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実際のスポーツ動作の特性とトレーニングの密接な関係

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掲載日:2018.04.18
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1) トレーニング条件を設定するためのポイント

専門的エクササイズの負荷や回数などの条件は、エクササイズの動作形態やトレーニング目的によって大きく異なります。条件の設定にあたっては、以下のような点に配慮します。

①負荷
実際の競技場面で加わる負荷の大きさ

②力の発揮特性と動作スピード
爆発的な力発揮(急激な加速)、ゆっくりとした力発揮(緩やかな加速)、最大スピードの大きさ、スピードの変化(加速・減速など)

③運動時間(代謝特性)
運動時間と動員されるエネルギー供給機構力の発揮形態(持続的か、継続的か)

④筋収縮特性
動員中の筋収縮様式

①運動中に加わる負荷の大きさや特性

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実際の競技場面で加わる負荷の大きさを把握し、動作パワーの向上を目的とした場合には、実際の競技場面で加わる負荷よりもやや強めの負荷(オーバーロード)をかけるようにします。
負荷が強すぎた場合には、フォームが崩れる、強い負荷条件に適応したフォームや運動感覚が形成されてしまう、特定の部位に過剰な負担がかかりケガが発生する、などの危険性があるので注意が必要です。
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なお、トレーニング目的に応じて、表2-7のように動作スピードを高めることを目的として、実際の競技場面で加わる負荷よりも軽い負荷を用いる方法(アシスティッド・トレーニングや、負荷に変化をつける方法(コントラスト法、コンプレックス法)などがあり、用途に応じて選択します。

②力の発揮特性と動作スピード

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専門的エクササイズの動作スピードを決定する際には、実際の競技動作で行われる力の発揮特性や、動作スピードの大きさ及び変化を考慮することが必要です。
例えば、ジャンプの踏切動作の場合、力の発揮が短時間の間に全力で行われることから、トレーニングにおいては、できるだけすばやく爆発的に動作を行うようにします。
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一方、球技にみられるダッシュからのストップや方向転換、ジャンプからの着地などでは、動作スピードを減速させる能力が要求されるため、トレーニングにおいてもこれを再現した動作を行うことが必要となります。

③筋収縮特性

スポーツの競技場面では、さまざまな種類の筋収縮形態がみられます。例えば、体操競技の着地や、球技におけるダッシュからの方向転換やストップ、ボールのキャッチなどでは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する伸張性収縮が起こります。

また、爆発的なパワー発揮の際には、伸張性収縮から短縮性収縮にすばやく切り返す「伸張-短縮サイクル(Stretch-shortening cycle: SSC)」と呼ばれる「伸張反射」を伴う筋収縮パターンが重要となります。また、射撃やアーチェリーのように一定の姿勢を維持し続けなければならない競技の場合には、等尺性収縮が要求されます。

運動中には、部位によって筋収縮タイプが異なることにも考慮する必要があります。例えば、ジャンプの動作中には、大腿部や骨部の筋肉は動的に収縮していますが、体幹周辺の筋群は、正しい姿勢を維持するために静的な収縮(等尺性収縮)を行っています。

④代謝特性

専門的エクササイズの条件設定にあたっては、強化すべき動作の所要時間やエネルギー供給機構への配慮が必要となります。
実際の競技におけるパワー発揮の大きさ(最大に対する割合)、パワー発揮の持続時間、パワー発揮の持続形態(継続的か断続的か)などについて検討し、これをもとにしてトレーニングにおける反復回数や、動作のテンポ、1セットの所要時間、セット間の休息時間などの条件設定を行います。
コラム:あるボート選手の失敗

ある大学のボー卜部の選手が、ボートのパフォーマンス向上のために、ジムに入会して筋力トレーニングを開始しました。
トレー二ングでは、ボートの動作と関連のあるエクササイズとしてシーティッドロウを重視し、広背筋を意識して脇を締めるような動作で筋肉をパンプアップさせ、完全にオールアウトする(反復できなくなる)ところまで追い込むトレー二ングを熱心に行い、数ヶ月後には使用重量を順調に伸ばすことに成功しました。

ところが実際にボー卜を漕いでみると、以前よりも早い段階で筋肉が動かなくなり、記録が低下してしまったのです。なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

彼はトレーニングの際に、広背筋のみを使用して他の部位をできるだけ動員させないように意識し、加速を抑えてゆっくりとした一定スピードで動作を行なっており、このような実際のボートの動作特性とは異なる効率の悪い動作パターンが、トレー二ングを通じて神経系にインプットされてしまったことが原因と考えられます。
シーティッドロウで背中の筋肉のみをパンプアップさせる訓練を行なったために、ボート競技の漕ぐ動作においても背中の筋肉が早くパンプアップしてしまったのです。

競技動作に関連した動作で行う専門的エクササイズにおいては、トレー二ング動作のスピードやトレー二ング中の意識も効果を上げるための重要な要素であるといえるのです。
  • 競技スポーツ別 ウエイトトレーニングマニュアル
    著者:有賀誠司
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社

[ 競技スポーツ別 ウエイトトレーニングマニュアル) ]

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