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ボディビルの基本< 最終回 > 初心者のための基礎理論と実技【 理 論 編 】

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[ 月刊ボディビルディング 1973年6月号 ]
掲載日:2017.10.20
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竹内 威(NE協会指導部長 ’59ミスター日本)

疲労と回復

 疲労した身体の回復には、その状態に応じた適切な処置が必要である。疲労にもいろいろの原因があるが、それをとり除くためにはまず十分な栄養と休養をとる必要がある。また、回復を早めるために入浴とか、ときにはマッサージなどの手当も必要になる。

 回復に要する時間は、疲労の状態によって違ってくる。疲労が広範囲におよび、かつ深刻になればなるほど回復に長時間を要するようになる。また個人的な回復能力の強弱によっても異なってくる。

 しかし、回復能力や回復に要する時間は、運動や仕事に対する慣れと訓練によって強められる。だがそうかといって、生体としての限度があり、際限なく強化されるというものではない。したがって、疲れた身体を回復させるには、いかなる場合でも、回復するに足る時間的経過を待たねばならない。回復能力を過信するあまり、時間的経過を無視してからだを使用するときは回復が十分になされず、比較的回復しやすい正常疲労をも、回復しにくい蓄積疲労の状態にしてしまう。

 いまさらいうまでもないが、トレーニングの効果が、消耗した身体組織の回復した後に得られるものであってみれば、自己の回復能力を正当に判断し十分な休養期間をとることは、ボディビルを続けていくうえで欠かすことのできない心得といえる。

疲労回復と睡眠

 睡眠は疲労をいやすための最良の方法であり、眠るに勝る休養はない。保健的な見地からいえば7~8時間とることが望ましく、さらに熟睡することが肝要である。

 いうまでもなく、睡眠中は身体の活動が低下する。身体の活動が低下すればカロリーや他の栄養の消費量も減少する。したがって、眠っているときには、消耗した筋や他の組織の回復のために、起きているときよりも多量の栄養が供給されることになる。この傾向は眠りが深くなるほど強い。

 また、睡眠中の身体の活動の低下は酸素の需要量の減少をもたらすので,余剰となった酸素が疲労物質や老廃物の除去と、栄養分の組織への同化作用を促進することになる。

熟睡するための注意

① 寝る直前に水分を多くとると、睡眠中に尿意をさそい安眠をさまたげる。中でもコーヒーや濃いお茶は神経をたかぶらせる作用があるのでひかえるようにする。

② 食事はできるだけ就寝2時間前までにとる。時間的な余裕がないときは食べすぎないように注意する。

③ 就寝時刻はできることなら一定にするのがよい。

④ 寝具とねまきは清潔にして、ゆとりをもたせるとともに保温に留意する。きゅうくつな寝具とねまきの使用は、睡眠中における筋の脱力を阻害し、安眠をさまたげるだけでなく疲労回復の能率を悪くする。

⑤ 適度な疲労は熟睡を誘うが、就寝直前の激しい運動は神経をたかぶらせるから慎しむことである。

⑥ 野菜、果物などのアルカリ性の食べ物を多くとるようにする。

入浴とマッサージ

 激しい運動は多量のエネルギーを消費するだけでなく、筋中に疲労物質や老廃物を蓄積する。つまり筋の消耗と疲労をもたらす。消耗し疲労した筋の回復には栄養と休養とが必要であることはいま述べたが、入浴とマッサージも回復を早めるのに有効である。

 入浴は一時的な疲労をいくらかともなうが、疲労物質と老廃物の排泄を早め、血液の循環をよくするので、筋組織における同化作用を促進する。

 マッサージも血行をよくし淋巴管の働きをよくするので、入浴と同様に回復を早める効果がある。また、軽い体操など、できるだけ脱力した状態でからだを動かすことも、マッサージに似た効果をもたらすので回復には有効である。

 ついでに述べておくが、疲労物質や老廃物が筋中に貯蔵されるのを軽減し回復を早めるのにクール・ダウンを行うことも大切である。

レイ・オフ(長期休養)

 レイ・オフとは、蓄積された疲労をとりのぞくために、また、これからのトレーニングのために、比較的長期間にわたってトレーニングを休止することである。

 適度と思われるトレーニングを行なっていても、長い間には疲労が少しずつ蓄積されてくる。いわば、正常疲労の状態を逸して蓄積疲労の状態をおびてくる。このような状態では、当然トレーニングの効果も期待できない。そこで、蓄積された疲労を完全にとりのぞくためにレイ・オフが必要になる。また、レイ・オフによってトレーニングをある期間休止することは、新たな効果を得ることの可能性を有することにもなる。

 つまり、運動に慣れすぎることにより、恒常化される筋への刺激に、斬新さをよみがえらせるのに役立つ。したがって、レイ・オフはただ蓄積疲労をとりのぞく場合だけではなく、効果の面で伸びなやんだときとか、新たなスケジュールを開始する前にとるようにするのもよい。

 レイ・オフ中は、筋力も体位も一時的に後退する場合もあるが、再開後ごく短期間のトレーニングで回復するから、ボディビルのことを忘れて気楽に過ごすことである。中途半端な気持で器具をいじることは慎しむようにしたいものである。

 レイ・オフを終えてトレーニングを再開するときは、使用重量とセット数をセーブして行い、日を追って徐々に強度と量を増やすようにする。始めからあまり激しくトレーニングを行うことは、筋に対する刺激が強すぎて体調をくずすおそれがある。

 では、レイ・オフはどのくらいの期間がよいかということであるが、これはいちがいにはいえない。蓄積疲労をとりのぞくためにとるのであれば、その疲労の状態によって期間を定めなければならない。ごく一般的には、1~2週間ぐらいであるが、疲労の状態によってはさらに延長しなければならない場合もある。

 疲労が回復したかどうか判定するのは難しいが、他覚的に測定する設備のない場合は、自覚的な判断によるしかない。身体の柔軟度が増し、疲労感がなくなり、からだに活力が溢れ身のこなしが軽くなったら、そこで始めてトレーニングを再開するようにすればよい。

 効果の面で伸びなやんだ場合とか、スケジュールを変更する場合のレイ・オフの期間は、それまでに得た効果があまり減退してしまわない長さがよい。一般的には1~2週間ぐらいが適当と思われる。

 いずれにしても、レイ・オフの目的は、長期的なトレーニングの休止によって新たな効果を画することにあるのだから、その点をよくわきまえて期間を定めることである。

 初心者の段階では、ある一定期間トレーニングを行なったら、定期的にレイ・オフをもうけるようにするのもよい。つまり、5週間なり6週間トレーニングを行なったらレイ・オフの期間をもうけるといった方法である。この場合、トレーニングの続行期間は各人の体力によって妥当と思われる期間を定めればよい。

 以上、トレーニングと相互的な関係を有するレイ・オフについて述べたが、個々の見解において、他のスポーツにおけるシーズン・オフのような意味合いでレイ・オフの期間をもうけても一向にさしつかえない。

 ただし、休養以外の目的で長期間トレーニングを中止することは、それまでに得た効果がかなり減退するので、それは覚悟しなければならない。トレーニングを再開すれば短期間で回復するとはいえ、中止による効果の減退は修練年月の短い者ほど急速に現われる傾向がある。したがって、初心者の段階では、休む理由がないのにトレーニングを長期間中止しないほうがよい。
[ 月刊ボディビルディング 1973年6月号 ]

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