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孤高の探求者 山本義徳インタビュー #1 101の理論編

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掲載日:2017.11.10
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インタビュー#2 ダイエット法とサプリ編はこちら

ボディビルダーでありトレーニング指導者として幅広く活躍する山本義徳氏。ダルビッシュ有選手、松坂大輔選手らトップアスリートから一般の方までクライアントを指導し、サイトを通してトレーニングや栄養に関する知識を発信されています。

Kindleの電子書籍として7冊出版してきた栄養に関する最新情報を『アスリートのための栄養学 上下』(NextPublishing=ネクストパブリッシング)より書籍として出版された山本さんに、トレーニングや栄養に関して最新のお話を伺いました。

□ 栄養学に関する膨大なデータの集大成

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-- 『アスリートのための最新栄養学』を9月に出版され、10月中旬には上下巻セットで買えるようになりました。とても好評ですが、栄養学の書籍をまとめられた経緯を教えてください。

栄養への興味は、もともとは自分のためなんです。
自分が筋肉をつけたい、体脂肪を減らしたい、健康でいられるように、関心をもって調べたことを書いているうちに膨大なデータになってきて、そろそろ索引をつけてまとめなくてはいけないなと。

データを整理しておきたい、書籍なら多くの人に伝えられる、アウトプットしてこそ自分を高めることができるなどの理由から、本として出版しようと。

まずは昨年からアマゾンのKindleで「炭水化物のすべて」「たんぱく質とアミノ酸」などの電子書籍の出版を始めました。そもそもは自分の知識の整理のために出版した感じです。


-- エビデンスがたくさんある中で、比較対照しながら見極めている感じですか?

医学論文のデータベースをみていると関連する論文がいくつか出てきますので、読んで反対意見も調べて、どちらが優勢か、どういったデザインで研究がされているかをちゃんとみないといけませんよね。


-- 山本さん独自のアプローチだと思います。

プロテインの効果も最近まで認められていなかったですね。たんぱく質は食事で摂れるからプロテインを摂る必要はないと1980年代くらいまでは言われていました。
1990年代になってアメリカを中心に行われた研究の結果、プロテインの重要性がやっと認識されるようになりました。

ただ、実際にボディビルダーたちの間ではもう経験的にプロテインが重要だと、摂らないと筋肉がつかない、落ちやすいと言われていました。
今の糖質制限についても現場の方が先を行っていて、科学界、医学界で認められるのに時間がかかる状況だと思います。

最近は炭水化物の摂り方が世界的に問題になっていて、トータル・カロリー中の炭水化物の割合が70%を超えると病気になりやすいし寿命も短くなるという研究結果もありますね。所得の少ない家庭では安価な炭水化物に偏りがちで問題化しています。


-- 特に年をとるとトレーニング後の回復に時間がかかり、しっかりと補わないといけないかと思っています。

まず、疲労の原因がよく分かっていない状態なんですね。昔は乳酸がたまると疲労すると言われていましたが、最近、乳酸は悪者でなくてエネルギー源だと言われています。

筋肉が収縮するときにカルシウムイオンが使われますが、そのカルシウムイオンが働かなくなるのが疲労の原因ではないかと言われていますが、まだ定説ではない状態です。

ほかに精神的な疲労というのは、いわゆる神経伝達物質の枯渇ですね。不足して神経伝達がうまくいかなくなり、集中力が乱れたりするのが精神的な疲労。

あとはたとえば異化ホルモンですね。筋肉を分解するコルチゾルなどが増えるのも疲労の原因だと言われます。

長いトレーニング時間、具体的には75分を超えるとコルチゾルが増えてテストステロンが減る。
そういう現象がだんだん分かってきています。なのでホルモンのレベルが乱れないうちにトレーニングを終わらせる、そんな測定も最近されるようになってきています。


-- トレーニングのハードさによって、75分より短くなったり長くなったり。

そうですね。たとえばラグビーを1試合行ったら、36時間後もコルチゾルの値がまだ高かった、1~2日経ってもホルモンが回復していないという研究結果もあります。だから毎日トレーニングするのではなく、ハードにトレーニングをしたら、少なくとも2、3日くらいは休まなくてはならないということも分かってきています。

□ トレーニング「101の理論」

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-- 食事もトレーニングも理論がたくさんありますよね。選択が難しい。

トレーニングはストレスへの応答反応ですから、どんなストレスであってもある程度は発達するんです。つまり少しぐらい間違ったトレーニングでも発達するんですよね。
いろんなトレーニングが満ちあふれていますけど、多少間違っていてもそれなりの効果は出るので玉石混交になってしまうんです。


-- 現状でしうる完璧なトレーニングとしてはどのようなものがありますか?

自分が提唱しているのは「101の理論」です。身体の能力を100としますと、それに対するトレーニングの刺激は101でよく、120、130の刺激を与える必要はないという考えです。
要は筋肉の発達するスイッチを押せるかどうかですので、101のストレスが与えられればそれでスイッチは押される。120、130のストレスはスイッチを強く押し続けるようなもので、101以上の刺激は無駄で回復を遅らせるだけという考えです。

具体的には、できるだけ少ないトレーニング量で最低限の刺激を与えましょうというトレーニング方法で、セット数に関して言えば1つの種目について1セットでも基本は十分です。

スクワットのような大きい動きの種目は10レップス行うのに30秒ぐらいかかります。
一方、前腕の小さな動きだと10レップスに10秒ほどしかかからない。同じ10レップスでも筋肉が緊張している時間は違うわけで、部位によってレップ数も考えなくてはいけません。


-- ひたすらたくさんやるよりも、そのぐらいでいいんですね。

101の刺激、ポジティブ・フェイラーというんですけど、自力でできなくなるまでですね。
ポジティブは上げる、ネガティブは下ろす、自力で上げることができなくなるところまでやればいいということで、補助して何回も追加してやるのは120、130の刺激を与えるばかりで回復が遅れるだけ。
だから最低限の刺激を与えて回復も早め、そのぶん頻度を高くすると短い期間で発達できるということです。


-- 101なら1セットでいい。

理想的にはそうです。ただ、1セットで101の刺激に至るのはなかなか難しいので、たとえば1セットを3種目、トータルでやっていく感じになると思います。

トレーニングによる刺激で筋たんぱくの合成が高まるのはだいたい48時間後ぐらいまでの間。2日間ぐらいは確実にトレーニングの効果が出ているので、中3日くらいあけておけば十分で、理想的には1セットを週2回ということですね。
トレーニングを始めたばかりで1セットで90ぐらいの刺激しか与えられない人は2セット行うことで代用してもいいと思います。


-- 自分の身体でどこまでが101なのか、130なのか。

たとえば筋肉痛の強さです。ほんの少し筋肉痛がくれば、それでもう十分。次の日に筋肉痛がでるのは120、130。その比較なら分かりやすいと思います。
自力で上げられなくなったのをトレーナーが補助して続けさせるのはあまり良いやり方ではないですね。

□ 陸上、ラグビーからボディビルダーへ。

-- そもそも山本さんが身体づくりを始めたのは、どんないきさつでしたか?

もともとはラグビーをやっていまして、ラグビーのためにベンチプレスをしたら人より重い重量を持ち上げられたんです。
自分には才能があるのかなと思って、高校2年から3年にかけて頑張り、かなりの重量を挙げられるようになりました。体重は70キロないぐらいでしたが、高校生で140キロを挙げられたのでかなり強い方だったと思います。


-- 小さい頃からスポーツをやられていたんですか?

まったくやっていませんでした。小学4年生で部活動を選ぶことになり、鼓笛隊か陸上か迷って陸上にしました。中学の頃はハードルをやり、腕立て伏せなどで鍛えること自体がなんとなく自分の性に合う感じがしていました。高校ラグビー部のトレーニングでバーベルを持ち、これは自分にあっているなと。

当時「スクールウォーズ」というドラマがあって、サッカーや陸上が盛んな静岡ではラグビーをする人が少なかったので、ドラマの影響もあってラグビーを始めました。するとみんな同じことを考えていたみたいで(笑)入部者が多くて。バックスだと一度もボールに触れない試合もあってあまり楽しくなく、ウェイトのほうが面白くなっていきました。


-- 栄養と休養の大切さをどのように知っていかれましたか?

陸上部だった中学の時、プロテインを飲むように先生から勧められました。飲み始めてしばらくして、「風邪をひかなくなった」と母親に言われました。
大学に入ってから本格的にウェイトトレーニングを始め、でもまだ時々風邪をひいていました。23、4の頃、物理学者の三石巌さんが書かれた『ビタミンCのすべて』という本をみつけ、ビタミンCを飲み始めたら風邪をひかなくなり、小学生の頃から何度も再発していた手のいぼがとれたんです。

いぼはウイルスですから今なら理由が分かるんですけど、感動して三石巌さんの本を次々と読み、栄養の面白さに気づきました。三石巌さんはビタミンを大量に摂る「メガビタミン」を広めた先生で、自分の身体で変化が分かって本当に面白くなりましたね。


-- ご自分もサプリメントを摂られていると思いますが、人によって摂るべき量の差はあるのでしょうか?

体重ですとか、生活強度ですね。普段の生活でどれだけストレスがかかっているか、あとは個体差が非常に大きいです。たとえばビタミンやミネラルは補酵素といって酵素の補助をするものなんですけれど、人によって酵素の形が違います。

ビタミンCとくっつきやすい形の酵素を持つ人は人は少ない量でもビタミンCが働き、逆にくっつきにくい形の人はたくさん摂らないと働かない。それが個体差ということで、ビタミン、ミネラルの必要量が違ってきます。ならば最初からたくさん摂ってしまおうというのが「メガビタミン」の考え方です。

PFC(三大栄養素)のバランスに関しても、一般的に表示されているPFCの割合は推奨されているものではなくて、あくまで平均的な割合の目安のものです。

それぞれの栄養素をこのバランスに当てはめて摂れば身体にいいとか、このバランスだと病気になりにくい等の根拠があるわけではなく、平均的な摂取量はこれくらいなのでそれに近づけましょうということです。

そのため、サプリメントにせよPFCにせよ、摂るべき量は人によって大きな差があります。

インタビュー#2 ダイエット法とサプリ編

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