過去最高の絞り込みで、大会後脱水症状でぶっ倒れてしまったマイク・マタラゾだが、今回は超オフの体で登場だった。腕のサイズは相変わらずモンスターだが、バイセップスポーズ以外は全く迫力がなく、まだ日本に来た時の方が良かったのではと思う程である。年間を通して安定したコンディションで出場できないのは、食事法が悪いのか、それとも私生活の乱れなのか分からないが、このままだとオリンピアのトップ10入りは夢で終わってしまうだろう。
ポーズダウンでは、すでに余裕の表情のドリアンに対し、ショーンは最後まで果敢に挑む

ポーズダウンでは、すでに余裕の表情のドリアンに対し、ショーンは最後まで果敢に挑む

 今年はフレックスの引き立て役に回ってしまった感のあるリー・ラブラダ。仕上がり自体は悪くないのだが、オリンピアのトップとして戦っていくにはやはり毎年何らかの進歩が欲しい。昨年は一回りのバルクアップに成功し、あれだけ強烈なインパクトを与えたのに、今年は変化が見られなかった。

 ミロス・シャシブは本当に大きくなった。ポージング・ミュージックは来日した時のものと同じだが、ルーティーンは新しく変えていた。昨年、仲々とれなかったクオリファイが、今年は4つのコンテストで取得できたのもうなずける。ミシコは、これからどんどん伸びていくだろう。

 オランダのアーサー・バーマンはユニバース・ヘビー級の勝者だが、とてもへビー級には見えない位迫力のない選手である。僧帽筋がなく、肩幅が狭い上に、広背筋が上の方にしかついていないため胴が長く見える。後2~3年バルクアップに勤め、フィジークを改造していかないと、プロで戦っていくのは無理なような気がする。

 ポール・ディレットは、私が今年散々ミスマッチだといっていたスローバラードで、このオリンピアでもポージングをしてしまった。彼の体はどうみても自分の体にうっとりできるようなナルシシズム的なものでなく、サイズと迫力を売りにする体であると思うのだが、何を勘違いしてかスローバラードでゆったりポーズしてしまうのだ。何回も言うようだが、おまえはロックでマスキュラーしまくるのが様になっている。

 最後の選手は、MR日本のゲストであるアンドレ・シャレット。昨年のユニバース・ミドル級で勝った選手だが、今年のオリンピアに出場したユニバース優勝者達は、ハマドゥラを抜かして全員コンディションが悪かった。昔のようにユニバースで勝ってすぐオリンピアで通用する時代ではなくなっているので、オリンピアに出場する前に他のプロのコンテストでもまれるのも良いのではなかろうか。

 今年のオリンピアは、久し振りに出場者全員フリーポーズを行った。やはり、最高峰のコンテストなのだから、他のものは削ってでも全員のルーティーンは見たいものである。

 さて、ポーズダウンを行える6人はフレックス・ウィラー、ショーン・レイ、ケビン・レブロン、ドリアン・イエーツ、リー・ラブラダ、ポール・ディレットである。私としては超甘いケビンとポールは6名からもれ、7位のチャールズ・クレアモンテと8位のサニー・シュミットが入るべきではないかと思った。サニーは8位にコールされた時、〝何で俺が〟といった表情をし、賞状を受け取った後さっさと帰ろうとしてしまう一幕もあった。その時はかなり憤慨していたサニーも翌日会って話を聞くと「昨日かせげなかった分は、ヨーロッパツアーでかせいでくるさ」とケロリとしたものだった。

 ドリアンを中心としたポーズ・ダウンが終わり、6位、5位の発表であるがこれは当然のごとくポール・ディレットとケビン・レブロンである。最近はどうもニューカマーの評価が甘いように思える。

 4位は昨年より一つ順位を落として、リー・ラブラダが入った。今年一年あまり進歩が見られなかった彼にしては上出来であろう。

 さて注目の3位は……、過去最高のフイジークをしてもフレックスの壁は敗れなかった。ショーン・レイである。昨年より一つ順位を上げたことになるが、やはり彼自身納得がいかないのだろう。最後のトップ3が手を上げて観客に応える時まで、ショーンは銅メダルを首に下げようとはしなかった。

 そして、2位は…、そう今年はじらすことなくフレックス・ウィラーが発表された。華々しいプロデビューを飾った驚異の新人も、イギリスの重戦車、ブリティッシュ・ファントムことドリアン・イエーツの鋼鉄の鎧を打ちくだくことはできなかった。昨年のケビン・レブロンのように、少々甘口の採点だったように思えるが、フレックスの本当の勝負は来年以降ではないか。サイズ的には、まだまだ増やせるフレームをもっているので、さらに隙のない体をつくるのと同時に、ドリアンのような密度の濃い、重量感溢れる肉体を作ることがフレックスの今後の課題である。

 一昨年のオリンピアで2位に入り、一気にトッププロの仲間入りをしたドリアン。その地位に甘んじる事なく、彼は毎年毎年自分の身体をインプルーブしてオリンピアに登場してきた。今年のドリアンはサイズも密度も仕上がりも、昨年より大きく進歩していた。ドリアンの強みは、何といってもあの爆発的な筋量と密度であるが、その限界に達していそうな体をさらに進化させることができるという点であろう。

 果して今年リー・ヘイニーが91年のオリンピアの状態で出場したとしても、ドリアンに勝てたかと言えば、私は首を横に振ると思う。今年のドリアンを見て、まだヘイニーが彼をMRオリンピアとして認めないのなら、それはドリアンを単に恐れている事に他ならない。もし、本当にドリアンを認めたくないのなら、自分の手で再び彼を負かすしかない。もし可能ならばの話だけれど…。
今年もでましたドリアンとデビーの熱き抱擁。オリンピア名物になるのかな…

今年もでましたドリアンとデビーの熱き抱擁。オリンピア名物になるのかな…

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月刊ボディビルディング1993年11月号

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