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ボディビルの基本⑱ 初心者のための基礎知識と実技【 知 識 編 】

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[ 月刊ボディビルディング 1973年3月号 ]
掲載日:2017.10.08
竹内 威(NE協会指導部長 ’59 ミスター日本)

トレーニングの時刻

〇何時頃が適しているか

 トレーニングを行う時刻は何時頃がよいのか。これはごく常識的にいえば昼すぎから夕刻にかけての時間内に行うのがもっともよいといえる。というのは、人体の肉体的な機能が、この時間帯にもっとも活動しやすい状態になるからである。

 しかし、多くの人は仕事や勉学などで、生活における時間的な制約もあって、上記の時間内にトレーニングを行えないのが実状のようだ。そのような場合は、各人の生活に則して、都合のよい時刻にトレーニングを行わなければならないわけであるが、トレーニングは時間の都合さえつけば、いつ行なってもよいというものではない。生理的に考えて、トレーニングに適する時刻に行うようにしなければならない。

 昼すぎから夕刻までの時間帯に次いで、比較的トレーニングに適していると考えられるのは、夕刻から就寝2〜3時間前までの時間帯である。したがって、日中トレーニングの行えない者は夕刻からの時間帯に行うようにするのがよい。

〇就寝前2〜3時間はトレーニングに適さない

 ボディビルのように激しい運動を就寝直前に行うことは慎しむほうがよい。というのは、激しい運動を行うことで内臓諸器官の働きが強度に亢進し、それによって、ときには神経をもたかぶらせ、睡眠をさまたげることになるからである。

 体力の強い者であれば、さしたる影響を受けない場合もあるが、体力の弱い者はこのことによく留意して、睡眠がさまたげられることのないように、就寝前2〜3時間はトレーニングを行わないようにされたい。それと、トレーニング後には必ずクール・ダウンを行なって、身心の緊張をときほぐすことも大切である。

〇起床後3〜4時間も激しい運動には適さない

 超床後3〜4時間は、脊椎や関節が別地緩(ゆるむこと)しており、神経の伝達もにぶく、体が活動しにくい状態にある。このようなときに、重い負荷を体に与えて激しい運動を行うことは故障を起こしやすく危険である。むしろ、起床後は仕事に備えて体が早く活動しやすい状態になるように、軽い運動を行うほうが適している。くれぐれも起床後3〜4時間は、本格的なボディビルのトレーニングはしないようにしてもらいたい。

〇食事とトレーニングの関係

 胃を働かすためには、かなりの量の血液が動員される。一方、トレーニングで体を動かせば、使用される筋にも運動の強度に応じて血液が動員される。したがって、胃が食べたものを消化するために強く働かなければならないときに、激しい運動を行えば胃の働きを低下させることになる。また、運動の能率も低下する。

 体内における一定量の血液を双方でとり合うのであるから、それは当然のことである。そのような理由で、食後すぐトレーニングすることは慎しむべきである。

 では、食後どのくらいの時間をおけばよいかということだが、それは、食べ物の種類と量、各人の消化力にも差があるのでいちがいにはいえないが、だいたい一時間半から2時間ぐらい経過すればよいであろう。とくに、胃の弱い人の場合はこのことに充分留意する必要がある。(註.これと同じような理由で、胃の弱い人は食後すぐ風呂に入ることは慎しむべきである)

 トレーニング中に胃のあたりが重苦しくなってきたら、しばらく中断しておさまってから行うようにする。

 トレーニング後の食事については、体のほてりがさめ、胃の働きやすい状態になってからとるようにする。トレーニング後どのくらいがよいかは、運動の強度や、個人差があるので具体的にはいえないが、胃の働きがもう充分なされると感じたら、そこで食事をするようにすればよい。

〇極端な空服も運動には不適

 おおかたの人は、仕事や勉学の都合で、トレーニングは夕刻すぎの時間それも前述のことを考慮すれば、晩ごはん前に行うようになると思うが、極端に空腹の場合、次に述べるような理由でトレーニングには適さない。すなわち、極端に空腹のときは、血液中の糖分がいちじるしく減少する。そのようなときにトレーニングを行うことは、体力を激しく消耗させ疲労度も強い。ときにはトレーニング中に貧血を起こしたり、気持が悪くなったりする。また、体重を増加するにも不適である。

 したがって、夕刻すぎてから晩ごはん前にトレーニングを行う場合は、トレーニングの2時間くらい前に少量の食事をとるようにするとよい。食べる量は、トレーニングを行う時刻までにあらかた消化される程度にとどめ、食べすぎることによってトレーニングに支障をきたさないように配慮する。

〇トレーニングはできるだけ同時刻に行う

 トレーニングは、できるだけ毎回同時刻に行うようにするのがよい。体の働きは、長い間にそれぞれの生活に則するように習慣づけられる。いわば生活に合った体のリズムが生じてくるのである。したがって、トレーニングも時間的に不規則に行うよりも、毎回同時刻に行うほうが安定した調子で行えるようになる。

〇夜勤や昼夜交替勤務の場合

 常時、夜勤の場合は、長い間にそれなりの生活に合った体のリズムがつくられていることであるから、前述のことがらを夜の生活におきかえて、妥当と思われる時刻にトレーニングを行うようにすればよい。ふつうは夜勤を終えてからトレーニングをすればよいが起床してから仕事が始まるまでに十分な時間があるようなら、仕事にさしつかえのない程度に、出勤前にトレーニングを行うようにしてもよい。

 二部交替、あるいは三部交替で、昼勤と夜勤をくりかえしている場合は、昼勤のときと夜勤のときの、それぞれに適した時刻にトレーニングを行うようにしなければならないが、とくに夜勤のときは昼勤のときよりもトレーニングの量と強度を弱めて行うように配慮する。

 いずれにしても、夜勤の場合は、健康にはことさら注意し、トレーニングが過度にならないように留意して、あせらず地道に鍛練することを忘れてはならない。昼勤の者と比べてハンデがあることを素直に認めて、絶対に無理をしないように行なってほしい。

トレーニングの週間頻度

 トレーニングを行えば、体力が消耗し、体力を回復させるには休養が必要である。そして休養は、体力が回復するに十分なものでなければならない。

 トレーニングの効果は、トレーニングの最中に得られるものではなく、トレーニング後の休養中に得られるものである。トレーニングは、筋の強化と肥大を促すための刺激を与える手段であって、運動の効果は消耗した体力が回復した後に得られる。

 適切な方法でトレーニングを行うことは、効果を促すのにもちろん大切な要因であるが、トレーニング後の休養が不十分では、筋の強化も肥大も十分には得られない。トレーニングには非常な神経を使いながら、とかく休養には無関心の人が多いが、休養をおろそかにしては十分な効果を期待できないことを銘記すべきである。

 では、トレーニングの頻度はどのようにすればよいか。結論からいえば、初級者の場合は1〜3日おきに週2〜3日が適当である。上級者の場合には2日または3日連続して行う特殊なスケジュールによる方法もあるが、このように連続して行う方法は初級者には不向きである。

 他のスポーツでは、トレーニングを毎日行う場合が多いが、ボディビルによる筋の疲労は、他のスポーツと性質を異にするので、トレーニング日の間に休養日をおくことが必要である。

 いま述べたことがらを考慮して初級者向きの1週間のトレーニング頻度の例を2つあげてみよう。
記事画像1
 トレーニングの頻度は、日常生活における疲労度、栄養の摂取、体力の強弱、睡眠などを考慮して、例1と例2のいずれか適当と思われる方を採用すればよい。いずれにしても、前回のトレーニングによる疲労が次回に持ち越されることのないように配慮して定めることが肝心である。

 もし、上記のトレーニング頻度で行なってみて、なおかつ疲労が次回まで残るようだったら、それは栄養の摂取と、睡眠を含めた休養のとり方に問題があるか、または、現在の自己の体力に比してトレーニングが強すぎることに問題があると考えてよい。そして,その原因を明らかにして、早急に改めるように心掛けねばならない。十分な回復を得られないままに、トレーニングを無理に継続することは、効果が期待できないばかりか、疲労が蓄積して、逆に減退することもある。

 トレーニング頻度を考えるにあたって、疲労の回復のほかにもう一つ重要なことがある。それは、トレーニング日の間隔が必要以上にあきすぎていてもいけないということである。

 トレーニング日の間隔は、長くとも3〜4日以内とする。1週間に1回のトレーニングではあまり効果は期待できない。運動量を多くして、1週間に1回のトレーニングを行うよりは、わずかな運動量でも週に2〜3回行うほうが効果的である。また、変則的な間隔で行うよりも、規則的な一定の間隔で行うほうがよい。
[ 月刊ボディビルディング 1973年3月号 ]

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