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フィジカルトレーニングの導入とアプローチ ~自重を活用した身体チェックとトレーニング例~ #1 NSCAジャパンS&Cカンファレンス2017 講演

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掲載日:2018.02.01
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日本代表トレーナー泉建史による、
フィジカルトレーニングの導入とアプローチ ~自重を活用した身体チェックとトレーニング例~

泉 建史 いずみ たけし(日本オリンピック委員会JOC強化スタッフ/体操・トランポリン/ナショナルチーム (日本代表)トレーナー・フィジカルコーチ /NSCAジャパン広報委員長,NSCAジャパン関西AAD,NSCA-CPT, アメリカスポーツ医学会認定運動生理学者)

2017年12月9日(土)、10日(日) 神戸ファッションマートにて行われたNSCAジャパンS&Cカンファレンス2017での講演の概要を紹介する。
トップアスリート競技からフィットネス活動(ランニング、水泳などの全身運動)まで共通するフィジカル強化の導入やアプローチについて、現在オリンピックにむけてナショナルチームの指導やプロスポーツのフィジカル強化育成でフィジカルコーチとして関わる泉建史氏による講演の概要を紹介。

本講演ではトレーニング前に「身体のクセ」を知ることから始まり「学習し実践にうつす」ことをテーマとし、その一例として手軽にできる「身体チェック方法」「自体重トレーニング」「準備運動」を実践した。

フィジカル強化の種類

フィジカルコーチとは、スポーツ競技動作を分析し戦略を立て、フィジカル面の強化のプランニングを行うことで本来持っている身体の機能を最大限に引き出すことを担う職である。
様々な競技のフィジカル強化を考える上で必要となる要素をおよそ大別した、以下の取り組みを例として紹介した。

・マラソン、トライアスロン等の持久系→坂道、クロスカントリー等に対する下肢の筋持久力強化
・水泳、器械体操系→身体の位置確認と体軸のコントロール、特異的動作
・重量挙げ、投擲、跳躍→上昇面の姿勢の安定性と下肢からのパワー発揮、正確性
・球技、スプリント系→ポジション別のスプリント持久力とテクニカルに関連する各回旋系動作
・格闘技系→上半身、下半身のパワー発揮と固定、瞬発力
・モータースポーツ、バイク、騎乗系→体重管理と固定姿勢の維持、状況判断

種目ごとに記した上記に加え、アスリートとして最低限必要なフィジカル強化と、基本の強化トレーニングはごくシンプルなものだが、段階を踏まえて競技の特異性に必要なフィジカル強化という二面性があることも加えた。

フィジカル強化で取り組むこと

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しっかりと計画を立てた上で、戦略的にフィジカルトレーニングを実施していくために重要となる指標として以下を挙げた。

・短期、長期的な目標やテーマの確認
・関係者との情報共有
・競技の専門的動作の情報収集、フィジカル強化における指標の作成
・体力の評価・測定
・日常の身体のクセ、トレーニング動作、リスクファクターの確認
・フィジカル強化前後におけるワークショップでの教育


泉氏は関係者との情報共有を特に重視しており、技術コーチから治療サイドまでチームとして競技に関わる全員に必ず会いに行き、多い時は20名以上を数える。

講演内で参加者同士が身体の動きをチェックしあう際、身体評価の柔軟性に関して、硬いから、もしくは可動域が小さい場合にすぐストレッチをかけるのではなく、柔軟性を確保する前にまずは弛緩性を確認するべきであり、靭帯の弛緩テストをまず先に行う必要性も紹介した。
またお互いのスポーツ競技経験やクセのヒントになることを知ることと相互理解の必要性を強調した。

フィジカル戦略のための分類

フィジカルトレーニングを立案する際の考え方の一つとして、競技特性による分類も紹介した。

①直接的な身体接触がある種目(ボクシング、柔道、レスリング等)
②直接的な身体接触がない種目(バレーボール、卓球、テニス等)
③複数選手が同時に競技を行いパフォーマンスの比較がされる種目(陸上競技、競泳、競馬等)
④時間、距離、高さの計測や採点により間接的にパフォーマンスが比較される種目(跳躍、体操、重量挙げ等)

ただ動きを作る、動きやすくするだけでなく競技ルールや特性、環境を研究し、それらに付随する様々な要素を考慮に入れていかなければ結果には繋がりにくい。

また、元々健康維持や趣味で体づくりをしていた非競技者のフィットネスレベルが競技者レベルにまで上がることも考えられるため、障害予防の観点からもテクニカル面、フィジカル面が不足している状態も考えなくてはならない。

各競技トップチームのフィジカルトレーニング

フィジカルトレーニングはあらゆる競技スポーツに欠かすことができないとして、泉氏自身がフィジカルコーチを務めるナショナルチーム(日本代表)の選手やプロスポーツの選手など一連のトレーニング環境を紹介した。

体操、トランポリン、新体操は同じ体操枠ではあるが特異性や体格は異なり、日常でのトレーニングやテクニカルの頻度を調整してフィジカル強化や身体づくりをしている。
様々なテクニカルの練習を実施することでその取り組みそのものがフィジカルの強化にも繋がる場合もある。

競技例を挙げると、体操/トランポリンは7~8m高さからの着地に備えた着地練習や上体の安定づくりなども実施している。トレーニング環境にも変化をつけながら国立スポーツ科学センター練習場やナショナルトレーニングセンターだけでなく、ロシア遠征での強化や陸上トレーニング競技練習場、砂浜など、サーフィス(床)面が異なる場所で動きづくりをすることで一瞬の床接地に対してのバランス練習や体力強化も行い、国際大会に向けた準備をしている。

ウェイトリフティング競技の選手においては姿勢の分析や計測の結果に基づき、その選手にとって高い力を出しにくいウィークポイントとなっていたポジションでのトレーニングを1~2ヶ月取り入れた結果、日本記録の樹立に繋がった例を紹介した。

分析にはNSCAジャパンの施設であるHPC(ハイパフォーマンスセンター)を活用したり、NSCAジャパン組織の各スペシャリストである関係者のアドバイス等も取り入れることで準備運動の見直しやパワーの発揮、柔軟性の確保など多面的に情報を得て選手の成長に繋げるきっかけをつくることも行なった。

モータースポーツなどの競艇選手、競馬など騎手は体重制限のある中でフィジカルの能力を上げていく。レースの最中は身体を前のめりにして全身を使い、バランスをとることに加えて推進力を与える技術が用いられる。走行中の騎手の頭部は大きく振られ、他の選手との位置関係を把握するためには視野を横にも広くとる必要がある。

レース中の体感速度は非常に大きく、選手自身がトレーニングを積んでいなければければふり落とされてしまう。落ちれば大怪我どころか命の危険にすら晒されるため、レースのパフォーマンスを上げる点と自身の安全管理の両方の点からフィジカル強化が必須となる。

加えて、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフとしてフィジカルトレーニング指導を担う、ナショナルチーム(日本代表)や幾つかの競技の日本代表選手の実施したトレーニングとクセのチェックにも触れた。

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