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スポーツと視覚 ~動体視力を鍛える~#2 一般社団法人日本スポーツビジョン協会代表 スポーツドクター 真下一策

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掲載日:2018.09.14
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日本最大級のスポーツ・健康産業総合展示会であるSPORTEC 2018内にて開催された、一般社団法人日本スポーツビジョン協会 代表 真下一策氏による「スポーツと視覚 ~動体視力を鍛える~」の講演をレポート!

4つの視力矯正手段

視力不足はトレーニングでは良くなりません。視力矯正が必要でございまして、矯正手段は4つございます。それぞれ目の状態、競技内容、環境等に合わせます。

①メガネ
まず、私もしておりますメガネでございます。
最も簡単でつけ外しは自由、度数の調整も簡単です。ただし、曇りやすかったり接触プレーによって破損や落下の危険性があり、スポーツ外傷の原因になる場合があります。たまにメガネの枠を気にする人や、枠が視野を制限してしまう場合もあります。

②コンタクトレンズ
こちらは接触プレーでも使用でき、種目を選ばず便利でございます。メガネと比べて視野が広く、しかもソフトコンタクトレンズは激しい動きでもずれにくいということで、現在は使い捨てのコンタクトレンズが主流になっております。なぜ使い捨てかと言うと、常用すると高価につくからです。
また、使用に際しては眼科検診が必要です。それらの点から、装用は自主管理ができる中学生からという点を勧めたいところでございます。

③角膜矯正手術
次に、レーシックに代表される角膜矯正手術ですが、ドライアイなどの副作用がある場合がございます。また強度の近視では角膜の厚さの関係で手術できないことがあり、手術の適応は18歳以上でございます。

④オルソケラトロジー
もう一つ、最近だいぶ広まって参りましたオルソケラトロジー。
就寝時に特殊なハードコンタクトレンズを装用しまして、角膜の形状を変えるというものです。昼間やスポーツを行う際は裸眼で過ごします。
但し、スポーツを行う限り夜間の装用が必要になります。涙の量が極端に少なかったり、うつ伏せで寝るとか寝相が悪い場合には装用ができない場合があり、適応は20歳以上が望ましいとされています。

以上のように4つの矯正方法がございます。
小学生の矯正について考えます。
今述べたように、矯正方法には年齢制限がございます。
小学生の年代はトレーニングのゴールデンエイジと言われるほど大切な年代でございます。年齢的にはメガネしか使えません。
ところが、普通のメガネは破損の危険があるとして競技によっては使えない場合がございます。

そこで我々は小学生のスポーツ外傷の予防を兼ねまして安全な素材、例えばポリカーボネート、度付きゴーグルの装用を勧めております。

日本サッカー協会は公式の規則で安全な素材の度付きゴーグルの試合での使用を認めておりまして、我々としても他の競技でも積極的に装用の使用を認めてほしいと思っておりますが、色々な競技団体に行きますと、否定とまではいかずとも積極的には勧めていないところが多かったように思います。

二種類の異なる動体視力

次に、動体視力に移ります。
動体視力にはKVA動体視力とDVA動体視力の二種類がございます。この二種類について解説を致します。
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この左側の図のように、まっすぐ自分に向かってくるものを見る時の動体視力をKVA(kinetic visual acuity)動体視力と言い、もう一つ右側の図は目の前を横に動くものを見る時の動体視力をDVA(Dynamic visual acuity)動体視力と言います。この2つは全く違った動体視力でございます。
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KVA動体視力の測定器です。中を覗きますと50m遠方から「C」のマーク、ランドルト環が近づいてきます。それがどの地点で見えたかを測定致します。
測定結果は視力と同じく小数点で表しまして、このKVA動体視力はスポーツよりも主に交通工学の分野で使われております。免許の更新時に動体視力と言われますが、そのときに使われるのがこのKVA動体視力となります。

このKVA動体視力には2つのポイントがあります。
一つは視力と大変高い相関があって、一般的に視力がいいとKVA動体視力も良くなることでございます。
視力よりは低下しますが、その低下率には個人差があります。

もう一つのポイントは接近する目標の速度が早くなるほどKVA動体視力値は低くなることでございます。
我々が測定するときには接近する目標を時速30kmに設定して測定をしております。
この2つのポイントを説明致します。
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「いつも車を運転する人は、基礎となる「視力」を矯正等で上げておく」三菱のダカール・ラリーのドライバー、増岡選手の言葉です。
砂漠の様々な条件下で最高の視力が出せるように、試合の時にはアタッシュケースの中に10本以上のメガネを用意していたと本人から聞きました。

次に、横の動体視力であるDVA動体視力です。
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目の前を横切る「C」をどこまで正確に見えるか、どれくらいの速さまで見ることができるか。
測定結果はこのスクリーン上を走る目標の角速度で表し、早く動く目標が見えるほど良い動体視力でございます。

スポーツで動体視力と言うときはこのDVA動体視力のことを言います。先程、KVA動体視力は車の免許などの交通工学の分野で使われますと申し上げました通り、KVA動体視力はスポーツの分野ではあまり使われません。

目の前を横切る、早く動く目標が見えるほど良いということです。優秀な選手は前方10mを時速300kmで動く目標を目の動きだけで追うことができます。

DVA動体視力は先程のKVA動体視力との相関はなく、視力との相関もございません。
DVA動体視力のメカニズムの本態は、目標が目に映ったときの無意識の「分析力」と、スムーズで大きな「眼球運動」になります。

DVA動体視力の良し悪しと「潜時」

大阪府立大学の吉井先生のグラフをお借りしてメカニズムについて述べます。DVA動体視力を測定する時の目の動きでございます。
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黒い線が目の動き。赤い線がスクリーンを左から右へ動く目標の動きです。左側のグラフは動体視力が低い人です。右側は動体視力が高い人。

まず左側の動体視力が低い人は、スクリーンに目標が出現するとすぐ目を動かそうとしますが結局見えなくて途中で諦めてしまう。
それに対して右側の動体視力が高い人は、スクリーンに目標が出現してもすぐには動いておりません。
0.1~0.2秒の短い時間でございますが、目の動きが停滞する時間がございます。この時間を潜む時間と書いて「潜時(せんじ)」と言いまして、この時間に目標の動きが分析されております。
その次に目標を上回る速度で目が動きまして最後に少し重なる。

右と左の違いをまとめますと、目標を分析する「潜時」の存在と、もう一つは目を大きく動かすことができるという点になります。

今のグラフからDVA動体視力を考えます。
DVA動体視力のポイントは以下の2つ。
①目標が目に映った時に、無意識かつ瞬間的に目標の位置や速度を分析する
②分析結果に従って目を大きく速く動かす


「視線と目標が重なったら目標が止まって見える」と、有名なバッターが言っていました。
ただ目を動かせば良いのではなく、目標を見た瞬間の無意識の分析力が必要でございます。

DVA動体視力の年齢による変化は何に影響するか

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DVA動体視力には年齢による変化がございます。
これはスポーツ選手ではなくて一般人のデータですが、動体視力は5~6歳頃から良くなります。
そのピークは大体15~20歳で、その後は徐々に動体視力は下がっていきます。50~60歳になると5~6歳児と同じくらいになってしまいます。

例えば歩行中の交通事故。これが幼児と高齢者に多い。原因の一つにこのDVA動体視力の低下が考えられます。DVA動体視力が低下しますと、自動車のように速く動くものを捉えることができなくなります。

このDVA動体視力が加齢とともに低下する原因はまだ分かっておりませんが、目標の動きを分析することや目を動かす速さと大きさ、これら全てが加齢によって低下するのではないか、と言われているようでございます。

スポーツと視覚 ~動体視力を鍛える~#3