森谷敏夫 #2「年を取ってもずっと筋肉は大切」NSCA国際カンファレンス
掲載日:2017.04.11
「筋肉が臓器?」シリーズVol.1では、森谷敏夫先生の講座の内容から「歩くスピードで命の長さが変わる」というテーマでレポートをさせていただきました。
Vol.2では、高齢になってもタンパク質は必要なのか、また噂では聞いたことがあるけれど「筋肉メモリー」って本当にあるのか?などのお話しを取り上げていきたいと思います。
Vol.2では、高齢になってもタンパク質は必要なのか、また噂では聞いたことがあるけれど「筋肉メモリー」って本当にあるのか?などのお話しを取り上げていきたいと思います。
年を取っても筋トレやタンパク質は必要?
前回は、「歩くスピードが遅くなると心臓が弱くなり、早く死期が迫ってくるので、男性も女性もしっかり足腰の筋肉を鍛えておきましょう。」というお話しでした。健脚であることがいかに大切であるかということがよく分かりました。
森谷先生の講座は、大学の講義の中でも特に女生徒に人気があり、いつもいっぱいと評判も高く、またテレビにも多数出演されているだけあり、とても分かりやすく夢中になってお話しを聴かせていただいた60分間でした。
今は無関係に思えても、誰もが避けては通れない高齢期。その高齢期にどう向き合うべきなのか。元気で動ける高齢者になるために備えてできることとは何なのでしょうか。真剣に考えさせられました。では、森谷先生のお話しを紹介していきたいと思います。
「私たちの体は、脳から指令を出して脊髄にある運動神経に電気を流し、運動神経を興奮させることによって筋肉が動くという仕組みになっています。
脊髄の運動神経はおおむね3つに区別することができます。
・非常に大きな神経で太くて短時間に大きく力を出すことができる運動神経
・中間ぐらいの力を出す運動神経
・持久力があってどれだけ刺激しても疲れない運動神経
このような神経が脊髄にあります。早い人では60〜65歳頃に、この大きな運動神経が自ら自殺のようなことを起こしていきます。年と共に運動も何もしない人は、この大きな運動神経が死んでいってしまいます。
そのため、どうしても動作が遅くなったり、筋肉が萎縮しやすくなったりします。しかし、トレーニングを続けているマスターズランナーや、水泳など様々な競技に出ておられるマスターの方々の筋電図を調べてみると、若者と同じだけの運動神経をちゃんと維持していることが分かりました。
なんと、マスター選手と若者の運動神経の数に優位な差が認められなかったということです。ということは、一生を通した高強度の身体活動は、老化に伴う運動神経の減少を抑制する可能性があるということです。
森谷先生の講座は、大学の講義の中でも特に女生徒に人気があり、いつもいっぱいと評判も高く、またテレビにも多数出演されているだけあり、とても分かりやすく夢中になってお話しを聴かせていただいた60分間でした。
今は無関係に思えても、誰もが避けては通れない高齢期。その高齢期にどう向き合うべきなのか。元気で動ける高齢者になるために備えてできることとは何なのでしょうか。真剣に考えさせられました。では、森谷先生のお話しを紹介していきたいと思います。
「私たちの体は、脳から指令を出して脊髄にある運動神経に電気を流し、運動神経を興奮させることによって筋肉が動くという仕組みになっています。
脊髄の運動神経はおおむね3つに区別することができます。
・非常に大きな神経で太くて短時間に大きく力を出すことができる運動神経
・中間ぐらいの力を出す運動神経
・持久力があってどれだけ刺激しても疲れない運動神経
このような神経が脊髄にあります。早い人では60〜65歳頃に、この大きな運動神経が自ら自殺のようなことを起こしていきます。年と共に運動も何もしない人は、この大きな運動神経が死んでいってしまいます。
そのため、どうしても動作が遅くなったり、筋肉が萎縮しやすくなったりします。しかし、トレーニングを続けているマスターズランナーや、水泳など様々な競技に出ておられるマスターの方々の筋電図を調べてみると、若者と同じだけの運動神経をちゃんと維持していることが分かりました。
なんと、マスター選手と若者の運動神経の数に優位な差が認められなかったということです。ということは、一生を通した高強度の身体活動は、老化に伴う運動神経の減少を抑制する可能性があるということです。
年を取ってくると、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)を引き起こします。ほとんどの高齢者は確実に筋肉がなくなってきます。
そのひとつの背景としてタンパク質の摂取が少ない高齢者の食生活にあります。例えば、高齢者になってくると食事を作ることが面倒になりお茶漬け一杯だけで済ませる人や、年金暮らしで食費を抑えるためにタンパク質が入ったものを控えるという人もおられます。
では、高齢者にとってタンパク質とは本当に必要な栄養素なのでしょうか。
アメリカの研究で、70歳〜79歳の方々を対象とし、3年間タンパク質の摂取量と筋肉の減少について調べたところ、タンパク質の摂取量が少ない人は3年間でおおむね0.9kgも筋肉と骨が萎 縮していることが分かりました。一方、タンパク質を充分摂っている人でもおおむね0.5kgの 筋肉が萎縮していました。
高齢者になって、しっかりタンパク質を摂っておくということは大切なことなのです。
しかし、摂っていても加齢に伴い必ず筋肉は減っています。そこで、老若男女関係なく、タンパク質を摂取することに加えて、必要となってくるのが筋トレなのです。
最近では時間栄養学というコンセプトがあり、どのタイミングでタンパク質を摂取するのが良いのかを克明に調べることができるようになりました。
それによると、年齢性差関係なく、筋トレをした後、速やかに必須アミノ酸を摂ると筋タンパク合成が起こり、この筋タンパク合成は若い人も、高齢者も同様のレベルで持続したというのが一番新しい理論なのです。ということで、我々としては、筋トレをした後、年齢性差関係なく速やかに良質のタンパク質を摂ることを推奨する必要があります。」
そのひとつの背景としてタンパク質の摂取が少ない高齢者の食生活にあります。例えば、高齢者になってくると食事を作ることが面倒になりお茶漬け一杯だけで済ませる人や、年金暮らしで食費を抑えるためにタンパク質が入ったものを控えるという人もおられます。
では、高齢者にとってタンパク質とは本当に必要な栄養素なのでしょうか。
アメリカの研究で、70歳〜79歳の方々を対象とし、3年間タンパク質の摂取量と筋肉の減少について調べたところ、タンパク質の摂取量が少ない人は3年間でおおむね0.9kgも筋肉と骨が萎 縮していることが分かりました。一方、タンパク質を充分摂っている人でもおおむね0.5kgの 筋肉が萎縮していました。
高齢者になって、しっかりタンパク質を摂っておくということは大切なことなのです。
しかし、摂っていても加齢に伴い必ず筋肉は減っています。そこで、老若男女関係なく、タンパク質を摂取することに加えて、必要となってくるのが筋トレなのです。
最近では時間栄養学というコンセプトがあり、どのタイミングでタンパク質を摂取するのが良いのかを克明に調べることができるようになりました。
それによると、年齢性差関係なく、筋トレをした後、速やかに必須アミノ酸を摂ると筋タンパク合成が起こり、この筋タンパク合成は若い人も、高齢者も同様のレベルで持続したというのが一番新しい理論なのです。ということで、我々としては、筋トレをした後、年齢性差関係なく速やかに良質のタンパク質を摂ることを推奨する必要があります。」
筋肉メモリーって本当にある?
「『速筋』は大きな力を出す筋肉ですが、運動神経は重量物の重いものを持ち上げた時だけではなく、軽くても収縮スピードが必要な時に動員されるはずだから、重くしなくても軽い負荷で収縮スピードを上げてトレーニングをすると同じ効果が出るのではないかということを調べるために、アメリカで、63名の青年と65歳〜80歳の男女で研究を行いました。
その研究の結果によると、高負荷トレーニングをしなくても、収縮スピードを重視した軽負荷トレーニングでも高負荷トレーニングと同等の効果を引き起こすことができるということが分かり、それが最近の考え方となりました。
さて、筋肉メモリーという言葉を聞いたことがあるという人もおられると思います。それは、一度鍛えておけばしばらく何も運動をしなくても、再びトレーニングをすると簡単に筋肉が戻ってくる『筋肉メモリー(マッスルメモリー)』記憶装置のようなものがあるのではないかと昔から言われてきました。
しかし、筋肉はタンパク質でしかできていないので、マイクロチップのようなものは入っていません。そこで、筋線維を培養したものに、24時間体制でビデオカメラを設置し、筋肉が大きく成長するのを直接記録できる装置が世界で初めて開発され、『筋肉メモリー』がいったい何なのかを調べる最新の研究が行われました。
その研究は見事なもので、1本の筋線維の両端に電極があり、その筋線維をトレーニングさせることも可能なのです。結果、最初に筋肉の核数が増えた後、遺伝情報が充分に筋肉に与えられるようになってから、それに追従して筋の横断面積が増えていくということが分かりました。
人間が80年ほど生きるとすると、10年近くはディトレーニングをしても筋の核は残り、10年以内にもう一度トレーニングをすると速やかに筋肉は戻る、それが『筋肉メモリー』と言われています。
できるだけ、筋トレがしっかりできる、若い頃や40〜50歳の間に、一度筋肉をしっかり作っておくと、5〜10年おきにもう一度トレーニングをした時、筋肉を維持することが可能なのではないかと言われています。ということで、若いうちに筋トレをしておくことをオススメします。」
その研究の結果によると、高負荷トレーニングをしなくても、収縮スピードを重視した軽負荷トレーニングでも高負荷トレーニングと同等の効果を引き起こすことができるということが分かり、それが最近の考え方となりました。
さて、筋肉メモリーという言葉を聞いたことがあるという人もおられると思います。それは、一度鍛えておけばしばらく何も運動をしなくても、再びトレーニングをすると簡単に筋肉が戻ってくる『筋肉メモリー(マッスルメモリー)』記憶装置のようなものがあるのではないかと昔から言われてきました。
しかし、筋肉はタンパク質でしかできていないので、マイクロチップのようなものは入っていません。そこで、筋線維を培養したものに、24時間体制でビデオカメラを設置し、筋肉が大きく成長するのを直接記録できる装置が世界で初めて開発され、『筋肉メモリー』がいったい何なのかを調べる最新の研究が行われました。
その研究は見事なもので、1本の筋線維の両端に電極があり、その筋線維をトレーニングさせることも可能なのです。結果、最初に筋肉の核数が増えた後、遺伝情報が充分に筋肉に与えられるようになってから、それに追従して筋の横断面積が増えていくということが分かりました。
人間が80年ほど生きるとすると、10年近くはディトレーニングをしても筋の核は残り、10年以内にもう一度トレーニングをすると速やかに筋肉は戻る、それが『筋肉メモリー』と言われています。
できるだけ、筋トレがしっかりできる、若い頃や40〜50歳の間に、一度筋肉をしっかり作っておくと、5〜10年おきにもう一度トレーニングをした時、筋肉を維持することが可能なのではないかと言われています。ということで、若いうちに筋トレをしておくことをオススメします。」
筋トレに活性酸素は必要?
「ひと昔前、活性酸素は悪者でした。しかし最近、筋肉はトレーニングする時に活性酸素が必要だと言われています。活性酸素が運動トレーニングによって引き起こされ骨格筋が適応するので、活性酸素を取り除くような抗酸化物質であるビタミンCやEを大量にトレーニング前に摂ってしまうとトレーニングしても効果がなくなってしまうということが分かっています。
最近の研究では抗酸化サプリメントはシリアスにトレーニングする人や、筋肉を大きくさせたい人、持久力をアップさせたい人にとってあまり摂らない方がいいだろうという考えになっています。
ですが、高齢者になるとまた話が変わります。高齢者の場合、一過性の活性酸素はトレーニングに必要ですが、ビタミンCやEを日頃しっかり摂れていないことが多く、運動をしない人は細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素であるSODや、自分の体内にある抗酸化物質や抗酸化用のエンザイムはどんどん減っていくのです。
そのことが原因で運動不足になると低レベルの活性酸素に侵されやすく、タンパクが壊れてしまいます。高齢になってフルーツも食べなくなり、さらに運動不足になってくると、活性酸素の障害によって筋が萎縮してしまうのです。
ですから活性酸素を防ぐビタミンEやビタミンCはしっかり摂っておいた方が筋の萎縮を抑制することができると考えられています。
また、高齢になってトレーニングをしなくなってきたら、抗酸化物質をしっかりと摂った方が良いのです。最近の研究では、筋肉が萎縮してくるような時には、筋肉の中に骨を弱くするミオスタチンという物質が出てくることが分かりました。運動不足や無重力の世界に行くと、グルココイチコイドという物質が出てきて、ミオスタチンという骨の形成を阻害するようなホルモンを、筋肉から骨を阻害するようなホルモンを骨組織に分泌することになります。
つまり、筋肉を萎縮するような運動不足が長く続くと、筋肉自身から骨を弱くしてしまうような物質が出てしまうのです。つまり筋肉が弱ってきたら、骨も弱ってしまうということです。逆に言うと、筋肉を肥大させるような刺激を与えておけば、ミオスタチンは出ないので骨の形成にも何も問題がないということです。
そこで分かることは、骨と筋肉には相互作用があるということです。まさに、『筋肉はロコモを予防する臓器』といえます。」
最近の研究では抗酸化サプリメントはシリアスにトレーニングする人や、筋肉を大きくさせたい人、持久力をアップさせたい人にとってあまり摂らない方がいいだろうという考えになっています。
ですが、高齢者になるとまた話が変わります。高齢者の場合、一過性の活性酸素はトレーニングに必要ですが、ビタミンCやEを日頃しっかり摂れていないことが多く、運動をしない人は細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素であるSODや、自分の体内にある抗酸化物質や抗酸化用のエンザイムはどんどん減っていくのです。
そのことが原因で運動不足になると低レベルの活性酸素に侵されやすく、タンパクが壊れてしまいます。高齢になってフルーツも食べなくなり、さらに運動不足になってくると、活性酸素の障害によって筋が萎縮してしまうのです。
ですから活性酸素を防ぐビタミンEやビタミンCはしっかり摂っておいた方が筋の萎縮を抑制することができると考えられています。
また、高齢になってトレーニングをしなくなってきたら、抗酸化物質をしっかりと摂った方が良いのです。最近の研究では、筋肉が萎縮してくるような時には、筋肉の中に骨を弱くするミオスタチンという物質が出てくることが分かりました。運動不足や無重力の世界に行くと、グルココイチコイドという物質が出てきて、ミオスタチンという骨の形成を阻害するようなホルモンを、筋肉から骨を阻害するようなホルモンを骨組織に分泌することになります。
つまり、筋肉を萎縮するような運動不足が長く続くと、筋肉自身から骨を弱くしてしまうような物質が出てしまうのです。つまり筋肉が弱ってきたら、骨も弱ってしまうということです。逆に言うと、筋肉を肥大させるような刺激を与えておけば、ミオスタチンは出ないので骨の形成にも何も問題がないということです。
そこで分かることは、骨と筋肉には相互作用があるということです。まさに、『筋肉はロコモを予防する臓器』といえます。」
いかがでしたか
お話しの中で印象深かったのは、筋肉メモリーがあるということでした。若いうちにしっかりと鍛えておけば、また高齢になってもその筋肉が例え減少したとしても、維持することができるということ。老化に対しての希望が湧いてくるお話しですね!
時々、公園を走っていると、シニアの方にすごいスピードで抜かれていくことがあります。追いつき、追い越そうと思っても、全く追いつかないスピードで走り抜けていかれその距離縮まらず….ということがあります。
まさに継続は力なり。筋肉を維持されているからこそ、健脚を保ち健康を維持されているのだと頭が上がらない思いでいっぱいです。元気で長生きされている方は、それなりの努力を重ね自分にも厳しくトレーニングを重ねてこられる結果なのだということを改めて思い知りました。
では、次回vol.3では、森谷先生シリーズ最終回、「筋肉と肥満」、「筋肉と糖尿病」、「筋肉と認知症」の関係性で締めくくりたいと思います。ますます体を鍛える意義が見えてきそうです!
時々、公園を走っていると、シニアの方にすごいスピードで抜かれていくことがあります。追いつき、追い越そうと思っても、全く追いつかないスピードで走り抜けていかれその距離縮まらず….ということがあります。
まさに継続は力なり。筋肉を維持されているからこそ、健脚を保ち健康を維持されているのだと頭が上がらない思いでいっぱいです。元気で長生きされている方は、それなりの努力を重ね自分にも厳しくトレーニングを重ねてこられる結果なのだということを改めて思い知りました。
では、次回vol.3では、森谷先生シリーズ最終回、「筋肉と肥満」、「筋肉と糖尿病」、「筋肉と認知症」の関係性で締めくくりたいと思います。ますます体を鍛える意義が見えてきそうです!
文:カナ
■NSCAカンファレンス 森谷敏夫 基調講演 〜筋肉は偉大な臓器である〜
森谷敏夫氏 #1「歩くスピードで人の命の長さが変わるの?」NSCAカンファレンス
森谷敏夫氏 #2「年を取ってもずっと筋肉は大切」NSCAカンファレンス
森谷敏夫氏 #3「肥満・糖尿病・認知症って筋肉と関係があるの?」NSCAカンファレンス
■森谷 敏夫(モリタニ トシオ)
NSCAジャパン理事長
京都大学 名誉教授
中京大学 客員教授
■特定非営利活動法人NSCAジャパン(全米ストレングス&コンディショニング協会・日本支部)
HP:www.nsca-japan.or.jp
Blog:オフィシャルブログ
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京都大学 名誉教授
中京大学 客員教授
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