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生活習慣病を予防改善するための身体活動 #2 ~運動指導者だからこそできる指導法~ 黒田 恵美子

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掲載日:2018.12.17
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2018年10月13日に作新学院大学にて行われた、特定非営利活動法人NSCAジャパン 北関東・東北地域S&Cシンポジウムにおける健康運動指導士、日本健康運動指導士会常務理事、ケア・ウォーキング普及会代表理事 黒田 恵美子氏による講演をレポート!

ロコモからサルコペニア、フレイルへ

ロコモが進展していくと、筋肉量が減少して筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」を経て、移動能力、バランス、運動処理能力、認知機能、栄養状態、日常生活の活動性等が低下する「フレイル(虚弱)」へとなっていきます。

ちなみに、筋力の低下は高齢者だけでなく若年層にも見られるようになりました。
例えば新入社員研修でお辞儀をする時に背骨が曲がってしまう。背骨を伸ばしたまま股関節を折る事ができないのです。
小さい頃から股関節を折ることではなく背骨の丸まりで代償をしていた。そのため本人としてはしっかりお辞儀をしているつもりなのですが、背筋群や殿筋群が弱くなっていてうまく使えないということもありました。

要支援になった原因を見ると、その半分はロコモティブシンドロームです。
そして、要介護の理由には脳卒中や認知症、骨折、転倒が増えていきます。要支援から要介護へ進んでいくのだとすれば、ロコモが健康状態を悪くして介護につながる要因になっていると考えられるのです。

栄養のバランスを考えて食事を摂るのと同じように、運動にも3つの要素を考えてバランスをよくすることが大切です。
有酸素運動がごはん、肉や魚が筋トレ、野菜がストレッチという風にあてはめます。筋肉をつけたかったら肉だけでなく野菜も必要。つまり筋トレだけでなくストレッチも必要ということです。

ウォーキングだけしているのは、ご飯だけ食べているのと同じと解釈すれば、運動の偏りがよくわかります。

自治体が歩くことを推奨して、歩数を増やして景品がもらえるという仕組みを作ったりしていますが、一部の人たちは歩きすぎています。
頑張りすぎも体を壊すので、適量を適切な強度で行うことが求められています。

30年くらい前に、認知症で徘徊している方に歩数計をつけて歩数と健康度の関連を調べたら、歩きすぎると健康度が下がるというデータが出たというのを見たことがあります。
たしか、2万歩以上歩くと骨粗鬆症や動脈硬化が進むといったものだったと記憶しています。最近では、高齢になると1万歩よりも少なく、8千歩でよいということも言われています。

運動時間を増やせない、減らした理由

仕事や家事が忙しいから
面倒くさいから
年をとったから
特に理由はない
お金に余裕がないから
場所や施設がないから
子供に手がかかるから
(スポーツ庁平成30年2月27日報道発表)

これらの理由がある人達に運動プログラムを作っても意味がありません。
まずは、運動でなくてもよいので、普段の歩きを早足にするといった風に生活活動を増やすことからアプローチします。
歩き方や立ち姿勢を意識したり、階段を使う、椅子の座り立ちの方法を変えて筋肉に負荷をかける、仕事の合間に座りながらストレッチの実施するなどです。

「予防」より「改善」 メタボ予防 < 膝痛改善

メタボ予防のために運動指導を受けたがなかなか続かないでいた

膝痛がひどく、歩くことに支障が出た

膝痛を良くする運動を一生懸命続けた

膝痛が改善した

おまけに内臓脂肪が減った

人間は起こってもいないことのために行動することが苦手です。
そこで、今一番気になっていることからアプローチすると目的がはっきりして運動を継続しやすく、それを行うことによって他の効果も得ることができ、成功体験が積まれるのです。

糖尿病に対する運動療法の効果

急性代謝改善、インスリン抵抗性の改善、血糖コントロールの改善、心肺機能の向上、合併症の予防、動脈硬化の予防改善、筋肉量の増大、身体活動量の向上、骨折リスクの減少などが挙げられます。

糖尿病の運動療法の基本は有酸素運動ですが、足の壊死を防ぐために血流改善の目的で行うストレッチや、歩くための筋力を維持する筋トレ、さらに踏み込んで、足のケアの仕方や歩き方の指導なども重要です。

ひざ痛さんにはゆるゆる屈伸

Knee in toe outはスポーツ選手だけでなく誰にもよくない曲げ方ですので、ひざと足先の向きを合わせるような曲げ方を身につけることが大切です。

そこで、1秒2回くらいの速さでリズミカルに行う「ゆるゆる屈伸」をお勧めしています。1日1~2分程度継続していくと、実際に痛みがとれたり軽減したという声を聞きます。

歩き方の改善も非常に大きな影響があります。
健康効果を上げるには、歩幅を広げて速度を上げ運動強度を上げたいのです。そこで、腕の振り方を改善することが簡単な改善法になります。

腕は、前に振り上げると重心が後ろにかかってしまい、左右に振るとひざや腰に横の動きを与えてしまうため、膝痛、腰痛のみならず、外反母趾や巻き爪、魚の目、たこなどの原因にもなります。
腕を体に対して平行に、やや後ろに意識して振ると、速く歩けて歩幅が広がるので運動強度が上がりますし、長い時間歩けるようにもなります。

また、それらを促進するためのアイテムとしてウォーキングビジネスシューズ、ウォーキングパンプス、歩きやすいリュックサックや5本指ストッキング、機能性下着等があります。

運動には、ロコモやメタボ、うつ、認知症などの予防改善効果があることがわかってきていますが、なかなか簡単に取り組んで継続してくれません。そこで、モチベーションを上げるためには、「楽になる」、「簡単にできる」、「毎日やらなくてもよい」、「頑張らなくてもよい」などの「おいしいワード」を取り入れていくことも大切です。

運動指導者ができること

運動指導者は、数値を変化させるだけでなく、動きやすくなった、外出する気になった、気分が明るくなった、自信がついてきた、痛みが治ったなどの体感を変えていくことができます。

対象者の抱えているモヤモヤを、「どうして?」と思わせて「なるほど!」に変えていくことができるのは運動指導者だからこその指導だと思います。