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工夫で取り組むハードコア・ボディビル #1 はじめに読んでくれ

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掲載日:2023.06.06
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はじめに ~切れる手札は多くあって困らない~

筋肥大を起こし、脂肪を削ぎ、ボディビル競技においてより良い身体を作り上げるために皆様はどんな工夫をされているだろうか。高重量を追い求め、多くのボリュームをこなし、高エネルギーかつ高タンパクの食事を摂りしっかりと睡眠をとるなどが代表的だろう。それらはまず正しい。これで伸びていれば何も問題ない。

しかしそれら以外で身体を効率的に作る方法はないのだろうか。高重量&高ボリューム&高エネルギーだけがすべてではないはずだ。

本シリーズでは既存の種目に工夫を加えることで効果的かつ持続的に筋肥大を起こしボディビルダーとしてのレベルを上げることを目的とした実験的な取り組みを紹介していく。

これらの内容はあくまで個人的な主観や感覚に強く依存するため、現時点で筋量や重量を着々と伸ばせている方にはあまり必要ないだろう。
ただ、高重量は扱えるが発達が滞っていたり、狙った部位に刺激が入りにくかったり、トレーニングのバリエーションを増やしたりなど、ご自身にとって何かしら有益なアイデアやヒントになれば嬉しい限りに思う。
筋肥大でも減量でも、切れる手札は多くあって困らない。

自分の話をさせてもらおう

挨拶が遅くなり申し訳ない、私はせきぐち。
本サイトであるフィジークオンラインの企画や編集を行いつつ、一年ほど前からは埼玉県の片田舎にある男衾(おぶすま)ボディビルジムに勤務しトレーニングもそこでやって楽しく生きている。

私は10年ほどS&C界隈にて競技に取り組む選手のサポートなどを主に行っていた。道中、トレーニングに関する知見を深める目的で柔道整復師を取得した。
トレーニング自体は長く続けていたものの、競技としてボディビルに取り組み始めて2年目となる。ボ歴は決して長くなく諸先輩方に学ぶ日々である。

抵抗感はあるがそれはそれとして割り切っておいた

ご存じのことと思うが、本サイトは誰もが知るトップビルダーや有名選手への取材記事、根拠と知識と経験に富む博学な方々の記事などが並ぶ。

それらの品質の中で、特段と際立った実績も筋肉量も持ち合わせていない一個人の実験的かつ不確実な取り組みを記事にすることに正直抵抗感があったが、紹介した内容を参考にしたり導入をするかしないかは各々に判断してもらえば良いだけであり、この広い世界の狭い業界で目的を同じくする誰かのアイデアになれば良いかと割り切って掲載することにした。
その上で、情報のすべてをそのまま鵜呑みにせず各々の方向性に合わせて積極的に取捨選択してもらいたい。

ビルダー3高「高重量、高強度、高タンパク」の欠落

他に伝えておくとすれば肉や魚が苦手で食べられない上に食が細い点だ。卵だけはなんとか食べられる。
これらは宗教や思想ではなく純粋な好き嫌いだ。昔から肉や魚が苦手だった。その偏食が祟り小学校の頃に骨粗鬆症の診断を受けた。レントゲンにうっすらと写し出された自分の骨の薄さを今でもはっきりと覚えている。
高齢者のようだと医師は言った。
転べば折れる、それが私だ。

根底に虚弱が根付く自分の真逆に位置する、強く大きな筋骨隆々の身体に憧れを抱き始めたのもこの頃だ。自分にないものを欲した。
その後も肉や魚は年齢と共に増々苦手になり、自分で食事を作るようになってからは10年以上ほとんど口にしていない。プロテインで生きている。
それが良いか悪いかはわからないが、そういう星の元に生まれたと考えることにしている。

それと、自分のトレーニングにおいては高重量に対する苦手意識がある。2020年に出場したパワーリフティングの大会では3ヶ月ほどの技術練習を経てスクワット150㎏、ベンチ110㎏、デッドリフト160㎏の記録を残せた。当時の体重は64㎏、骨粗鬆症出身としてはこれでもよくやった方だと思っている。

トレーニングをしていない人からすればかなりの重量だが、鍛え込んだボディビルダーやリフターから見れば極めて軽い重量だろう。
これまでの10年、なるべく重量を伸ばすよう励んできたが際立って伸ばすことはできず、自分にとっての高重量を扱う練習の過程で今までにないほど細かい怪我が積み重なり日常生活にも多くの支障を来した。
自分に高重量は向かないと本能が告げた。

闇雲に高重量を扱い、耐えきれなくなった者から脱落していくラットレースに乗ってはならないと強く感じた。そのレースで最初に脱落するのは紛れもなく私だからだ。

この時点でビルダー3高である「高重量、高強度、高タンパク」のうち高重量と高タンパクが欠落している。タンパク質はプロテインで何とか補うにしても、残された手札は高強度のみである。

虚弱な私が他の選手と同じことをして勝てるとは全く思えない

昨今では極端な高重量に限らずとも、60~65%1RM以下の重量で筋肥大を起こす手法がいくつか報告されている。※1
それらは研究レベルに留まらず、本サイト人気シリーズ「屈強インタビュー」の中でも少数派ではあるが高重量以外に活路を見出して素晴らしい身体を作り上げた選手もいる。(ただし元々は高重量を扱っていたとも語っている)

高重量は筋肥大を起こす手段の一つであり、それで伸びるならばそれをすれば良く、必ずしも重量にこだわりすぎる必要もないと開き直ることにした。
パワーリフティングやウェイトリフティングであれば重量を扱わなければならないが、ボディビル競技の目指すところは高重量を扱うこと自体ではなく身体を作ることだ。

自身の特性や勝負どころを見誤ってはならない。重量や食事の土俵で勝負すれば負けることは明白だ。魚を陸に住まわせるようなものである。

工夫で育つ余地がどこかにあるはず ~持続可能な筋肥大~

重量は発達のためのルートの一つに過ぎずほかのルートもあるはずである

重量は発達のためのルートの一つに過ぎずほかのルートもあるはずである

教科書的な手法から逸脱しても、弱いながらも工夫を凝らして身体を作り上げることを狙おうと思う。怪我のリスクを減らしつつも持続可能な筋肥大ができれば万々歳である。
一般的な手法とは異なれども、いかにして対象部位に発達刺激を入れて筋肥大を起こすかを試行錯誤した結果、ある程度の光明を見出すことができた。

同じような境遇の方や伸び悩む方、十分な重量を扱えるが刺激のバリエーションを増やしたい方などに本シリーズが何かのアイデアやヒントになれば嬉しく思う。
#2へ続く。どうか気長に付き合ってほしい。
※1 参考:NSCA JAPAN Volume 27, Number 10, pages 2-9
漸減トレーニング:新たなトレーニングの考え方と今後の展望  尾崎 隼朗氏
https://www.nsca-japan.or.jp/journal/27_10_02-09.pdf
せきぐち:フィジークオンライン編集、男衾ボディビルジムマネージャー。柔道整復師、NSCA-CPT、JATI-ATI、JBBF公認二級指導員。