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健やかに、美しく老いるには!中高年から始める筋力トレーニング(実技編)

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[ 月刊ボディビルディング 2009年5月号 ]
掲載日:2017.04.14
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前回は”健やかに、美しく老いる”ためのポイントとして、筋力トレーニングが不可欠である事を、その理由を挙げながら述べてきた。また、巷に蔓延っている筋力トレーニングに対する間違った考えや意見を、初心者にも分かるように正した。そして、今回は筋力トレーニングを日々の生活中でいかに実践していくか、具体的なトレーニング種目を紹介しながら、皆さんを指導していこう。
40才を目前にしてウェイトトレーニングを開始し、目下ボディフィットネスに挑戦中の杉浦選手

40才を目前にしてウェイトトレーニングを開始し、目下ボディフィットネスに挑戦中の杉浦選手

加齢による宿命とまで云われてきた老化。その老化が引き起こすメタボリックシンドロームや寝たきりをいかに防ぐかまた、老化のスピードを少しでも遅らせるにはどうしたらよいか。前編では、これら中高年が抱えている深刻な悩み対策としての筋カトレーニングを紹介してきた。

メタボリックシンドロームとは中高年に限ったものではなく、以前から問題になっている成人病の若年層への拡大とともに、一種の社会現象と言えるかもしれない。若い頃の食生活から抜け出せず、年々運動不足になっている中高年にとって、対策を急がなければならない深刻なことである。“鉄は熱いうちに打て”と諺にもあるが、若いときに培った体力も、十年単位で落ちていくと云われている。人生の後半を健やかに、「男性は恰好良く女性は美しく老いる」ためには、一日でも早く筋カトレーニングを始めてほしいものである。

では、実際に中高年のトレーニングとはどんなものなのかまた、若い人たちのトレーニングとどう違うのか。結論としてはどんな年代層でも基本的には同じといえる。要するに健康状態や運動経験の違いまた、目的などを考慮して段階的に進めていくだけのことである。

まず、筋カトレーニングを始めるにあたって、最初に考えなければならないのはエクササイズの種類と数である。体力面で少々不安がつきまとう中高年にとっては出来るだけ少ないエクササイズで効率よく行うことが要求される。それには体の仕組みをよく考えて、重要かつ最小限度のエクササイズの数を選ばなければならない。

ところで、体のなかで特に重要なところと云えば中心部の腹部と腰部、大腿部の前面と背面、上体の胸部と中背部である。これらの組み合わせは拮抗関係にあり、それぞれのバランスがとれれば、骨格のしっかりした力強い身体を維持することができるようになる。出来れば拮抗動作になるエクササイズを選んで順序良くトレーニングすれば、トレーニング時間も短縮できて身体に対する負担を最小限度にすることが可能となる。

次に、セクションごとに代表的な基本エクササイズを挙げておく。これらのエクササイズと、ウォームアップ並びにクールダウンを組み合わせて基本的なモデルルーティンを、段階的に紹介してみる。
60才代に入ってから夫婦揃ってウェイトトレーニングを始めた杉本さん

60才代に入ってから夫婦揃ってウェイトトレーニングを始めた杉本さん

◆セクション別基本エクササイズ
① 腹部のエクササイズ
シットアップ
② 腰部のエクササイズ
ハイパーバックエクステンション
③ 脚部のエクササイズ
レッグプレス、レッグカール、カーフレイズ
④ 胸部のエクササイズ
ベンチプレス、バタフライ
⑤ 背部のエクササイズ
プルダウン
⑥ 肩部のエクササイズ
ミリタリープレス
⑦ 腕部のエクササイズ
バーベルカール、ライングダンベルトライセプスエクステンション

●ルーティン・I (腹部 腰部 脚部 胸部 背部)
① カーディオエクササイズに引き続き動的なストレッチング
② シットアップ
③ レッグプレス
④ ハイパーバックエクステンション
⑤ ベンチプレス
⑥ ラットプルダウン
⑦ カーディオエクササイズに引き続き静的なストレッチング

●ルーティン・I の解説
① カーディオエクササイズに引き続き動的なストレッチング

ステーショナリバイクやトレッドミルやステップマシン等を使ったウォームアップエクササイズで、日常生活から運動しやすい状態にするために少し心拍数をあげる作業である。心拍数が上がれば、体の末端まで暖かい血液が送られて体が徐々に温められる。これらのエクササイズはあまリハードに行う必要はない。次に動的なストレッチングであるが、ここで静的なストレッチングをしてせっかく温まった体を冷やさないように注意しなければならない。

② シットアップ
シットアップがなぜ二番目にくるかは、ウォームアップエクササイズで身体の末端まで温まってくると反面、体の内部は比較的さめていくので、中心部を温めるのと同時に、腰部を機能的にするためでもある。腹筋運動は、腹部を鍛えると同時に腰部の持久力を高め、脚のエクササイズをやりやすくする。
フロアーシットアップ/中高年に適した腹筋運動で、腰部への負担も最も少ない

フロアーシットアップ/中高年に適した腹筋運動で、腰部への負担も最も少ない

アブドミナルボード/腹筋力のレベルが低い場合は傾斜を逆にする(写真下)

アブドミナルボード/腹筋力のレベルが低い場合は傾斜を逆にする(写真下)

③ レッグプレス
レッグプレス

レッグプレス

レッグプレスは、脚のトレーニングのなかでは比較的腰部への負担が少ないエクササイズといえるが、それでも強度は高く、ルーティン・1ではピークに位置するエクササイズである。上体が固定されているだけに乱暴に行うと危険な場合があるので、膝を曲げたときと伸ばしたときは、特に丁寧にしなければならない。主に鍛えられるのは大腿四頭筋と臀筋群であり、ハムストリングスヘはそれほど大きな負荷はかからない。

④ ハイパーバックエクステンション
腹筋運動と拮抗しているので、通常は腹部のエクササイズと組合せたりまた、続きで行うことが多いが、中高年の初心者の場合は、このエクササイズで腰背部とハムストリングスの両方を兼ねるために、ここでは脚部のエクササイズに引き続き行う。
ハイパーバックエクステンション/ローマンチェアー

ハイパーバックエクステンション/ローマンチェアー

フロアー(血圧の高い場合や恐怖心がある場合は、頭の位置を下げないために、上体だけを反る。腕の押す力は補助的に

フロアー(血圧の高い場合や恐怖心がある場合は、頭の位置を下げないために、上体だけを反る。腕の押す力は補助的に

※腹部、脚部、腰背部と続くエクササイズは、少なからず腰背部に緊張感と疲労が残るので、ここまで終了したら必ず腰部のストレッチングをしておく必要がある。ルーティンに入っていないが、腰部に緊張感をもったまま上体のエクササイズに入ることは、出来るだけ避けなければならない。

⑤ ベンチプレス
ベンチプレス

ベンチプレス

上体のエクササイズのなかで押す運動の代表である。主働筋は大胸筋であるが、三角筋や上腕三頭筋などが同時に鍛えられる。このエクササイズの元になっているのは、誰でもが知っている腕立て伏せ・プッシュアップである。このエクササイズは、胸郭を大きく動かすことで腰背部や脚部のエクササイズで受けた上体への圧迫感を和らげる意味もある。

⑥ ラットプルダウン
ラットプルダウン

ラットプルダウン

本来ならベンチプレスの拮抗動作となるのは、ベントオーバーローイングやプーリーロウであるが、いずれも腰部に少なからず負担があるので、ラットプルダウンとなる。このエクササイズは、上体のエクササイズのなかでは引く運動の代表である。主働筋は広背筋だが、三角筋後部や上腕二頭筋、僧帽筋や前腕諸筋が同時に鍛えられる。このエクササイズの元は懸垂運動として知られている。

⑦ カーディオエクササイズに引き続き静的なストレッチング
①と同じ方法となる。すべてのエクササイズの後で有酸素運動をすると、少しでも疲労物質を減らすことが出来る。この場合もあまリハードな負荷の必要は無い。筋カトレーニングの後で少しながい目の有酸素運動をすると減量効果が高くなる。

●ルーティン・II (腹部 腰部 脚部 胸部 背部 腕部)
① カーディオエクササイズに引き続き動的なストレッチング
② シットアップ
③ ハイパーバックエクステンション
④ レッグプレス
⑤ レッグカール
⑥ ベンチプレス
⑦ ラットプルダウン
③ ライングダンベルトライセプスエクステンション
⑨ バーベルカール
⑩ カーディオエクササイズに引き続き静的なストレッチング

※⑤ ・⑧ ・⑨以外はルーティン・I と同じになる。
●ルーティン・II の解説
ルーティン・I は大筋群だけのメニューで、女性にはこれだけでも充分と云えるが、男性には恰好良くなってもらう意味で腕部のエクササイズをいれて、男性的な腕の太い身体をつくってもらいたい。一方女性もこの年代になると、二の腕の脂肪が気になってくるので、引き締めの意味では取り入れた方がよいだろう。

⑤ レッグカール
ルーティン・I ではハイパーバックエクステンションが、腰部とハムストリングスを兼ねていたが、ルーティン・II ではハムストリングスのエクササイズとしてレッグカールがはいる。このエクササイズは、日常生活ではあまり経験することが少ない動作で、最初のセットではうまく出来ないこともある。ハイパーバックエクステンションが、ハムストリングスの長さを変えなかったのに対して屈曲を主体とするものである。
レッグカール

レッグカール

⑧ ライングダンベルトライセプスエクステンション
ベンチプレス(上腕三頭筋)、ラットプルダウン(上腕二頭筋)と続くので、腕の最初のエクササイズとしては上腕三頭筋のライングダンベルトライセプスエクステンションとなる。初心者の場合腕の筋持久力が低いので、三頭筋と二頭筋を交互に使うようにすると、腕への負担を少なくすることが出来る。
ライングダンベルトライセクステンション

ライングダンベルトライセクステンション

⑨バーベルカール
上腕二頭筋と前腕諸筋のエクササイズとしてバーベルカールとなるが、強度を考慮してストレートバーよりWバーを選ぶべきである。女性の場合バーベルが無理なら、軽めのダンベルでハンマーカールにかえてみてもよい。
バーベルカール(Wバー)

バーベルカール(Wバー)

ハンマーカール

ハンマーカール

ダンベルカール(ハンマーカールやダンベルカールは、バーベルの最低重量でもできないときに)

ダンベルカール(ハンマーカールやダンベルカールは、バーベルの最低重量でもできないときに)

●ルーティン・III (腹部 腰部 脚部 胸部 背部 肩部 腕部)
① カーディオエクササイズに引き続き動的なストレッチング
② シットアップ
③ ハイパーバックエクステンション
④ レッグプレス
⑤ レッグカール
⑥ カーフレイズ
⑦ ベンチプレス
⑧ ラットプルダウン
⑨ ミリタリープレス
⑩ バーベルカール
⑪ ライングダンベルトライセプスエクステンション
⑫ カーディオエクササイズに引き続き静的なストレッチング

※ルーティン・II に6・9が入り、9が入ることにより腕のエクササイズの順序が入れ替わる。ルーティン・III で基本のメニューは完成となる。


●ルーティン・IIIの解説
⑥ カーフレイズ
カーフレイズ

カーフレイズ

ルーティン・II で大腿部と臀部の諸筋は鍛えられたので、ここでは下腿部のエクササイズが必要となってくる。一般的なカーフレイズには立った姿勢と座ったものとがあるが、最初に取り入れるのはスタンディングカーフレイズである。日常生活で歩くことが少なくなると、下腿部の筋肉がおとろえて正しい姿勢を維持することがむずかしくなってくる。転んで怪我をして寝たきりにならないように、このエクササイズで足関節の強化をすすめたい。

⑨ ミリタリープレス
ルーティン・I ・II の大筋群エクササイズのなかで、肩は間接的に鍛えられているので、ルーティン・IIIで肩のエクササイズがはいっても問題はない。基本的な肩のエクササイズであるミリタリープレスは、上腕三頭筋も充分使われるので、最初にする肩の基本エクササイズとして適している。ミリタリープレスは上腕三頭筋をつかうので、次の腕のエクササイズの順序は、上腕二頭筋を使うバーベルカールに代わる。
ミリタリープレス

ミリタリープレス

腰部のストレッチング

腰部のストレッチング

以上基本ルーティンを、I からIII へと段階的に紹介してきたが、ルーティン・III 以降は、セット数や使用重量なども徐々に増えていくので、 一回のトレーニング時間がながくなってしまう。こうなると、筋カトレーニングで最も避けなければならないオーバーユースに陥りやすくなるので、次の段階では分割法(スプリットルーティン) へと移っていくことになる。その準備として、セクションごとに違ったエクササイズも試してみる必要がある。

次に、基本ルーティンを具体的にどのように進めていけばよいのか。最も一般的な筋カトレーニングの負荷のかけ方の第1段階として、3セット法を紹介しておこう。

基本ルーティンのエクササイズには、体重を負荷とする回数だけのエクササイズと、ウェイトを負荷とするエクササイズとがある。たとえば腹筋運動のシットアップや腰部のハイパーバックエクステンションなどは、1セットの回数を徐々に増やしていく方が腰背部への負担は少なくなる。1セット目の数が多過ぎると、2セット目から急に回数が落ちるので、1セットずつ回数を増やす方法が良いだろう。たとえば1セット目は10回、2セット目は15回、3セット目は20回という負荷のかけ方である。次に、ウェイトを使うエクササイズでとくに大筋群に限ってであるが、ごく軽いウェイトのウォームアップセットを必ず実行してほしい。そして、引き続き1セット目は15回出来る重さ、2セット目は10回、3セット目はまた15回とそれぞれのセットを正確なフォームで出来る重さに設定し、負荷のかけ方を山型にする。 一方肩や腕などの小筋群は、大筋群の後にまわってくるのでそれほど細かく考えることはなく、10回前後の数で3セット行えばよい。
50才代に入って本格的にウェイトトレーニングを開始して、その年にはボディフィットネスの大会に出場した木村選手

50才代に入って本格的にウェイトトレーニングを開始して、その年にはボディフィットネスの大会に出場した木村選手

ルーティン・I からIII までを、3セット法で終了したら次に分割法に移行していくことはすでに述べたが、体カレベルの維持としてなら全身型の3セット法を、週2~3回で継続していっても差し支えはない。ただし、同じエクササイズばかりだと飽きてくることもあるので、定期的にエクササイズを変えて筋への刺激を新しくしてやることも考えなければならない。

全身をバランスよく鍛えて段階的に体カレベルを高めていくことは、続けてさえいればそんなに大変なことではない。適度な運動と適切な食事が、健やかな人生を約束してくれることは前編でも述べたが、しんどいことを嫌がったり、欲望のままに飲み食いする生活が続けば、年齢よりも老化が進んで気力の失せた老後を迎えることになる。人生の余暇を有意義に過ごすか、病院通いの日々を送るかは本人次第である。

人は健やかでこそはじめて素晴らしい人生を営むことができる。「男性は恰好よく女性は美しく老いる」…この永遠のテーマを実現する鍵を握っているのはあなた自身です。
  • 中尾尚志(なかお・たかし)
    1945年京都市生まれ

    高校一年生より独学にて自宅トレーニングを開始。立命館大学在学中にミスター京都、準ミスター日本になりその間に、日本体育施設協会トレーニング指導士の資格を取得。卒業後、兄の経営するデザインスタジオのカメラマンとして10年を経て昭和53年に、アキレストレーニングセンターを開設し、現在のアキレストップジムに至る。
    昭和60年より13年間日本ヘルス&スポーツ学院講師、平成6年より6年間神戸大学アメリカンフットボール部トレーナー顧間を歴任し、現在は、社団法人日本ボディビル連盟常務理事・審査委員会委員長、京都府ボディビル連盟理事長の役職にある。

    社団法人日本ボディビル連盟―級指導員。一級審査員
    lFBB(国際ボディビルダーズ連盟)国際審査員
    日本体育施設協会トレーニング指導士
    社団法人日本ボディビル連盟常務理事
    社団法人日本ボディビル連盟審査委員会委員長
    京都府ボディビル連盟理事長
    アキレストップジム代表

文:
中尾尚志
[ 月刊ボディビルディング 2009年5月号 ]

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