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トレーニング現場におけるデータ取得とそのフィードバック方法#2 ~選手やコーチの主観も生かした情報抽出のあり方~

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掲載日:2018.08.17
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特定非営利活動法人NSCAジャパン ストレングス&コンディショニングフォーラム2018より、鹿屋体育大学教授 鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター センター長、山本正嘉氏の講演をレポート。

主観の評価を活用したバレーボール選手の例

次は機械も何も使わずにデータの活用に成功した例を紹介します。

大学生のバレーボール選手の場合です。バレーボールは得点を取るためにスパイクのジャンプの高さが重要な要素になるので、なるべく高く跳びたい。しかし、コーチから見ると十分に跳べている選手も、そうでない選手もいます。

そこで、フォームを動画で二人のコーチが観て、助走速度、最後の一歩の力強さ、バックスイングの大きさ、身体の沈み込み、腕の振り上げ速度、下肢と上肢のタイミングの6項目に分けて評価をしました。
そうすると、別々のコーチですが、各項目においてかなり似た評価が出ました。
なので、主観というものはとても曖昧でデータにはなりえない非科学的なものだと思われがちですが、現場でしっかりと経験を積んだ者が観れば再現性の高い評価とデータが得られます。

この評価法を選手一人一人に実施し、結果を見て自分の弱点を自分で工夫して改善することを一週間続けるように促したところ、通常のポジションで高いジャンプが要求される選手でもジャンプの最高到達点が3~5cm、普段高いジャンプをしないポジションだと13cmくらい伸びた選手もいました。

機器を用いて計測したデータだけでなく、コーチの主観を数値化して表すことで長所や短所が可視化され、新たな視点でトレーニングに取り組むことができました。

これが記述。二人のコーチは主観ですが評価をしている。そして弱点を直せばもっと跳べるようになる。
これが科学的かそうでないかは様々な捉え方があると思いますが、科学的でもそうでなくても対象者が良くなれば良いと思います。

データは新たな情報やヒントを示す

データを示すことの意義や原理として、選手は第一の視点。コーチは第二の視点。これに加えて、データで第三の視点を示す。それらの暗黙知が可視化して示されることで考えることの幅やヒントなどの新たな情報を得ることができるようになります。

また、データを用いると「科学的なトレーニング」になるということもあります。非常に口当たりの良い言葉ですので何かと使われていますが、実際にしっかりと使われていることは少ないと思います。

科学の方法論 真理を追究するための4段階

①記述(データ)→ある現象の様子を記述する
 
②説明 →その現象の仕組みを説明する 

③予測 →その現象の未来を予測する

④操作 →予測が正しいかを確認する

データを示した上でより良いトレーニングのあり方を考えていくという手順は、科学の方法論(記述→説明→予測→操作)と同じであり、科学的なトレーニングと言うことができます。

選手やコーチの暗黙知の部分だけでなく、可視化されたデータ(根拠=エビデンス)を示しているか否かが科学的なトレーニングとただのトレーニングとの最大の違いとなります。

機器を用いて計測した数値やデータで表すことだけが記述ではありません。
主観を数値化したり、言葉で表したり、画像や映像で示したりと、その意味を共有できる情報を示しているのであれば、それは立派なデータと言えます。

PDCAサイクルの効果を高める

PDCAサイクルは「Plan」-「Do」-「Check」-「Act」のことです。

トレーニングには正解がありません。
PDCAサイクルは、正解のない世界で失敗を最小限にして目的に近づくための手段として組織の運用などで使われますが、トレーニングにおいても強力な手段となります。

アスリートも、日々の練習がもうすでにPDCAだと思います。
昨日の練習の改善点を考えて、今日改善していく。その繰り返しの回数や、ヒントが増えることでより具体的で効果的なPDCAサイクルにすることができます。データがなく、頭で考えているだけでは予測の精度が下がってしまうのです。

4行日記とPDCA

ヒューマンサイエンス研究所というところで「4行日記」という面白いアイデアがあったので、PDCAサイクルを考えて実行するための練習や習慣として学生にやってもらっています。

ヒューマンサイエンス研究所はスポーツに特化しているわけではなく、いろいろな自己実現や目標達成を効率よくやろうというコンセプトの団体です。

4行日記をどうやるかというと、一日の終わりに、事実、発見、教訓、宣言の四項目を、一項目に付き一行として合計四行で表現します。これがそれぞれ、事実は記述、発見は説明、教訓は予測、宣言は操作に相当しています。

様々なデータの形

競技現場で用いられている主観をデータ化して活用することも可能です。
バスケットボールの例として、特定の選手のゲーム中における各項目の能力レベルを10段階として、自己評価と指導者評価、学生評価をしたところ、波が一致しているという結果になりました。
本人は謙遜して低めに評価をしているようですが。
科学は客観的な数値のみを扱うものとして考えられてきましたが、客観的な測定データを現場での主観データと結びつけて考える事で、初めて現場にとって有用な評価ができるのです。

また、ある選手の評価でジャンプ力が低かったため、その部分を強化するように言ったところ、その評価を提示するだけでは8ヶ月経っても改善どころか低下していました。

評価を元にトレーナーと面談し、個別にトレーニングを処方した結果、5週間で4.6%の向上率を示しました。

このことから、ただデータや課題を掲示するだけではなくて、それを用いた上で的確なトレーニングメニューを作成することが望ましいと言えます。

これに似た方法で、QCシート(品質管理シート)というものがあります。
睡眠時間、食事、疲労度、痛み、意欲などの各項目に毎日記入をしていく事で自身の心身に目を向け、気付きや動機づけを高める効果もあります。
それに加えて、一週間を振り返っての反省点や来週に向けての課題等を記していきます。

これらに数値は出てきませんが、自分自身との対話、選手と指導者との対話、さらには第三者との対話など、多くの人が同じデータを共有してコミュニティやディスカッションができるようになります。

サッカーノート

サッカーの中村俊輔選手も高校二年生からノートに記録を付け続けていて、行き詰まった時や自分のプレーのイメージが湧かない時など、悩んだ時に読み返しているとのことです。

節目には長期、中期、短期の目標を書き出し、試合の前には具体的に3つの目標をたてておく。そして試合後は攻守の成果と反省点を書き、なぜそうなったのかという理由とどうすれば改善するかを考える。
つまり、記述→説明を繰り返すことで、自分の手で予測→操作をできるようになったのです。

データを表した上でトレーニングを考えることのメリット

・問題点が目に見えるようになった
・問題点が数量的にわかった
・指導者と選手の新たな接点ができた
・指導者と研究者の接点ができた
・良い方向に進んでいるかを確認できた
・同世代の別の選手やチームにとって参考となるデータが残った

→試行錯誤の末に会得したコツを受け継ぐ事ができ、同じ過ちを繰り返さなくなった
→実践研究論文として公表することが大切。

暗黙知だけに頼ったトレーニングでは問題点が見えにくく、同じ過ちを繰り返しやすくなります。他の人がアドバイスできない事や、物事がうまくいった場合でもそのコツは当事者だけのものにしかならず、第三者が受け継ぐことができません。

続き:トレーニング現場におけるデータ取得とそのフィードバック方法#3