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「柔軟性」とは何か#2 芋生祥之

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掲載日:2018.12.25
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2018年10月13日に作新学院大学にて行われた、特定非営利活動法人NSCAジャパン 北関東・東北地域S&Cシンポジウムにおける芋生祥之氏(CSCS,専門理学療法士(運動器),日本スポーツ協会AT,筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協働病院)の講演をレポート!

なぜ運動を意識せずに歩けるか

我々は別のことを考えながら歩くことができます。ではなぜ自動的に歩くことができるのでしょうか。

脊髄に「コントロールパターンジェネレーター(CPG)」というものがあり、例えば歩いている場合、右のつま先を上げると左のつま先が下がるというような運動プログラムがパターン化されています。
そして、反射的に実行することができます。これが頭で考えなくても運動を行うことができる仕組みです。

心に伴って動く運動パターン

感情や心理状態が無意識に姿勢に現れるのと同様に、不快な場面では特有の動作、喜んでいればまた違った運動パターンになります。

したがって、運動には頭で意識的に考えた運動と人間にそもそも備わった運動、そして心理状況で変化する運動もあるということになります。


良い認知とは何か?

運動を指導する際に、クライアントを正しく導くためには認知の過程を最大限に利用することが望まれます。
まず、知覚をさせることが最初に重要です。まず感覚がないことには認知できません。

次に、注意。
自分の感覚に注意が向かない人も多くいます。
例えば、言われて初めて気づいたり、触られて初めて肩が硬くこわばっていたりです。クライアントに感覚があることに注意を向けさせることが大事になります。

次に記憶。そして判断。
例えば、若いころは今の自分がどれほど年を重ねたかというのは感じないかもしれません。しかしながら、年齢を重ねていざ過去の写真を見たときに、今の自分と過去の自分の違いにハッとすることでしょう。

クライアントに対しても、ある感覚を記憶してもらい、その記憶されたものと新たに与えた感覚を比較つまり判断してもらうことでその感覚の違いも鮮明になり得ます。

最後に言語。

若い女性や筋力の弱い年代に腕立て伏せをすると胸ではなく腕や腹など、目的と違う部分を使っている事があります。
どこの筋肉を使っているのかと改めて言葉にしてもらうと、本人の理解度、すなわち認知のレベルが明確になることでしょう。
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柔軟性の検証

先述のように、目的とする運動を行う約100ミリ秒前に姿勢が変わる。そのため眼で見ている時間は少なく、反射的にすばやく動くことが求められます。

科学的にはどういった事が言われているかと言うと、例えば組織の柔らかさ(粘弾性)は最近では超音波を用いて、組織の張り(緊張)は筋電図を用いて検証します。

組織の張りと柔らかさを検証するために関節を動かしても、これだけでは粘弾性が高いのか、筋の緊張が高いのかわかりません。
画像を用いて固いところを色分けすることで介入前後の差やパフォーマンスの変化をわかりやすくすることができます。

また、筋の反射も重要な要素です。
こちらも科学的には、筋紡錘から脊髄に行き渡る神経に電気刺激を与えます。すると運動神経が電気刺激に反応して筋の収縮が起きるので、その反応の仕方で緊張の高さがわかります。

実技:ストレッチング

ストレッチの大まかな分類として、①スタティック、②ダイナミック、③事前に収縮させてその後ストレスを加える方法等があります。

①や③の方法では粘弾性が低下し、かつ筋緊張も低下しやすいためパフォーマンスも低下します。そのため、スポーツの現場ではその後にしっかりとウォームアップをいれないといけません。

また、スタティックストレッチで筋の粘弾性を下げるために必要な時間は40秒と言われています。
週に2~3回やれば効果が出やすいという報告や、5分ほど即時的に実施してその後30分ほど柔らかい状態が保てるという報告もあります。

ストレッチを4週間継続的に実施した場合、その後のストレッチを中断しても効果はそこそこ持続するという報告もあります。

ダイナミックストレッチに関しても様々な方法がありますが、実際の効果は5分ほどとも言われています。そのため、目的の動きや状況に合わせて実施していく行く必要があります。

また、振動マシンの利用に関しては競技パフォーマンスを高めるためというより、筋力を増やしたり柔軟性を増す効果があったという報告はあります。

筋肉が痛い方や問題がある方は筋肉が固まっていますので、揺らしたり揉むことで少し緊張が落ちることもあります。
ダイナミックストレッチングの一つ、スコーピオン。左右を行って左右差を見る。伸ばしたい部位を教えたりアシストすることで意識や動きが変わってくる。時間をかけて行うと明らかに可動域が改善されていくことがわかる。

ダイナミックストレッチングの一つ、スコーピオン。左右を行って左右差を見る。伸ばしたい部位を教えたりアシストすることで意識や動きが変わってくる。時間をかけて行うと明らかに可動域が改善されていくことがわかる。

評価から原因特定、改善するための継続

柔軟性の評価をするツールとして、最近ではFMS(ファンクショナルムーブメントスクリーニング)というものもあり、いくつか項目があって下半身と上半身の柔軟性や体幹の機能など、全身の動きを見て点数化することで評価していきます。

評価から柔軟性低下の原因を導き出し、そもそも動きが悪くなるのはどの部分の影響によるものなのかを調べてアプローチしていく必要があります。

しかし、なぜ柔軟性を高めたいのかという目的を強く意識しなければ指導した内容が継続されることはありません。
「身体を柔らかくしたいのでストレッチを教えてほしい」と言われても、半年後には継続できていない。そのような場面を数多く経験します。

一方で、競技で勝つために「なんとしても素早くしなやかに走りたい」などの明確な目的があればストレッチが継続しやすくなります。
そして指導者も「これができたら次はこれ」というようにはっきりと進めていくことを最初の導入部分で説明できると、しっかりと継続しやすいかと思います。

実際の方法に関しては、最初にスタティックストレッチングをやって現在の状態を確認し、次に自分で考えながらダイナミックストレッチをやってもらって自身の身体の変化を確認してもらいます。
左右差であったり、実際のプレー動作を意識しながら行ってもらうこともポイントの一つです。

意外と、人によって伸びているという感覚は違うものですので、対象者の意見や感覚を大事にして行って頂ければと思います。